第2話 多田くんは耳を塞ぐ

 2年生の始まりを告げる全校集会が終わり、列をなして生徒たちは教室に戻ってくる。実に統制されている。


「なぁ正義くん。全校集会が終わったなら各自で教室まで戻ってくればいいと思わない? なんでクラスごとに列を作ったまま戻っていくんだろ」

「それはみんなで一斉に戻ったらごった返しちゃうからだろ。あとクラスに戻ってこない人もいそう。多田、今日はどうしたんだよ」


 炎魔正義をちらっと見て視線を前に戻す。その問いに対して悩むそぶりは見せないが答えるまでに若干の間ができる。しかし、多田くんの歩くスピードは変わらない。


「まぁ新しい日だからね。それよりもいなくなっちゃう人って正義くんのことじゃなくて?」


 多田くんは炎魔に唯一、マウントがとれる。授業を抜け出すことをごまかしているという事実をこれ見よがしにいじる。


「いや、それは・・・・・・」


 炎魔は口ごもる。異常警報がなるとすぐいなくなるんだよなぁと多田くんはぼそっとつぶやいたのであった。雑談をしているうちに4組の教室にたどり着いた。新学期はすでに座席が決まっていて、廊下側の一番後ろの席に炎魔正義、そしてその前は多田くんであった。炎魔の隣には水連寺瑠衣が座っている。席に座ると同時に先に姿勢を正し座っていた水連寺が炎魔に話しかける。


「正義あなた全校集会のとき落ち着きなさすぎ。もっとシャンとしてよね。これでリーダー面されても困るんですけど」

「はぁ? リーダー面じゃなくてリーダーなんですけど?」

「その暑苦しい反応辞めてくれる? ただでさえ髪が赤くて短髪だから熱血漢あふれる見た目してるのに性格まで熱血とかなんのひねりもないんですけど」

「瑠衣だって、水色の髪で身長も高くてきれいな顔してるのに毒舌キャラってなんだよ。見たまんまじゃねぇか。もっとギャップ萌えだしていけよ」


 多田くんは耳を塞いで机に顔を伏せる。炎魔と水連寺はいつもこうなのだ。顔を合わせれば文句を言い合う。基本的に仕掛けてくるのは水連寺でそれに毎回乗っかてくるのが炎魔だ。仲裁には入るときと入らないときがある。全く意味のわからない内容で話しているときは痴話げんかが多い。そのため放置していればすぐに収まる。しかもよくよく聞くとお互いをほめていることが多い。喧嘩するほど仲が良いというのを体現しているようだ。聞きたくもないじゃれあいをBGMに突っ伏していると急に大きな音が耳に入ってきた。


「ウーーーウーーー」


 学校周辺に警報音が鳴り響く。警報音が鳴ったと同時に4組の担任、国語の教諭四条房雄先生が教室に入ってきた。生徒の名簿を教卓に置き、すっと息を吸い話始める。

「えぇー今日は新学期の始まりという事で、ホームルームを行ったあとは授業がありません。通常ならば部活動を行っていいということですが、本日は異常警報がでていますので、みなさん真っすぐ自宅に帰宅してください」


 そう告げると生徒からは「えぇーまたかよぉ」などと文句が聞こえていた。


「しょうがないだろ。最近はタヌキ団の動きが活発で怪人たちが暴れているってニュースでやっていただろ? まだコスモレンジャーもその怪人を退治できていないようだから、もし怪人に遭遇してもすぐ逃げるんだぞ。あっという間に誰か助けに来るからなぁ。間違っても自分で解決しないように!」

「先生、ここはどこかのヒーローと協定を結んでいるんじゃないんですか? さきほどの全校集会で校長先生が学校も最善を尽くすとか言っていた気がしますが」

 多田くんは一瞬顔を上げたときに見えた炎魔と水連寺の表情が真剣なものになったことを見逃さなかった。そんなにヒーローとの協定の話が気になるのか。そこまで興味もなかったので再び突っ伏し、話を聞くことにした。

「真壁まぁ落ち着け。校長先生はヒーロー協定結んだなんて言ってないだろ? 学校を専属で守ってくれるヒーローがいたら安心だけどな・・・・・・。それにもし仮に協定を結んでいたとしても生徒たちに開示しないと思うぞ。ヒーローたちは秘匿性が大事だからな」

「それじゃ本当に私たちが守られているかなんてわからないじゃないですか」

「・・・・・・校長先生がああやって言っているんだから信じてほしい。そして、まず真壁はまがいなりにも生徒会に入っているのだからスカートの丈は校則ぎりぎりを狙わずにもうちょっと余裕をもってほしい」


 真壁麻奈美はいすに座ったらしい。反論の声が聞こえてこない。それよりも四条先生の言葉はセクハラなんじゃないかと思う。スカートの丈を指摘することはいいが生徒たちの前で指摘するのはいかがなものか。


「えぇじゃあこれでホームルームをおわ・・・・・・」


「先生! 今回の異常警報は怪人がでたんですか? 魔人ですか? それとも変異超人ですか?」


 多田くんは炎魔が勢いよく立ち上がったことで机がぐらつき突っ伏していた状態から起き上がってしまった。振り向くとそこには真剣な眼差しで先生を見ている炎魔がいる。助けられる側なのに敵のことが気になるなんてどうかしている。だって知ったところで僕らはなにもできないのだから。弱きものが強きものに虐げられる。日常はヒーローたちに守られているとはいえ一般市民は無力だ。狩られる側から変わることはない。


「いや、それは・・・・・・まだわかっていない、な。ひとまずは真っすぐ下校するように。ホームルームは以上。炎魔そのまま挨拶」


 四条先生は炎魔が苦手そうである。いつも話すときに圧倒されている気がする。


「・・・・・・起立、礼」


 それぞれ生徒はそれぞれのグループをなして帰路についていった。

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