~露見の理想(おんな)~(『夢時代』より)

天川裕司

~露見の理想(おんな)~(『夢時代』より)

~露見の理想(おんな)~

 白昼に観る夢想(ゆめ)を仕留めて起材(きざい)とすればお前の描(か)く文学嗜好は華々しく成り誰の眼(め)にさえ生粋(もと)をも正す。これまで見て来た文士に図れば誰も彼もが素顔を見せずに虚構を観(み)せ得て、お前が独歩(ある)いた夢想(ゆめ)の跡にはぽっくり咲き得る〝魅惑〟が積まれて奇麗に笑う。きらきら輝(ひか)った虚無を見るより、現行(いま)に盛(さか)った怪訝を仕留めて真理(しんり)を観るのがお前の〝人間(ひと)〟には適しているとは思えないのか?

 虚無の白紙をすんなり通って〝俺〟の心身(からだ)は現行(ここ)まで来るのだ。淋しい表情(かお)して迎えて在るのは人間(ひと)に生れて如何(どう)して儚く痩せて行くのか、お前の生粋(もと)などくっきり正して虚構に問いたい気持ちに会わされふっと笑って、人間(ひと)の祈りを延長させたい未熟な意識に苛まれている。現行(いま)に添えられ、ぽつんと佇むお前の主体(あるじ)が何処(どこ)へ向かって独歩(ある)いて在るのか、自然に生れる「人間(ひと)」の疑惑に一つ確かな答(こたえ)など知り、人間(ひと)を超え得る〝物知り博士〟を自然へ投げ出しそのまま置きたい。一体誰の知識がそれほど困った窮地まで来て、〝そのまま置かれた〟真(しん)の糧など拾えようか。一体どんな男がそれほど困った窮地まで来て、〝そのまま置かれた〟真の糧など吟味しようか。一体どんな女がそれほど困った窮地まで来て、〝そのまま置かれた〟真の糧など生み育てるか。みんな虚無なら虚無へと還って人間(ひと)の感覚(いしき)の遅延を待たずに月に隠れて算段して在る。人間(ひと)の頭上(うえ)には虚空が延び得て宙(そら)まで拡がり、宙(そら)の波紋を突き抜けずに居て足場が浮んだ地球(かたち)に辿って生活(くらし)をするのは人間(ひと)に生れた定めの無に在り何ほどでも無い。感覚(いしき)に活き行く何に就いても人間(ひと)へ遣られる意味を欲しがり〝虚無〟の空気に巻かれて行くのは惨敗者として感覚(いしき)に富み得る信仰(よわさ)を手に取り、人間(ひと)の眼(まなこ)は宙(そら)へ向かって屈曲して在る。

 白紙に生れた幻想(まぼろし)など観て、三位(さんみ)の規律に煩悩(なやみ)を放(ほう)って無知を着飾り、三点だけしか人間(ひと)へ言わない神秘に手向ける言葉を知れば、〝三サイズ〟を詳細(こまか)に問うた白紙(てがみ)を携え当(とう)の人間(あるじ)は塒に固まり衰退して行く。躰の摂理を自然から見て柔らに解(と)き得て静かに眠れば、四季の霞に冷酷成るほど人間(ひと)へ立て得た流行(ながれ)の固さをすっと手に取り孤独を知るのは、人間(ひと)に覗いた鼓動に在るまま人間(ひと)を生せた粗大に息衝く自然には無い。経過(とき)の行方が明日(あす)へ向くのか過去へ向くのか曖昧なるのは人間(ひと)に生れた信仰(よわさ)が講じた術(すべ)の内にて、人間(ひと)を囲んだ景色の朗(ほが)らが人間(ひと)を安(やす)ます永久(とわ)に語って薹を知るのに役立つ故にて、人間(ひと)から離れた天地を睨(ね)めても発見され得ぬ四季が在るのは人間(ひと)の常識(かたち)の斬新には無い。〝プラス〟へ働く重力(ちから)を知り得て人間(ひと)は立場を提唱し直し、時間(とき)へ這入れる空間(すきま)を見付けて悶絶して居る人間(ひと)の懸命(いのち)に動じていながら、自分と他人(ひと)とが感覚(いしき)を透して相対(あいたい)している無限の広場を地上(ここ)だと据えて、常識(かたち)を見付ける空間(すきま)を敷いては進退して在る。

 人の記憶は何処(どこ)へ行けども向けども一向変らぬ試練を手にして眼(め)にして形成(なり)を呈(あらわ)し、夢想(ゆめ)へ付け込む神秘足る矢が一体何処(どこ)から飛び出て温(ぬく)もり得るのか自分の意にして見据えて在っても一向化(か)わらぬ耳鳴(おと)に紛れて薄ら仕上がり、俺の心身(からだ)へふらふら跳び付き意識の撓(しな)りに俺を観たまま懐いた知己など、唾棄に伴う生気の温(ぬく)みに放られ置かれて動静(うごき)を止(や)めて、宙へ浮かせた肢体の角(かど)には丸味が加わり呆(ぼう)っとして立ち、俺の感覚(いしき)も他人(ひと)の意識も終ぞ取られる掛かりの無いまま素行に見て取る従順(すなお)に落ち着く。流動(かたち)を見ていた〝変幻自在〟は呆(ぼう)っとして立ち宙(そら)へと返り、「明日」を知らない凡庸(ふつう)の常識(かたち)にほろほろ釣られて虚ろな眼(め)をした孤高の朝にはすんなり仕上がる空虚を手に取る綽(しなや)かさが在り、目立って揃った人間(ひと)の群れにはどれが〝群れ〟だか取り留め付かない余裕(あそび)の気温がぽっと浮き出て奇妙に仕上がり俺へと向いて、俺から離れる〝常識(かたち)〟は初めに未練に伴う〝記憶〟を観(み)せたがやがて経過(じかん)に途切れて活きつつ白体(はくたい)と成り、負け惜しみを追い狂った最中(さなか)に大声(こえ)を発して怒調(どちょう)に有り付き、俺の背中に嫌と言う程奇妙な文句を並べた後(あと)にて二度と咲かない唄声(こえ)を呈して長閑に在った。

 俺の心身(からだ)はほどほど流行(なが)れて夢想(ゆめ)へと居着き、現行(ここ)を離れて常識(かたち)を忘れて上昇し始め、陽光(ひかり)か人工照(あかり)か気取れぬ程度の幻想(まぼろし)を観てぐるぐる回った体験(きおく)の渦へと呑まれて行った。自分を呈(あらわ)す仕事をせずまま何にも目標(あて)さえ探さぬ儘にて日々を費やす女の牛歩に嫌気が差してはそうして生育(そだ)った退屈(ひま)への空想(おもい)をそれまでして居た他人(ひと)の仕事へ重ね合せて悟りを開き、虚無の内にてひたすら独歩(ある)いた〝階段〟等からすっと飛び立つ自身(おのれ)を観た後(のち)固室(こしつ)で行う孤独な作業に悶絶し始め、つい又夢中に小躍(おど)った労苦を手にして〝硝子〟を磨き、俺の心身(からだ)は現行(ニュース)を離れて堅く立ち得た。他人の仕上げた作品(にっき)等へは一目(ひとめ)もくれずに自分の気に入る〝参照〟だけ観て悪態吐(づ)いて、世間の出方と自分の出足の等間隔だけ頭上で輝き時に知り行く閃き程度に興味を保(も)ち得てほろほろ笑い、独人(ひとり)の人生(いのち)を自然へ寄るまま恰好付けずに独歩(ある)いて行った。新人類なる何処(どこ)かの孤島の子供なんかが得てして母の胎にて抱かれて居ながら両親(おや)が出過ぎる世間の汚(よご)れを笑える程度に踏襲して活き、俺の目前(まえ)には悪魔を晒して真っ直ぐ延び行き愚問を交し、母と子供に吸われる体(てい)して腕力(ちから)を誇示する猿の要(かなめ)(かなめは点付け)は〝父〟と称して自己(おのれ)に集(つど)った弱者だけ見て実力(ちから)を誇示する技能を宿して得意気に在り、蚊帳を外れた俺の感覚(いしき)は此処(ここ)まで透った〝自然の摂理〟を真っ向から観て如何(どう)する間も無く活きる活力(ちから)を宙(そら)から借りては独人(ひとり)を覚え、自分の生命(いのち)が預けられ得た人生(いのち)の木の実をすっと手に取り自活を覚えて煩悩(なやみ)を覚え、愛しい記憶も瞬間(とき)に預けて活性するのは俺を嫌った自然の表情(かお)したモルグの一味と遭遇している。白衣を纏った絵筆の先にて俺の生命(いのち)が絢爛豪華な温(ぬく)みを呈して人生(いのち)を象り、知己に憶えた無数の気球(きだま)を眺めて愛でては他人(ひと)の知り得ぬ〝未開〟へ行くから俺の目標(あて)などすうっと透って逃され始め、他人(ひと)が遺棄する未業(みぎょう)の司祭(あるじ)が久しく濡れない地上に在るゆえ俺の意識は仄(ぼ)んやりするほど覇気を忘れて高揚し始め、誰にも奪(と)れ得ぬ仕業(しぎょう)の程度を象り続けて変って生(ゆ)くのを目下流行(なが)れる世間に沈めて淡く立ち行く決意を固めて人間(ひと)から出たのは初春(はる)に芽生えた呼吸(いき)の内にて未だそこにて出逢った他者(もの)など一人も居ない。漱石(かれ)の感覚(いしき)が独白して在る〝文芸批評〟へ注意しながらこうした文学(がく)など人生(いのち)に対する仕業(しぎょう)に在るのか端々(ばたばた)しつつも冷静足る儘、俺の感覚(いしき)が野打(のたう)ちながらも自問して活き、ほとほと困った表情(かお)を呈して胡坐を掻きつつ提言するのは〝現行(ここ)からでは何が如何(どう)だか全く仕切れず未来(さき)の反転(こと)など終ぞ見採れぬ姿勢に落ち着く。何が何でも切羽詰まった人間(ひと)の現行(いま)には彼の呈する批評の成果が如何(どう)でも要るのに通り掛った未熟の表情(かお)めが何を言うやら甚だ分らず通り過ぎ行く意識が透って期待していた返応(こたえ)は付かぬ。現行(いま)に知れ得る確固の態(てい)など果して立場(ここ)から辿れるものか…〟、と試算を投げ打ち困った顔して寝転び生(ゆ)くのは俺を象る肉塊(からだ)の仕種で精神(こころ)に根付いた灯(あか)りの態(てい)には決して無い。自然に知って、俺の肢体(からだ)はそれまで憶えた労苦の通りに躰を源(もと)から反転させては誰に見知れぬ〝固定〟を巡って分業した儘〝彼〟の目前(まえ)には止まった司祭(あるじ)をきょとんと呈して如何(いか)なる事象(こと)へも臨時に対処出来得る姿勢を正して瞑想して在る。

