第一章第1話 「死神と少女と眩い光」


う、うーん………ここ、どこ?両手は背中にくっつけられ縛られており、周りを見渡すと黒い壁に、鉄格子。瞬時に理解した。ここは檻だ。


途中からの記憶がない。確か絶対防御を使って、それを壊された所までは覚えてる。


まさか、たった一振りで壊されるなんて…私色んな意味で弱いなぁ…


「お目覚め、かな?」


最悪。それに尽きる。目覚めたらあの化け物がいて、話かけてきた。私、本当に実験道具?にされちゃうのかな。それは嫌だなぁ…


「人が話かけてるんだ、返事ぐらいしたらどうかなぁ?あ、あとボク人じゃなかった、ボクの名前は『死神』名乗るのが遅くてごめんねぇ」


『死神』…そっか、死の神様なのか。だから私達を殺しに来たのね。でも、なんで私達なの?ひっそりと生きてきた古代魔法族をなんで、どうして…


「ボクが名乗ったんだ、君も名乗れよ。それともなんだい?古代魔法族は相手の名だけ聞いて、自分は名乗らないというのが礼儀作法として教えられてるのかい?」


勝手に名乗ったのはそっちだ。なんでキレてるの?でも死にたくないし、名乗っておこうかな。


「私、は古代魔法族、の、アカネです。」


駄目だ。上手く喋れない。心の中ではこんなに早く喋れるのに。明確な恐怖が前に居るとこんなにも口が震えるものなのだろうか…


「うーん、自己紹介ありがとう!はい、拍手と。それと古代魔法族について詳しく教えてもらえないかな?」


死神は少女がしっかりと自己紹介出来たことに感激し、両手を小刻みに叩きパチパチと音を鳴らせる。


「こ、古代魔法族は、7000年前、始まりの魔法使いから、魔法を教えてもらった一族で、す。でも代を、重ねる毎に、古代魔法を扱える者が減少し、今ではあなたのせいで私一人しか(たぶん)使えない魔法になりました…」少女は、口をゆっくりと開きながら、説明した。なんと今確実に生きている古代魔法族は少女一人だけだと言う。


「代を重ねる毎に、減少ねぇ。それだけじゃないんだろ?」


死神は質問する。


お察しが良い。代を重ねる事に減少してるのは事実、だがそれだけではない。


はぁ、説明するのが面倒臭い。古代魔法族はここ7000年程ひっそりと生きてきた。栄えてる都から離れた場所で暮らしていたため、古代魔法族に関する歴史的資料は少なく、あまり知られていなかった。


本当に7000年も私の一族はひっそりとあの里で生きてきんだ…


「古代魔法は、始まりの魔法使いが『流星』から身を守る為に編み出した魔法でした。その例として絶対防御などがあります。この魔法を古代魔法族は始まりの魔法使いから教わり、身を守ってきました…でも、その逆の魔法『絶対反撃』と言われる技、これを作ったせいで私達のご先祖さまは禁忌に近いものを受けました」


「禁忌、かそれは一体どんな?」


死神は己の無知を埋めるため、知を知るために、実験の為に聞く。


「………使用すると体の半分が、機能しなくなり、臓物が喉から飛び出るような痛みが上半身に起こると言われています。それが原因で古代魔法を使うと禁忌に触れると噂が流れ。使う人が減少しまし……うッ おうぇ」


