第6話 学校で水連寺に話しかけられる

 モグラ団に襲われた翌日多田くんはいつも通りに登校する。学校の近づくにつれ生徒たちの姿が増えてくる。襲われた以降は異常警報は鳴らずに終わった。ニュースではモグラ団の幹部と名乗る怪人とコスモブルー、コスモグリーンが戦っている映像が流れていた。相当苦戦していたようだが、戦いの途中でなにかを感じ取ったかのように空に顔をあげたと思うとその怪人は一瞬にして消えた。怪人は倒されてはいないため引き続き警戒を強めるように、異常警報が鳴ったら外出は控えるようにと通知されていた。なお、多田くんが戦闘員たちに襲われていたことはニュースでふれられなかった。


「おはよ~多田~!」


 後ろから、そこそこ距離を感じつつ声の方向に振り返ると炎魔が大きな野球部のリュックを背負い自転車に乗って、多田くんに向かって手を振っていた。あまり目立ちたくない多田くんは前に向き直し、とぼとぼ歩くのを再開する。「無視すんなよ~」とだんだん声が近づいてくる。憂鬱な気持ちになる。周りから注目されているのがわかる。炎魔正義は学校のヒエラルキーでいえば最も上に属する。男女から信頼され、友達も多い。休み時間になれば炎魔の周りに人だかりができる。まぁそれはだいたい水連寺によって解散させられるのだが。そうこう考えているうちにふっと肩をたたかれる。炎魔が追いついたようだ。自転車に乗りながら、歩くペースに合わせてゆっくり右に左に小刻みに動かしながら漕いでいる。


「昨日の怪人のニュースみたか?」

「まぁ聞いているよ。幹部? みたい強い怪人でコスモレンジャーは倒せなかったみたいだね」

「だなぁ。まさか幹部だったとは」

 

 多田くんは注目されていることから逃れたいために返事をしないでいた。そもそもなんでこんな見た目にメガネ以外の特徴もなにもない友達もいない奴に話しかけてくるのかと疑問を抱いていた。

「オレ、昨日怪人との戦いに巻き込まれて大変だったんだよ」

 返事をしないでいると炎魔がさらに話しかけてきた。多田くんの体がぴくっと動く。無視を決め込んでいたが歩きながらもなんだかそわそわしだしている。

「戦闘員たちだけだったから走って逃げられたんだけど。多田は巻き込まれたりしなかったか?」

「・・・・・・僕も巻き込まれたよ」

「マジカヨ! 大丈夫だったか?」

「なんでそんな上擦った話し方なんだい? まぁコスモレッドが助けに来てくれたからなんともなかったよ」

「コスモレッドかっこいいよな!」

 満面の笑みで聞いてくる炎魔。本当に心から思っているような純粋な顔をしている。

「かっこいいけど、コスモレンジャーはみんな同じマスク被って色が違うだけだから見た目がかっこいいというよりも、ヒーローとしてかっこいいとは思う」

「うっ・・・・・・。そうか。でも、赤ってかっこいいじゃん!」

「色でかっこよさは判断してないよ」

「そっかぁ」

 そう言いながら炎魔は多田くんの顔をじっと見つめる。周りからの女子の視線が痛いのと男子からの冷ややかな目線がつらい。だが、一部からは歓喜の声も聞こえるような気がする。「きゃー! 美男子と陰キャの組み合わせとか萌える!」とか聞こえている。

「じゃオレは駐輪場にとめなきゃいけないし、先行くわ! 無事でよかったな多田!」


 多田くんはかわらずペースを乱さず、とぼとぼ歩く。炎魔がいなくなれば周りからの視線もなくなる。注目されているのは炎魔であって多田くんではないのだ。それについては自覚しているし、注目されたいとも思わない。学校に到着し、下駄箱から上靴をとりだし履き替える。昨日あんな出来事があったが日常は毎日続いていくのだ。おだやかに過ごしたい。


「ね、多田くん。昨日モグラ団の戦闘員に襲われたんだって?」

 どうやったらそういう形になるのかわからないが立体的に空気が入っているかのような肩の近くまで伸びたうねった髪、見る人がみれば水色にも見えなくないきれいな髪色。多田くんとほぼ同じ目線で、目力のある大きな少し恐怖を感じる目。

「あっ、えっすい、水連寺さん」

 多田くんは女子と話す機会がほぼないので焦りを隠しきれない。さらには学校内で随一の美人の水連寺に話しかけられたとなれば緊張しない男はいないだろう。目線が宙に浮く。

「正義からちらっと聞いたんだけどね。昨日多田くんがモグラ団に襲われたって聞いたから心配になっちゃって」

 ちょっと嬉しいかのように多田くんの顔がゆるむ。縁のない人物だと思っていたが水連寺の中でなにか引っかかるようなことがあったのだろうか。

「まあそうだね。僕は追われて転んだくらいであとは・・・・・・」

「正義は一緒に巻き込まれたの? 他に誰かいた?」

 ゆるんだ顔が一瞬にして引き締まる。


(そうだよなぁ僕の心配じゃないよなぁ・・・・・・)


 わかってはいたけれど、多田くんの気持ちはブルーだった。


「一緒にいたわけじゃないけど、正義くんも襲われてたらしいね。僕以外には誰もいなかったよ。コスモレッドが助けてくれてから無事だったんだ」

「レッドはケガとかしてなかった?」

「戦闘員だけだったし、一瞬で倒しちゃったよ。最後は少し話したし」

「え、話しかけられたの?」

「うん。なんで図書館にいくのかって」

 怪訝な顔に刹那に見えたが、いつも通りの凛とした水連寺さんがそこに立っていた。


「とりあえずケガとかなくてよかったね。正義から聞かれたり話されたりした教えてね! じゃ先行くね」


 多田くんは上靴を右手で持ったままだったことに気が付き、いそいそと履き替える。もう少しで予鈴が鳴る時間だ。


「もう二人で直接話せばいいのに」


 心の声が漏れていた。

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