 そうした機転に一つ輝(ひか)った諮問が脱(ぬ)け出て俺へと対峙し、透る世間へも一度返って巡業しようと焼噛み半分、気性を操(と)れ得ぬ自体の未熟を逸する内にて熱く成り活き孤高を認(したた)め、両眼を向けつつ見上げた末(さき)にはついと見慣れぬ人間(ひと)の渦中が仄(ぼ)んやり灯って遊泳(およぎ)をし始め、興じる雰囲気(ムード)は華やぐ人気(ひとけ)に蹴倒されるまま俺の心身(からだ)を丈夫に仕上げて見る見る間(あいだ)に環境(まわり)を配して明るく成った。

 〝俺の能力(ちから)は未(ま)だ伸び代を持つ〟と誰かに何かにそっと云われた俺には自然に吹き抜く涼風(かぜ)の主(あるじ)が旧い家屋をすうっと抜け出て仔細に呈(あら)われ、隠れた樞(ひみつ)を伝える態(てい)して俺の元へとゆらりと寄り付き、俺が座し得た土台の不安を甚だ正しく直してやろうと優等生から劣等生へと告げ口され行く気色を講じる柔い〝細目(ほそめ)〟が安易に表れ活性して行き、俺の瞳(め)には誰の姿勢(すがた)へ憚る事無く瞬間(とき)を惜しんですっと這入れた私塾の居間にて座ったようだ。而(こう)して俺を待ち受け得たのは俺の周囲(まわり)に集わされ得たどの学生にも又掛かる試練に類似して在りどの学生にも学生故にて受験され得る試験の体(てい)にも類似しており、俺の心身(からだ)は緊張感にて程好い臭気を会得した上周囲(まわり)に集(つど)った気色を眺めて端座をし始め、これから始まる試験に於いての自分の出来等、予測するのに楽して居ながら白い心地にうっとりしている。私塾(そこ)へ這入れと云われた瞬間(とき)から俺に芽生えた学舎の在り処が誰の所有(もの)かと思案に暮れたが、一向灯らぬ発覚(アイデア)等へは振り向く仕種を見せない内にて如何(どう)であっても自分の心身(からだ)が私塾(そこ)へ向くのは到底変らぬ定めと見て取り思考を取り止め、這入る迄には周囲(まわり)に集った誰も居らずに、俺の気儘は布団を撥ね退(の)け牛歩に在るまま自分の為にと添えられ成り得た私塾の内まで這入っていたのだ。宙(そら)で小鳥がちちと声上げ鳴いたかも知れない内には俺の意識は幾分疲れて呆(ぼう)っとしてあり鈍(どん)に在って、何かを気にする余裕(ゆとり)さえ無く自分に課された受験の事にて一杯だった。

 そうした私塾に生れ得たのは他人(ひと)が講じた障害(もの)へと有り付く学士に課された試験であったが、初めに知り得た試験の体(てい)には微妙に違ったニュアンスが飛び、私塾へ這入って暫くする内、俺の感覚(いしき)は周辺(あたり)を気にして真っ直ぐ独歩(ある)き、官(かん)が講じる規律(きまり)の正味に直ぐさま跳び付き理解してあり此処(ここ)に並んだ学徒の集積(むれ)とは自分に観(み)せ行く対象(もの)に有り付き決して自分と同様なるうち呼吸(いき)をして生(ゆ)く人間(ひと)の正味を有さぬ人間(もの)だと仔細に気取ってその果(さ)きを見て、集中して行く自分の吐息を私塾が灯した未来へ先取りゆったり振舞う官(かん)の居所(いどこ)を〝塒〟伝(づた)いに寄り道する儘、俺の感覚(いしき)はもんどりうつほど私塾の灯(あか)りに活気を報され苦労していた。私塾へ這って自分の立場に相対(そうたい)して在る〝自席(じせき)〟へ着くのに十分程度も要してあって、私塾(そこ)へ這入った〝俺の時刻〟は誰にも見取れぬ定刻間近であたふたしており試験開始に切迫していた学徒の群れには並々成り得ぬ人間(ひと)の想起が顕著に上がって上気しており、鼠の尻尾に樞(ひみつ)を知りつつ上気に逆上せて縋り付く程跳び付く俺には、私塾(そこ)で成された人間(ひと)への〝騙し〟が煌々輝(ひか)って紅く灯って、結構手間取る〝自席〟探しに俺の精神(こころ)は問答するまま得心して居る。

 そうして私塾で学徒へ対して為された試験(テスト)は学徒で在るなら誰にとっても大事な試験で鎮座して居り、まるで呼吸(いき)する〝試験〟の表情(かお)には何時(いつ)か見知った俺への〝定め〟が大手を振り抜き真綿を買い取り、俺の為にと〝仕留める道具〟を一切浚って上々在るのが人間(ひと)の集(つど)った景色の内にて堂々有り付き不動にあって、俺から出て行く実力(ちから)の程度が私塾(ここ)で如何(どう)して何処(どこ)まで評価されるか、そうした愚問が翼を拡げて悶々湧き立ちプールに詰った人群(むれ)の脚色(いろ)には何にも似ない徒労の具(つぶさ)が準じて阿り自体へ注いだ〝苦労〟の美味など宙(そら)へ覗いて悠々現れ、途轍もない程長い経過に私塾(そこ)へ集った皆の姿勢(すがた)は変形したまま滑走してある。見得ない何かへ惑溺するほど俺や周囲(まわり)は自然の経過(ながれ)に大きく構えた試験の圧力(ちから)に緩々身構え欠伸をして居り、経過を通して景色に映った〝自分〟の姿勢(すがた)を好く好く報され学舎の内にて〝自分〟が無いのを後(あと)から気付いて気忙しくなり、そう成る〝定め〟を俺だけ仕留めて皆から離れて静かに在るのか、俺の徒労(ちから)は愈々煌めき明日(あす)へ向かって感覚(いしき)の程度が緩み行くのをほとほと感じて嬉しくなりつつ、小さな〝私塾〟はそうした事変を愈々踏まえ、皆の目前(まえ)には輝かしい程大きなホテルに成り得て皆の能力(ちから)を区別しながら存在している。俺の心身(からだ)はのべつ隈なく自分がするべき仕業(しぎょう)を探して周囲(まわり)へ集(つど)った皆の肢体(からだ)を押し退(の)け、初春(はる)の芽生えを感じる程度に鈍(どん)と成り得た自分の感覚(いしき)を四肢(てあし)へ拡げて闊歩(ある)いてあったが、急いだ所で如何(どう)なる間も無く、皆の意識は空虚に途切れて〝ホテル〟を観ており俺の事など遠い当てへと都度都度押し遣り各自が各自の熱気と呆気(ほうけ)に操(と)られた気分を手に取り自分へ課された分業(ノルマ)の在り処へ歩いて行って、まるで初秋に巧く活きた蜻蛉(とんぼ)の態(てい)して零れた労苦をも一度眺めてやるなど、息巻き息巻き、遠方(あたり)に散らばる霞を喰いつつ活き永らえ得た。俺の眼(まなこ)はそうした彼等の背後(あと)へと続き、俄仕込みに憶えた知識(かて)など学士へ課された実力(ちから)と見立てて奮迅するまま気弱を隠した〝気取り〟を呈して、皆が集まるロビーの方へと都度都度向かう。まるで空気がぽんと遠鳴り、圧力(ちから)を隠した仮面に観採れて不気味であった。

 〝学士〟の各自に近く付された個室が現れ、〝ホテル〟を気取って豪華な空間(すきま)を静々魅せ活き〝試験〟に出向いた生徒各自を翻弄しながらホテルは建ったが、受験の手順は各自に揃った個室(へや)から呼び寄せ、大きな人工照(あかり)を掲げた広間へ来させて制限時間を設けた上にて一斉開始を課する様子でそうした予定の他の間(あいだ)は生徒各自に過し方など揚々任せていい気に落ち着き、しゃんしゃん照り付く陽光(あかり)など浴び当のホテル(あるじ)は薄く構えてにんまりして在る。学士の各自に余裕(ゆとり)を与えたホテル(あるじ)にあるがそれでも透った経過(ながれ)の内には何処(どこ)か酔えない規律が目立って厳めしくも在り、荘厳成り立つ純白(しろ)い帯などきちっと締め得たホテル(あるじ)の両肩(かた)には変に居座る〝一寸法師〟が遠くを眺めて呆(ぼう)っとしている。体の大小(サイズ)を自由自在に操(と)れるのを観て俺の感覚(いしき)は〝鈍(どん)〟に有り付く不器用ながらに出来る努力(ちから)を全部費やし、自分に生れた新たな試算をなるべく〝ホテル(あるじ)〟に気取られないよう声を張り上げ上気を発して、気丈に振舞う自分の姿勢(すがた)に「明日(あす)」を操(と)れ得る財力(ちから)を具えて活きる事への懐古を知った。厚い覇気など受験へ向けつつ勉強して行く学士の背中へずんぐり観たまま俺の感覚(いしき)はふらふら独歩(ある)いて個室から出て、赤い廊下をずんずん渡って広間へ落ち着き、これから始まる嵐の小声に耳を傾け直立していて、して居る内にて、自分の周囲(まわり)に誰も無いのが少々淋しく虚しくも在り直ぐさま振り抜く両手の動きは空(くう)を切りつつ明るい大窓(まど)へとずんと向かって優しい〝女神〟に微笑み掛け得た。自分の心身(からだ)が如何(どう)して学舎を離れてホテル(ここ)まで来たのか、辿れた経過を自然の寡黙に注視したまま全く分らず唯々自分や周囲(まわり)に鎮められ得た〝規則〟を手に取りふむふむ頷き、分らぬ間(あいだ)に〝生粋(もと)〟へ辿れた本能(あるじ)の姿勢(すがた)がホテル(あるじ)へ変って衰退して活(ゆ)く自分の体裁(すがた)を見透かせないよう経過を透して俺を操る隠微な仕草が酷く目立ってげんなりして在り、操りながらに暗(あん)に成し得た小業(こわざ)が孕んで膨張して活き〝空気〟を従え新たに沸き得た環境(まわり)を講じて黙ってあるのを俺の感覚(いしき)は終ぞ逃さず自然に睨(ね)め付け、畳まれ失せ得た神秘(ひみつ)の〝定め〟を遠(とお)に還ったホテル(あるじ)の意識と区別したまま俺の麓で滔々流行(なが)れる本能(あるじ)の延命(いのち)を上手に手に取り笑って在った。それから暫く俺の心身(からだ)は呑気に居座る自分の情緒を大事にしたままうろうろして居り、個室(へや)へ入(い)ったり広間へ入(い)ったり、廊下を独歩(ある)いて出会う他人(ひと)には軽く笑顔で挨拶したりと、別の懊悩(なやみ)を手に取る間も無く遊覧しながら楽しんで居て、周辺(あたり)を見回す業(ぎょう)のついでに自分が独歩(ある)いた廊下から見てすっと延び行く階段(だん)に目を遣りほっと赤らみ、落ち着き払った瞳(ひとみ)の奥には赤く灯った真綿が拡がりそれが揺ら揺ら揺れ行く脚色(いろ)を講じて俺へ寝そべり、

