Re:Awaken

「あ、気づいた?」


 目を覚ますと、同い年くらいの女の人が大きな目でこちらを覗き込んでいた。

 ……あれ、俺確か……、トラックに轢かれて……、死んだんじゃ……? じゃあ……天国か、ここ? この女の人は天使? 確かに綺麗で、どこか懐かしい顔してる……。


「……?」


 たっぷり十秒はその女と見つめ合ったまま、意識と記憶をローディングしていたら、女は不思議そうに首をかしげる。


「あの、」

「え、うわっ、ごめんなさいっ」


 彼女が声を出す時の身じろぎや、顔までの視線を半分以上さえぎる胸部に、自分が膝枕をされていたことに気づいて、やひろは慌てて体を起こす。


 体を起こして、周囲を見渡すとそこは事故前と変わらない、あの神社前の道路だった。自分の体を見下ろすと、Yシャツは血まみれで左肩の部分は摩擦で溶け消えていた。けれど傷はない。折れたはずの腕は支障なく動く。痛みもない。

 ……なんだ、これ……?

 やひろは改めて、正体不明の女に向き直る。


「え、すみません、誰、ですか……?」

「わたし? わたしは通りすがりの白魔導士だよ! 覚えておけー、なーんて」


 彼女は屈託のない笑顔でそう言い放った。

 しろま、どうし……。白魔導士? 

 まだどこかぼんやりしていたやひろの頭が、急速に冴えていく。


「……じゃあ、俺の怪我が治ったのも……?」

「うん、わたしが魔法で治したの! ひどい怪我だったけど、わたしがぜーんぶ治したから、もう安心して大丈夫だよ!」


 にこにこと力強い声で、彼女はそう言う。

 白魔導士、魔法……。

 逸る頭を落ち着かせて、やひろは彼女の恰好を観察する。


 服は白のワンピースで、裾や袖に金のラインが入っている。所々ほつれて汚れているが、それでもなおどこか神性さを漂わせている。肩には短いケープを羽織っていて、胸の部分でふっくらと押し上げられている。頭には同じく白と金の帽子。その帽子に包み隠されているのか髪はほとんど見えない。右の手元には、これこそ決定的だろう、先に大きな水晶のついた杖が転がっている。

 まるでゲームに出てくる女僧侶や神官のようだ。つまりこの世界にまずいない恰好。さっきの発言に、事故の前のあの霧。間違いない。

この人、異界帰郷者だ。


「すみません、今救急車呼びましたから――、え、本当に治っているっ!?」


 道に止まっていた――恐らく俺が轢かれたであろう――トラックの影から作業着姿の男性が現れて、そう叫んだ。


 ――救急車はまずい。


「いやそんな、だってさっきまで――、」

「ごめん! 走るよ!」

「ほえ? にぎゃ!」


 やひろは彼女の手をつかんで立たせ、手を引いて走り出す。トラックが向いているのとは逆向きに、坂を下っていく。


「あ、ちょっと!」

「なになになになに!? なんで走るのぉ!!?」

「後で説明するから!」


 夕日が目を焼く黄昏時、やひろと白魔導士を名乗る女は、山道を駆け降りる。まるで、落ちていくようなスピードで。

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