僕と君(たち)との暮らし-Ⅲ
「美遊ってば、今中学生なんだよね?」
「……そうですけど」
「へぇええ、すごいなぁ……! 大人だね!」
「……いや、甘奈さんの方が年上ですよね? やひろさんと同い年なんじゃ」
「まあそうなんだけどね、子供の頃中学生って言ったらすっごい大人のお姉さんお兄さんだったから」
「……まあ分かりますけど」
「中学てどんなことやってるの? あれだよね、部活とか生徒会とかあるんだよね?」
「……部活は一応美術部に」
「へええ! 絵好きなの? どんなの描くの? なんか描いてみて!」
「止めてくださいね、それ! 『なんか描いて~』とか全国の美術部員が嫌いなものランキング、十年連続不動の一位ですからね!」
「あ、ごめんね。やっぱ恥ずかしいよねぇ。美遊がどんなの描くのかなって気になっちゃって」
「……分かればいいんです。……急に大声出してごめんなさい」
「じゃあ、授業とかどんな感じ? やっぱ小学校とは違う? 難しい?」
「全然引かない、この人……!」
案の定、誰よりも早く食べ終わった(おかわりまでしてた)甘奈に、美遊が
……十年連続不動の一位……?
「ごちそうさまでした。甘奈、皿下げちゃうね」
「んあっ、ありがと~」
立ち上がるついでに甘奈の分の皿も手に取って運ぶ。
台所の流しに皿を置いたら水道のレバーを上げて、お湯で軽く流す。
「ごちそうさまでした。やひろ君、これもひたしといてもらえる?」
と、唯が自分の食器を持ってくる。
「はいな。あ、それと今日の分の洗い物、俺やるから」
「え、いいのに」
「今日は夕飯作ってくれたでしょ? だから、いつもと逆で」
「……結構汚しちゃったから、自分で後始末するつもりだったんだけど」
「…………」
シンクを改めてみると、細かく切られたジャガイモや人参の皮が三角コーナーからはみ出て散乱している。ジャガイモは切りにくかったのだろう、皮の方にかなりの身が残ってしまっている。
「ま、それも俺の方でやっとくよ」
「思うところがたくさんありそうな間!」
「……せっかく苦手分野に挑戦してくれたんだから、細かいことは指摘せず、褒めて伸ばさないとって」
「子供扱いされてる……」
「いや、慣れないうちはみんなこうだって! でも苦手意識あってやらないでいると、いつまでも慣れないでしょ? だからそれでね?」
「いいですよ~、慣れないで。やひろ君のご飯の方が美味しいし」
ぷいと不満げに口にする唯に、やひろの手が止まる。
「……そりゃどうも」
照れているのか怒っているのか、低い声でつぶやいて顔をそらすやひろ。圧のある冷たい声だが、いつものことなのか、唯は却って微笑ましそうな柔らかい表情に変わる。
やひろはレバーを少し乱雑に押し下げた。
「……唯。全然話変えるんだけどさ」
「? なに?」
やひろは、軽く咳払いして、
「これから甘奈の部屋の準備するんだけど、ちょっと手伝ってもらってもいい? マットレスとか運ぶのあるからさ」
「あ、そうだね、甘奈さんが暮らす準備しなきゃ。部屋って私の隣のとこ?」
「うん、あそこの客室なら机もベッドもあるし、大体必要なものあるから。足りないものは明日買いに行こう」
「んー、そういえばやひろくん、今日・明日の甘奈さんの服どうするの?」
「あ……」
やひろの間の抜けた声を聞いて、あきれた苦笑を浮かべる唯。
今、甘奈は被っていた白と金の帽子のようなものを脱いで、茶混じりで少し明るい長い髪を晒している。ただ服装は異世界然とした神聖さの漂うワンピースのまま。流石にこの格好で昼間に外を歩かせるわけにはいかない。それ以前に二日間同じ服を着させるのも良くないし、寝間着もない。
「……私の服貸そうか? 余裕あるし」
見かねた唯が声をかける。
「……悪い、頼んでいい?」
絞り出すように話すやひろを見て、唯は穏やかに微笑む。
「いいよ、全然。でもアレだね、下着類はさすがにだし、コンビニにでも買いに行ってこようかな」
「オッケー、じゃあ部屋の準備はこっちでやっとく」
「うん、お願いします。甘奈さーん?」
唯の声に反応して、甘奈がぱたぱたとこっちに歩いてくる。散々質問攻めに合っていた美遊の少しほっとした顔が視界に写る。
「はーい?」
「これから甘奈さんの下着とか、そういうの買ってこようと思うんだけど、ついてきてもらってもいい? サイズ分からないし、赤の他人に買ってこられるのもアレでしょ?」
「あ、行く行く!」
「唯、甘奈に何か羽織れるもの貸せる? あんまりその格好で出歩かせたくない」
「そうね、適当に見繕うよ。甘奈さん、とりあえず私の部屋行こう」
「はーい! ……私の部屋?」
唯と甘奈が連れたってリビングを出て行く。
……さて、一人で部屋の準備することになったわけだけど、何からするかな……。
腕を組んで、部屋の準備の手順を考えていると、じっとこちらを見つめていた美遊と目が合う。
「あ、美遊は大丈夫だよ。とりあえずゆっくりご飯食べてて」
「……いえ、そうではなくて」
「ん?」
美遊は思案げな表情でつぶやく。
「……もしかして、甘奈さんに秘密にしておくんですか?」
やひろの動きが止まる。
「…………まだ考え中なんだけど、しばらくの間、黙っていようかと思っている」
「…………」
普段から変化に乏しい美遊の表情が、いつにも増して分かりにくい。美遊としても判断しかねているのだろう。
「唯が戻ってきたら、三人で一度相談させてくれる?」
「……はい、分かりました」
美遊が細い声で答えた。
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