「ああ、廊下の表面(おもて)が赤かったのはあの所為か、二階、三階、に連なるあの階段(だん)にも、お誂え向きに奇麗な赤い絨毯が敷かれてあるわ、成る程、二階三階にも、学生各自に割り当てられた部屋があるんだなぁ。」

など独りぽつぽつ呟きながらに愉快に在って、ホテルが受け取る陽光(ひかり)の在り処を自分も探して取って見ようと、愉快に乗じて両足(あし)が鳴るのを感じ得て居た。それから細々地道に被(かづ)いた気色に溺れて陶酔して行く本能(あるじ)の趣味にも一向不変の感覚(いしき)が芽生えて強靭(つよ)く成り立ち、誰に聞えて気取られ得てさえ全く怯まぬ脚力(ちから)を保(も)ち得た俺の両肩(かた)には変に居座る〝棚ぼた様〟が寛(ひろ)い表情(かお)して大きく居座り、長い赤絨毯(ろうか)をてくてく独歩(ある)いた俺の季節を〝初春(はる)〟と〝初秋(あき)〟に夫々分け得て二季(にき)を取り添え、俺へ対して一向変らぬ暖風(かぜ)を贈って褒美としていた。緩々流行(なが)れる涼風(かぜ)の音から一つ外れた微音(おと)など現れ俺の遠方(あたり)を柔(やん)わり囲んで上手に微笑(わら)い、遠い過去からじんわり忍んで俺へと着いた他人(ひと)の温味(ぬくみ)が火照った頃から学士が保(も)ち得る熱気の厚みが希薄に目立って堅く成り立ち、俺の耳には遠く聞えた彼等の声など輝く程度に懐かしく在り、無音に響いた大喝(こえ)の棘にて心中(こころ)を刺されて傾いたのは、無人の広間に染々(しみじみ)隠した俺への孤独が他人(ひと)を欲しがり鳴いた頃合い(あたり)と微妙に重なり安定して行き、俺の心中(こころ)は学舎に集(つど)った人間(ひと)を欲しがり淋しく成りつつ自分が辿った赤絨毯(ろうか)を疾走(はし)って皆の場所へと還る予感に重々静(しず)んで大童(わらわ)に立った。

 静々…、狡々(ずるずる)…、くちゃくちゃ…、ぺちゃくちゃ…、矢鱈に騒いだ人間(ひと)の目玉がぎょろぎょろ騒いで俺がうろつく周辺(あたり)を過ぎ去り、何を見るのか定かでない内、呆(ぼう)っと範囲(クラス)の内にてことこと始まる行事へ向かって行進し始め緩く流行(なが)れた人の風味(におい)は軒並み優れてきらきらしており、人群(むれ)から外れた俺の眼(め)だけがきゅうっと閉って〝許容〟を見渡し、淋しく成り得た思惑(こころ)を温(あたた)め、俄かに騒いだ人群(むれ)の目を見て和らぎ始める。俺の麓(そば)へと懐いた〝許容(クラス)〟は人間(ひと)が奏でる行進曲(マーチ)を憐み貴く息衝く人の生命(いのち)を取り添え撓(しな)んであったが、黄色く輝く人間(ひと)の体裁(かたち)が人工照(ライト)に反射しきらきら、ぎらぎら、眩しい位に仰け反り返った賢明加減を矢庭に手に取り仔細に見詰めて、俺に対する気楼へ認(したた)め柔らに落ち着け、落ち着けられ得た広間の隅には、自分を離れた凡庸(ふつう)の火花がねちこく廻って空転しており、これまで独歩(ある)いた過去との絆を一層大事に手に取る〝俺〟が現れ、煌々照り付け人間(ひと)の落ち度を素早く消し去る無言の人工照(あかり)は勝手気儘に自生に映え行く人間(ひと)の教理(ドグマ)へ素早く落ち着き人間(ひと)や許容(クラス)を充分率いる活力(ちから)を手にして身構えて在る。人間(ひと)の内には、真面目、生真面目、好色、男色、女姦(レズ)、阿婆擦れ、学者、インポテンツ、性犯罪者、個人、屠畜人、村民、市民、都民、賢人、悪人、不良、医者(ドクター)、患者、善人、小人、大人、成人、犬・猫、藪の内(なか)に固室(こしつ)を保(も)つ人、哀れな人、貧しい人、後悔した人、世間を独歩(ある)いて矢庭に騒いだ人間(ひと)の波間を快活・自適に航海した人、白紙を持つ人、黙って在る人、騒ぎに在る者、世間の寡黙に追々縋って泣き続けた人、神を愛して人への情(こころ)を忘れていた人、孤独と対峙し続け人間(ひと)の許容(げんど)をすうっと越え生き自分の在り処を見忘れた人、言葉の無い人、母を慕って父への情(こころ)忘れた息子、正義を欲しがり悪義(あくぎ)の暗(やみ)へと涼しく恋して生粋(もと)の生地に躓いた人、強欲な人、怠惰に有り付き自分が活き行く延命(みち)の定めにずっと黙って床(とこ)の内から出られない人、聾唖の者、石で打たれて何等の罪にて裁かれた人、光の内(なか)にて暗(やみ)を欲しがり生来愛した自然の灯(あかり)に従えない者、従者の無い者、言葉に活き得て言葉に死ぬ者、具象(かたち)を欲しがり穴の暗(やみ)にて虚構を付け得た人間(ひと)を信じる生きている者、孤独に従い熱気に火照った広間に居座りずんぐり肥った両腕(かいな)を翳して電話を待つ者、電話を待ったが一体如何(どう)いう相手が硝子の向うで相対(あいたい)するのか一向分らず衰退する者、…、色々だった。そんな〝脚色顕微(きゃくしょくけんび)〟な群象(むれ)の内(うち)にて、一人そわそわ真綿に独歩(ある)いて陽光(あかり)の照らさぬ陰へ入(い)っても堂々して在る延命(いのち)を見付け、まるで俺との間柄(あいだ)を取り持つ体(てい)にて賢く迫った表情(かお)を見せ得る旧友(とも)を象(と)り得た人の姿勢(すがた)が厳しく輝(ひか)って透って在って、俺の思惑(こころ)は見る見る転がり傾き旧友(そいつ)の手に取る全てのものには脚色して行く強靭(つよ)い無体が大きく居座り俺の背を押し、旧友(そいつ)が始める未然(さき)の言動(うご)きに俺の心中(こころ)は軽く騒いで遠回りをした。

 奇妙な〝無体〟が白い表情(かお)して白い肌して遠くへ見詰めた理想郷など師恩(しおん)を認(したた)め向かって行くのか、俺の眼(め)からはどれもこれもが丸(まる)でそっくり足る儘、硝子(かがみ)に映った彼等の〝無体〟は小躍(おど)ってにんまり冷たく微笑(わら)って辿る帰途へは一網打尽の神秘(ひみつ)の罠などしっかり敷かれて哀れでもあり、今日から始まる〝虚空〟の晴嵐(あらし)に如何(どう)して斯うして沿おうと在るのか一向分らぬ俺の背後(あと)には真綿に包(くる)まる弱身(よわみ)が解(と)かれて生育(そだ)って在った。人群(むれ)の内にて先ほど見知った朗らな旧友(そいつ)が一向慌てず俺の前方(まえ)にて箸を持ち寄り鍋でも喰い行く景色の内にて達観するのは何に対した定かでないまま俺へ向け得る情(じょう)の具現(かたち)とぽんと忘れて情(こころ)の嘆きが、向返(かえ)らぬ無音に解(と)け入る気丈の故にて、俺の目前(まえ)には大きく拡がる黄色い広間が何にも況して巨体と成り着き、内にて闊歩に気高く成り得た旧友(とも)の姿勢(すがた)は次第に痩せ行き俺へ対する微温(ぬくみ)を添え得て、何処(どこ)へも消えない〝無体〟の姿勢(すがた)を確立したまま衰退して行く。ひょっこりひょっこり両肩(かた)を震わせ調子を失くした狂いの指輪(ルビー)が葉月に構えてにんまり微笑(ほほえ)み、人間(ひと)から離れた常識(かたち)に根付けた自分の活力(ちから)へそっと独歩(ある)いて滔々流行(なが)れ、「明日(あす)」へ向くまま気の向く儘と、母性(はは)を忘れて頼り無く在る。俺に表れ瞳を輝(ひか)らせ奇麗に歌った旧友(そいつ)の名前は何時(いつ)か夢想(ここ)にて軽く遊べた総司(そうじ)の姿勢(すがた)に素似(そっくり)だった。素似(そっくり)だったが彼が誰だか今いちはっきりせぬまま悠々躊躇(たじろ)ぐ打身(うちみ)の容姿(すがた)は黄色く並んだ生肌(きはだ)と似ていて人間(ひと)へ具わる生命(いのち)の輝(ひか)りと素似(そっくり)そのまま延命(いのち)が灯した動作の一つは俺にとってもはっきりして在り、明確伝いに悪い噂が空(くう)より漏れ出し気性を化(か)え行く大蛇(おろち)の様子は二人(われら)を離れて遠くで寝そべり、例えば矢庭にボードレールの拙い嗣業が膨れた〝定め〟を手に操(と)り仄(ぼ)んやりし始め、未来(さき)へ居座る未業(みぎょう)の糧など二人(ふたり)にとっては堅く在るのか如何(どう)で在るのか、全く分らぬ程度に人間(ひと)に芽生えた最後の明かりを血色化(か)え活き見定め得たのは親友(とも)を知らない俺の心中(こころ)に薄ら芽生えた希望(あかり)の在り処が急に隠され失(き)えた頃合(あたり)と同時程度で旧友(とも)の言動(うごき)はしっかりして居た。明るく成り得た広間の隅には俺と同じく傍観するのは一人として居ず、総司は総司でしっかり握った〝食器〟の類(たぐい)は肌身離さず巡回して行く広間の要所へ上手に携え談笑して在り、俺の在り処をきわめて捜さぬ白痴の虚無には永く講じた詩吟の寝床が薄ら彩(と)られて逆さに成って、広間(そこ)では何か、学士の皆へ揚々振舞う食事の準備が司祭(あるじ)を始めに環境(まわり)を調えホテルの活気を総揚げしたまま尽力して行く工夫の成果が偲ばれていた。

