第2話

「えーと、何か反応が欲しいんですけど」


「おーい。聞こえてますかあ? 急に聴覚に異常をきたしちゃったのかな? 私の容姿、声が出なくなるほど衝撃的だったとか?」


「その通りですって? 失礼ですね。なに? いい意味で言っている?」


「え? 近寄りすぎて全身が見えないから少し離れて欲しい? 声が聞こえなくなっちゃいますよ。ほんのちょっとでいいから? しょうがないなあ」


「……ですよね。サービスで一回転までしてあげたんだから当然満足しましたよね? そんなに首を上下に激しく振ってどうしました? この異常行動はなんでしょう? 何かの寄生生物に脳を乗っ取られたとか。こわ」


「そんな目で見るな。もっと見て欲しい。一体どっちなんです? ああ、アンビバレントな感情なのですね。ふーん、なるほど。ギュギュターブス人の精神活動も複雑と」


「それで首を縦に振るのは同意の印ですか。そうだろうと思ってましたよ。2足歩行する知的生命体の8割は同じですから。でも、科学者たるもの予断は許されないですからね」


「急に何を暴れているんですか。その腕の拘束具はあなたの力では外れないということが分からないほど愚かなのですか。意外と知能水準は低いのかもしれませんね。これはがっかりです」


「そんなことは理解している。それでも衝動が抑えられない? ああ、準知的生命体にままある好戦性の表れですか。それは発達段階によるものだから知性とは関係ないかもしれません」


「先ほどから何度も準知的と言われるのは気分が良くないですか。だってあなた方はまだ恒星間飛行技術を確立していないでしょう? 銀河文明で知的とされるにはそれが必要条件となるんです。理解できましたか?」


「それで無駄と知りつつ拘束を逃れて何をしようとしているのです? 内容によっては認めてあげなくもありませんが」


「言えない? どうしてです? 言っても認められるわけがないから? そんなことは言ってみなければ分からないでしょう。それともあなたはテレパスなの? いいえ、そんなはずはありません」


「ギュギュターブス人には一般的にテレパシーは使えないことは調査済みです。え、まさかあなたはその例外なんですか? これは……」


「少し離れていたからといってそんなに声を出さないでもいいでしょう?」


「手足を拘束されこのままにされたらどうなるのか不安だった? うふふ。その怯えた感じの反応はいいですね。目元を見えるようにしておいて良かったです」


「あ、首に下げて居るこれですか? テレパスが考えを読むのを遮る装置です。これで私のプライバシーがしっかり守られます。安心です」


「さて、あなたが何をしたいのか希望をお聞きしましょうか? ほらほら、さっさと白状した方がいいですよ」


「片手でいいから腕の拘束を解いて欲しいですか? まあ、腕が1本自由になったところで何ができるとは思えませんけど。あ、どこか痒いところでもあるんですか?」


「違う? それにしては、首筋に炎症を起こしている場所がありますね。蚊に刺された? ああ、体液を吸う小型の昆虫にやられたのですね。神経を麻痺させて針を刺すのを感知しにくくしている成分に反応していると。ちょっと待っていてください」


「あれ? 何を怯えているんですか。その銃で撃つんだろうって? ああ、火薬を使って金属弾を射出するものですか。なんで私がそんな原始的な武器であなたを撃たなくちゃいけないんです? まあ確かに握りがあって引き金があるところは似てますね」


「安心してください。これは医療用の機械です。はーい、動かないでください。あ、そんなことを言わなくても動けなかったですね」


「ほら、なんとも無かったでしょ? 腫れも引きました。ついでなので他にも同様の疵痕がないかチェックしましょうね」


「服の下には無いはずだって? でも、ここにありますよ。服に覆われてるから大丈夫なんじゃないんですか?」


「寝ているときにやられた? それよりも腹をなで回さないで欲しいですか? いやあ、無毛というのが珍しくて。お腹というのは文化的にも体の構造的にも触ってはいけないパーツではないですよね? 露出して外へ出かけているギュギュターブス人も見ますし」


「あまり初対面で親しくない人が触る場所ではない? それなら問題ないですね。私はあなたの検査官ですから。まあ、でも、やめて欲しいというあなたの気持ちは尊重しましょう」


「そうですね。私にも了承なしに触らないで欲しい部分はありますし」


「え? どこがですって? それこそ初対面の相手に聞くことじゃないと思いますけど」


「そういう意味じゃない? じゃあ、どういう意味なのかなあ?」


「さて、反応が面白くてついつい遊ん……検証に夢中になってしまいましたけど、片手の拘束を外して欲しいんでしたっけ。……これでどうです?」


「反対側に回ってほしい? 何をするんです? しょうがないですね」


「にゃ、にゃにを、何をするんですか。変な声になっちゃったじゃないですか? こ、こんなエッチな触り方をしてくるなんて破廉恥です。変態です。ふー、ふー、なんでやめるんですか。いいから続けなさい」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る