第5話 実はプロレスが世界で最もクリーンな格闘技
右側、悔しそうに。左側、ダウナーだけど少し調子に乗っている風に。
陽光(右)「ぐぬぬ……歴史マウントだと勝てないかも」
月光(左)「今回の勝負はボクの勝ち?」
右側、開き直って明るく。
陽光(右)「ううん負けない。ギミックやアングルの話をする前に月光ちゃんが避けた格闘技の闇について話す。どうして格闘技興行の許可が降りにくかったのか。さっきは言葉を濁したけれど本当の理由を掘り下げる」
左側、驚きと焦り。
月光(左)「格闘技の闇。陽光ちゃん……まさか例のアレを」
右側、重大な告白をするように囁く。
陽光(右)「そう賭博問題」
左側、痛いところをつかれたとわかる声。
月光(左)「うぐっ」
右側、あえて軽い口調で。
陽光(右)「プロレスの発祥は十九世紀のフランス。当時のフランスでは様々な文化が花開いていた。その後、近代五輪復活につながる大衆スポーツ振興もその一つ」
月光(左)「フランスが発祥なんだ」
陽光(右)「レスリング自体の復活は十六世紀。ルネッサンスだね。ただしこの時は上流階級の嗜みで大衆には伝わっていない」
月光(左)「ルネッサンス?」
左右両方から謎のハモリ。
(どこからか乾杯の音)
「「るねっさぁ~んす」」
右側、淡々と再開。
陽光(右)「当時上流階級の嗜みだったレスリングを大衆向けの見世物としたのがプロレス。大男を集めて戦わせた。サーカスや見世物小屋と同じ扱い。上流階級で伝わっていたとされるレスリングと別物。完全に違う格闘技なの」
月光(左)「サーカス扱いだったんだ」
陽光(右)「大人気となったプロレス。けれどフランスでは禁止になってしまう」
月光(左)「どうして? 危なかったから?」
陽光(右)「賭博問題」
月光(左)「うん……わかってた」
陽光(右)「格闘技には勝敗を賭けた賭博がつきもの。賭け試合でお金を集めていた。強者同士の戦い。真剣勝負であればあるほど盛り上がる。そこで八百長試合が横行した」
月光(左)「……八百屋の長兵衛さん」
陽光(右)「騙された大衆は怒り狂うし、行政もプロレスを摘発した。困った興行主たちは新天地アメリカへ向かう」
月光(左)「プロレスの本場アメリカがついに登場だね」
右側、心情豊かに。
陽光(右)「興行主たちは考えた。プロレスは絶対に面白い。けれど同じことをやれば、同じ問題に直面してしまう。興行の許可もおりなくなるだろう」
月光(左)「格闘技の賭博問題の闇は深い。タイのムエタイとかは今でも公然と未成年格闘家の試合が賭博対象となっているし」
陽光(右)「そうだ。ブックの存在を認めてしまおう。そうすれば公式非公式問わず、賭けの対象にはできない。格闘技ではなくエンターテインメントショーとして興行すればいいんだ」
月光(左)「確かに勝敗が決まっているならば賭けの対象にはならない」
陽光(右)「ブックが公言されることで、プロレスは賭博と決別した。世界でもっともクリーンな格闘技になったの。だからプロレスの試合を八百長と呼ぶと怒られる。……八百長も本来悪い意味ではないんだけどね。賭博と関係ないならばただのサービスだし」
月光(左)「まさかの解決策」
右側、耳に触れる距離感で甘く囁く。『推し』の発音を小さく。
陽光(右)「どうかな? 陽光の推しに興味を持ってくれた?」
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