第14話 雑魚寝
せっかくだからと、マルチェロに野草の見分け方を教えてもらって香草を採集する。
ま、まあ、家の近くに自生していたものだったのだけどね。
他はキイチゴとクーンの飛び込んだ藪の中で見つけた芋にドングリぽい種を本日の食材に加える。
探せばすぐそこにあるものだったんだ、と驚いたよ。
ドングリも芋もそのまますぐには食べられないらしく、マルチェロに教えてもらってあく抜き中だ。
彼は本当に何でも知っている。イノシシをサクサク捌いてくれたし、皮のなめしかたも教えてくれた。なめすためには材料が足りないからすぐには無理そうだったけど、教えてくれたのが嬉しい。
日が傾いてきたところで起きてきたハクに中央が少し膨らみ、淵に穴があいている鉄板を借りてイノシシ肉を焼く。一緒に香草も炒めて塩を振り完成である。
鉄板の構造上、余計な脂は流れ落ちるから、ギトギトにならず自然といい感じに仕上がった。香草で臭みも消え、悪くない、いやとってもおいしかったぞ!
肉だけ魚だけ、より一品加えるだけでこれほど味が変わるんだなあ。
「熱っ!」
「ははは、焦らず喰えよ。って熱ち!」
「ハクは平気」
などなど、焼きたてを狙い過ぎて舌が焼けそうになった俺とマルチェロだったが、ハクは昨日に続き熱さに強い。
種族的なものなのかなあ。俺とマルチェロは人間で彼女は竜人に近い種族と熱の感じ方は違って当然だよな。
種族的なものといえば、少し気になっていることがある。
ハクの睡眠時間のことだ。彼女は俺と同じくらいの時間に寝て、夕方になって起きてくる。ここ二日の話なので、いつもいつもではないはず。
俺と出会った時は昼間だったし。
普段からこれだけ寝ているわけじゃないよな、きっと。もし、ここ二日と同じような睡眠時間が常に必要だったとしたら、一人で暮らしていくには厳しい。
一人で暮らすってことは食糧を自分で確保しなきゃならないから。彼女の家の周囲には畑もないから、採集か狩りをしないと食べていくことはできないものな。
じっとハクを見つめるも、当然ながら何も分からん。俺の視線に対し不思議そうな顔で首をコテンとするハク。
そこへ、おっさんがウザ絡みしてくる。
「おー、おー、お熱いねえ」
「ハクは平気」
そう言う意味じゃなくってだな、なんて突っ込むと益々このおっさんを調子に乗らせてしまうから何も言わないぞ。
説明せずともハクは食べ物が熱いとかの意味で熱いを受け取っている。
ワザと彼をあしらったのか、天然なのか……間違いなく後者だな。
「ハク、風邪を引いたりしていない?」
「風邪?」
「元気がなくなっていたりする?」
「する」
風邪だったのか。魚丸ごとはともかく、豪快な焼肉は重かったよな……きっと。
いや、これもあくまで人間の感覚からだから、彼女にとっては肉こそパワーの源、とかで風邪の時に食べると良いとかかも?
悩んでも答えはでないし、食べられるほどの健康状態ならそのうち回復してくれる、と思う。
高熱で食べることも難しいとなれば深刻だ、明日には少しでも回復してくれていることを祈ることしかできないのが歯痒い。
この世界にも風邪薬的なものはある。前世の感覚でいえば漢方薬が近いかな。
数種の薬草を症状に応じて煎じて飲むのが一般的なこの世界での風邪薬である。
他にも魔法の霊薬とか、高価で希少な薬もあったりするが、霊薬のような強力な薬は患者の症状を読み間違えると逆効果になったりと難しい。
一方、外傷に対する薬なら現代日本も真っ青なものが多々ある。薬草を貼り付けるものから、一瞬で傷が塞がるポーションまで値段に比例して効果が高まり、最高級のものになると切れた腕も繋がるのだから凄まじい。
「薬草学なら多少は……マルチェロはどう?」
「んー。採集はしたことがあるが、薬師が煎じなきゃ効果がなあ。傷薬なら誰がやっても変わらねえんだがなあ」
栄養ドリンク的なものなら素人でも何とかなりそうなのかな。
十全な薬効を発揮させるには繊細な調整が必要になり、専門家である薬師じゃないとってことか。
「ティルとマルチェロの想い受け取った」
俺とマルチェロの会話が途切れたところでハクがどうとらえればいいのか分からない言葉を投げかけてきた。
出し抜け過ぎて、どう反応したらいいのやら。
「おう、俺も美味かったぜ」
マルチェロが二カッと白い歯を見せ拳を握りしめる。
ポカンとする俺に対し、気まずくならぬようすかさず応答するマルチェロはさすがだ。
彼はハクの言葉をご飯をありがとう、ご飯がおいしかった、という意味合いで取ったようだった。
俺の解釈は元気がなくなっていたけど、ご飯を食べて少し元気になったよ、ってところかなあと。
ともあれ、探索する時には薬草学にあった薬草のスケッチを思い出しながら採集をすることにしよう。
腹いっぱい食べた俺は作ったばかりの小屋で初めての夜を過ごした。
腹いっぱいなことと、一日作業をしていた疲れからクーンのふさふさに頭を埋めたらすぐに意識が遠くなる。
マルチェロもせっかくだからとできたばかりの小屋に招き、雑魚寝してもらった。彼は冒険者だけに手持ちの毛布があり、そいつにくるまって寝ていた……と思う。
◇◇◇
「そいつはダメだ。こっちは問題ない」
「すげえ、さすマルチェロ」
「なんだその褒め方……」
「若者独特のやつってものだよ」
ますます意味が分からねえと渋い顔をするマルチェロであった。
今俺はマルチェロとクーンと共に渓谷の外にきている。道なんてものはもちろんなくて、木々の密度が詰まっているので視界も良くない。
地面は地面で落ち葉が積み重なり足を取られやすく注意が必要だ。
俺には裏山の森の中って感じなのだけど、規模が全然違う。どこまで行っても道路なんてないからな……。
そうそう、俺の体が小さいこともあってクーンはマルチェロと俺を同時に乗せて走ることもできた。
クーンは楽々といった感じではあったけど、見た目窮屈そうなのとマルチェロが居心地悪そうにしていたのですぐに彼から降りたんだ。
いざという時のために二人同時に乗って動くことができるか試しただけなので、今はこれでよし。
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