ただの多田くん 僕はなにもできないからヒーローに助けてほしい

古希恵

第1話 多田くんの世界は善と悪が多すぎる

 戦隊ヒーロー、強化人間、魔法少女に妖怪対策チーム・・・・・・

 怪人に変異超人、魔女、妖怪

 多田くんは2年生に上がる前の春休みからよく怪人に遭遇するようになった

 なんでこんな急に・・・・・・いやそんなことないか

 もとからこの世界には多すぎるのだ


──────


 特に偏差値も高くない、そしてスポーツが強いわけでもない。かといって頭が悪いわけじゃない。スポーツだって大概の部活は予選を突破し、地方大会まではいけるレベルな高校、それが普中高校だ。

 そんな高校に通う、多田くんは高校二年生、校則をきちっと守った長くもなく、短すぎない真っ黒な髪、学ランの制服は一番上のフックまできっちりと閉められている。身長は若干小さめだが、学校集会でクラスごとに並んでしまうと真ん中付近の多田くんはみごとに生徒の一人に紛れる。7クラスあるうちの4組。校歌を歌っている最中に先生が監視にくるのをためらうくらいに真ん中に多田くんはただ存在している。


「多田、今年も同じクラスだな。よろしく。去年みたいにまた誤魔化してもらうことあるかもしれないから頼むよ」


 後ろから小声で話しかけられ、先生に注意されない程度に振り向いた多田くんは眉間にしわが寄っている。


「いい加減にしてくれ正義君。度々授業を抜け出して、いつもぼくが腹痛で保健室に行くだの、親戚が亡くなっただの言い訳を考えて、先生に伝えているんだ。迷惑なんだよ」


 小さい声に抑えながらも抗議する。そんなことも意に介さない炎魔正義はにかーっと笑いながらポンっと背中を軽くたたく。


「いやぁなんかわからないけどさ、多田の近くの席になることが多いじゃん? 頼みやすいんだよ。いつかね、俺に感謝する日がくるって」

「わけがわからないよ。なんで正義君がサボることでぼくが感謝するときがくるんだ。水連寺さんと仲いいんだからそっちに頼みなよ」


 一瞬、戸惑いというか生唾を呑み込んだような間がうまれる。水連寺は多田くんの後ろに整列している炎魔正義の嫁・・・・・・いや本人たち曰く、ただの幼馴染らしいがいつも学校では夫婦漫才が繰り広げられている。ちらっと後ろを見ると水連寺がこちらを、うん、炎魔を見ている。小声で会話しているそんな中でも集会は続く。体育館に全校生徒が集められ校長が新学期を迎えるにあたって新入生向けに格言を授けている最中だ。新入生はきちんと話を聞いているのか私語は全く聞こえない。二年生、三年生は慣れているせいか、注意するか悩むくらいの小さな声で短い会話がいたるところで聞こえる。これ以上小さな会話が、大きくなれば校長から注意がはいるだろうくらいの大きさになる。


「そ、それはできないというか・・・・・・」


「っごほん。人の話を聞くという事、聞きたくもない話に耳を傾けるというのもこれからの学生生活で一つ学んでほしいことの一つです。ですから・・・・・・」


 遠回しな注意が入り、いよいよ校長の長い話が終わるかと思いきや続けて、別のありがたい話に移ってしまった。体育館が重い空気に包まれる。生徒からだけではなく、教職員側からも見えないけれど感じられる重い空気が漂ってきていたが、約一名感じられない男が一人。学校集会というのはこういうものなんだろう。


「そういえば、正義君なにか言おうとしてなかった?」


 多田くんが改めて聞き返したときには、炎魔正義は真っすぐにきりっとした凛々しい表情のまま前を向いて立っていた。真面目な炎魔は先生からの注意というものに弱い、正しくあろうとする。それなら最初から話さなきいいのにと多田くんは思いながらその炎魔の姿を見て、右のほほのえくぼが若干見えるくらいの小さな笑みを浮かべていた


「・・・・・・であるべきだと思っています。そろそろ終わりにしようと思いますが昨日のニュースでもあったとおり日常的に怪人や魔人が現れ、私たちの生活を脅かします。魔人と遭遇して助かっても記憶が亡くなっていることや、怪人によって重傷を負うこともあります。ただ私から言えることは最後まで、本当に最後までここにいるメンバーと卒業できることを願っています。本校も人命救助異常警報部と連携し被害が最小限で済むように対策しております。異常警報がでた際には指示に従って迅速に動くように」


 ざわざわしていた体育館の空気は最後の校長の言葉に息を飲むような間と、ちらほら聞こえる笑い声、校長の話が長引くという現実で空気が重くなることとは別の意味で空気が重い。いや、淀んでいるのか。


 多田くんはさきほど小さな笑みを浮かべていた顔からは想像できないほどきょとんした顔で周りをきょろきょろしている。周りの生徒はいまの校長の発言を踏まえて各々話始めている。


「おい、多田! なにきょろきょろしてんだ。先生に見つかったら怒られるだろ」


 先ほどまできりっとした表情で前を向いていた炎魔正義が多田くんを小突きながら話かける。


「あっごめん。でも、周りも話してる人がいっぱいいるし、きょろきょろするぐらいじゃ怒られないよ。それよりも最後の校長の言った意味って」

「ばか、縁起でもない話させるなよ。怪人やら変異超人やら魔人やらがでてくる世の中だからいくら気をつけていても死から逃れることはできない。学校側も最善を尽くすから、生き抜いてみんなで一緒に卒業しようってことだよ」

「ふーん、そっかぁ」

「ずいぶん他人事だな。何年生きてるんだよ。まぁでもそれにしたって悪が多すぎるんだよな」

「悪とよばれるものに対してきっちり善もいるじゃないか」

「たしかになぁ。どの悪に対してもそいつらを倒すヒーローがでてくるもんな」

「だから、僕は異常警報がなったら指示にしたがって素早く逃げる。悪に見つかったらヒーローが駆け付けるまで逃げる。僕は逃げるだけだよ」

「それはおれも一緒だ。このままじゃどうにもできない」

「このまま?」


 多田くんが炎魔の発言に対して疑問を投げかけたものの無視されたので多田くんは会話をやめ静かに前を向いた。

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