君の記憶は夕焼け色-Ⅴ

 ――トラックのエンジン音は、心臓の鼓動で聞こえなかった。


 失敗した、と思った。


 まず右の横腹に思いきり殴られたような衝撃が入り、比喩でなく体が吹き飛んでいく。無論、頭や脚はそのスピードについて来ない。その場に留まろうとする慣性が、嫌な音を立てていくつかの骨を折った。咄嗟に出した左腕がへし折れて、頭からアスファルトに衝突する。そうして衝突から約一秒後、左半身を擦り切らしながら、やひろの肉体はようやっと停止した。


 痛みは、そうでもなかった。最初の瞬間、右の脇腹や首は恐ろしく痛かったが、強く打ち付けたはずの頭も、やすりでおろしたような左腕も、異様な熱さだけで痛みも何もよく分からなかった。ただぼんやりと「失敗した」とだけ脳はぼんやりと考えていた。


 何か声が聞こえる。男の叫び声。良く聞き取れなくて声のする方を見ようとした。けれど、首が動かない。目が開かない。

 家に帰れなくなっちゃった、そう思った。唯に電話しないと。折れた腕でポケットのスマホを引き出そうとして、取りこぼす。それが限界だった。


 ごめん、唯、美遊。今日はもう帰れないかもなんだ。大したことじゃないから、俺のことは心配しないで。夕食はやっぱり二人で食べて、美遊は夜更かしせず早く寝てね。唯は美遊のこと頼むね、いつもいつもほんとにごめんだけど。――本当に本当に、ごめん――。


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