第12話 家つくり

「家には支柱が必要でな、穴を掘って丸太を立てるのもいいんだが、雨で土が流れたらグラつくだろ」

「それで岩を土台にするのか」

「見ればそのまんまなんだが、岩に丸太の形を彫るのは難しいぜ。んだから――」

「それなら難しくはないよ」

 ようは岩に丸太をめり込ませればいいんだろ。試しにやってみるなら枝でいいか。

 鉛筆くらいの小枝をつまみ、そこら辺に転がっている岩に当りを付ける。

「エンチャント・ハイ・タフネス、そして、エンチャント・ハイ・シャープネス」

 念には念を、で一段階強化率が高いハイシリーズを発動させた。対象は小枝だ。

 本当はカッコよくダーツのように投げたかったのだけど、明後日の方向へ飛んでいきそうなので、小枝を岩に当て押し込む。

 すううっと枝が岩に沈んでいき、引き抜くと小枝が刺さっていた穴が開いていた。

「お、おいおい」

「これなら岩に丸太を埋め込むことができるかなって」

「付与術ってすげえな、いや、普通、こんな使い方をしねえだろ」

「使えるものは使わないと、ってね」

 そう言っておどけて肩を竦める。対する彼は苦笑しつつも岩の前でしゃがみ込み強化した枝でもう一つの穴を開けていた。

 「おお」と声まであげて、少年のような顔で。何このデジャヴ。

「付与術は確かにすげえ。だが、お前さんの発想はもっとすげえな!」

「石は木より硬い、というのが頭にあるから。だけど、俺の手が岩より硬くなったからいけると思って」

「言われてみれば、だな。俺も一度だけ見たことあるんだが、ストレングスを受けた冒険者が素手でブルの角を折ったところを見たことがある」

「いいものを見せてもらったぜ。これなら別の作り方ができそうだ」

 ストレングスを付与されて角を折ったのはその冒険者の鍛錬の成果だと思う。

 ストレングスは筋力を強化するもので、拳を硬くするものではない。拳を例に出したのが適切じゃなかったけど、意味は伝わったようだから結果オーライである。

 木で岩に穴を開けることアイデアのきっかけは昨日クーンと遊んでいたときに着想を得た。着想って大袈裟なものでもないか。

 ほら、アルティメットで自分を強化して走ったりしてただろ。その時に力加減を誤って崖に手をぶつけてしまったんだ。

 したら、ガラガラと岩肌が崩れてさ。手は全く痛くないし、パラパラと落ちた小さな石を指先で粉々にすることだってできた。

 いつもの俺じゃ石を粉々にすることはおろか岩肌に手をぶつけたら怪我をする。

 

 作業すること1時間くらいだろうか。形は全体として正方形になるように作った。広さとしては十二畳から十五畳くらいかな。

 岩を切り出して隙間を作って並べ、横から木の棒を通したもので、高さが30センチくらい。これはいわゆる家の基礎ってやつである。

 雨が降った時に床が浸水しないように、家が傾かないように、基礎があると家の頑丈さと快適さが格段に増す。

「家って複雑なんだなあ」

「土台があるとないでは全然違うからな」

 俺だってざっくりと家がどのような作りになっているのかは知っていた。ただし、日本の家の間取り図とか外観くらいのものだけど。

 家には基礎があって、その上に壁やら床やらを作る。基礎と呼ぶには粗末すぎるので、マルチェロの言うように土台と表現した方が適切だよな。

 お次は懸案となっていた支柱である。丸太を立てることにしたのだけど、岩に丸太を突き刺す案は没になった。

 試しはしてみたんだよ。マルチェロと自分にハイ・ストレングスを付与して大岩にどーんと突き立てたら……大岩が粉々に崩れた。

 丸太の直径は大きいから岩が圧力に耐えきれず割れてしまうんだよね。数度やってみたが、結果は全て同じで岩に突き刺す案は諦めた。

 そこでマルチェロが土台を利用するアイデアを出してくれたんだ。

「この辺?」

「もうちょい右、よし、そこだ」

 マルチェロと二人で丸太を支え、彼の指示に従い丸太を土台の隙間に入れ、そのまま土へズブズブと埋める。

 ただ土に埋めるだけじゃなく、土台の石で丸太を支えるようにした。

 これなら土がぬかるんでも丸太を支えることができる。コンクリートで固めるのと比べると強度は落ちるが、そのまま土に丸太を埋めるだけよりは格段に安定しているはず。

 あとは支柱に合わせて縦に半分に切った丸太を横向きに積み上げ壁にする。

「……ダメだ。蔦で縛っても固定できないね」

「んだなあ。土台をいじって縦にしてみるか」

 俺の言葉にマルチェロも同意する。何事も経験だ。よっし今度はうまくいった。

「入口はどうしよう?」

「うーん、金具もねえし、隙間つくって開けっ放しは雨のとき困るよな」

「板で隙間を埋めれば凌げると思う。板を作りたいのだけど、どうやればいいのかな?」

「任せろ。カンナもあるからな。やり方は丸太を縦に切った時とそう変わらない。見てろ」

 ほおほお、うまいものだなあ。漫画で侍が何かを細切りにするシーンを見ているかのようだった。

 エンチャントした武器で丸太を切る場合は武器を扱う技術を生かすことができるのかもしれない。大工・武器共に扱うことのできない俺にとっては、どっちにしろってやつだなのだけどね。

「窓用の穴もあけたいな」

「窓ならこうすりゃいいんじゃねえか」

 お、おお。横にスライド式させる窓が完成した。木の板で開け閉めするので、締めている状態だと外は見えない。

 残すは天井部分。

 左右の壁の高さを変えるよう工夫し、板を並べることで屋根とした。板と板の隙間を塞ぐものがないから雨漏りしてきそう。

 板を二重にし、少しでも雨漏りが減るように目論むのが精一杯だった。

「完成! ありがとう、マルチェロ」

「大工もいねえし、建材もねえからなあ。あとは藁とか屋根に乗せればいいんじゃねえか」

 完成した家……小屋と表現した方がいいか。小屋を眺め悦に浸る。

 二人だったことと、付与術があったことでまさかの一日作業で小屋が完成した。

 藁ぶき屋根とか茅葺屋根とか聞くけど、肝心の藁の作り方が分からない。馬小屋とかにある藁だよな、きっと。

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