第3話 部活動中止

 異常警報がだされたことにより、多田くんも帰らざるを得なくなった。炎魔と水連寺はホームルームが終了したと同時にいなくなっていた。そんなに身の危険を感じたのかと疑問に思いながら教室をでる。

 いつもなら図書室により本を読みながらグラウンドで行われている部活動をみるのが日課だった。普中高校のグラウンドは広い。野球部が他校を呼んで試合をできるくらいの広さにサッカーグラウンドも併設されている。野球部の横には弓道場があり、サッカー部のさらに奥には陸上トラックまである。特に強豪の部活もない中、ここまで設備がそろっていることに感心する。いつも暑苦しく仲間に声を張り上げて白球を追いかける炎魔の姿、真っ白な半そでのシャツをさらにまくり青いハーフパンツをきて、部員たちのために奔走する水連寺もいなければ、数多いく部員がいる中でも素人目でもわかるくらいに鮮やかにボールを操り、ゴールネットを揺らす風岡もいない。多田くんは他にも目にとめる部員たちがいるのだが、思い出すのをやめた。やめたというよりも下駄箱に向かっている途中の廊下で中断させられたのだ。


「おい多田、今日は図書室行かないのか」

「なんで僕が図書室にいくと思い込んでいるんだよ」

「え、気づいてなかったのか? 俺もよく図書室で文献さがしたりしてるからけっこうな頻度でいるんだぜ。そのときに多田のことはよく見てた。まぁ話しかけてないけど」


 怪訝な目で自然科学部部長の志村破魔をみる。メガネをかけているし、ここの部活の部員は地味な子というより目立たない生徒ばかりだが、部長の志村は雰囲気がちがう。寝ぐせなのか、高校生特有のセットしているのかわからないようなぼさぼさな髪、学ランの第一ボタンは常にあいていて、中に着ているTシャツはいつもよくわからない文字がプリントされている。学ランを着ているから何がかいてあるかわからないが今日はちらっと見えた文字は「ぷ」だった。なにが書いてあるかは全く想像がつかない。性格もねじが一本外れているのか、先生がやるなということをやり、やれといったことをやらない天邪鬼な生徒だ。いまもこうしてほとんど会話を交わしたことのない多田くんに話しかけてきている。


「異常警報がでているからね。部活動は中止だし、真っすぐ帰れっていわれただろ。素直に従うよ」

「なんか意外だわ。多田って普通にみえるけど、人と違うというか我が道をいくタイプかと思ってた」

「僕は至って普通だよ。可もなく不可もなく、目立たずに学校生活を終えたいんだ。志村くんこそ我が道をいくタイプでしょ。あの四方八方カーテンで閉め切られた部室で実験していくんじゃないのかい」

「実験をするには環境が実験に影響しないような空間づくりが大事なんだよ。まぁ誰もいなくなるなら学校を使って実験できると思ってたんだけど、多田と会ったことだし、俺も帰るわ。異常警報鳴ったけど、どんな怪人かわからないしな」

「え、怪人がでたってなんでわかってるの?」

「警報音聞いただろ? ウーーーウーーーって、あの音がすると怪人がでたってことなんだ。公式には人命救助異常警報部から発表はないが、実証した結果そういうことになった」

「それも自然科学部の活動の一つ? めちゃくちゃ危ないじゃないか。それって警報鳴ってから現場に出向いたってことでしょ」

「まぁな危なくなったらヒーローたちが助けてくれるからな。なんにんかのヒーローには顔が割れて、現場に居合わせると嫌味を言われることもある」

「あぁそれなんとなくわかるよ」

「わかるって多田も警報がなったらどこでなにが起きているか探してるのか」

 志村のメガネは急に顔をふったせいでズレている。そして気にも留めることなく、ずれたため現れた目が真っすぐ多田くんを見据える。まつ毛がバッサリで二重もはっきりしたぱっちりした目だ。

「一緒にしないでくれ。僕はただ巻き込まれてるだけ。帰宅途中だったり、出かけ先だったり、もう迷惑だよ」

「でもおれは現場で多田を見たことはないなぁ。じゃあ魔人も変異超人も妖怪も遭遇したことあるのか?」

「いやぁいまのところ怪人だけかな。巻き込まれだしたのはここ最近だし」

「1年生のときからか?」

「1年生・・・・・・というか春休み中からかな」

「随分最近じゃないか。それならたしかに俺らとは出くわさなかったかも。警報音の違いについて検証していたのは1年生の冬休みあたりだったし」

「ふーん、そういえば他の警報音はどんな音が鳴るんだい?」

「ほかのちてきはな・・・・・・」

「ちてき?」

 多田くんは急に聞きなれない言葉が何の脈絡もなく志村からでてきたため眉間にしわをよせながら聞き返す。

「あぁちてきは俺ら自然科学部が名付けたんだが、地球の敵、略して地敵だ」

「思ったよりそのままだった」

 聞いて損したとばかりに目をそらしたが、志村は構わず話を進める。

「それで他の警報音だけどな、魔人がウィ──ウィ──で変異超人がウーーン、ウーーンだ」

「はぁそうなのか」

「自分から聞いてきたのに反応悪いな! おい!」

 ぱーーっん

 多田くんは前によろける。間一髪のところで前に倒れるのを踏みとどまる。

「一緒に帰るって言ったけど、多田と帰る方向違ったわ! じゃまた明日な!」

 志村は外靴に履き替えると勢いよく走りだす。


「僕は帰る方向とか決めてないんだけどなぁ」


 多田くんも履き替えゆっくりと歩き出す。学校にはいられないから図書館に行こうと考えていた。

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