あ、吐いちゃった。ずっと我慢してたのに。出ちゃった。こいつさえいなければ今頃お昼ご飯を食べてた時間なのになぁ。


「禁忌、恐ろしいねえ。偏見、嫌だねぇ。あと、なんで吐いてるのぉ?大丈夫ぅ?」 


うるさい。お前のせいだよ。


なんでこんな気持ち悪い奴に、今すぐ殺したい奴に、自分の一族を殺した奴に話さなければならない。ふざけるな。


「あ、あの、私、ちょっと外の空気吸いたいのでここから出してくれませんか?」


ダメ元でも言ってみる。諦めちゃ駄目だ。


「君はせっかく捕まえたモルモットを野に放つのかい?」


死神は真顔でこちらを見つめそう言った。


やっぱりダメか、ならせめて遺書だけでも書かせてもらおう、私にはおばあちゃんがいる。古代魔法族ではない祖母だ。


祖母はとっても優しいし、面白い、何より私の成長を見るのが好きと言っていた。そんな祖母に別れの言葉一つ伝えれないのは嫌だ。


「なら、せめて遺書を、手紙を、書いても良いですか!?」


私は頭を痛いと感じるほど擦り付けてお願いする。


「お願いするときの礼儀はあるみたいだね。うん、良いよ。誰に向けて書くんだい?助けを呼んだって無駄だからね」


死神は私がどんな人間か理解したのだろう、諦めが悪く、ダメ元でもそれに縋りなんとか逃げようとする私を理解したのだろう。 


だから助けを呼んでも無駄だと言ったのだ。


「助けなんて呼びません。これ以上貴方に人を殺されたくありませんから。」


殺されたくない。不自然な死はこれ以上見たくない。


「…良いよ、手紙を書くことを許すよ。両手の縄も解いてあげよう。さ、早く書きな。」


死神はそう言って私の縄を解き、ペンと紙を投げて渡した。解かれてるとき抵抗はしなかった。したら今度こそ死ぬから。


「ぁあそれと、ボクこれから少し急用で少し出かけるんだよね。そういうことだからお留守番よろしくね?」死神はそう言って檻から離れていった。


さて、手紙を書こう


書き出しは…内容は…うん、こんなもんで良いかな


おばあちゃんへ 体調は大丈夫ですか? 私は今絶不調です! 里を焼かれてお母さんとお父さん殺されてもう、最悪です!なんとそれだけじゃないです。 私、今檻に入ってるんです!一日にこんな体験するの私だけじゃないでしょうか! それにさっきまで死神っていう化け物に 殺されそうになったんです!


人生何があるか分からなくて面白いものですねぇ! おばあちゃん、ごめんなさい。私は貴方より先にあの世に言っちゃう最低な孫です。どうか許してください。ちゃんと抗ったんです。でも敵わなかったんです。 これがおばあちゃんの元に届く頃には 私は死んでいることでしょう。本当にごめんなさい。それと、私を大切にしてくれてありがとう!


〇〇より


P.S


返信は死んでいるので結構です。


……………………


おばあちゃんにとっては孫から送られる最後の手紙で、私にとっては最期の手紙…か もっと生きたかったなぁ…


なんだか…眠くなってきたなぁ…疲れたなぁ…


死神は急用とか言ってたから、少しだけ、本当に少しだけ寝よう………




一方急用を済ませるべく外を出た死神はこんな事を思いながら歩いていた。


さて、古代魔法族の里に戻ろうか。あそこには魔法に関しての7000年分のの歴史があるはずだよねぇ。ノート大陸に関することもあるはず…だよねぇ


死神と言われる彼は左手に大鎌を持ち、くるくる回している。


機嫌が良いのだろう。


歴史的資料が手に入る+研究に役立ちそうなものが手に入る。死神にとってはこれ以上無い幸運だった。




『招雷』は他に逃げていた古代魔法族を保護し都まで連れて行っていた。


「これで、生き延びたものは全員ここにいるか?」


招雷の問、それは生存確認。憎き死神を殺すために繋がる行動。それを行っていた。


「僕は大丈夫!」


「私も!!お兄さんが助けてくれたから大丈夫!」


「俺もだ!!なんて恩を返せば良いか…」


「私達を助けてくれてありがとうございます。このご恩、里長に代わり必ずお返しします。」


古代族は礼を言う、招雷は反応に困った。時分がもう少し早けく里に着いていればこの子達の家族を助けれたのだから。


「……………あ、あの」


一人の少女が招雷に近づいてこう言った。


「○○○ちゃんが…私の友達が居ないです…」


さっきまで助かった喜びを分かちあっていた者達は黙ってしまった。通夜状態である。


「…ッ!!嘘だろ、光速で探し回ったんだぞ!?どこで見落とした!?」


招雷の周りを閃光花火のような光がパチパチと音を立て、消えた。


「…すまない、少し取り乱した。その友だちの特徴を詳しく教えてくれないかな?」


招雷は落ち着きを取り戻した。こんな事で取り乱しては行けない…落ち着け…落ち着けてと自分に言い聞かせた。


「綺麗な青い髪で光に照らされると、綺麗な海の様な色になる髪で、長さは背中全体を覆うぐらいある子です…」


青髪、長い。これだけあれば十分だ


「そうか、ありがとう。俺はこれからその子を探しに行くけど、君達はこの道から真っ直ぐ行ったところにある大聖堂に行きなさい。そこに俺の仲間が、双剣を持ったお兄さんがいるからその人に守ってもらいなさい。じゃ」


招雷は光を纏い走り出した。たった一人の少女を救うために、光速で。




一方死神は


ふーむ大漁!大漁!


いや〜!まさかこんなに興味深い物があるとはねぇ。用は済んだし、モルモットちゃんの所に戻りますかねぇ!




少女は夢を見ていた


お母さん…お父さん…どうして、良い神様じゃなくて悪い神様が来ちゃったの?


どうして?