 陽光(あかり)の差し込む傾斜の角度と大窓(まど)に沈んだ紺の脚色(いろ)とで現在時刻が黄昏間際と自然に知れ得る。沢山集(つど)った広間の内にて混種混合、色んな人種が総出で闊歩(ある)いて果(さ)きを求めて、俺の目前(まえ)にも大きく構えた炊飯器等、バイキングに似た立食式にも薄ら採れ得る豪華な居所(いどこ)が根強く根付いて黄金色(きいろ)に輝き、わいわいがやがや宣う詩人は〝学士〟を脱ぎ捨て裸と成り得て二人(われら)の前方(まえ)を悠然毅然に執拗(しつこ)く独歩(ある)いて自分の具象(かたち)に気付いてもいる。大窓(まど)が紺にて次第に暮れ行く冷たい外界(そと)へは人工照(あかり)が漏れ出し暗(やみ)に寝そべり、広間に募った黄色人種を端から端まで鋭く伸ばして結託さえ無い無数の腸(うるか)を巧みに料理したまま俺に映した気色の加減は所変らず浅黒くもあり赤くもあって、こうした〝集い〟が広間の内にて如何(どう)して終って何時(いつ)まで過ぎれば美味しい献立(メニュー)へ有り付けるのかなど、色々語った俺の口元(くち)には季節を忘れた肴の正味が挙って集まり微妙に気狂い、「明日(あす)」へ咲けない夢想(ゆめ)の妬みに小さく宿った蝙蝠(けもの)の姿を揚々縛って真綿へ葬り俺の背後(あと)には誰も咲かない気弱な蜻蛉(むし)など二葉(りょうて)を拡げて揺ら揺ら飛び立つ揺蕩い景観(けしき)が遊泳(およ)いで在った。

 流行(ながれ)に流行(なが)れた気色を睨(ね)め付け激しく遊泳(あそ)んだ旧友(とも)の姿勢(すがた)が急に落ち着き俺へと向かい、透った動作に自分の趣味など賢く混ぜては白い景色へ邁進して行く果敢を示してまったり独歩(ある)き俺の目前(まえ)では他人を晒してか細く居たので、俺の方でもそれほど知己へ対する想いも湧かずにずんぐり居座り落胆して行く無念の内にて対する術(すべ)など一向咲かずに唯存在して在る旧友(とも)の行程(あと)など付いていたのだ。旧友(とも)の姿勢(すがた)は点(つ)いたり消えたり大窓(まど)から差し込む暗(あん)に塗れて体の脚色(いろ)など隠して居ながらそれでも独歩(ある)いた軌跡の背後(あと)には俺へ差し出す他人(ひと)の言動(うごき)がはっきり見て取れ丈夫に落ち着き、月と人工照(ひかり)へ端正(きれい)に並(な)べ生(ゆ)く自分の気色を上手に彩(と)っては人群(むれ)に紛れた徒労の在り処を思惑(こころ)へ示唆して下等に合わず、随分萎んだ空想(おもい)の丈など当人(ひと)へ中(あ)てずにしっくり遊泳(およ)いだ軌跡(あと)を示して試算に暮れ得る。未熟な仔細が微細へ暮れ活き、俺の前方(まえ)には珍味と並んだ晩餐など出て〝今日の食事〟と夕食(ディナー)を始めたホテル(あるじ)の提言(ことば)が矢庭に乗り出し、俺の心身(からだ)を巧く掴んだ〝文句(ことば)〟の限りは何にも見得ない目標(あて)を示して孤踏(ことう)に弄(あそ)び、余裕(ゆとり)の無いまま俺の危惧には旧友(とも)を誘(さそ)った弱身(よわみ)が現れ自分の居場所も定かでないうち猛々(もうもう)盛(さか)った熱気の渦へと進んで行った。人の〝熱気〟に囲まれ得たのは広間に並んだ食器の数だけゆっくり跳ね起き未熟な表情(かお)した俺の文句(ことば)を如何(どう)でも放って暗い外界(そと)へと押し退(の)けて活き、紺に灯った大窓(まど)の窓(うち)には何時(いつ)も見知らぬ気楼が灯って白日夢を知り俺の両眼(まなこ)は自然に溶け出て人間(ひと)をも睨(ね)め付け、悪態吐(づ)き行く二人の境地は何に増しても白痴を知り行き自体が孤踏(おど)った変幻自在は広間(ぶたい)の麓(した)では生気を灯せず、「明日(あす)」へ出向いた俺の意気地は旧友(とも)の目前(まえ)にてすっかり折れ得た。人工照(あかり)が差すうち人間(ひと)の熱気と程好く解(と)け出し体温(おんど)を引き上げ雰囲気(くうき)を温(あたた)め、微温(ぬる)く成り出す人間(ひと)の渦中(うず)には硝子に透った端整(きれい)な美味などやんわり灯って俺へと対し、か細く成る眼(め)を頻りに開(ひら)いて外野を覗けば旧友(とも)の姿勢(すがた)が食事を目掛けて闊歩するのが矢張り未然に巧く見て取れ、暗(やみ)の内にも〝日々の自活〟を細く夢見た気楼の様子がくっきり浮んで大きく鳴き出し、白地を埋め得た未熟は今でも俺の白紙(こころ)にめっきり灯って危うく在るのをその頃すっかり冷えた〝両眼(まなこ)〟は感覚(いしき)を透して確認して居た。総司の背後(あと)にはこれ又何処(どこ)かで軽く知り得た他人(ひと)の姿勢(すがた)が緩々見て取れ、そうした姿勢(すがた)は茶碗を持つ者コップを持つ者、闊歩(ある)く調子を保存する者、旧友(とも)と同じく食事の美味へと与る者など、各自の芽吹きに環境(あたり)が取り成し調子を纏った一介人がわんさか戯れ、〝熱気〟の大鋸屑(くず)など上手く舐め取る陽気な紳士が狡く延ばされ俺の色盲(いろめ)に相対しており、年季の灯った夢遊の〝紳士〟は〝俺〟にも打ち勝つ根強い固さを手に取り意に取り両脚(あし)にさえ採り、事々燃え出す人工照(あかり)の下(もと)にて当面華咲く緑の丘など上手に講じて暗唱して居り、そうして割れた暗唱聖句は俺の胸元(もと)へとすんなり這入って和らぎ始めて人間(ひと)と俺との過酷な〝調子〟が〝対峙〟を灯してめっきり在った。新たに灯った夕食(しょくじ)の具合は以前(まえ)と化(か)わらず余所で成り得た立食式にて、欲しい食品(しな)など自分で揃えて優雅に愉しむ〝自身の奉仕〟に明け暮れて居り、暗に漂う食品(しな)の美臭(びしゅう)に連々(つらつら)釣られて独歩(ある)いた俺には銀に輝(ひか)ったホテルパンなど自在に言動(うご)いて正体(かたち)を観(み)せずに暗(あん)に咲き得た人間(ひと)の〝うるか〟は赤く輝き俺の独歩を引き留めている。

 立食式にてやんわり灯った緊張(はり)の内には何時(いつ)か溜った神秘(ひみつ)の愚問が並べられ活きそれを手にした一介(ひと)の親身は具体(かたち)を付け得ぬ無頼に抜け出て頑なと成り、誰に集った姿勢(すがた)か知らぬが少々余裕(ゆとり)に暇を余した俺の眼(め)からは人間(ひと)の渦中へ尊(とうと)く溺れた自頼(じらい)が活き得て総身を挙げて、野平(のっぺ)り叩いた無用の人間(あるじ)は自身の置かれた立場を忘れて呑(のん)びりして活き、水面(みなも)に解(と)け入る白雲(くも)の体(てい)して〝飛翔〟に代わった新たな活力(ちから)を入手していた。そうする最中(さなか)に一つ煌めき俺の頭上(うえ)へと真向きに輝く希望(ひかり)の在り処がすっきり灯って上手に羽ばたき、試算に暮れ行く無力な人間(あわれ)が〝堂々巡り〟の〝活歩(かつほ)〟に解け入り〝未然〟に羽ばたく姿勢(ようす)を咲かせて散漫とも成り、人群(むれ)へ落した〝希望(あかり)〟の結晶(かたち)が次第に解(ほぐ)れて柔らに散るのを俺の両手はしっかり守って方々散り行く自由の活路を上手く騙して呆(ぼう)っと突っ立ち、挙句の果てには群象(むれ)から生れた弱い規律(ルール)を矢庭に騒いで無惑(むわく)に仕立て、これまで観て来た〝学校〟風情や〝学徒〟の風情に充満して在る淡(よわ)い規律(ルール)を幾つも幾つも畳んで重ねて山積みとして俺の心身(からだ)はそうした〝坩堝〟へ埋没してある褥の白痴へ渡ってあった。広間に飾った人工照(ライト)の成立(すがた)が大きく膨れて充実して活き、未熟(こども)だてらにちかちか遊泳(さわ)いだ成人(おとな)の闊歩(すがた)は悶々微睡む景色に見取れて浮付き始め、夢想(ゆめ)の司祭(あるじ)が堅く紡いで蹴倒し始める淡(よわ)い印象(きおく)に小躍りして活き、独創(こごと)に泥(どろ)んだ私欲の風味にまったり撓(しな)った下顎(あご)の端(さき)には到底捥げない蛍光(ひかり)に彩(と)られた詩人が寝転ぶ。〝次へ、次へ、〟と次第に操(と)られた〝広間〟の内には思記(しき)に喰われた回想(レトロ)が飛び出し無量(オルガ)が現れ、才色兼備に大きく彩(と)られた人間(ひと)の鼓動(うごき)が小さく現れ無動に成り着き、無数に拡がる宙(そら)の眠りは〝広間〟の床下(した)までその根を着かせて小躍(おど)る気分は人間(ひと)へと漂い白亜へ拡がる陽気の〝白痴〟はしっとり構えた天女の如くに端整(きれい)であった。

      *

「シャンデリアが金色に、いや黄金色に、よく輝いており、遠くの、真正面に見える対岸の階段を照らした(階段の上に取り付けられた)シャンデリアも又奇麗だった。それだけその場所は大きいのである。」

      *

 こうした小言は何度も何度も俺の口元(くち)からすんなり漏れ得て、近くに、背後に、誰の気配を感じないでも真向きに立ち得(う)る人工照(ひかり)の豪華は遠く撓(しな)って俺の心地に闊歩しながら戯れており、「明日(あす)」に咲き得る未熟の境地を〝虚無〟へ棄(な)げ得る汽笛(あいず)が成っても無くても一層攫った無欲の感覚(いしき)は俺へと集まり無関(むかん)を呈し、人間(ひと)へ集まる活気の程度をどれほど識(し)ろうが淡く成り立つ〝白雲(くも)〟の上では掴めない儘、人間(ひと)と俺との淡(よわ)い孤踏(ダンス)は永遠化(か)わらず人工照(あかり)の下(もと)にて遊泳(さわ)いで在った。

