第4話 多田くん帰り道で怪人に襲われる
異常警報が鳴ったということはそこの地区に何かが現れたということだ。翌日には現れた地球の敵、「地敵」がどうなったかニュースになる。志村がいったような全体を示すような略称は存在せずに怪人だったり、魔人だったりその敵の組織の名前でニュースで読み上げられる。なんで報道機関は怪人だったらタヌキ団とか、魔人だったら黒魔術協会だとか、変異超人だったら人間進化の会とかそういう組織に属していることを知っているのだろうか。2年生になる前の春休みから怪人とよく遭遇するようになった。自分自身を狙われることはないけれど、タヌキ団と戦う、コスモレンジャーと出くわしたり、市民が集まるお祭りを狙った怪人たちに遭遇したりと散々である。
「君がいれば大丈夫なんだけどね」
多田くんは誰もいない道を歩きながらぼそっとつぶやく。警報が鳴ったからか平日の昼間だと言うのに人通りは少ない。歩いているのは警報が聞こえなかった爺さんばあさんたちぐらいだ。図書館までに至る道はだんだんと民家が少なくなり、緑が多くなっていく。図書館通いを始めたのも最近だ。怪人に襲われるようになり、生きている世界の成り立ちについて調べたくなった。地敵が身近にいる世界。身近にいるけれど、どこか自分には関係ないと思っていた世界。巻き込まれてから知りたいと思った。ヒーローがどこからきて、いつからいるのか地敵はいつ発生して、どのタイミングで人間に牙をむくことになったのか。歴史を知りたくなったのだ。
「地敵って名称、けっこう自分の中でハマったな」
怪人がいて魔人がいて変異超人がいて、それぞれに組織があって、それらをまとめている本は何冊もあった。まだすべて読み切れていない。もちろん学校の図書館にもあって、それで放課後の日課は図書館によることだった。多田くんは地敵たちの成り立ちに想いを馳せる。ぼぉーっと歩いてるともう少しで図書館がみえてくるころになにか違和感を覚える。さきほどまで静まり返っていた道からざわつきを感じる。振り返ってしまえばいいのだが、恐怖からくるものなのか、現実を見たくないという逃避行動からなのか振り返ることが出来ない。そのまま図書館に歩み続けているがざわつきがだんだん近づいてきている気がするし、複数にいるような気配までする。
やばい。
そう感じた。中に入ってしまえばシェルターがあるし誰かしらいるはずだから助けてもらえるはず、多田くんは走り出す。そしてその途端、後ろに感じていたざわつきからはっきりとした足音が聞こえてきた。ざわつきたちも走り出したのだ。逃避していた現実から一気に引き戻される。走りながら後ろを確認すると黒いタイツを着ているかのような全身の姿に、顔は骨を模った
心臓はすでに限界を超えている。運動部に属していない多田くんには走ると言う行為がとてつもなくつらい。ドクンっドクンっと心臓の鼓動が耳のよこで鳴り響いているかのように感じている。
「くそっ・・・・・・はぁっはぁ・・・・・・」
言いたいことはもっとあるのに生きるのに必死だから走ることにすべての力を注ぐ。あと少しで着くはずの図書館が遠く感じる。走り続けてもなお戦闘員たちの足音は近づいてくる。
「「イィーー! イィーーー!」」
わけのわからない言葉を発しながら、いやあれは言葉なのかもわからない。戦闘員たちは息を切らすことなく走ってくる。
あぁもうダメかも。そう思ったとき足がもつれた。
突然きた地面に体を打ち付けられ、こすれる衝撃がくる。
「あぁっが、はぁ、は・・・・・・」
逃げないと
すぐに立ち上がろうとする。しかし、立ち上がろうとする力とは反対方向に力が働き多田くんは土下座したかのような態勢になる。
「イぃ!」
地面に突っ伏した状態のまま。動けなくなる。周りを取り囲まれている。音のする数から5体ほどいるのか。死ぬ前はこんなにも冷静になれるのか。なにをされるのかと恐怖と、死が近づいてくるあきらめとごちゃごちゃした感情の中、体から力が抜ける。
「また話してみたかったな・・・・・・」
多田くんは目を閉じた。
「お前はホントによく巻き込まれるな」
「イィィィィイ!!!」
どこか聞き覚えのある声が聞こえてくると戦闘員たちの叫び声のようなものも聞こえてきた。そして押さえつけられていた感覚から抜け出せた。多田くんは顔を上げる。
「顔、すりむいてるぞ。どれだけどはでに転んだんだ」
多田くんは顔を上げるも力が入らず女の子座りのような態勢のままだ。目の前には赤を基調とし、星がちりばめられマスクをつけた一人の男がたっていた。いや、男かどうかは知らないが、体格や声からは男だと思っていた。
「コスモレッド、来てくれたんだ」
「もちろん、市民のピンチには駆け付けるぜ!」
よくわからないポーズを決め、お決まりのセリフ。
「悪は宇宙のごみにして燃やしてやる! コスモレッドぉ!」
「宇宙戦隊! コスモレンジャー!」
もっと早くきてくれよと多田くんは思っていた。
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