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「ええっ!」
これまたトンデモない爆弾発言キタ……と、思ったのだが……
「どこで宇宙人に会ったんですか?」
そう聞くと、なぜか小林さんはいたずらっぽい顔になった。
「のと鉄道の電車の中です」
「……」
ええと……
「それって……サンダーくん、ですよね……」
サンダーくんは羽咋市の公式ゆるキャラ(?)だ。地球観光にやってきて墜落したUFOに乗っていた、という設定の、いわゆる「グレイ」タイプの宇宙人……のマスクをかぶっただけのタダの人間で、本拠地はコスモアイル羽咋らしい。のと鉄道やJR七尾線の客車内にも時折出没するそうだ。
「ああ、あれサンダーくんって言うんですね! 知りませんでした!」ニコニコしながら、小林さん。
「……やれやれ」
一気に脱力感が襲ってきた、その時。
アラーム音。スマホを見ると、電車の時間だ。
「あ、そろそろ駅に行かないと」
「ですね」小林さんも腕時計を見て、うなずいた。
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レジで小林さんはしきりに自分の分を払おうとしてくれたが、今日は新歓なので無理矢理僕の奢りということにした。そして僕らは七尾駅に向かって一本杉通りを並んで歩く。ぼんぼりの灯りが連なり、どことなく華やいだ雰囲気だ。
「なんか、ぼんぼりが並んでますね」と、小林さん。
「ええ。
「ああ、なるほど」
そう。毎年五月の連休に七尾市内で行われる青柏祭では、高さ十二メートルほどの「でか山」と呼ばれる巨大な
「それじゃ先生、今日はありがとうございました! とても楽しかったです!」
七尾駅の玄関で、小林さんは満面の笑顔になった。
「ああ、明日からも、よろしくね」
「はい! それじゃ、お休みなさい! また明日!」
「お休みなさい」
僕らは手を振って別れる。彼女はのと鉄道、僕は七尾線で、まるっきり正反対の方向。ホームも全く違うのだ。
それにしても……
確かに彼女の言うとおり、楽しかったな。なんか久々に女性とデートした気分だ。
ほんと、彼女が僕の指導担当じゃなかったら良かったのにな……
---
翌日。
「おはようございます! 先生、昨日はごちそうさまでした!」
いつも通り、元気な様子で小林さんが僕の居室にやってきた。
「ああ、おはようございます。あの後無事に帰れました?」
「ええ、おかげさまで」
「宇宙人には会いました?」
「あははは!」小林さんは破顔一笑する。「さすがに夜はいませんでしたね!」
「そうですか。それは残念でしたね」
「いやぁ、ほんとにねぇ……ところで、先生」
小林さんが、スッと真顔になった。
「はい?」
「ちょっとお伺いしたいことがあるんですが……少し時間、よろしいですか?」
「いいですよ」
「先生の研究室から私らが押収したPCに、やけに大きいデータが保存されてたんですけど、それって何なんですか?」
「ああ、たぶんガンマ線観測衛星の観測データだと思いますよ。新型の衛星でね、量子センサに直結した量子コンピュータを搭載してるんです。それで飛躍的に観測精度が上がりましてね。おかげでデータが膨大な量になってしまって……それがどうかしました?」
「……」
小林さんが思案顔に変わる。しばらく何か考え込んでいたようだったが、ようやく彼女は口を開いた。
「ガンマ線、って言うのは……当然、宇宙線ですよね」
「ええ。高エネルギーのフォトン――光子です。地上の放射性物質からも普通に放射線として出てはいますけど、僕らが相手にしているのは宇宙からのガンマ線ですね」
「何でガンマ線なんですか?」
「ああ、実はガンマ線バーストっていう現象がありましてね。宇宙のどこかで突然高強度のガンマ線が数秒から数時間にわたって放出されるんですが、その原因は未だに良く分かっていません。超新星爆発によるもの、というのが今のところは一番有力な説ですね。あと、銀河の外に超強力なガンマ線を放出している未知の領域があることが2024年に分かったんですけど、それが何なのか、ってことも全然分かっていません。だから実は宇宙のガンマ線観測って、今非常にホットな研究テーマなんですよ。それで最新の量子情報システムを搭載した衛星が打ち上げられたんですよね」
「そうなんですね……」
そう言ったきり、小林さんは首をかしげて再び沈黙する。しばらくしてから、僕は問いかけてみた。
「何か、気になることもあるんですか?」
「ええ。実は、例の不正アクセス事件当時、私が先生の研究室のPCを調査して分かったんですけど、その大きなデータが保存された直後になぜかCPUとメモリの使用率が急激に上がった、というログが残されてたんです。ただ、それを起こしたのはシステムプロセスで、怪しげなプログラムとかじゃないですし、そういうのは普通にPCを使っていても良くあること、ではあるんですが……なんでそのタイミングだったのかな、と。バッファ領域(ディスクに入出力するデータを一時的に保存するメモリ領域)ならまだ話は分かるんです。が、明らかにプロセス用の領域でそれが起こってるんで……ちょっと、気になってたんですよね」
「はぁ」
バッファ領域とかシステムプロセスとか言われても……その辺りは素人だから、良く分からないな。
「ね、先生」何かを決意したような顔で、小林さん。「これからものすごく突飛なこと言いますけど、笑わないで聞いてもらえますか?」
「あなたから突飛なことを聞かされるのは初めてじゃないと思うんですが、それで僕が笑ったことがありましたか?」
「……ないですね」小林さんは一瞬微笑むが、すぐに真顔に戻る。「ひょっとしたら……例のマルウェアは宇宙からやってきたのかもしれません」
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