第4話
「ふう。少し落ち着きましたね。そうだ。ちょっと飲み物を交換してみませんか?」
「もちろん、私のものを飲んでも大丈夫ですよ。むしろ、私の方が危ないかもしれません。あなた方は物質を濾過して排出する能力が高いようですからね」
「なんでまた触るのかって? 今言った濾過器官がどの辺だったかなあってだけです。じゃあ飲み物を交換しましょう」
「うん、少しナトリウム含有量が多いかもしれません。ギュギュターブス人はこういう味が好きなんですね」
「警戒していた割には結構飲んでますね。私が飲んでいるのがどんな味か興味があった? 好奇心が強いというのはいいことです。じゃあ、交換はこれぐらいにしておきましょう」
「さて、質問を続けますよ。え? その前にまたモフらせろですって? お腹を触られた分をさせてもらわないと平等じゃない? そんな要求が出せる立場だと思っているんですか? 被験者の立場というものをもうちょっと分からせた方がいいようですね」
「何をするのかですって? ふふふ。怖いですか? 恐ろしいですか? ガタガタ震えながら祈るといいですよ」
「ほれほれ、どうですか? 私の睨んだとおり上腕の腋下はくすぐりに弱いようてすね。うりうり。なんか楽しくなってきました」
「降参? もう無理?」
「それではこれぐらいで許してあげましょう。ほら、涙も拭いてあげます」
「息が落ちつきましたか? え? 文明が進んでいるのに懲罰がくすぐりなのが理解できない? はあ~。分かっていないのはあなたです」
「それでは説明しますよ。発展途上の準知的生命体に対して恒久的にダメージが残るようなことをできるわけないじゃないてすか。それは犯罪行為です」
「くすぐりは問題ないのかですか? だって何もダメージは残っていないでしょう?」
「いいようにまさぐられて、肉体には問題なくても心に深い傷を負った? PTSDになるかもしれない?」
「モフらせてくれたら記憶を上書きして忘れられるかもしれない? 何を調子のいいことを言っているんですか」
「両手だとなお良し? はあ、何を馬鹿なことを言っているんです?」
「本当にそれで忘れるんですね。しょうがないなあ。ちょっとだけですよ。いいですか。あなた方の単位で10秒だけです」
「は、な、あ、う~ん。なにこれ、なんかおかしくなりそう」
「はあっ、はあっ。両手になるだけだから刺激も2倍だと思って侮っていました。まさか、これほどまでとは。これは本当に危険すぎますね」
「何を満ち足りた顔をしているんですか? 顔の表情筋も緩みっぱなしです。なんか気に入らないですね」
「はい? お腹が減った? この状況下で栄養接種をしたいというのですか? 一般的に生物は危機的状況では食物の摂取と消化に生命活動のリソースを割かないものですが。ひょっとして許容量を超過して神経に異常をきたしてしまったのですか?」
「何をそんなに嬉しそうにしたいるのですか? え? 心配してもらっているのが嬉しい?」
「普段の生活で気遣われることなんかないし、無視されるか疎まれるばかり。ここにいる方がよっぽど心が落ちつくのですか? 全く理解できません」
「私のことが恐ろしくないのですか?」
「はい? 全然怖くない? 怖かったら触ろうとするわけがないだろ、ですって? まあ、それはそうですけど。あれ? 私はかなりユニークな個体を選んでしまったのでしょうか?」
「ごく普通ですって? 自分のことを普通とか平均とか思ってる奴にやべーのが多いんですよ。ああっ、もう。サンプリングに失敗しちゃったかな」
「はあ。反省する前に食事をさせて欲しいですか? はいはい。じゃあ、ちょっと待っていてください。全く注文が多いんだから……」
「いい香りがするですって? それゃそうです。美味しい食事を与えておけば大人しくなる生物は多いですからね。では、食べさせてあげます」
「は? 自分で食べられる? サイコキネシスが使えないのにどうやって両手を使わずに食事をするんですか? 大人しくお世話をされていればいいのですよ」
「はい。口を開けてください。ちゃんとギュギュターブス人が食べられるもので構成してありますから心配は不要ですよ」
「なんで口を開けないのです? 恥ずかしい?」
「全く意味が分からないです。先ほどは私が持っている容器から飲んだじゃないですか」
「飲み物と食べ物は違う? なるほど。同意はできませんが、ギュギュターブス人の心の機微としてそういうものがあるのは理解しました」
「でも、私に食べさせてもらうか、食べないかの2択です。手の拘束を外すというのはありません。空腹なんでしよ? 諦めて食べなさい。それとも個人的嗜好で食べたくないものですか? では、こちらにします?」
「熊とかいう生物の掌を似たものですよ。山の中で襲われたときに反撃して入手しました。ギュギュターブス人は珍重するのでしょう?」
「食べたことがない? あなた方の情報ネットワークでは高級食材とありました」
「美味しいですか。それは良かった。ではこちらもどうぞ。餌付けして喜んでいるのを見るとこちらも気持ちがいいですね」
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