第5話 多田くんはよく話しかけられる
宇宙戦隊コスモレンジャーとはなんかよくわからないが地球を侵略し始めたモグラ団と戦う三人組の戦隊ヒーローである!!!
特撮でよく聞くようなただただ説明である紹介が頭の中で流れた気がした。多田くんは徐々に戻ってきた感覚を頼りにふらふらと立ち上がる。
「コスモレッド・・・・・・」
感謝を伝えたかったが恐怖から解放されて安堵し、やっとのことで声をだすものの名前を呼ぶことしかできなかった。戦闘員たちはコスモレッドの攻撃を受け、多田くんたちから距離をとっていた。
「おっ立ち上がれたのか。見た目とは裏腹に肝が座ってるな。襲われたらたいがい腰が抜けて動けなくなる人が多いんだが」
「まだなにもされていないし、助けてくれたし・・・・・・」
「というよりもだな。異常警報が鳴っていたのになんで帰っていないんだ。襲われる可能性を自ら作り出してるものだろ」
多田くんはただ怒られた。言ってることはもっともなので言い返すこともできない。
「それは・・・・・・ごめんなさい。ほんとにありがとうございました」
「まだ助かってはいないからな。さっさと片付けておれもほんまると戦わないといけない」
「異常警報の原因はこいつらではない?」
「そうだ。本当は別にいる。戦闘員たちに指示をだしている奴が。さっきまでそいつと戦ってたんだけど、なんかいつもより戦闘員の数が少ないなと思ったから、ブルーとグリーンに任せて街を走りまわってたら見つけたんだよ襲われてるやつ」
「はぁ、そうだったんですか」
ヒーローの勘というものはすごいし、意味がわからない。ただ街を走り回っていたら見つけてくれたのか。
「よくここがわかりましたね」
「いや、それはほんと偶然というか・・・・・・」
「イィ! イィ!」
そういえば忘れていた。コスモレッドと多田くんが話している間、戦闘員たちは手も足もださずに待っていたらしい。悪意のない悪意を向けてくるが、こういうところは律儀らしい。多田くんは思う。いつもそうだし、ニュースで流れている映像もだが、ヒーローに毎回最後まで名乗らせている。二つ名なのか、ミドルネームなのかわからない肩書きまでしゃべらせて、「〇〇〇な怪人め、〇〇な攻撃だな」みたいな解説までヒーローたちにしゃべらせるとは地敵は大道芸をやる集団なのだろうか。さきほどまでは恐怖でしょうがなかったが、コスモレッドがきたことで生き残れるという確証ができたので冗談を考える余裕もでてきた。
「おっと敵さんは待ちくたびれているようだな。さっさと終わらせるとしますか!」
5人の戦闘員たちはなんの武器も持たずに一人一人コスモレッドに向かっていく。対して意気揚々とコスモレッドは敵に向かい、どこからあらわれたのかわからない宇宙を模した剣をだし叫ぶ。
「コスモソード! うりゃあぁ!」
「イィぃぃぃぃいん」
戦闘員のパンチをかろやかによけ背中にコスモソードを振り下ろす。戦闘員は叫び声なのかわからない声と血ともわからない黒い液体を吹きだし、地面に溶けていく。噴き出した液体はコスモレッドに斑点模様として飛び散っているが意にも介さず戦闘は続けられる。また一人、また一人と挑み、その黒い液体を散らしながら溶けていく。モグラ団は絶命すると体が溶けるようだ。溶けた地面には人のような姿がくっきり浮き上がる。これを初見で見た人は殺人現場から死体が動かされたんじゃないかと思うくらいの光景だ。残り2人の戦闘員、いや「人」として数えていいのかわからないが、残っている2人は手を合わせ震えている。耳などないが、コソコソ話をしているかのようなジェスチャーをとり、うなずく。多田くんは疑問に思うことがあった。なぜ戦闘員たちは一人一人で挑んでいくのか。弱いかもしれないが5人一気に戦いを挑めば勝機はあるんじゃないだろうか。なぜ律儀にタイマン勝負するのか。胸の奥の別の感情なのかふつふつと怒りを覚える。そうこう考えていると戦闘員たちがコスモレッドと反対方向に向かって急に走り出した。
「おい、逃げるな!」
コスモレッドは追いかけようとはしなかった。腰から銃を引き抜く。コスモソードどこいった。黒い液体を被ったまま銃を撃つ姿はどちらかというと敵側な気がする。あのマスクの下で笑っていたら狂気だ。
「コスモバスター!」
ビュンビュン!
バァーーーーーン
「特撮とおんなじなんだぁ」
「とくさ? そこのただくんなんか言ったか?」
「えっいやなにも言ってません」
戦闘中に話かけられ背筋がぴーんっとなる。邪魔をしてしまっただろうか。でもほんと特撮みたい。音が効果音そのものだ。あれで地敵はやられてしまうんだな。
というかなんで多田って名前ばれてるんだ? あっけにとられていると先ほどの周囲を破壊しない爆発と煙がはれてくる。そこには逃げていた戦闘員たちの姿は消えていて、ただ地面に黒い人型の模様が残っているだけだった。圧倒的な力の差の前に逃げる判断をした戦闘員たちは間違っていなかったが、コスモレッドが上手だったというか慈悲もなにもなかった。
「よし、終了っと。では君、オレはブルーとグリーンのところに戻るから図書館に行ってもいいが解除警報がなるまではでてくるなよ」
「はいわかりました。そういえばなんで僕のなまえを・・・・・・」
ピロローーー 解除 ピロローーーー 解除 ピロローーーー 解除
解除音が鳴り響く。
「あいつら倒せたのか。やるな」
銃を腰に戻し、ほこりを張るようなしぐさをみせる。そしてマスクに飛び散っていた黒い液体はいつの間にやらなくなってしまっている。コスモレッドは多田くんに近づいてきた。
「きみはなんで図書館に通っているんだい?」
解除警報が鳴ったこともあってかコスモレッドが話しかけてきた。たいがいこういうときは一言残してすぐに立ち去るものだと認識していたがどうやら違うらしい。さっき名前を呼ばれた気がしたが気のせいだったか。
「ヒーローと地敵の歴史について。いつからこういう世界なのかっていう」
「チテキ? 君もタヌキ団とかほかのやつらのことをそう呼ぶのか」
「君もというと?」
「自然科学部の部長を名乗る高校生が戦っているたびに現れて、なにやら記録していくんだ。たまに敵に狙われるからたまったものじゃないよ。そいつがチテキがどうだこうだと言ってたから。最近は見なくなったけど」
志村はコスモレッドに認識されていた。それよりも志村は警報音が鳴ったら現場に行き記録するに飽き足らず、ヒーローたちに覚えてもらうように名乗っていたのか全く迷惑な奴だ。
「まあ歴史を調べてなにかわかったら教えてくれよただ」
「ただ?」
「ただぁ・・・・・・単に興味があるだけだ。それでは!」
コスモレッドは右手を胸にあて、手首付近についている星のマークを左手で押すとどこからともなく降ってきた光に包まれてその場から消えたのだった。
走りまわって探さないでそのよくわかならない光で移動すればいいのにと多田くんは思う。
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