 しくしく経過(じかん)の姿勢(すがた)が俺から遠退き冷めた表情(かお)して広間を観る頃、俺の角力(ちから)は一人で騒いで滑稽味を増し、飛んだ所に両脚向かせて〝褥〟に包(くる)んだ自分仕様の期待を観る頃〝うむ、うむ、〟頷く夢想(ゆめ)の在り処は所構わず滑走して活きくるりと背を向け広間(そこ)へ集まる人間(ひと)を観た時自分に課された〝定め〟など見て年齢を知り、皆と俺とで実に違った歳の落差に酷く驚く滑稽等には、終ぞ束の間、嘲笑(わら)いの絶えない体温(ぬくみ)が生れて落胆している。初めに知り得た仕業(しぎょう)へ対する覚悟の程度は然(しっか)と刻んだ文句であるのに寝間を忘れて彷徨しており俺の心気(しんき)に矢も葉も立てずに一心不乱に神々しい儘、人間(ひと)と矛盾が隠した〝基準〟へ撃(げき)を飛ばして悶々微睡み年齢(とし)を忘れた小鳥(とり)の如くに宙へ羽ばたき全く在った。微妙に緩んだ〝毒牙の局(つぼね)〟は人間(ひと)から吹き遣る微温に紛れて小さく窄めた素顔を隠して動揺して在り、根強く努めた〝背後(あと)追い人〟も俺を離れて滔々失せ行く気色を講じて仔細に嘲笑(わら)い、俺の目前(まえ)から微温さえ奪(と)り胸焼けするほど火照り始めた焦燥(あせり)の帳が俺の身内へほっそり佇み揺ら揺ら揺れて、黙々茂った人間(ひと)の渦中(うず)へと投身して行く〝頼みの綱〟には何も透らぬ浮世が根光(ひか)って〝葦〟をも挫く。〝頼みの綱〟には現行(いま)に始まる美麗(きれい)な九尾(しっぽ)が〝安堵〟目掛けて遁走して生(ゆ)く立派な気色が人間(ひと)の歩調に懐き始める〝謳い文句〟が微かに流行(なが)れて行燈(あかり)を灯し、一向還らぬ陽気な音頭が今度は俺に阿り逆行(さかさ)に照(ひか)った苦労の末など堅く閉ざして見得なく仕上げて俺の動作は遜色無いまま人間(ひと)の渦中(うず)にて有無を言われず振舞い終えるが、如何(どう)して如何(どう)して美麗(きれい)な文句(ことば)は「明日(あす)」を知らずに身近へ落ち着き俺の〝覚悟〟を広間(ここ)へ目掛けて落して行くのを宙(そら)に根付いた真面目な矜持は〝美麗(ひかり)〟に中(あ)てられ気を失った。固く途切れた俺と人間(ひと)との絆の程度は広間(ぶたい)の内から放り出されて人工照(ライト)の延び得ぬ物陰(かげ)の内にて互いに打(ぶ)つかり屈触(くっしょく)して在り、唐変木から小間使いに迄、植物程度の呼吸(いき)の淡(よわ)さに途切れ途切れに寸断され生(ゆ)く無性(むしょう)の気勢が堂々巡りに皆を旅して俺の元へは一向咲かない〝モンクの宴〟が逆手に延び得て柔らに有り付き、元を奪(と)れない至難の程度を人間(ひと)と俺との年齢差に観て悪態吐(づ)き活き、俺の立場は益々孤独に、忘れた孤独に根強く独歩(ある)いて泥濘(ぬかる)む人間(ひと)の熱泥(どろ)には我欲(よく)に満ち得た自然(ひみつ)の息吹が改竄され得た。〝狂った果実〟を順手に仰いで泥濘(ぬかる)む気分に青(にが)さを交えて俺の徒労はそれでも〝人間(ひと)〟へと辿って在って、辿り行くのに要した気分は千差万別、性差万別、自然が講じる寝惚けた天秤(ふるい)に程好く掛けられ計られ得た芽は気分を害して再び眠り、人間(ひと)の目前(まえ)にて名言して行く俺の司祭(あるじ)は事々怯えた〝無駄〟の白衣(ころも)を端整(きれい)に着た後(のち)、独歩(ある)き始めた微熟(びじゅく)の廊下を老化に喩えてふっと消え得た。固陋に座った白人同種(はくじんどうしゅ)は〝意味〟を違(たが)えて仲を拗らせそっと和らぐ固い〝握手〟に人間(ひと)を呼び寄せ気楽に座り、再び座った〝杜〟の司祭(あるじ)は性差を問われず年齢(とし)を問われず、絶えず俺の様子をぐいと掴んで真横へ置いて自然が象る人間(ひと)の流行(ながれ)に規律(ルール)を灯して無性(むしょう)に成り立つ。清(すが)しい表情(かお)した俺の躰が何かの用事にそっと上がった二階から下(お)り、広間へ懐いた人間(しぜん)を見詰めて独歩(ある)いて行くころ蟋蟀(むし)の態(てい)して泣き得た女性(おんな)が見る見る姿勢(すがた)を解体(ばら)して崩して自分の体温(ぬくみ)を真横へ拡げて値踏みをしており、俺が見付けた無数の女性(おんな)は鼻歌(うた)を講じて作話に耽り、俺の前方(まえ)では絶えず咲かない〝甘い誘惑(みつ)〟など巧く散らして自分の無類を確立して居た。広間(そこ)に落ち得た女性(おんな)の容姿(すがた)は端整(きれい)に纏まる横顔(かお)を晒して真っ向から成り、実(み)の無い〝果実〟は一つとして無く、俺の向きへと具に現れ美麗(すがた)を魅せ得て、自分の容姿(ようし)を確立して在る。ぶすっと身構(かま)えた俺へ対して何も語らず沈黙して在り、後光に兆した粘稠痰などぶわぶわ浮かされ何気に拾った同期の男性(おとこ)へふわっと飛び立ち毒霧(どくぎり)を吐き、女性(おんな)が用いた気色の程度(ほど)しか他は見得ない男性(おとこ)の具合は天井(そら)から降り得て冬眠して活き、そうした男性(おとこ)は人群(むれ)に活き行き俺から離れて女性(おんな)の色香(いろか)に程好く遣られて膠着している。唯、広間(そこ)へ集(つど)った女性(おんな)の内実(なかみ)は白も黒も一斉変らず程好く芳(にお)った仄かな香(かのり)は苦(にが)さを灯して遊女(おんな)のようで、皆揃って俺の年齢(とし)より十(とお)ほど若い駿馬に見合って落ち着いて在る。表情(かお)を見上げた俺の前方(まえ)では上手く揃った同年代など矢庭に現れ居たかも知れぬが、そんな具合にぽつんと騙され、隠し通せぬ動転半ばに気が気で無いほど俺の〝盛(さか)り〟は微熱を下火に燃えていたので、何に替え得ぬ〝腑抜けた笑い〟は俺の目前(まえ)だけ轟轟照らして周りを気取れぬ色盲加減を俺の夢想(ゆめ)へと贈って来ていた。ふらふら独歩(ある)いた俺への景色は通り縋りの淡(よわ)い体(てい)して将来(さき)を見越せぬ〝無頼〟を手に取り俺の夢想(ゆめ)へと脚色付けたが、俺の心身(からだ)はそろそろ独歩(ある)いて別の境地へ向いて居たので淡(よわ)い下火に到底燃え得ぬ蓑を着て採り、固い囲いに物を言わせて黙って在った。黙ったついでに冷静さを据え黄金色(きいろ)く輝(ひか)った〝天井(そら)〟を見上げて席へと着いて、何時(いつ)か用意され得た小さな席には誰のか判らぬ気色が生じて漂っており、〝気色〟に紛れて他人(ひと)の微温(ぬくみ)が少々騒いで俺へと降り立ち俺を囲んだ環境(まわり)の毛色を薄黄色としてか細く成り立ち、何時(いつ)しか揃った試験の時間が学徒を前方(まえ)にし屹立と立ち、担当教授が悠々懐いた教卓(たく)の上では見知らぬ強制(つよさ)と見知った淡さが表情(かお)の無いまま対決しておりびんと灯った芯の強靭(つよ)さは俺の目前(まえ)にて朗らであった。

 何時(いつ)しか広間は用意していた〝食事〟を終えさせ知らず内にて俺から隠れた次の波瀾を根深に用意し孕んであって、何の試験か分らぬ儘にて自席(じせき)へ腰掛け受験している学徒の独気(オーラ)を換算しており成仏して居る。意識を失くした刹那の内にてこれだけ揃えた毛並みを見て取り俺の両眼(まなこ)は感覚(いしき)を通して感嘆していて、それまで騒いで未熟が輝(ひか)った広間(ばしょ)であったが、好く好く見遣れば正味を隠した良い広間(ばしょ)だとして悪態吐(づ)いてた自分の〝網羅〟を反省しており〝根深〟く居着いた広間の感覚(いしき)に見惚れて逆上せて相対(あいたい)しており、試験へ対してふっと見上げた教卓(たく)の上には、俺の通(かよ)ったD大学での文士の姿勢を教えた教師に好く好く似て居て丸く在るのを仔細に見て取り嬉しく成り果て、紅潮したまま用紙に向かった最中(さなか)の俺には問いを解くのに必死と成り得る一途の覚悟が湧き始めていた。用紙の上では幾つか分れた設題が在り、国語の様(よう)にて英語には無く、曲った感覚(いしき)が済まされて行くほど長い字壁(じへき)が騒いであって、透った緊張感(くうき)に程々向かった俺の気色は皆の内にて確立し始め、囲いを呈した小宇宙(コスモ)の内実(なかみ)は次第に熱され露わに成り活き、一番初めのパラグラフにだけちょこっと手を付け燃焼し尽し、燃えた余韻は試験の後(あと)でも皆の内にて微睡(まどろ)まなかった。

      *

 試験を終えた、否、初めのパラグラフにだけ没頭したので余った能力(ちから)が徹し切れずに矢庭に暈(ぼや)けて上気し始め、宙(そら)へ還った気熱の鵜呑みに如何(どう)でも泣けない悔しさが在り、も一度戻って試験を受けたい焦燥(あせり)の気だけが皆を透してひっそり居座り、初めに見上げた黒板等には教授の姿勢(すがた)が見当たらずにいて俺の焦燥(あせり)は〝覚悟〟を持ち上げ離れた席へと逆行(もど)って在った。

      *

 受験の規律(ルール)を具に知らない俺の上気は有頂(うちょう)を知り活き皆が散らばる広間の内にて黙観(もっかん)して居り、篝(かがり)を焚き得た俺の用途は気色を知らずにふらふら独歩(ある)いて再び還った席へと着いて、白紙を拡げた机の上には先程見知った用紙(ペイパー)など無く、傍(よこ)を通(とお)った教授の気配に素早く対して見上げた所で、D大教授の神尾明(かみおあきら)が俺の用紙(ようし)を充分拡げて空(くう)で見て居り「うーむ」等々、見慣れた険相(かお)して大きく身構え、独自の習癖(くせ)にて俺へ向かって大袈裟なるまま現行(いま)に仕上げた解答用紙に採点している。そうして拡げた答案用紙にちらほら散らばる俺の言葉が羅列を灯して土台を講じず、白紙(そこ)で挙がった規律(ルール)の仕様に甚だ合わない未熟が在ってか、落ち度の精度を揚々示した稚拙な解答(もの)だと一瞥する間(ま)に把(つか)んだ教授は張り良く拡げた白い用紙を俺の手元へ返す間(ま)に間(ま)に、自分の講じた講義を見上げて生死に伝(おし)えたやおらな教授をも一度俺へと示しながらに、まるで煙草をきゅっと燻らす乱れた素振(ふり)して俺の目前(まえ)から薄ら消えた。そうして渡した答案用紙は見る見る間(あいだ)に脚色付(いるづ)けられつつ多岐へ続いた柵(さく)を脱(ぬ)け得て、俺の手元へ、机の上へと返ったようだ。そうする間(あいだ)に天井(そら)から降り得た人工照(あかり)の明度(ぐあい)が仔細に解(と)け得て解体され行き、黄金色(きいろ)く灯った広間の内にて大きく拡がり蛍(むし)など飛ばし、皆から返った人工照(ライト)の加減は紺に彩(と)られた枠の内にて仄(ぼ)んやり佇み微睡み始めた〝明後日〟などには一向就き得ぬ〝用途〟が目立って混濁して在る。

