君の記憶は夕焼け色-Ⅱ

「架狩くんと仲良くなったんだね、やひろくん」


 教室から出てしばらく経ったからか、下駄箱の前で靴を履き替えながら唯がその話題を切り出してきた。


「うーん、仲良くなったというか、なつかれた?」

「ええー? なにそれ?」


 ショートカットの髪を揺らしながら唯がクスクスと笑う。


「大した話をした覚えはないんだけど、最近いつも俺の近くにすり寄ってくるんだよ」

「やひろくん、しっかりしてるから頼りにされるんだよ」

「そんないいもんかなぁ。都合よく寄生してるだけだと思うよ?」

「あぁ、やひろくん、中身は甘々だからね。ありそう……」

「否定してくれ……」


 あはは、と声を上げて笑う唯。そんな風にされると、やひろとしてもなんだか、『まぁいいか』みたいな気分になってくる。


 二人は並んで校門前のバス停に並んでいる生徒たちを通り過ぎる。

 普段はやひろも唯もバス通学だが、帰り道に買い物をする時は、学校の近くのスーパーに寄ってからバスに乗る方が早い、というのがここ半年の試行錯誤の結論だった。


「そういえばさ、やひろくんから見て架狩くんってどんな人なの? 私まだあんまり話したことなくって」

「俊一? ……そう言われてみると俺にもよく分かんないなぁ……」

「……友達なのでは?」

「んー、いつもいつもふざけてるからさ、ああいうノリが好きなんだろうけど。わざと三枚目を演じてるようなところあるから」

「ふぅん。そういえば出身どこなんだっけ。方言強いけど、西の方なんだっけ?」

「遠いところとしか言ってなかったな。確か最初の自己紹介の時も話してなかったよ。意外と秘密主義なんだよなぁ、あいつ。どうでもいいことはぺらぺら話すクセに」

「あれれ、いじけてるんだ、やひろ君」


 唯が微笑ましそうにやひろを見ている。揶揄からかっているつもりなのだろうが、根の人の良さからか、まるで毒気がない。


「なわけないでしょ。のらりくらりかわしてくるのがムカつくだけ。……というかどうしたの、俊一のことなんか聞いて」

「あぁほら、今度勉強教えて、って言われっちゃったからさ。どんな人なのかなぁって」

「ああ、いいよ気にしなくて。下心ありきで言ってるからあいつ」

「良くないよー、やひろくん。そうやってすぐに色恋に繋げるの」


 唯の声が、少し喉を閉めているような低い声になる。


(こういう話もダメか……)


 頭の片隅にメモをして、やひろは話を続ける。


「別にあいつが唯に気があるって言ってるんじゃないよ。女子と話すってだけで、ついつい浮ついちゃうんだよ、年頃の男子ってのは」

「はぁ……。やひろくんはそんな感じしないけどね」

「……それはどうも」


 照れ隠しなのか、少しそっけなさが増した声になるやひろ。


「とにかく、俊一のことは気にしないでいいからな。もし本当に授業についてけないってんなら、俺の方で教えとくし」

「うん、それはいいけど……。やっぱり中身甘々、だよね」

「……」


 苦笑いしながら唯の言った言葉を、やひろは否定できなかった。

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