第16話 またくるぜ

「傷薬としては使い辛くない? 俺の知っている傷薬と少し違う」

「んだなあ。俺も街で使うことはまずない。怪我をしてたまたまこいつを見かけたら、使うくらいだな」

「見た目が全然違うから別物で間違いないのだろうけど、一応聞かせて欲しい。街で売っている傷薬の材料じゃないよね?」

「んだな。だが、こいつの方が買い取り価格が高いんだぜ」

 ニヤっと意地悪な笑みを浮かべアロエのような茎を袋に詰めるマルチェロ。

 この袋は彼の手持ちのものだ。そうそう、袋なら川辺にいきゃ、一応は作れるぜ、と彼から教えてもらった。 

 頑丈さは保証しない、ないよりはましだ、とも言っていたけど、素手より断然よいよ。食材を家に放り込んだら川辺に行ってみるか。

 おっと、袋じゃなくって。アロエのような茎の方が俺の知る傷薬の材料より高いのだっけ。

「アロエのようなこいつは使い勝手から緑の葉っぱが傷薬に使われているんだよね。それでも買い取り価格が高いってことは薬効が高い?」

「いんや。ティルは図鑑を読んだんだよな」

「……浮かんだ!」

「ほおほお」

 変なノリになってきた。マルチェロがまるで教官のように腕を組み頷いている。

 ふふふ、その期待に応えてやろうじゃないか。図鑑の知識が役に立たなかったから、すっかり抜けていたよ。

「ずばり、ポーションの材料だからだ」

「正解」

 よおっし。クイズぽくなったので当たるとさりげに嬉しい。

 ポーションは元になる薬草に魔法をかけて作成する。傷薬より薬効が断然高く、傷口にポーションを振りかけると瞬く間に傷が塞がる物凄さだ。

 一口に薬草といっても色んな種類がある。その中でアロエの茎はポーションの材料として向いているってことさ。

 

 なんてことがあり、特に魔物に出会うことも無く小屋に戻った。

 そして川辺に行ってみたら、なるほど、と彼の説明を受ける前に気が付いたぞ。

 川辺には葦が群生している。こいつをダガーで切って、乾燥させて、茎を編めば籠や袋にできるって寸法だ。

 一日乾かせば使えるようになるかなあ。楽しみだ。

 マルチェロの助けがあり、これなら長期的に生活していけそうだと思った矢先、彼が街に戻ることになった。

 冒険者ギルドの依頼を受けているみたいで、そろそろ戻らないと、ってさ。

 

 朝になり小屋の前で、彼と握手を交わす。

「ありがとう、助かったよ」

「また来るぜ。ほれ、これ」

 ゴソゴソとおもむろに彼が懐から取り出したのは四つに折りたたまれた羊皮紙だった。

 ひらいてみると何やら絵が描いてある。これって、地図だよな?

「ん、いいのこれ?」

「おう、次会った時に返してくれればいい」

「今俺たちがいる場所ってどの辺なんだろ」

「この辺だ」

 ええと、地図の外なんだが。戸惑う俺に彼は見てろと指を動かす。

 彼はもう一方の手で俺から見て右側にある山を指さした。

 ほおほお、あの山が地図のこの場所にあたるのね。となれば、街の方向も分かる。

「街にも自力で行けるかも」

「大まかな目印が分かる程度だが、ないよりはマシだろ」

「もちろんだよ!」

「なんかあったら、冒険者ギルドか武器屋『アルカン』を訪ねてこい」

 地図の縮尺は分からないけど、俺が徒歩で迷わず街まで辿りつけたとしても一週間じゃ無理そうだ。

 しかし、俺にはクーンがいる。馬より速い彼に乗ればそう時間はかからないさ。

「わおん」

 クーンも尻尾を振ってマルチェロを見送る。クーンも彼のことを気に入ってくれたのかな?

 その時不意に後ろから声がして驚く。

「マルチェロ、また」

「おう、じゃあな!」

 なんとハクがマルチェロを見送りにきたんだ。まだ朝も早いというのに、彼女には昨晩マルチェロが旅立つことを伝えていた。

 マルチェロに手を振り、彼の姿が見えなくなるまで見送る。

 見送った後、ハクはふああと欠伸をして自分の家に戻って行った。

 彼女は調子が悪かったのに、彼のために起きてくれてくれたんだよな。

 彼女の優しさもそうだが、マルチェロもお人よしが過ぎて、ありがたいんだけど少し心配になってくる。変な壺とか買わされたりしてないか心配だよ。

 彼は実のところもっと急ぎで街に戻らないといけなかったんじゃないかなと想像している。

 俺が自給自足できるようになるまで付き添ってくれて、大丈夫だと判断し帰ることを決めたのだろう。

「ありがとうな、マルチェロ」

 今は見えない彼の立ち去って行った方向を向き、一人感謝の言葉を呟く。

「わおん」

「よおっし、水浴びしようか!」

 クーンが遊んで―、ときたので川へ飛び込むことにした!

 

 ◇◇◇

 

 マルチェロと別れてから二日たった。

 葦は編むことに挑戦したのだけど、持ち前の不器用さですっかすかで形もいびつな籠にするのが精一杯という体たらく。

 それでも、籠があるのとないのじゃ全然違う。クーンと採集に出かけて籠に山菜と栗ぽいものとかで満載だ。

「ハク―、戻ったよー」

 む、今日はまだ寝ているようだった。失礼と分かっていながらも、窓から彼女の様子を見やる。予想通り、彼女は鳥の巣のようなベッドですやすやと眠っていた。

 ここ二日はお昼ごろには起きてきていたのだけど、また調子が悪くなっちゃったのかも。

 うーん、街に行く計画を発動すべきか。え? 街に行ってもお金がないから何もできないだろうって?

 いやいや、そんなことはない。マルチェロが教えてくれだろ。

 ポーションの原料になるアロエを集めててね。こいつを売れば多少の路銀になるはず。子供じゃ買取に不安があるけど、彼が紹介してくれた武器屋『アルカノ』に行って彼の名前を出せば何とかなる。

「わおん」

「風呂にでも行こうか」

 クーンと自分の服を交互に見てひと風呂浴びることに決めた。採取をすると泥だらけになる。クーンも綺麗な白銀が薄汚れていた。

 よおし、ぴっかぴかにしてあげるからな。

 彼と一緒に入る虹を見ながらの温泉は最高なんだぞ。川遊びも捨てがたいけど、やはり温泉には敵わない。

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