第3話 招かれざる客
「たまには、ゆっくりするのもいいか」
と、呟きながら、カウンターでウィスキーを飲む坂田。相変わらず、外から聞こえてくる寂しげな横断歩道のサイレンと車の走行音を耳に入れながら、ゆっくりしていた。
今日も営業する予定だが、昨日、島田から『毎日営業はキツイやろ。明日は休んだらどうや』と言われ、休みにすることにした。
茶色のシャツにジーパン姿の坂田。久しぶりの一人の時間にゆっくりしていると
「邪魔するでぇ」
と、ドアのベル音と共に、品の無いガラガラ気味の男性の声、数人の足音が聞こえた。
坂田が振り向くと、声の主であろう右頬の切り傷がある灰色のスーツの男と五人の男が見えた。
坂田は、営業スマイルで対応をする。
「あー、申し訳ございません。本日は休みなのですよ」
「いやー、客じゃないですわ。貴方に話があるのですわ」
「はぁー。ご用件は?」
「おたくも知っていると思いますでしょうが、ワシら、
坂田は、一瞬、眉間にシワを寄せた。徳島市、鳴門市、小松島市、阿南市を縄張りにしている四百人いる暴力団。最近では、闇バイトの件で会長が逮捕されている。
「はい。有名ですから」
「新聞やテレビで知っていると思いますけど、ワシらの会長が逮捕されたんですわ。今は、副会長が指揮を執っていますけどね。あの人、商売が上手くないから、利益が減っているのですわ。で、必死に考えた結果……」
灰色のスーツの男は、指を鳴らすと、右手の人差し指で坂田に向ける。
「おたくらのカタギを守る商売をしようかと思ったんですわ」
早い話、みかじめ料である。
「そうですか。副会長は知っているのですか?」
灰色のスーツの男は、首を横に振りながら、答える。
「商売が出来ない、あの人に言ったところで、分かるはずがない」
「……で、代金はいくらでしょうか?」
「毎月、三十万。それだけで充分ですわ。もしも、困ったお客さんとのトラブルが起きたら、うちの若いもんが助けに来ますわ。どうや? 悪い話じゃないやろ?」
「あー、それなら、大丈夫です。私は、市民をメシの種にしているゴミには、頼りたくないんで」
坂田が、笑いながら断った。
「おどれ、舐めんとかワレぇ!」
灰色のスーツの男が、カウンターの椅子を蹴り飛ばした。坂田は、顔のパーツを一ミリも動かさない。
「おぉ! 人の善意を踏みにじる輩は痛い目見るでぇ!」
「……あんたらさ、市民を舐めていないか?」
「あぁん?」
「『こうやって、脅していけば、収入源になる』。そうやって、生きていたのだろう? さんざん、人の家庭や人生を壊してさ、呆れるというか、大爆笑もんだからな」
ヤクザは、睨みながら、坂田を囲った。
「……よほど、死にたいらしいの?」
「意味が分からないけど。その言葉。人の苦しみを金に変えて、楽しんでいる奴の善意の言葉を信じられるか」
「おどれぇ!」
灰色のスーツの男が顔を真っ赤にして、坂田の胸倉を掴んだ。
「ほぉー、暴力か。でも、いいんか?」
「あぁん?」
「私が店を構えている地域の住人は、騒ぎには敏感でな、ささいな喧嘩でも、すぐ、警察に電話する。もし、リンチしたら、隣か向かい側の人間が通報。副会長が責任を取らされ、逮捕。……代わりの奴はいるのか?」
「……お、おらへんわ」
「そうなったら、幹部の人間が、野に放たれた闘牛のように、好き勝手やる。あんたらの業界は分からないが、弱体化して、ライバルの組織によって壊滅か、傘下に入ることになるかもしれない。そうなったら、残った構成員は、元凶を作った、あんたを恨んで、殺しに来るだろうな? やめたほうがいいと思うぞ」
口角を上げながら、警告する坂田。灰色のスーツの男は胸倉を離すと、「われぇ、覚えとけよ」と捨て台詞を吐き、仲間を連れて、店を出た。
「ふん、分かりやすい嘘に騙されるとは」
坂田は、嘲笑しながら、呟いた。
とあるbarの店主と客達 サファイア @blue0103
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