第3話 相撲の起源は異能バトル!?

 左側はダウナーで厳かに、右側はノリを良く。


月光(左)「相撲は神事。起源は古事記に載っている」


陽光(右)「古事記……それは日本最古の記録文書」


月光(左)「ただし異能バトルとして」


陽光(右)「まさかの展開」


 左側は説明のために滑らかに。右側は合いの手感覚で。


月光(左)「大国主おおくにぬしの国譲り。天照大神あまてらすおおみかみの命を受けて力自慢の武御雷たけみかづちと俊足自慢の天鳥船神あめのとりふねのかみが大国主の下に派遣される。国を譲れと。そこで大国主の息子。力自慢の建御名方神たけみなかたのかみと力自慢の武御雷が力比べをすることになる」


陽光(右)「それがお相撲の起源なんだ」


月光(左)「そこで武御雷の異能が発動。腕を氷や剣に変えて、掴むことができず戦いにならない」


 左側は淡々とダウナーなまま、右側は呆れた様子で。


陽光(右)「力比べとは一体?」


月光(左)「ひるむ建御名方神。その隙をつき武御雷は力任せに建御名方神の腕を握りつぶして、ちぎっては投げちぎっては投げて身体からパージ」


陽光(右)「その力技で勝てるならば、最初から変な異能は必要なかったね」


月光(左)「武御雷の化け物っぷりにドン引きした建御名方神は、両腕がないまま驚異のバランス感覚で現在の出雲から長野県の諏訪湖まで大逃走劇を繰り広げる」


陽光(右)「ドン引きはわかる。でも建御名方神もなんか怖い」


月光(左)「諏訪湖の水辺で武御雷と建御名方神のキャハハウフフな追いかけっこ」


陽光(右)「絶対そんな空気じゃないよね? 両腕もがれているし」


 左側はダウナーなだけど熱を込めて囁く、右側は完全に呆れた様子で。


月光(左)「最後は押し倒されて『オレの負けだ。好きにしろ』と国譲り」


陽光(右)「なぜそこだけ色っぽいの?」


 左側、ダウナーな感じを押さえて第三者に説明するように。

 右側、同意するように。


月光(左)「異能バトルで男の子ウケを。ロマンスで女の子ウケを。日本神話は幅広い層に対応してます」


陽光(右)「バラエティーに富んだ日本神話」


 空気を切り替えるように左右、ダウナーと元気っ子に戻して。


陽光(右)「それ……本当にお相撲の起源なの? お相撲の原型がないんだけど」


月光(左)「私も自信ない。でもこの力比べを模したといわれる天覧相撲が日本書紀に載っている。それが日本の歴史に刻まれた最初のお相撲」


陽光(右)「日本書紀とはまた古い」


 左側は説明のために滑らかに。右側は合いの手感覚で。


月光(左)「野見宿禰のみのすくね當麻蹶速たいまのけはやの天覧相撲。力自慢の當麻蹶速が『強すぎる俺とまともに戦える奴いねーよな』と調子に乗っていたら垂仁天皇に『あいつ調子に乗ってね? 強ぇー奴呼ぼうぜ』と絞められる話」


陽光(右)「まさかの軽いノリだった」


月光(左)「こうして呼ばれたのが推定身長二メートル十センチ、推定体重二百五十キログラムの野見宿禰」


陽光(右)「規格外の大巨人」


月光(左)「そして始まる熱いバトル」


陽光(右)「神様ではなく人間同士の戦い。異能はなさそうだし、今度こそお相撲が始まりだね」


月光(左)「繰り広げられるアクロバティックな蹴り技の数々」


 右側、呆れたように。


陽光(右)「相撲要素はどこいった?」


月光(左)「當麻蹶速の名前、蹴るの速いという漢字を書く。つまり蹴り技の名手だったの」


陽光(右)「名前からネタバレしてた」


月光(左)「この二人は七日間戦い続けた」


陽光(右)「やっぱり人間業じゃない」


 左側、淡々と。右側、驚いたように。


月光(左)「最終的に野見宿禰が勝利。當麻蹶速は死亡」


陽光(右)「えっ……死んじゃったの?」


 左側、含みを持たせるように甘く囁く。右側、呆れたように。


月光(左)「死闘だったからね。地に伏した當麻蹶速が『くっ……殺せ』と負けを認めて、野見宿禰が當麻蹶速の腰の骨を砕くほどに乱暴に扱ったから死んじゃったの」


陽光(右)「言い方。言い方がなんか別の意味に聞こえるよ。なぜに変な関係性を匂わせる」


 左側からからかうように。


月光(左)「匂わせてない。陽光ちゃんが変な妄想しているだけ」


 右側から怒ったように恥ずかしがるように。


陽光(右)「違うもん」


 左側がダウナーに淡々と。右側も聞く姿勢で切り替える。


月光(左)「勝った野見宿禰は當麻蹶速の全てを自分のモノとする。そして褒美に土岐の名前を与えられて、天皇家の葬儀を任せられるほど大出世した。今に伝わる古墳を造ったのも野見宿禰かもしれない」


陽光(右)「だから言い方が……まあいいや。色々とお相撲じゃない気がするけど野見宿禰は凄い人なんだね」


月光(左)「今ではお相撲の神様として祀り上げられているからね。神社もあるし」


陽光(右)「お相撲の神様なんだ」


月光(左)「ちなみに埴輪を発明したのも野見宿禰だと云われている。だから埴輪は力士を模していると」


 右側、驚いたように。


陽光(右)「はにわを」


月光(左)「はにわを」


 左側、ダウナー声で、右側、元気な声で、なぜか声を揃えて謎のささやき。


「「はにわー」」


 左側、淡々と戻る。


月光(左)「嘘らしいけどね。土岐一族が祖である野見宿禰を持ち上げるために捏造したとか」


 右側、残念そうに。


陽光(右)「はにわ……嘘なんだ。残念」


 左側、ダウナーに。


月光(左)「天覧相撲のあと飛鳥、奈良、平安時代とお相撲は人気は拡大。五穀豊穣を願う典儀として毎年天覧相撲が行われるようになる。それが四百年近く続いていた。だからお相撲は日本の歴史ある神事で間違いない」


 左側、甘く囁く。わざと『推し』を小さく発音。


月光(左)「どう兄? 月光の推しに興味を持ってくれた?」


 右側、悔しそうに。


陽光(右)「む……むぅ。でも歴史ならレスリングの勝ちだし。五千年あるし」


月光(左)「レスリングとプロレスは別物。しかも十九世紀の近代オリンピック開催まで表舞台から消えていた」


陽光(右)「プロレス発足は近代オリンピック開催より先だもん」


月光(左)「お相撲と比べたら誤差」


陽光(右)「……お相撲だって途絶えているでしょ」


月光(左)「それが途絶えたことがないの。途絶えたのは天覧相撲だけ。それも鎌倉時代に入る十数年前で、その裏には武家勢力の台頭がある。相撲は各地に広がり、日本の歴史と文化に寄り添いながら発展し続けていた」


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