 こうして消え得る〝教師〟の背後(うしろ)にぽつんと置かれた置人形(おきもの)が在り、昔に輝(ひか)った赤衣(きもの)なんかを平々(ひらひら)立たせて匂わせながら、俺の瞳(め)に居る少女を灯してぱったり項垂れ、俺から少し離れた広間(ひろま)の陰(おく)にて無性(むしょう)に拡がる〝落穂〟を撮んで少々落ち着き、奇麗に賭し得た己の延命(いのち)を行儀に仰いで逡巡していた。如何(どう)して斯うして、これほど端整(きれい)な美女の種類(たぐい)が俺の前方(まえ)にてすうっと現れ、自然へ居着いて忖度示(み)せ得ぬ所業を象り慇懃呈さぬ無垢に在るのは、生れてこの方ずっと居着いた自然の上にもどっぷり暮れ得た陽光(あかり)の様子で「明日(あす)」を信じぬ矜持の種類(たぐい)は〝空気(もぬけ)〟を掲げて音頭を執り行き俺の目前(まえ)では御託を並べる教授の身よりもすんなり落ち着く苗床(ねぐら)を灯して無謀に在った。

 そうして灯った〝新たな少女〟は「明日(あす)」を報せる重役(おもき)を示してとっぷり暮れ得て、静(しず)んだ体裁(なり)には未熟に微動(うご)かぬ容姿(すがた)が拡まり彼女の歩速(ほそく)にすんなり合せた俺を見詰めて唸って在って、静かに〝唸った〟彼女の姿勢(すがた)は置人形(かたち)を窄めて黄金色(ひかり)へ対し俺を仕留めた悦を片手に満足気である。こうして灯った〝新たな少女〟俺が居着いた職場の陰にてずんぐり成り立ち出て来た形成(もの)にて、慌てふためく彼の姿勢(すがた)を矢庭に呈(あらわ)す無理な体躯を彼女へ示さず暗く灯った〝慇懃〟なんかを宜しく通して卓へと落ち着き、何時(いつ)しか揃った環境(あたり)の湿気は彼女の背後で姑息に佇み、何時(いつ)しか尽き得た俺の恋心(こころ)も涙を流して情に窄めた一匹(ひとつ)の快感(あくま)を解放して居た。〝未熟〟に着飾る赤い衣(きもの)は紅潮して行く彼女を捉えて褥を呈(あらわ)し大きく灯った希望の果てなど俺の背後(うしろ)へ放棄した後(のち)自分へ課された使命が在るのか、すうっと透った独気(オーラ)を示して燦々照り出し、何時(いつ)しか終った試験の後(あと)にて、気軽に小騒(ざわ)つく晩餐会など細目に彩り認(したた)めたのには、今後に解(と)け行く彼女の様子(すがた)と、彼女の柔さに肖り着き得た俺の様子(すがた)が揚々拡げる無気(むき)の夢想(ゆめ)など自在に認(みと)めた経過が在って、二人の再会(であい)を新たな形成(もの)にしまったり灯った「未来」へ向かって飛び立つ為にと銀の食器を揃えた卓にも環境(まわり)が芽生えて輝いていた。

 黄金色(きいろ)の合間にそろそろ撓(しな)った白色(しろ)が飛び出し、そうする白色(しろ)にも経過が講じる容易(やす)い発光(ひかり)がやおらに跳び付き充満して活き、俺と彼女の近しい合間(あいだ)にふっと消え得る情(こころ)が詰って慌てて在って、それ等(ら)を認(みと)めた二人の算段(だん)には何時(いつ)しか観得ない鼓動が放たれ黄金色(おうごんしょく)した哀れな〝定め〟は〝道理〟に伴い人間(ひと)から外れ、未熟に止(と)まった彼女の言動(うごき)は稚拙を外れて俺へと懐き、試験の出来など揚々忘れた俺の立場へ軽く飛び立ちしっくり馴染み、二人の門出は黄金色(きいろ)に灯った群象(しげみ)の内にて瞬く間にして形成され得た。彼女の名前は平田と言って、以前に見知った平原(かのじょ)に似ている容姿をして居りまったり灯った口の奥には、俺へ対する無言の文句が痰に絡まり延びて在りつつ、一つの言葉を並べぬ彼女は俺にとっても重要であり、俺の瞳(め)がふと、彼女の纏った赤い衣に注意が叫ばれ歩んで行くと、彼女の眼(め)からは洪水宜しく俺へ対する〝新たな覇気〟さえ空気に呈(あらわ)れ俺の精神(こころ)は彼女の生気で充満して居る。無言が活き得る卓の上でも所謂無言が世間に勝ち行く気不味い風情はちっとも寄らずに、彼女の表情(かお)には始終笑顔の燦々足り得る夢想が落ち着き彼女から得た小片(かけら)の様子は彼女が発する黄金色(きいろ)の仄香(ほのか)にそっと解(と)け入り具に騒いだ彼女の独気(オーラ)は俺へと寄り付き無機へ落ち着き、〝微睡む姿勢(すがた)〟は彼女に似たのか俺(じぶん)に似たのかはっきりせぬまま晩餐会では環境(まわり)の小声(こえ)など矢庭に騒いで伴奏している。彼女の容姿(すがた)を卓を挟んで真向きに捉え、捉えて居ながら術(じゅつ)でも得たのか、俺の両眼(まなこ)は黄金色(きいろ)を通(とお)って空気へ片付き身軽く成り得た肢体を揃えて彼女の背後へそろりと這入り、それまで黄金色(きいろ)が灯さず陰に隠れた彼女の背後は様子を違(たが)えて固執が剥がされ、俺の目前(まえ)へと悠々座って仔細を知らせ、そうした彼女の背中の上にはふわっと浮べた黒髪(かみ)が映え活きか細く目立ち、細い毛(もう)には光沢(ひかり)が宿って活気を小躍(おど)らせ、俺の瞳(め)へ飛ぶ群青(あお)い気力は無駄を省いた感無を飛び越えて俺の身内(うち)へと忍んで来ていた。そうした彼女の黒髪(かみ)の結(かたち)は局(つぼね)を頭頂(うえ)へとぽつんと置く儘、ゆったり流れる後(あと)の黒髪(かみ)には光沢(ひかり)を宿らせ背後へ下ろし、男性(おとこ)を弄(あそ)んだ豪腕(うで)の活力(ちから)を矢庭に立て行きまったり寝そべり、そうして黙った局(つぼね)の内から極めて目立ったピッグ・テイルが一本延び得て俺の瞳に余る程度(ほど)にて多言(たごん)を費やす若さを見立てて独立して居た。彼女の年齢(とし)は確かに若い。俺の年齢(とし)から十ほど若く発する単語(ことば)に活気に果(さ)きを知り得ぬ無謀が講じて俺の狼狽心(こころ)をちょいちょい引く間(ま)に俺の情(こころ)も萎えて来る。そんな程度を彼女の気力(ちから)は自分の腰から下肢(した)へと携え俺の配慮の正味へ這い行き活き活きしたまま自活を呈して過去の過去へと踏ん反り返って無益に憶えた文句(ことば)の合計(シグマ)は仄(ぼ)んやりしたまま俺へと対し、朝露(ちょうろ)の消え行く儚い動作を俺へと放り自分はそそくさ別の場所へと旅立って行く。まるで〝旅立つ〟間際に俺の傍(そば)へとつつつと忍び、食事をする間(ま)も惜しむ程度に煌びやかな実(み)を自分の体(てい)へと密かに投げ込み、俺の両眼(まなこ)を釘付けした後(のち)、けたけた笑った女魔(あくま)の態(てい)して俺の目前(まえ)から姿勢(すがた)を消し行く快感(オルガ)に見立てて呆けていたのは脆弱(よわ)い躰を樞(ひみつ)に保(も)ち得た俺の延命(いのち)に起因して在る。そうした無頼を自然の流動(うごき)へすっぽり窄めて自身を呈せぬ〝魅惑〟へ溺れて遊泳(およ)いで居たのは広間の空間(すきま)へぽちんと落ち得た俺の背後の〝理由〟に似ていて、何時(いつ)まで経っても彼女の姿勢(すがた)は俺へと懐かず、滔々流行(なが)れる過去の延命(いのち)に水面(みなも)を荒げて突進して行く希代の推進力(ちから)を掻き足して居た。彼女と俺には会話の機会(かず)など少なかったがきらきら輝く彼女の容姿に淡く緩んだ情(こころ)の歪曲(ゆがみ)を滔々見て取り柔軟(やわ)く成り着き、一方変った広間の様子はほくほくしながら俺と彼女に人群(むれ)に居座る王座を拵えそれ等を二人へぽんと投げ出し、二人は上々、気分豊かに〝会話が無いのを会話〟と見立てて狂舞(きょうぶ)に並んだ自分の人数(かず)など、何気に覗いて喜んで居り、二人に具わる奇数の頭数(かず)には二人に生れた脚色(いろ)が付けられ、二人の喜ぶ表情(かお)の端(たん)には〝晴嵐ヶ丘(あらしがおか)〟の暴風(かぜ)が吹き止みまったり落ち着く独気(オーラ)が騒いで二人の肢体(からだ)を卓の上へと落ち着かせている。

 人工照(あかり)が仄(ぼ)んやり皆を照らして紺の大窓(まど)へと漏れて行く頃、〝皆〟の具体(からだ)は妖気に包(くる)まれ空間(すきま)に寝そべる気塊(きかい)の上にてゆったり独歩(ある)き、皆の具体(からだ)が一つに成るのを彼女の光沢(ひかり)に戸惑いながらもしっかり見据えた俺の両眼(まなこ)は無感に捕われ丈夫に在って、のろのろ言動(うご)いて止まってあるのか流動(うごい)あるのか認識し得ない冷たい空気が広間を仕切った玄関から来て二人を包(くる)み、外界(そと)の冷気へ放棄され得た皆の一体(からだ)は彼女と俺とに訣別するまま気色を置き行く乱暴詩人へ身変りして居た。そうして囲った二人の窮地は窮地であるのに全く乱れず、二人の世界を過保護に生育(そだ)てた気丈な両腕(かいな)が勇々(ゆうゆう)動いて〝仕切り〟を見定め、護られつつある俺と彼女の二人の将来(さき)には黄金色(きいろ)く輝(ひか)った人工園(じんこうえん)などひっそり敷かれて二人を保ち、俺と彼女の〝晩餐会〟など、その後(ご)を通して二回、三回数を重ねて脚色され得る未完の〝彼女〟を引用した儘、同じく未完の俺の体裁(なり)との陽光(あかり)を求めて独歩(ある)いて在った。

