第13話 ダイアウルフって?
「草を乾かせばいいんだっけ」
「俺も詳しくは分からん。試してみるしかねえなあ」
首を横に振るマルチェロはお手上げと両手を開き肩を寄せる。
間違っていること確実だけど、伐採した残りで葉っぱ付きの枝は大量にあるので、そいつを屋根の上に置いておくことにした。
これでも多少は雨漏り対策にはなるだろ。
「さっそく中へ入ってみようかな」
「わおんー」
クーンがすごい勢いで駆けてきて、抱きしめると器用に首を回し彼の背に乗っていた。
よおしよおしと頭を撫でると嬉しそうに千切れんばかりに尻尾を振る。
「無事でよかったよ」
「お前さん一人より余程安心だぞ」
彼だけで行かせてしまったことに後悔していた俺はよかったよかったと彼の背に乗ったまま覆いかぶさるように抱きしめた。
そんな俺にマルチェロがボソリと一言釘を刺す。
「そうなの?」
「ダイアウルフの幼獣ならともかく、そいつはクーシーになったんだろ。小さな嬢ちゃんの言うことが正しければ」
「そうみたいだ。魔力も物凄いよ」
「そうだった。すっかりなじんでいるが、お前さん、街の外に出るのは初めてだったよな」
眉間を指先で揉み、もう一方の手の指先を忙しなく動かしている。
彼なりにどうやって俺に説明したものか考えているのだと思う。
俺はといえばクーンの耳を弾いて、彼が激しく耳を動かすので撫で撫でしたりと呑気なものだった。
「鵜呑みにしたらいけねえんだが、冒険者ギルドでエリアごとにランクをつけていてな」
「どこどこ平原は魔物が強くない、とかのランク?」
「察しがいいな。ギルドで平均的な魔物の強さを評価してんだ。んで、それとは別に魔物の強さにもランクがついている」
「鵜呑みにしてはいけないって理由も分かったよ。それで、このエリアのランクとクーシーのランクを教えてくれようとしていたんだな」
そうだ、とマルチェロが親指を立てる。
冒険者ギルドで設定しているエリアはかなり大雑把なものだった。俺が落ちた場所から虹のかかる渓谷までも含めてダスタードというエリアに含まれる。
ダスタードは厳しい山岳地帯とされているが、もちろん全部が全部山の中というわけではなく、山間の地域が多い。
そんなダスタードのエリアとしてのランクはB+となっているんだって。詳しく聞いても何のことかわからないのでB+ってのだけ捉えることにした。
対して、クーシーの種族としてのランクはA+とのことなので、余程の魔物じゃない限り怪我することもない。しかも、クーシーは空を飛ぶ魔物を例外とすれば、相当足の速い方なので、逃げ遅れることもまずないのだと。
「クーンはすごいんだなあ」
「わおわお」
「お前さんもたいがいだけどな」
「ん?」
なんでもない、とマルチェロが苦笑し首を振る。
魔物のランクとかよくわからないけど、クーンのランクが高くて誇らしい。
「ダイアウルフも狼系の魔物としてはなかなかのものだぞ。
「へえええ」
続いて彼は街に行くことがあれば、クーンのことはダイアウルフだと言った方がいいぜ、とアドバイスもしてくれた。
街、街かあ。子供一人、街で生活していくことは考えていないけど、街で「仕入れ」ができたらいいなと思っている。
自然の恵みで食材は問題ないものの、大工道具を始め食器類も一切持っていない。ベッドなどの家具類は自作でなんとかするつもりだが、釘の一本もないのだ。
「マルチェロ、冒険者は魔物の素材や薬草を売ってるのだよね」
「そうだな。ここにゃあ何もねえから。念のため聞くぞ。街で暮らそうとは思ってねえんだよな?」
「うん、子供だし働くことも難しいと思ってる」
「冒険者になるにももうちっと大きくならねえと厳しいな。モノを売るだけならいけるか。ああ、お前さんはやっぱ聡いな、街で暮らすのは難しいか」
そうなんだよ。クーンと盟約を結んで付与術が十全の威力を発揮するようになって、街で部屋を借りて暮らすのもいいかとも考えたんだ。
だけど、魔物の素材を街で売るにしても子供が何でもってんだ、ってのもあるし、子供一人で暮らしているとなると夜も安心して眠ることもできない。
世の中良い人ばかりではないのだ。人が沢山いる街中だと四六時中、人の目を気にしなきゃならないだろ。
俺が大人だったらここまで心配する必要もなく、街で冒険者をやりながら過ごせばいいのだけど、そうもいかないのよね。
モノを売って、その日のうちに街を出る。これなら寝込みを襲われることもなく安全が確保できる。
「何が売れるのか、分からねえだろ。その辺は任せとけ」
「とても助かるよ。売った分は山分けさせて欲しい」
「ははは。俺のためでもある。街に向かう時はよろしくな」
「ありがとう」
今後のことは後ほど考えるとして、まずは目の前のお楽しみからだよ、だよ。
さあて、家の中の様子はどんなものか。
先にクーンに入口へ行ってもらい、彼のお尻を押して中に入る。ちょこっと入口が狭かったかもしれない。
「おお。悪くない」
「これならすぐ崩れてくることはなさそうだな」
クーンのこともあるので、天井は高めに作っていた。クーンが多少跳ねても届かないくらいかな。
コンコンと壁を叩くマルチェロがニヤリとし太鼓判を押す。
伏せをするクーンのお腹に頭を乗せて寝っ転がってみた。うん、寝るだけならこれで十分だ。
竈は外、風呂も温泉があるので外、絨毯があればもう少し快適になるけど、今はこれでよし。
ぐううう。
ほっとしたところで盛大にお腹が悲鳴をあげた。おもしろいことに、俺だけじゃなくマルチェロも。
クーンも同じくお腹が空いているようで「わお」と力なく鳴いた。
「よおっし、魚を獲りに行こう」
「わおん」
家を出たところで、川の方向じゃなく藪の中に向けてクーンが走って行ってしまう。
すぐに戻って来た彼は口にイノシシを咥えていたではないか。
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