『分からないわ、でもね諦めちゃだめよ?運命はどうなるか分からないんだから』


お母さん!!待って、ねぇ、待ってよ傍にいてよ!夢なのは理解してるけど、それでも、会いたいよ………


…本日二度目の光景、檻の中


違う点を上げるとするならば祖母に向けての手紙があること、手紙が濡れていることだけ。


「私、泣いてたんだ…夢で泣いたら現実で涙を流すって聞いたことあるけど、本当にあるんだなぁ…」


夢を見て泣く、そんな事が本当にあるのだと思った。


「やぁやぁやぁ、本日二度目だけど、お目覚めかい?」


表れた、大量の本を袋に入れた死神が私の前に。


あれは里の大切な、里長しか読むことを許されてはいない本だ。


「この本チラッと読んだけどすごいねぇ〜魔法の歴史に関することがいっぱい書いてあるよ〜」


だからなんだ。興味はない。ただ里の大切なものを、命だけでは飽きたらず、奪ったのだから怒りが込み上げてくる。


「さーてこの資料を回収したからここに居座る理由ももうないね。そろそろ『あの子』の下へ行こうか」


そう言って死神は私を腕と腋の間に挟み、外に出た。


私は書いた手紙を落とさない様に両手でしっかり持った。


「…あいつは来てないか」


誰のことなのだろうか、いや、もうどうでも良い、もう助からないんだから。少女は諦めていた。


「さーて帰ろう城に。」


どこかの国の主なのだろうか?いや、ソレもどうでも良いか。『…な…で』


うるさい声がする。聞き慣れた声が


「あの、ここを離れてどこに行くんですか…」


暮らしていた地を離れるそれは怖いこと、だから聞いた。『ら…ない…で』


「スターダスト大陸さ、ボクの生まれ育った地だけど?」


スターダスト大陸…聞いたことがない。否、私が世間知らずのだけなのだろう。何せ10余年あの里からあまり出なかったのだから。


「そう…ですか」 


これから知らない土地に行く、しかも大陸を跨いでだ。研究材料としてそこで一生を孤独に過ごす、…嫌だなぁ、やっぱり


『諦めないで!!!!』


うるさい声の正体が分かった。母だ。諦めるなと、忘れていたものを思い出して____


「やっぱり、私、まだ諦めたくない!!!!古代魔法!!古城!!!」


少女の手から光が生まれ大きな、城を具現化させた。


「なっ!!まだ諦めていなかったのかぁい!?」


予想外、自分の想像を超えてくる少女と、魔法、それを見て叫んだ。


そして容赦なく大鎌で古城を真っ二つに切り落とした。


「キミィは!!!!なぜボクの想像を簡単に超える行動を行う!?!?いい加減諦めを覚えてくれないかなぁ!」


死神は少女の無謀な行動に理解できず声を荒げた。


少女に向かって死神は諦めだろだの無意味だのマイナスの言葉を投げつける。だがそれこそが無意味、もう少女は諦めないのだから。


「私は、私の魔力が尽きるまで、私が死ぬまで、私の四肢とこの魂がある限り私は貴方には負けない!!!!!」


太陽の光は少女を照らす、まるで少女のこれからの道を輝かせるかのように。


「そうか、そうなのかい?そうだったらもう良い!!!君はここで殺す!!!!死の魔法『誘い』!!」


死の魔法 『誘い』死へと誘惑する魔法、また手に触れたものに死を与えることが出来る魔法。


「古代魔法!!古の盟約!!」


古の盟約、使用者の身体能力、耐性、魔力の回復スピードを上げるもの。


よし、これで逃げれる!!そう思ったのも束の間


「遅い。」


黒い手が少女の首を掴み、勢いよく投げ飛ばされた。


え?嘘…まだ盟約を使用して2秒も経ってないのに、どうして…思考が追いつかない…。


触れられた


死を誘惑する手に。


「う、おぇぇ…」


死んではいない、激痛が身体全体を巡り血を吐く。痛いけど死なないだけマシであろう。


「古の盟約、面白い魔法だねぇ、まさか誘いの手に触れられても死なないとはねぇ、でも、痛そうだねぇ、死ねば助かったのにねぇ」


身体はまだ痛い、血を吐き続けている。でも指先は動く。指に魔力を込める、集中して、ゆっくりと次の魔法のために。


「死神の名を冠するものとして、一つ謝っておくよ。痛みを与えてすまないと。それじゃ、今度こそ『誘い』」


死 そんな言葉が頭をよぎる。今度こそあの世への片道切符を切られそうになる。急いで


魔力を指先に込める、早く、早く、集めなきゃいけない。しかし、呼吸が乱れ魔力がなかなか集まらない。


「さようなら」


間に合わない、あと数cmで触れられて死ぬ。


それでも諦めない。まだ死ぬ確率は0じゃないと、奇跡だって時には起こるんだからと信じ魔力を集めていた。


瞬間、光が少女の前に現れ


『_____閃撃』


光を纏いし拳が死神を殴り


ドゴォンと音を立て死神がふっ飛ばされた。


「間に合ったのか?おい、怪我は?」


光を纒っていた男は徐々に、光を失い、少女に怪我がないか確かめていた。


「あ、あのあなたは?」


まるで、お伽噺の主人公がヒロインを助けるかのように登場した男に、少女は恐る恐る問う。


奇跡の光は今ここに 死神を討ち滅ぼす者は今ここに表れた。

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