第八章-ミケ
突然、目の前に現れた猫神さまに、裏庭の猫たちは怖気づきました。
長い時間を経て、多くの経験を積んで、大きな生命の灯火を持つ猫だけが猫又に成れます。
その猫又のほんの一握りだけが猫神さまに選ばれます。
多くの猫たちの信望を得て、その想いが猫神さまに更なる力を与えます。
今、広場にいる猫たちは皆、当然、猫神さまの味方です。
猫神さまに対峙する裏庭の猫たちに、鋭い視線を投げ掛け、警戒を露わにします。
ミケさんは、黙って猫神さまの前に進み出ました。
そんなミケさんに、猫神さまは視線を向けて口を開きます。
『私はおぬしを知っておるぞ。離れし者よ。』
猫神さまの言葉に、裏庭の猫たちは、ミケさんに驚愕の視線を向けました。
“離れし者”―。
猫又となった猫が何らかの理由により、猫の世界から離脱することがあります。
それは、残酷な行いだったり、身勝手な行動だったり、または自分で抜け出したりと、理由は様々ですが、そんな猫の世界から離れた猫又を総称してそう呼んでいるのです。
つまり、離れし者は、そのまま猫又であることを意味しています。
常に、ミケさんに違和感を感じていたドラさんだけが、合点がいったようにうなづきました。
『離れし者は、猫と関わり合うのは禁じられておるはず。なにゆえそこに居る?』
それが、ミケさんが前に居た場所で、他の猫たちと関わりを持たなかった理由です。
離れし者が再び猫の世界に戻るには、猫神さまの許可が必要になります。
『関係にゃいにゃ。』
ミケさんは、猫神さまを睨みつけて、質問を一蹴します。
今にも飛び掛らんばかりの勢いを見せるミケさんに、広場の猫たちが立ち上がり、猫神さまを庇うように間に割り込んできました。
『猫神だからって、にゃにをしても許されるのか!?』
ミケさんは、広場の猫たちの間から見えるおばぁさんを見て、猫神さまに声を荒げます。
その声には、怒りが満ちていて、広場の猫たちだけでなく、一緒に行動していた裏庭の猫たちも、震え上がりました。
『…ミケさん…。』
尋常ではないミケさんの怒りに、ポチさんは心配になりました。
確かに自分たちはおばぁさんのことが大好きで、そのおばぁさんを傷付けることは、許せません。
しかし、ミケさんの態度を見る限り、自分たち以上の感情をおばぁさんに抱えているような気がします。
心配そうな目でミケさんを見るポチさんの前に、ドラさんが進み出てきました。
『猫神よ。ミケさんの言うとおりだ。人間に手を出すなど、してはならないことであろう?』
どっしりと構える長老の態度に、裏庭の猫たちは少し、落ち着きを取り戻します。
猫神さまは、シロさんをミケさんに化けさせてまで、おばぁさんをこの地へ呼び寄せ、猫の世界へ引きずり込んでいます。
本来ならやってはならないことです。
『お主たちには、関係のないことだ。このまま立ち去るが良い。』
猫神さまは、大きく手を振り上げて、裏庭の猫たちを威嚇しました。
しかし、裏庭の猫たちは引き下がる様子を見せません。
『ばぁちゃんを返してもらうまでは、帰らにゃいにゃっ!!』
おばぁさんを助けたい一心で、ミケさんたちは猫神さまに楯突きます。
広場にいた猫たちがそれに反応し、ミケさんたちに牙を向いて襲い掛かってきました。
たちまち広場は猫同士の大乱闘で大騒ぎとなります。
けれどこれだけの大騒ぎを起こしてるにも関わらず、周囲の民家からは誰も出てきません。
この広場は猫神さまの結界の中なのです。
大乱闘をよそに、猫神さまはおばぁさんの体に近付いていきます。
それを見たミケさんは、仲間の助けもあり、大乱闘から抜け出しました。
『ばぁちゃんに触るにゃっ!!』
ミケさんは、飛び出した勢いのまま、おばぁさんの体に触れようとする猫神さまの前足に噛み付きました。
猫神さまは大きく一声上げて、噛み付いたままのミケさんを大木の幹に叩きつけました。
その衝撃でミケさんは昏倒しかけますが、目の前におばぁさんの顔が見えて、気力を振り絞っておばぁさんと猫神さまの間に立ち塞がります。
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