 二回目の彼女との食事の時には、確かバイキングが用意されたホテルパンが並ぶ台の直ぐ傍(そば)の卓にて席を取り、先回と同じにわんさか集まる学徒(きゃく)を観ながら食事をした為、お代わりなんかで闊歩を講じる学徒の様子は、中々忙(せわ)しい気色を講じる様子を伴い右往左往に流行(なが)れる活気を所狭しと気丈に並べて二人を困らす熱気に溺れて荒んで在ったが、彼女の笑顔がそれでも変らずきらきらしていて、俺の心中(こころ)に余裕(ゆとり)を与えて安めるに足り、それ程忙(せわ)しい学徒の喧噪(さわぎ)に二人の様子が疲れる事無く、以前(まえ)に比べてそれ程変らぬ上々豊かな独気(オーラ)を保って二人の食事は護られており、俺の方でも彼女の様子を具に見て取る調子へと向く加減を見て取る愉快があった。そうしてお代わりをする学徒の内にはちらほら紛れた体裁(かたち)で総司の姿勢(すがた)が浮んで散らばり、こうした景色を擁し得たのは先回と変らず黄金色(きいろ)に輝くホテル(あるじ)の呈した広間であって、俺と彼女はずっと変らず白紙に根付いた〝広間〟に居たのは周知の意と成り何も変らぬ大きな〝遊具〟は二人へ揃って相対(あいたい)して在る。

 彼女の様子は回を隔てて生育(そだ)つに連れて、俺の目前(まえ)でも微妙に化(か)わって変質を遂げ、同時に集まる学徒(しろうと)等へは微かな全訳を自在に採り抜き二人を護った卓の内へと外界(そと)の脚力(ちから)を矢庭に拡げ、俺へ対する背中の〝映り〟を多大に魅せ活き成女(おんな)と化(か)わり、くらくらして来た人工照(あかり)の小片(かけら)は未曾有に生れる独気(オーラ)へ積まれて明るく成り得て、俺の心中(こころ)へ以前に放(ほう)った明るい余裕(ゆとり)を具に組み換え〝新た〟としながら自分へ懐いた他の学生(おとこ)に大事を観ていた。〝白紙〟へ敷かれた個人(ひと)の脆(よわ)さヘ俺の一瞳(ひとみ)は踏ん反り返って覚悟を見て取り、これから始まる自分を棄(す)て得る彼女の上気へ逆上せた雷神(かみ)など容易く見て取れそれでも彼女の独気(オーラ)を背負った両腿(あし)の麓(もと)へと従順(すなお)に寄り着く学生(おとこ)の姿勢(すがた)に記憶を奪(と)られて揚々生(ゆ)く儘、俺の〝覚悟〟は何を夢見て自分の身内(うち)へと根強く立て得た覚悟であるのか、遁(とん)と分らず夢想(ゆめ)の間(ま)に間(ま)に奔走して行く快夢(オルガ)の容姿(すがた)に跳び付いていた。如何(どう)にかそうして跳び付く手法(すべ)など自分に講じて広間(うち)へと立ったが、自由闊達、千万成る儘、彼女の様子も学生(おとこ)の様子も、俺の思惑(こころ)へ解(と)ける空(すき)など全く見せずに平々(ひらひら)漂い天井(そら)へ架け得た自分の〝糸〟など巧みに手繰って構想して居り、彼等の〝土台〟へ薄ら敷かれた外套(マント)の裏には、小さく鞣した〝快夢(オルガ)〟の試算が薄ら灯って表情(かお)を化(か)えつつ、俺の麓(もと)へと勇々(ゆうゆう)降り行く如実を保(も)ち得て元気であった。〝手法(すべ)〟を忘れた俺の陰にはモンクが着て行く外套(がいとう)なんかが薄ら翻(かえ)って平々(ひらひら)していて、彼等の土台(ふもと)が何処(どこ)に在るのか、広間(うち)の様子を独歩(ある)いて独歩(ある)いて疲れ得るまで自分を見て取り、〝陰〟へ隠れた〝如実〟の在り処を再三衒った自明に踏まえてついつい潤んで寝掛けて在ったが、上手く彩(と)れ得ぬ彼等の様子を何処(どこ)へ隠して落ち着き得(う)るのか、皆を捕えたホテルへ対して真摯に肖り追究して活き彼等の正体(すがた)を暴く事へと奔走(はし)って行きつつ自身(おのれ)へ芽生えた孤独の正味を吟味(あじ)わっている。平田の姿勢(すがた)は彼女へ暈(ぼや)けて一体化して、暈(ぼや)けついでに俺へと向け得た牽制(いかく)の程度を細かく刻んで栄養(かて)として居り、そうして手に取る〝栄養(かて)〟の一々(いろは)を自ら頼んだ目的(あて)へ向け得た助力(ちから)としたまま自明へ集った学生(おとこ)全部を奇麗に手に取り俺へ向かって大して在ったが、経過(とき)が流行(なが)れて自然(やみ)へ還ると、自分へ集った学生(おとこ)の姿勢(すがた)を充分見て取る余裕(よゆう)は薄れて脚(あし)さえ失い、俺の麓(もと)から端整(きれい)に飛び立ち棄てた〝俺〟には見向きもせずうち自分へ居座る大きな〝目的(あて)〟へと四肢(からだ)を拡げて失(き)えて行くのだ。てくてく独歩(ある)いた雰囲気(くうき)の内(なか)で彼女の姿勢(すがた)がぽつんと表れ消えて行く頃、俺の周囲(まわり)に集(つど)った彼等は学徒を連れ添い人工照(ライト)へ失(き)え活き二度とは戻れぬ時計の内にて自分を失う。遅目に返った人工照(ライト)の明暗(しきり)は人間(ひと)へ紛れて広間に拡がり、誰かに何かに燻々(くすくす)依頼され得た独気(くうき)を運んで白地(はくち)へ居座り、俺が一時(いっとき)愛した〝彼女〟を人工照(ライト)の下からほっそり覗き「昨日」に解(と)け得た俺の居所(いどこ)を陰(やみ)に置き遣り自適に振舞う。自分に生れた陰に隠れて自由に棄て得た俺の延命(いのち)は〝彼女〟を見据えて彼等を認(みと)め、どっち付かずの恋に落ちつつ俗世に言われる思考の条理へ遊泳して活き、遥かに遊泳(あそ)んだ奈落を覗いて「明日(あす)」への活力(ちから)を夢想(ゆめ)に呼び込む。そうして立たせた〝条理〟の陰には愚鈍に振舞う破落戸(ばか)が重なり、鼓動が触れ行く徹尾を観ながら今日を挙って活き抜く魅惑の衒いに鎮座して居り、俺の元へは誰(なに)も居着かぬ無神経など頻回訪れ今日の具合(ようす)を観察してある。

〝彼女〟とこれまで広間を透して食事を透して、互いに見知った〝賜物〟なんかに注意しながら二人が独歩(ある)ける満面情緒を悠々構えて眺めて在ったが、如何(どう)にも解(と)け得ぬ透壁(かべ)が表れ二人の体温(おんど)を無機に準え掴んで堕とし、俺は彼女に、彼女は俺に、如何(どう)にも勝手な説明(かたち)の付き得ぬ堅さを覚えてあっさり分れて、未来(さき)へ急いだ彼女の姿勢(すがた)が俺の暗(かげ)さえすっかり葬り、広間(ここ)から観得ない外向(そっぽ)へ向かって単語(ことば)を忘れて消えていたのだ。それ故二人の間柄(なか)とは小さな泉へ源流(うごき)を見付けて、両足(あし)だけ浸け得る優雅を見付けて少々喧噪(さわ)ぎ過ぎ去る経過は如何(どう)にも落ちない汽笛を鳴らして散々遠退き、彼女の方では会釈程度の会話(はなし)を俺へ向かってして居ただけにて、そんな内実(なかみ)を知り得た俺には彼女の言動(うごき)が如何(どう)に在っても白紙に覗いた黒点(てん)ほど小さく浮んで失(き)えて、二人の間柄(あいだ)を成立して行く程好い牙城(とりで)は平野(へいや)に並んで心情(なかみ)を見知らぬ。隣同士にちょこんと腰掛け得意に成りつつ話した気色は二人を捉えて一向流動(うご)かず暗夜(やみよ)へ紛れて滔々点(つ)消えぬ篝火(ほのお)を灯して過して在ったが、彼女の景色は俺に倣わず、端(はし)から端まで端整(きれい)に並んだ肢体を覚えて宙(そら)へと話し、話ついでに自分に纏わる紹介等して、

「私、散髪を仕事でしてるんですよ。こないだなんかは天気の好い日に馴染みのお客が来てくれたりして、一杯喋った土産話にふと気付いて手許を見たらば、鋏と櫛とを軽く掴んで客の土産話(はなし)に注意を奪(と)られた自分が居たわ。ざんぱら頭髪(あたま)にきちんと揃えた男性(おとこ)のお客は、土産話(はなし)に寄ったら、中国から一月ほど暇(いとま)を貰って来日していて、一杯喋った土産話(はなし)の内(なか)には、女性(おんな)に対する礼儀の手順(いろは)がわんさか込まれて明るく在って、ずうっと男性(おきゃく)の土産話(はなし)に相槌打ったり自分の方からうっとりしてたり、はた又、経過(じかん)が空(あ)くと、自分の方から日毎に起った〝老い〟の会話(はなし)を男性(おきゃく)の表情色(かたち)を具に観ながら二言、三言、話したものだわ。」

 それだけ喋って後(あと)の方では〝うふふ〟と微笑(わら)って俺へと居直り、それまでして来た浮気な姿勢(すがた)を何とか講じて卓の上へと真横へ上下へ大きく拡げて鈍(どん)と居座り、彼女に対する俺の配慮へ虚を突く程度に撓(しな)ん在ったが実々冷静(しず)かに彼女を観てると、彼女の姿勢(すがた)は自分を講じて体温(ぬくみ)を拡げて二人の間柄(あいだ)に漸く生れた安堵を手に取り眺めたらしく、そうした衒いにふっと湧き出た彼女の容姿は誰に見得ても怯えを呈した仔猫の様子に落ち着くもので、それまで踏まえた道程(みち)の馴らしを程好く覚えた礼儀(マナー)を手に取り〝親しくなろう〟と、俺へ向かって牛歩していた女性(おんな)の言動(うごき)に重なっていた。

