Ⅴ 雪と共に去りぬ
「おい、今、人が飛んで行かなかったか?」
「何かのイベントかしら?」
だが、さすがにその派手な立ち回りは聴衆の注目の的となってしまう。
「あ! あのコートの大男見ろ! イエティの着ぐるみか? しっかしよくできてんなあ……」
「もしかして雪まつりの新しいマスコットキャラ? それにしてはちょっとイカついわねえ……」
また、その騒ぎの中心にいる雪男へも、当然、周囲の人々の眼は注がれる……幸い着ぐるみだと勘違いされているようではあるが、さすがにコートと帽子だけでは変装に無理があったみたいだ。
「マズイ。少々やりすぎた……これ以上、注目を集める前に早く撤退せねば……」
冷静を取り戻した雪男は、倒れた雪ん子のもとへと急いで駆け寄る。
「雪ん子、大丈夫か? どこか怪我はしていないか?」
「うん。ちょっと痛かったけど、雪ん子強い子。ぜんぜんだいじょぶ」
彼女を抱き起こし、優しく雪男が声をかけると、涙目になりながらもどうやら怪我はしていないらしい。
「よし! 楽しんでいるところ悪いが、見世物小屋や生物研究所行きになりたくなかったら早くここを離れるぞ! こんな人の大勢いる所で迂闊にも目立ってしまった」
「見世物小屋!? 雪ん子、捕まって珍獣になりたくない!」
自分の足で立たせ、汚れた着物をぱんぱん
「雪女さん! 俺としたことが騒ぎを起こしてしまった。申し訳ないがあなたも早く! 人が集まってくる前にここから立ち去らないと!」
「…え? あ、はい! わたしもちょっとやらかしてしまいましたから……それでは急用ができましたのでわたしはこれで。風邪ひかないようにしてくださいね!」
続いて雪女のもとへも素早く向かい、端的に事情を説明する雪男に対して、こちらもこちらでそれどころじゃなかった雪女も、すぐに賛同して浮気男達に別れを告げる。
「それじゃあ雪女さん、目隠しをお願いします! 吹雪に紛れて逃げましょう!」
雪女とも合流を果たした雪男は、安全な逃走経路を確保するため、彼女にその能力の使用を依頼する。
「わかりました! お任せください! えい!」
すると雪女は凍てつく瞳を蒼白く輝かせ、瞬く間に雪まつりの会場は猛烈な吹雪に包み込まれる。
「うわっ! なんだ!? 今度は急に吹雪いてきたぞ!」
「なにこの猛吹雪! 前がぜんぜん見えないわ!」
「ブリザードだ! 早くどこかへ避難を!」
ありえない突然の悪天候に、会場の見物客達も先程の騒ぎを忘れ、大混乱に陥って右往左往している。
「よし! 今だ! 走るぞ!」
「はい!」
「あいあいさー!」
その混乱に紛れ、ホワイトアウトする中を野生と人外の感によって三人は楽々と駆け抜けてゆく……。
こうして思い出作りをするつもりが、本人達も気づかぬうちに世界の平和を守ってしまった三人。
互いの利害の一致により、打算で家族となった三人ではあるが、どうやらこの調子だと、なんとなくうまくやっていけているみたいである……。
(SNOW × FAMILY EP2 雪まつり大作戦 了)
SNOW × FAMILY EP2 雪まつり大作戦 平中なごん @HiranakaNagon
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