第15話 キノコいっぱい

 二人を乗せて全速力を出さなきゃ行かない時には彼にストレングスの付与術をかけるつもり。そうすれば、俺一人を乗せている時より軽々と動くことができる。

 さてさて、マルチェロに教えてもらいながら選別しているのはキノコだ。

 キノコ図鑑は家の書庫にあった気がするけど、残念ながら閲覧したことがない。閲覧していたとしても、微妙な違いを見分けるには慣れと勇気が必要だな。

 何で勇気? それは、とてもよく似た形と色をしている毒と食べられるキノコを迷いなく食べるわけだろ。

 間違えているかも、という懸念は捨てきれない。マルチェロのように熟練した目利きを持つ人ならそうじゃないけどね。

 まあ、俺にとって勇気とは別の方向性だなあ。

 似すぎている毒と食用は諦めて別のものを探す。諦める勇気の方である。

 さきほどからキノコばかりを集めているのだけど、分かりやすい特徴を持った食用キノコもあるからね。

 俺にも馴染深いマイタケ、シイタケ……に似たキノコといったものは分かりやすい。

 ハクから借りた俺の身長の半分くらいの大きさがあるリュックでも、入る量に限界がある。そろそろキノコはもういいかな……。

「この辺りはキノコが豊富なんだね」

「みてえだなあ」

「お、この葉は。根本を掘ってみな」

「やってみる」

 言われるがままに掘ってみたら大根のような野菜をゲットした。

 ゴボウや芋なら自然の中でもありそうだけど、大根ぽいものまであるなんて驚きだ。

「果物とかもないかな?」

「あるんじゃねえか」

 しばらく散策しているとこの前見つけた大きなキイチゴと柿に似た果物を見つけた。

 他には狩もしたぞ。

 マルチェロが弓でキジに似た鳥を仕留めてくれた。それも二羽も。

 ドングリとか粟ぽい粒々も手に入り、自宅へと帰還する。

 帰ってからは罠作りを行う。

 鳥を捕まえるのって案外簡単なんだってさ。地面に穴を掘って、廃材の中にあった大鍋の蓋を置き、回転するように設置する。

 大鍋の蓋の端に粟ぽい粒々を置いて、あとは待つだけなんだって。

 鳥が歩いて餌をつつくと下に落ち、下から突き上げても大鍋の蓋が動かないので捕まえることができる。

 本当にこんな罠で捕まえられるのかよ、と思ったが、やらないよりはやった方が良いだろとマルチェロの真似をして俺も罠を設置したんだ。

 

 食材が色々集まったので、本日の夕食は豪勢なものになった。

 しかし、しかしだな。前世で飽食の世の中で育ち、今世でも貴族のボンボンだった俺にとってはまだまだ満足のいくものではない。

 イノシシ、鳥の肉、多種のキノコ、根野菜、葉野菜、そして果物まで。

 贅沢な悩みだとは分かっている。食材には一切不満はないんだ。なんなら鳥と野菜のうち何かだけでも十分である。

 調味料。

 そう、調味料が足りないんだよ!

 生きるのに必須の塩はある。しかし、塩しかない。

 どこかにコショウとかトウガラシとか自生していないものなのか。味付けに使えるものなら、ニンニク、タマネギ、パクチーといったものもよいよな。

 パクチーぽいものは未だこの世界で出会ったことはないけれど……広い世界のどこかにはありそう。

「お、ハクじゃねえか」

「うん」

 一人妄想で盛り上がっていたが、マルチェロの声で戻ってきた。

 ハクは今日も起きてくるのが遅く、夕飯時になんとか間に合ったといったところ。

 もう三日になるけど、なかなかよくならないんだな。明日は薬草を積極的に探してみよう。数日分の食材を確保できたことだしさ。

「わおん」

「おかわり、まだまだあるぞ」

 食べ終わったところに追加で鳥の丸焼きを置く。鳥は小さいからすぐ食べきっちゃうなあ。

 訂正、肉は明日も確保すべし。

 

 翌日、冗談だろと思っていた罠に鳥が二羽も引っかかっていた。こんな単純な罠で鳥が取れるとは驚きだよ。

「いい感じだろ」

「正直、獲れるとは思ってなかった」

 得意気に白い歯を見せ親指を立てるマルチェロに対し、はははと変な笑い声しか出なかった。

 飛べない鳥かと思ったら、そうではなくシギに似た鳥である。

 シギは足と嘴が長く目立たない茶色ぽい翼をしている種が多い。中には鮮やかな種もいるのだろうけど、罠にはまったシギに似た種は地味な色をしていた。

 足と嘴が長いことから想像するのは水辺の鳥じゃないかな? 罠にかかったシギに似た鳥も水鳥に見える。

 虹のかかる渓谷には滝があり、流れる川とついでに温泉の沸く泉まであるんだ。水鳥がいても不思議ではない。

 川には魚も沢山いたから餌も豊富だから、水鳥も集まる。餌が豊富なのにこんな罠にかかるとは未だに信じられん。

 釈然としないままだったけど、鳥が罠にかかったのは事実。

 うん、これからもこの罠を利用させてもらうことにしよう。いずれ鳥が罠に引っかからなくなる日が来るかもしれない。捕獲できれば幸運くらいに考えておけばいい。

「マルチェロが来てくれてからあっという間に食糧が豊富になったよ」

「溜め込めるものは溜め込んでおいた方がいいぜ」

「そうだよね。食糧はあればあるほどいい」

「詰め込む袋もなんとかしねえとな」

 自給自足、かつソロで生きていくとなると、悪天候や風邪などで採集に出かけられない日が必ずやってくる。

 季節によっては自然の恵みが極端に少なることだってあるから、食糧備蓄は必須だ。

 一方で廃屋……いや廃材の中から都合よく道具が見つかるわけでもないから、袋をはじめとした日用品の方もどうにかしなきゃなあ。

 ないない尽くしであるが、それはそれで楽しいものなんだよ?

 RPGゲームをやっていて一番楽しい時期は色々とアイテムや武器・防具を揃えている時じゃないかな?

 今の俺はちょうどそんな時期にある。不安よりワクワクの方が断然強い。

 この日もマルチェロとクーンと一緒に食材集めに精を出す。芋類やキノコ類など日持ちのするものを中心に集め、備蓄を増やすことにした。

 食材を集めながらも忘れちゃいないぞ。薬草のことは。

 図鑑の知識を元に探してみたのだけど、頭の中にある絵だけじゃ難し過ぎた。手元に図鑑があって見比べながらなら分かるのだろうけど、曖昧な記憶を頼りになんて無茶過ぎたよ。それでもマルチェロが冒険者ギルドで受けた採集クエストなるもので培った経験で傷に効くアロエのような茎はとれた。使い方は茎を砕いて傷口に塗布するだけなんだって。

 ハクの体調を回復するには傷薬じゃ効果は期待できない。まだ肉を食べてもらった方がマシだよな。

 

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