第7話 三人は結局仲良しだと多田くんは結論付けた
怪人のほか魔人や変異超人もいる。当たり前のように現れ、当然のように倒される。ニュースで経過が流れ必要に応じて異常警報がだされ一般市民は逃げる。逃げれんかった人、怪人たちに遭遇してしまった人たちは命を落とすことだってある。新聞のお悔やみ欄を眺めてあぁここは異常警報がでてたしこんなに若くして死ぬってことは巻き込まれたんだな程度の認識。多田くんは今日も学校へ向かう。
ただその足取りは重かった。
なぜなら体育の授業があるからだ。嫌いじゃないけど、一軍の男子たちが騒ぐほど好きではない。ただ普通に学生生活を送りたい多田くんにとっては注目される可能性のある授業はあまりやりたいくない。体育といえば一軍の男子が輝き、2軍の男子が観衆の目にさらされるイベント。そして今日は3組と合同のサッカーの授業だ。となりの野球グラウンドでは女子たちがソフトボールをしている。普中高校の悪いところだと思うが、休憩する場所というか待機する場所がグラウンドとグラウンドの間に設けられているつまりソフトボールの経過を見つつサッカーの応援もできるという一軍の男女が歓喜する位置にあるのだ。
「多田ぁ今日の体育楽しみだな! 3組にはぜってー負けないからな! 頼むぜ多田! いい感じの動きするときあるから頼りにしてるぜ」
朝のホームルームが終わり、後ろの炎魔が多田くんに話しかける。答えようと後ろを振り向いたときにはすでに炎魔の姿はなかった。普段の授業は寝ているか早弁をするかなのに体育はどれだけ楽しみなんだろうか。
「相変わらず炎魔は元気だねぇ。体を動かすことの嫌いな俺にはさっぱり理解できん」
「それは僕も同じだよ。でも志村くんは体育が苦手そうには見えないけど。ゴールも決めるし、パスもするしゲームにちゃんと参加してるじゃないか」
「あれはチームメンバーの力量を考えて相手チームの動きを見てたら、だいたいわかるんだよ。ボールがくる位置だったり、それこそ炎魔みたいなやつがゴールを決めたいときにどこに走ってくるのかとか。それさえわかれば事前にボールのくる位置にポジションとっておけばあとはボールがきて回せばいいだけ」
「頭がいいからそんなことできるんだよ。普通できない。しかもそれってある程度運動ができる前提でじゃないか。パスださなきゃいけないし、ゴールを決めるようにコースも狙わなきゃいけない」
「よく見ればいいんだよボールを。ボールの回転に合わせて蹴りたい方向を考えればいい。あとはやるだけ」
「それは頭の良さと動体視力の良さ運動センスがないとできない」
「え、みんなボールがどう回転しているとかみれないの?」
本気で疑問だという顔をしている志村を無視して、多田くんは体操着に着替える。
*
「多田! 走れ! ゴール狙うぞ!」
炎魔は多田くんに大きな声をかけボール蹴りだす。多田くんはあたふたしながら指示されたため走り出す。運動が得意でないのに走りながら蹴らなければいけいないというのは相当困難である。それでもここで運動ができないからと、苦手だからとちゃんと走らないほうが後から向けられる悪意が増幅することを多田くんは知っている。苦手だけど真面目にやらなければいけないのだ。
「自分でいけよ正義。だからお前は甘いんだ」
多田くんにだされたパスを颯爽登場しカットしていく。先ほどまでゴールに向かっていた体を今度は自陣のゴールに向けなおす。多田くんは肩で息をしている。もう間に合わない。颯爽と登場した風岡瞬にゴールを決められ、無常にも授業終了のチャイムが鳴り響く。
「だぁー! あそこで瞬が走ってくるとは。あいつのことだからゴール前なんて守らないと思ってたんだけどなぁいつの間にか走りこんでいた。多田、すまんな走ってくれてたのに」
水飲み場で顔洗いながら炎魔は話しかけてくる。体力が完全に戻ってない多田くんは視線をちらっと横に持っていきうなずているのかよくわからないほどの小刻みな動きで返事をする。
「おい正義。なんで自分で決めに行かない」
「なんだ瞬か。片付けは終わったのかよ。負けたクラスがやることになってただろ」
「ふん、片付けなんて誰か勝手にやってくれるだろ。それよりもだ。お前はなぜ自分で決めに行かない。普段からもそういうことがでてる。周りを活かそうとしているのか知らんが自分の最大限のパフォーマンスをだしてこそ相手に立ち向かえる」
多田くんは二人の間に挟まれどうすればいいかわからず、そのまま顔を洗い、水を飲みを繰り返している。
「サッカーはチーム競技だろ。自分一人じゃどうにもならない。さっきだって結局4組が勝ったじゃないか。それが答えだろ」
「俺は一人で三得点決めた。正義はどうだ? 1点だけだろ。もっとできるはずなのに」
「いいんだよ3─4でチームが勝ったんだから。一人だけ良くてもだめなんだ」
「普段からそうだ。なにかと協力してだの、俺が敵の注意をひくだの一歩引いたやり方をする。気に入らない」
「別に瞬に気に入られるためにやってるわけなじゃないからな。瞬もその単独行動の性格をどうにかしたほうがいい。何回窮地に追いやられているんだよ」
二人はにらみ合っている。時折状況を確認している多田くんはうんざりした表情にみえる。クラスが違うのにこの二人はなにかとよくわからない内容で罵り合ってはお互いつかみかかりそうなくらいの雰囲気になるのだ。
「まぁ・・・・・・ま」
重い腰をあげようとする多田くん。しかし、後ろから声が聞こえた。
「はい、そこまで。二人とも離れる。ここは学校だよ? 普段のうっ憤を晴らすためにサッカーをするものじゃないし、それにかまけて批判しない。正義も瞬ももう少し冷静になりなよ」
いつもは炎魔と口喧嘩している水連寺は風岡が入ると二人の仲裁役となる。一緒のクラスにいるときとは雰囲気が違う。この二人の仲裁に入るときには水連寺は少し優しそうな表情になる気がする。なんとも不思議な関係性だ。
「冷静にってな。瞬に言ってくれよ。先に仕掛けてきたのはそっち」
「あぁん? お前が腑抜けた態度だから言ってやってるだけだろ?」
また喧嘩に発展しそうになる。多田くんは下を向きながら顔を洗う、水を飲むと言う繰り返しをするのに限界がきていた。たまらず顔をあげる。
「ぶはぁっ」
「うわっ多田がいたの忘れていた」
「簡単に俺にボールとられたやつか」
「多田くんいたの?! 全然気が付かなかった」
三者三様にひどいことを口にする。結局仲良しに見えるんだよなぁと多田くんは三人を見つめた。
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