#02 本格ミステリか本格ミステリーか本格推理か

 これから私が扱おうとしている小説のジャンルにはいくつかの名称があります。「本格ミステリ」か「本格ミステリー」か「本格推理小説」か。はたまた「探偵小説」か「ミステリィ」か「大説」か。


 結論から言えばどれでも良いと思います。それぞれが好きな呼び方で読んでいますし、そういうことができるこそ森博嗣は自身の小説を「ミステリィ」と呼び、清涼院流水は「大説」と呼んでいるのです。あなたが「テリミス本格」と呼びたいなら、それでも構いません。


 それでも、私自身がこのジャンルについて書いていくのであれば、一応の使い分けがあった方が個人的に便利なのです。ジャンル名を言おうとするときに、毎回「本格ミステリ」にしようか「本格ミステリー」にしようかといったことを考えるのは、こだわりがどうこうというより単純に面倒臭い。


 おそらく、正式名称は「本格ミステリ」なのだと思います。日本では2000年に「本格ミステリ作家クラブ」というものが設立され、毎年「本格ミステリ大賞」を選定しています。本格ミステリ作家約200名が所属しているこの組織に準じて、ジャンル名は「本格ミステリ」と記述するのが最もわかりやすいでしょう。


 その上で、私は「本格ミステリー」と「本格推理小説」という言葉を島田荘司にならって意図的に使い分けることがあります。詳しいことは以下で述べられていますが、とてもざっくりと言うなら、「本格ミステリー」は不可解な現象を解き明かすことに重きを置いた小説、「本格推理」は謎を論理的に解き明かす過程に重きを置いた小説ということになります。

https://www.shinchosha.co.jp/99/who/works/k_sosite.htm


 私は島田荘司の作品を理想としていて、あのような作品を書けたら人生悔いなしと思っているので、あえてこのように「本格ミステリー」と「本格推理」を使い分けることがあります。つまり、自分としては、ジャンルの総称は「本格ミステリ」で、その中に「本格ミステリー」と「本格推理」があるという見方をしています。


 では、「本格ミステリ」とは何なのか?


 これを一般的に定義するのは非常に難しく、かつて本格ミステリ作家クラブでは東野圭吾の『容疑者Xの献身』をきっかけにして大論争が起こりました。最終的には、笠井潔と二階堂黎人が本格ミステリ作家クラブを退会するような結果にもなっています。そのくらい「本格ミステリ」を定義づけしようとすると大喧嘩になります。


 でも、それは一般的に定義をしようとするからそうなるのであって、個人で定義して他人に押し付けなければそうはならないと思います。プロの評論家となると話は別ですが、私はそうではないので気楽に行きましょう。


 私は、本格ミステリを「何らかの謎が提示され、それをフェアプレイの精神に基づいて、論理的に解き明かすことを主軸とする作品」と定義します。


 「フェアプレイの精神」というのが最も意味不明な言葉かもしれません。これは作者が読者に対してきちんとデータを開示していることを示しています。要は、事件を解決するための証拠を伏線としてあらかじめ提示するようにしましょうということです。事件解決の段になって、急に知らない人物や証拠を出されたら、冷めてしまいますから。


 とはいえ、厳密にフェアであることは不可能です。そんなことをしたら、事件の真相が読者に対してバレバレになってしまいます。だから、フェアプレイの精神だけで良いです。読者が読んだときにフェアだなと感じられたら本格です。


 定義の文章に含まれている「フェアプレイの精神」と「論理的」は『本格』の要件で、 「何らかの謎が提示され」と「解き明かすことを主軸とする」は、『ミステリ』の要件です。


 最近は、一口にミステリと言っても幅が広くなりましたが、謎を解き明かすことに主軸を置いていないホラーやリドルストーリーは、ミステリに含まれないと思っています。一方で、ハードボイルドや警察小説でも、犯人が誰であるかという謎があり、その犯人を明らかにするという主軸があるのであればミステリだと思います。


 こんな定義づけをしていることからも、私が本格ミステリに対していかに拗らせた想いを持っているかが伺えるというものです。ただし、この定義を誰かに押し付けようとしているわけではないことは改めてご了承ください。あくまでも私だけの考えに過ぎません。


 次回の#03では、新本格ミステリについて語ります。

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