第10話 タヌキ団オヒトリサマーを多田くんは煽る

 煙が立ち上っている方向に多田くんは走る。警報音が鳴った一瞬で班員が目の前から消えた。逃げるべきなのかもしれない。けれど、みんなどこに行ったのか心配するかのように悲壮な顔でただ走る。時折聞こえてくる爆発音。怪人が激しく暴れているのかキャンプ場の林道をひた走る。


「はぁはぁ・・・・・・。みんなどこにいるんだよ」


 膝に手をあて立ち止まる。林道の先は湖で、そこから音が聞こえている。心臓の鼓動が早い、息があがる。再び走り出そうと顔を上げた多田くん。悲壮感ただよう顔から絶望の顔へと変わった。数メートル先に異形の顔をしたがいたのだ。体の大きさは人間レベルであるが筋肉が異常に盛り上がり隆々としている。右手はハンマー状に変形していて、左手はトングのような形になっている。顔は牛っぽい。


「え、こんなに・・・・・・。ダサいのもいるの?」


 多田くんは恐怖で絶望していたわけではなく、違った意味で絶望の顔となっていた。


「お前いまダサいとか言ったか? こんなにも一人キャンプができる体のどこがださいんだ! ちゃんとみろ! 膝からは火がでるから着火だって楽々。反対の膝からは風が送りだせるから仰ぐ必要もない。背中には組み立て楽々なテント、肩からはタープだってでてくるんだぞ! これのどこがださいんだ!!!」


「利便性はあるみたいですが、それって怪人として必要ですか?」

「・・・・・・。誰がおひとり様で寂しそうですね、だぁぁあ!」

「いや、言ってないんですけど・・・・・・」


 その怪人は多田くんにむかって膝からでる火を放つ。


「炭にしてやるぅ」


 ふざけた見た目をしているが、怪人は怪人であった。あんな火を体にあびればどうなるかは一目瞭然であったが、疲れと突然きた恐怖によってその場にはりついたように動けずにいた。


「これはやばい」


 でてきた言葉にチープさに嫌気がさしそうだがやばいしか言葉がでてこない。


「なんで多田はここにくるかな」

 一瞬にして多田くんに向かっていた火は切り裂かれる。コスモレッドが現れたのだった。

「あぁん? お前さっきまで戦闘員たちに囲まれてたじゃねぇか」

「三人ですぐに倒したんだよ。俺だけ少し早めに動いてはいたがな。逃がさんぞオヒトリサマー!」

「おひとり、さまー?」

「怪人の名前だ! 多田は下がっているんだ」

「それにしてもオヒトリサマーって名前もダサいんですね」

「おい! またダサいとか言ったな! コスモレンジャーたちを倒すために人間を生け捕りにしようと思ったが、小僧は許さん! コロス!」

「さっき聞こえてたじゃないですか、怪人も聞こえなかったふりするんですね・・・・・・」


 コスモレッドがやれやれといわんばかりに両手のひらを上に挙げ首を揺らす。マスクを被っているので顔が見えなくて表情がわからないからリアクションが大きいのかなと多田くんは思っていると頭上がざわざわしている気がしてきた。


 ふと上を見上げると、レッドの両隣に人影が現れる。


「うぉ! びっくりした」


 青いコスチュームにスカートが女性を連想させ、反対には緑色で首に白いスカーフがなびかせている人物。


「レッドが急に走り出したと思ったら、こんなところにオヒトリサマーが逃げていたのね」

「野生の勘ってやつか、まぁたまには役に立つのか」

「二人とも追いついたのか。ナイスタイミング」

 

 三人は整列し、それぞれポーズを取ったかと思えば名乗り始める。


「宇宙のごみは燃やし尽くすぜ、コスモレッドぉ」

「水は宇宙の源、コスモブルー!」

「宇宙すらきりさく風、コスモグリーン」


「「「三人合わせて、起こすぜビッグバン! 宇宙戦隊コスモレンジャー!」」」


 ドカーン!


 どこから聞こえてくるかわからない爆発音とともにポーズを決める三人。


「三人とも知ってます。それよく聞きます」


「何回聞いてもいいの! 決め台詞なんだから多田は邪魔しないでくれ」

「うるさい市民だ」

「やることが、なんか決まりみたいなところあるから許してね」


 コスモブルーだけが右手で謝罪のポーズをとりながら多田くんに体を向ける。


「きぃー! さっきもそのセリフ聞いたわ。何回聞かせるんだよ」

 怪人オヒトリサマーが騒いでいる。イライラしているのか自分のトングみたいな手をカツカツと鳴らしている。


「この場に多田は初めてだからな。自己紹介しないと」

「いや、もう何回か聞いてるんですって」


「・・・・・・まぁいい。覚悟しろオヒトリサマー! いくぞ二人とも!」


「ぐあぁあ!」


 コスモレッドが拳で、グリーンがコスモソードで、ブルーがコスモバスターを放つ。怪人も火を放ったり、トングで応戦しているが1対3の状況だ。勝てるはずもなく劣勢というよりも圧倒されている。これは確かに人間を人質にとるべきだろう。怪人も工夫しないとコスモレンジャーには勝てないのだ。


「くそ、周りの楽しい音や、話し声を聞いて恨みつらみが積み重なった一人キャンパーたちの想いを晴らそうとしたのに、なにも達成できないなんて・・・・・・」

「市民に危害を加えることは許さない!」


 三人はコスモバスターを空に投げる。黒い球体が出現し、なんか電気みたなのがチクチクして、球体が歪んでいく。


「これで終わりだ!」


 そう言うとコスモレッドが黒い球体に両手をつっこむ、他の二人は支えるようにしている。若干の何もない時間が生まれる。


「な、なんだそれは」


 怪人はその様子を見ているだけだ。やられすぎて動けないのだろうか。力いっぱい引き出すと、ガトリングガンのようなものが現れる。

「どっからでてきたんだ・・・・・・」

「これは宇宙の力で、ブラックホールが吸収してだな・・・・・・」

「レッド! 今は説明なんていいから集中して!」

 コスモレッドはコスモブルーに怒られた。少ししゅんとしたかのように肩をすくめた気がしたがすぐに怪人に向かう。


「ビッグバンバスター! くらえビッグバンショットぉ!」


 無数の光の玉のようなものが怪人を襲う。どこからともなく周りを燃やさない、地形を壊しすぎない爆発が起こる。


 怪人を膝をつき倒れる。


「楽勝だったな。オレ一人でも倒せた」

「グリーン、そういうかっこつけは実際にやってみてから言ってよね」

「とりあえず倒した! よっし!」


 ハイタッチをしている。多田くんは助けられた安堵感と何とも言えないもやもやした気持ちを抱えていた。


「なんで君はここにきたのかな」

「すみませんコスモレッド、いや異常警報は鳴っていたんですが、みんないなくなっちゃって心配で」

「みんないなくなった? あの二人も?」

「え、二人って・・・・・・」


 べしっ! コスモレッドは二人から頭をたたかれた。


「余計なこと話さない! もうレッドはすぐ話しちゃうんだから気を付けてよね」

「もういくぞ」


 コスモレッドが引きずられていく。


「じゃ少年! また会おう!」

 そういった途端、空気が変わった気がした。空気が変わったと曖昧な表現だが。そう表現するほかなかった。多田くんはなにかを感じて振り向いた。そこには人間の大きさではあるが、顔はムンクの叫びかのようなぐねぐねとした醜い顔の人物が立っていた。


「まだだよコスモレンジャー」


 戦いは終わらなかった。

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