この星の代表としてあなたを徹底的に調査します

新巻へもん

第1話

「ハーイ。こんにちは。私があなたの尋問を担当します」


「あるぇ? どうしてそんなに怯えた顔をしているのかなあ? え? なあに? 手足を固定され目隠しをされて今までと違う場所に居ればこうなるですって?」


「なるほど、状況把握能力は準知的生命体として一般的なレベルにはあるようね。そして、突発的な事態に対しても冷静に対処できると。私が目を付けて捕獲した個体が協力的で助かるわ」


「捕獲? そうよ、あなたは私に捕まったの。ここは宇宙船の中よ」


「手足を拘束しておいて協力的というのには語弊があるですって? なるほど。あなたは平均よりもボキャブラリーか豊富なようね。素晴らしいわ」


「感動してないでどういう状況が説明して欲しい? なるほど、至極真っ当な要求だわ。それでは説明するわよ」


「なんで耳元で囁いているかって? 色々と質問が多いわ。欲張りねえ。それじゃあ、どちらから回答してほしい?」


「声の方ね。耳に息がかかって落ちつかない? あら、顔の表面の血流が増えて温度も上昇しているわね。なるほど。性的興奮を感じてるのかしら。ギュギュターブス星の準知的生命体は変わった身体の構造をしているのね。興味深いわ」


「こほん。話がずれちゃったわね。でも、あなたが面白い反応をするのが悪いのよ。それで、こうして耳の近くで話しているのは大きな声が出ないからなの。あなたたちの音声は発音しづらいのよね。翻訳機を使ってもいいけど味気ないでしょ。ほら、ちょっと離れ……聞こえなかったでしょ?」


「ググターブスって何かって? ギュギュターブスよ。あなたの住んでいる惑星のことね。私たちはそう呼んでいるわ。私はチョクルンティーバ連合の調査員ジャコラです。簡単に言えば宇宙人ってことね」


「あんまり動揺しないのね。え? これだけ宇宙が広ければ宇宙人だって居るだろうし地球まで、やってくる物好きもいるだろうって?」


「そうね。話が早くて助かるわ。それでギュギュターブス星に来た理由を話していい? え? その前に自分をどうするか知りたいですって?」


「内臓を取り出すんじゃないか? えーと、ここが体液の循環ポンプね。あら、動きが速くなった。やーね。私たちは準知的生命体を捕食したりしないわよ。でも、ちょっと美味しそうないい匂いがするかも」


「いきなり叫ばないで。齧ったわけじゃなくて一舐めしただけじゃない。ザラってしてる? そう? ちょっと口を開けてみて」


「暴れないの。ちょっと口の中を触っただけでしょ。なんかプニッとしたものに触ったって? そう? それにしてもギュギュターブスの準知的生命体は舌が滑らかなのね」


「また話がずれたって? 仕方ないでしょ。今までは映像と音声による観察ばかりで直接ギュギュターブスの準知的生命体に接触するのは私が初めてなんだから」


「そうよ。最初に接触するのは優秀な科学者である私に与えられた名誉なの」


「すごい? いやー、それほどでもあるかな。面と向かって言われちゃうとちょっと照れちゃいますね」


「アイマスクで隠されてるから照れているところを見てないですか。目隠しをした状態でどのような反応をするのか。それも観察事項の1つなんです。我慢してください」


「えーと、それで、私がこの星にやってきた理由はですね。あなたたちギュギュターブス人類が宇宙に進出するのに相応しいか確認するためです。手を取り合って共に歩んでいけるか直接接触して調べるわけですね。ということで私の宇宙船に御招待しました」


「判定の結果どうなるかですか? 極めてシンプルです。不適格となった場合はこのままギュギュターブス星の中に閉じ込めておきます」


「どうやるかですか? 簡単ですよ。スペースデブリって分かります?」


「そうです。地球の周りの宇宙空間に漂うゴミですね。これをもうちょっと増やすとゴミ同士がぶつかり合って指数関数的に数が増えます。そうなるとあなたたちの原始的な宇宙船はゴミとぶつかって壊れちゃうのでさらにスペースデブリが増えます。そうなると、金輪際宇宙空間に脱出できなくなってしまいます。残念ですね」


「その判定を何人でするのかですか? もちろん、あなた1人です。だって何人も調べるのは負担が大きいのですもの」


「責任重大ですって? そうかもしれませんね。でも、自分がキャスティングボートを握っているって興奮しませんか。ほら、心拍数も上がってます」


「何か硬いもので皮膚を引っ掻くのは止めて欲しい? 思った以上にギュギュターブス人の体表はデリケートですね。体毛で覆っていないから強靱なのかと思いました」


「なかなか、実際に接触してみないと分からないものは多いですね。それでは引き続き調査を続けましょう。え? 調査対象を他の人に代わって欲しい? なんでですか。この私が選んだんですよ」


「はあ。判定によって引き起こされる結果の責任が重すぎて辛いと。でも、残念ながら変更はできないんですよ。新しいギュギュターブス人を選んでここに連れてくるのもコストがかかりますし」


「仕方ないから協力するですか? いいですね。まあ、この私が悪いようにはしませんから。え? なんであなたを選んだのかの理由ですか?」


「それはですね、私が気に入っ……ている凄い量子コンピュータが、あなたが適任と判断したからです。感謝するといいですよ。それでは次のステップに移りましょうか。視覚を開放してあげましょう。いいですか、目を開いてよーく見てくださいね」

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