バーチャル・ウイルスバスターズ

@WataameMelon

第1話 電脳世界へ

 「もう!いつになったら復旧するんだよ!」

 

 PC画面に映る「error」の文字を見て大空比呂はデスクに大きな台パンを入れた。

 

 ドスン!という大きな音が部屋の中に響き渡り、画面が一瞬宙に浮いた。


 インターネット環境が日本国内で突如として消滅してから早一週間、プロゲーマーの比呂にとってはそろそろ財布に余裕がなくなてきているところだ。


 比呂の収入は、半分以上が配信による投げ銭か、動画投稿による広告収入のみ。


 比呂は親元離れて上京しているため、親に養ってもらうこともできないし、プロゲーマーになると言って勝手に家を出て行った息子のことなど構ってもくれないだろう。

 

 さらに、もともと収入に余裕がないのに加えて、情勢も相まって銀行に引き出しに行くこともできない。

 

 テレビをつけてニュースを見ても、銀行に大勢の人が押し寄せ、完全におしくらまんじゅう状態となっている様子が取り上げられていた。


 当然、スマホもPCもSNSに繋げることができず、家の小さなテレビとラジオだけが外の情報を知る唯一の手段なのである。


 「ヤバいって、ホントに、、、。このままだったら野垂れ死んじまう。繋がれ!繋がれよ!」


 次はスマホでWi-Fiを繋げようとしたが、案の定ダメだった。


 諦めた比呂は、スマホを上に投げ上げてベッドの上に寝転んだ。


 最近ほとんど何も食べてなく、やせ細った腕で、放置されていた財布に手を伸ばす。


 中身を見ると、諭吉さんが一枚と野口さんが数枚入っていた。


 「これがあれば、何とか実家には帰れそうだけど、受け入れてくれるかなあ。勝手に飛び出してきたからなあ」


 しかし、これ以上ここにいると栄養失調で死んでしまう。


 銀行に行ったところで人混みをかき分けていく気力すらない。


 飢えをしのぐにはどうすればいいのか、、、?


 そう考えるうちに比呂は深い眠りに落ちてしまった。


 

 ***


 「、、、きて。起きて。比呂。起きて下さい」


 比呂が目を開けると、体が宙にぷかぷかと浮いていて、周りは宇宙空間のようだった。


 そこに一筋の光が比呂に向かって伸びていて、光の先から女性の声が聞こえた。


 「ここ、ここはどこ?」


 「ここはあなたの夢の中。その夢の中に私が直接語り掛けているのです。ちょうどあなたは今深い眠りについたくらいです」


 「あ、あなたは?」


 「私の名前はアスカ。電脳世界の地球サポートセンターの担当をしております。今回、私共は貴方様にお願いがありまして、このような手段を取っております。単刀直入に言うと、地球を貴方の力で救ってほしいのです。」

 

 「そ、そんなことをいきなり言われても。そもそもどうして俺なんかが選ばれたんですか?」


 「貴方は地球上で最も電脳世界に適した人間なのです。今の世界を救えるのは貴方しかいません。何とか協力を」


 「いやいや、電脳世界を救うってどんなことをするんです?こんな非力な俺が何をすればいいんです?」


 「簡単な話です。こちらの世界に来ていただきます。まあ、最近流行りの「転生」のようなものです。もちろんこちらでの任務が終われば地球にお戻しいたしますので。一時期こちらの「電脳世界」でお仕事をしていただきたいのです」


 「は、はあ、で、でも」


 「はっきり言って、金欠で困っていて実家にも帰れないような状況ならこちらの世界に来るべきだと思いますけどね」


 「うっ、なんでそんなことを知っているんだよ」


 「脳内を読み込んでいますから、あなたが考えていることなんてお見通しです」


 確かに、今地球で目覚めても明日を生きていけるかわからない。それだったらいっそのこと電脳世界に入るのも悪くない話かもしれない。


 それに、俺にしかできない仕事?それだったら行くしかないっしょ!


 「分かりました。その仕事、引き受けます!」


 「ありがとうございます!その返事を期待していました!それでは電脳世界にご招待致しましょう。そして、今こそ、立ち上がるのです!プロゲーマー比呂!あなたが電脳世界に入ってこのパンデミックの元凶を排除するのです」


 その声と同時に小さな光が比呂を飲み込む大きな光へと膨張し、それはやがて比呂の体をすべて包み、光速でどこかに移動しているのを感じた。


 「うわあああああああ」


 そして、目の前が真っ暗になった。


 

 ***


 目が覚めると、比呂は見たことないような部屋に飛ばされていた。


 白壁に、機械がたくさん置かれている個室だった。


 怪しい色をした液体がポンプで天井に送り込まれていたり、人体を解剖するのかといわんばかりのベッドが置かれていた。


 そして、驚いていると、部屋の中にガチガチに武装をした女性が入ってきた。


 「あなたが比呂ですね。こんにちは。来ていただいてありがとうございます。私の名前はアスカ。ほらほら、早く戦闘装備を着てください。隣の部屋に置いていますから」


 「せ、戦闘!?」


 「ええ。今から貴方は私たちとともに戦っていただくのです」


 「いやいや、そんなの聞いてないですけど。俺にしかできない仕事をさせてくれるんじゃなかったんですか?」


 「それこそ、電脳世界での戦闘ですよ。普通の人が電脳世界に入ろうものなら一瞬でバーチャル世界と現実の狭間に迷い、即死してしまいますから。比呂だけがこの世界に入る特権を持っていたのです。そうと決まれば早く戦闘準備を、急いで!今すぐ!」


 「ええぇ?」


 突然飛ばされたと思ったらいきなり戦闘服に着替えろなんてめちゃくちゃな無茶振りだなあ。


 渋々隣の部屋に案内してくれるアスカについていこうとすると、部屋の扉が開き、息を切らした男性が入ってきた。


 「ちょっと、アスカちゃん!いくらなんでもいきなり戦えなんてあまりにもひどいですよ!ちょっとはこの世界に慣れてもらわないと」


 そして、顔を上げて比呂の方を向き、ペコリと頭を下げた。

  

 「貴方が比呂さんですね。申し遅れました、私、キルトと申します。今から電脳世界についてご説明いたします。まずはこの戦艦の作りを知っていただきたいので、さあ、部屋の外へどうぞ」



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