 まるで交響楽(げき)でも収める如くに大きく膨れたホテル(あるじ)の容姿(すがた)は、二人の居所(いどこ)を少々擦(ず)らして別の世界へ飛ばし得ており、感性(かたち)の静まる円形場(えんけいじょう)には小鳥の飛来がちらひら浮くほど黄金色(きいろ)く輝き小噴水(みずほ)が体裁(からだ)をひっそり構えて微温(ぬる)んであったが、人の多さに圧倒され行く俺の感覚(いしき)は同じく空間(すきま)に滔々活き行く人間(ひと)の感性(すがた)にすっかり緩んで頬など上がり、微温(ぬる)んだ小噴水(みずほ)は具現(かたち)を射止めず浮遊して活き広間の何処(どこ)でも立ち現れては俺を魅了する一個の〝魅惑〟と成り得て鑑賞され得た。手摺も人工照(あかり)も卓も小噴水(みずほ)も、人間(ひと)も気質(きしつ)も夢想(ゆめ)も過失も、全ての形象(かたち)が黄金(きいろ)に靡いて自体の立場(ありか)をすっぽり隠して捜し行く頃、中世騎士など古い鎧を彫刻(かたち)に捉えて模した物象(オブジェ)は矢庭に独歩(ある)いて人間(ひと)へと居座り、交響楽(げき)を収める中庭(にわ)を眺めて余程に動き、俺の瞳(め)に生(ゆ)く豪華な周辺(あたり)を一層輝(ひか)らせ人間(ひと)を遠避(とおざ)け、赤い絨毯(オブジェ)が咲いた頃にはぐるりを見渡す個人の環境(まわり)は人工照(ひかり)に拡がるatomos(アトム)を引き連れ俺を誘(いざな)う空地(あきち)の用意をすぽっと彩(と)り行き俺の純情(こころ)を火照らせて居た。

 嘗て職場で一緒に働き緩々流行(なが)れる四季(きせつ)の内にて表情(かお)の解(ほつ)れる程度に淡く懐いた彼(か)の平原(ひらはら)に、程好く似通(にかよ)る彼女の容姿(すがた)は俺の麓(もと)からふっと立ったり落ち着いたりして、何を目的(あて)にし言動(うご)いて在るのか一向解らぬ体裁(かたち)を魅せては身軽に在ったが、俺の思惑(こころ)は一緒に働き心身(からだ)の解(ほぐ)れた平原(かのじょ)の容姿(かたち)を規矩に据え置き、平田(かのじょ)を固める目鼻立ちなど具に拾って比較している。平田(かのじょ)の瞳は平原(かのじょ)に比べて少々弾んで平らに仕上がり、おちょぼ口ほど円らに通った睫毛の当りは男性(おとこ)を観るのに丁度好いまま薄ら湿って色香を頬張る触感(しょっかん)さえ在り、それから拡がる目尻の陰には魚籠とも目立てぬ皺が転がり若い女性(おんな)に色目を付け得る着色をして脚色している当の主(あるじ)は夢想(ゆめ)と平田(かのじょ)に薄ら分れて自然に落ち着く。そうして講じる瞳(ひとみ)の奥には、自分の独壇(ぶたい)がすっかり仕上がり端整(きれい)に波揺れ、端(はた)から観得てもすっきり濁った女性(おんな)の色情(こころ)が艶(あで)に構えてのっそり整い、男性(おとこ)を鞣した掌(て)の内明かせば彼女に灯った目立ちの脚色(いろ)には琥珀が臨んで丁度呆(ぼ)け活き単(たん)に落ち得ぬ男色(だんじょ)の茂みが単色主義(しろくろいずむ)にすっと解け入り、〝規矩(もと)〟に敗けない気丈を奮って薄ら降り立つ。そうした〝気丈〟を程々辿れば彼女の生声(こえ)から灯(あかり)が差し行き彼女の両目をすっと鋭く細くしたまま目尻の当りを俄かに上げ行く若気が立ち活き表情(かお)を調え、鼻の頭はつんと切り立ち白い発光(ひかり)を自分に当て得て、男性(おとこ)に対する身構え方など十年過ぎ得た熟女を装い〝若気の至り〟に落ち着きもある。そうした表情(かお)からつるんと滑った白色光(ひかり)が立ち得て彼女の肢体(からだ)に〝軟さ〟を帯びさせ俺の目前(まえ)でも煌々(きらきら)成り立ち、〝煌々(きらきら)〟輝(ひか)った鮫肌(はだ)の白さは、彼女の着ていた袖無し服から一層元気に発光され得て俺を擦り抜け周囲(まわり)に集(つど)った学生達(おとこたち)にもすんなり解け入り内実(なかみ)を魅せ活き、意味の分らぬ学生達(おとこたち)には彼女の姿勢(すがた)が如何(どう)して成り立ちそこに在るのか、一向過ぎ行く経過(とき)の内にて如何(どう)にも挙がらぬ徒労に寄り添い努力に疲れ、彼女を愛した過去の自分を回想しつつも悪義が灯らず眠った学徒は、一層未熟に独歩(ある)いて行け得る自分に備えた楽への活路を捜して独歩(ある)き、彼女を透して俺をも透し、広間を透して人工照(あかり)を透し、徒労に仕舞える幼稚な手順(いろは)を獲得したまま俺の目前(まえ)から彼女前方(まえ)から薄ら仕上がる規矩を手にして広間の陰へと還って行った。

 三回目の彼女との会食の折りには何やら透らぬ決意を未熟な自分の胸中(うち)へと秘めつつ左記に並べた表情隠して俺へと対し、

「私、気になる人が出来たらもう駄目なんですよ。うち、気になる人が出来たらもうあかんねん。その人の事ばっかり考えてしまって」

等々、流行(はやり)に活き行く女性(おんな)の活気を仄(ほ)んのり漂う自分の色香へふらふら乗せつつ、東京弁(ひょうじゅんご)、大阪弁、或いは京都弁のどれから発する言葉の語気だか揚々気取れぬニュアンスを保(も)ち、俺へ向かった表情(かお)の内には俄かに奇麗な女性(おんな)の独気(オーラ)がほろほろ撓(しな)って色目を付け得て、自分の調子が満足気に着く道筋(すじ)を敷き詰め小躍りして居り、二人の間(あいだ)にやんわり置かれたスープや銀食器(しょっき)を真面目に見据えて、俺の表情(かお)へは自分が放(はな)った正直な瞳(め)を緩々大事に空気へ澄ませてそのとき居座る自分の境地を充分仕留めて富ませて在った。一点、真面目に俺へと対した彼女の独気(オーラ)は、やんわり流動(うご)いた景色に見て取れ何処(どこ)ぞで歪曲(まが)った俺の態(てい)など仕舞い込むには程口惜しく、彼女の瞳(ひとみ)が未だ卓に置かれてきらきら輝(ひか)りを発散して在る銀食器に逸れてある頃、彼女の目前(まえ)にてそうして置かれた食器の大小(サイズ)は他へ比べて少々大きく、俺の表情(かお)へも〝真綿〟へ包まる反射光(あかり)の程度が余程眩しく無難い煌めき、若い女性(おんな)に恋する資格を彼女が放(はな)った〝若気の至り〟に準じて絡めてまるで自分を何処(どこ)かで生れた年齢不詳の王子の如くに彩り始め、どうせ付き得ぬ試算の具合は自分が独歩(ある)いた道程(かこ)へと捨て去り未熟を仕立てて、俺の生気は見る見る内にも大きく膨れた漏れを含まぬ巨大な体躯へ成長して居た。彼女の前方(まえ)にてそうして仕立てた自分の身柄を彼女の目前(まえ)にて疎く茂らせ本性(すがた)を隠蔽(かく)し、彼女の気取れぬ脆弱(よわ)い自身を真っ直ぐ通った自体へ滑降(すべ)らせ揚々落ち着き、「明日(あす)」を片手に〝白紙〟へ纏わる自身の謳歌へ極光(ひかり)を当て付け、存分振わぬchaosを見て取りじぶんの独歩(ある)いた茂みの内にても一度〝彼女〟の容姿(すがた)を十分(じゅうぶん)盗(くす)ねて吟味した後(あと)、現行(いま)に活き得る彼女の夢想(ゆめ)へとしなしな狂って埋没していた。彼女の身内(うち)へと平々(ひらひら)飛び跳ね埋没したのは俺へ居座る邪悪(あくま)の一気が矢庭に騒いで生育(そだ)ったからにて、彼女の夢想(ゆめ)には取分け目立った凹凸など無く、自分を見据えた恋心(こころ)が跳び活き母性(どだい)を固める飛躍の程度が俺の感覚(いしき)を十分攫って寝付いただけで、彼女の躰を如何(どう)こうしようと微細な衝動(うごき)に疾走(はし)った理由(わけ)など既に卓にて俺の熱気に灯され燃やされ灰色(いろ)を晒さぬ残骸(むくろ)を呈して寝かされている。

 俺の能力(ちから)を感覚(いしき)を通して活躍させ行き、彼女の話した〝恋の話題〟に直ぐさま気付けた自分の容姿は、彼女の話がやおらに懐いて宙(そら)へと寝た頃急に慌てて彼女の熱意へ真向きに対し、彼女の吐露した「気になる人」がもしやあれからふらふら化(か)わって俺の辺りを示してあったら、俺の身分は〝恋〟へ騒いで大きく闊歩(ある)き〝彼女を仕留める試算を固めて向かうべきだ〟と固く積もった心算(つもり)の緩みが彼女を目前(まえ)にし溢れる様(よう)で、そうして漏れ行く自分の情緒を何とか気張って〝隠蔽(かく)し足るや〟と落ち着き始める邪推の滑稽味(あじ)には、鷹揚示寂へ小さく小躍(さわ)いだ俺の勝気が彼女を敗って衰退し始め、形成(かたち)を仕留めぬ脆弱(よわ)い傲慢(うごき)が俺へ居着いて彼女を眺めた。そうした滑稽味(あじ)とは端(はな)から居着いた俺の驕りが身分を固めて成した訳では到底有り得ず、彼女と俺との〝未熟〟を衒った遣り取りなんかが経過(とき)を掌(て)に取り二手(ふたて)へ分れた各自の立場(ありか)を始終に見立てて成せた業(わざ)にて、欠伸をするほど間延びを呈した二人の経過(じかん)は〝予備〟の要らない軌跡を辿って同盟して在り、まるで雨情(うじょう)に跳び得た覇気には彼女の姿勢(すがた)がはっきり見取れて、そうした衝動(うごき)に僅かに覗けた俺の勝気は彼女の呈した母性(おんな)の形成(かたち)を何とか縛って傍(もと)へと座らせ、二人へ懐いた気色の形成(かたち)が何にも変らぬ雨散(うさん)の景色を揚々匂わす可笑しな臭味は二人を取り込む試算を呈して黙殺され得た。

 そうして辿った二人の仕儀だが、俺の心中(こころ)はそろそろ騒いで落ち着かずに在り、沛然(はいぜん)とした二人の慕情に雨情(うじょう)を込ませて躊躇しており俺の向きには揚々育った毒牙が居着いて凡庸に在り、

「…それでも、女に本心を打ち明けて、違っていたら怖い」

等と、男児に揃った独自の未計(みけい)へ対する庇護など生れて臨時に尽き得ぬ樞(ひみつ)に逃げ去る自活を睨(ね)めては地団太踏みつつ、くよくよしていた雄々しい心気(しんき)に一方打たれて敗残(はいざん)して居て、新たな気性へ華を保(も)たせて自分へ緩んだ柵なんかを用意したまま二人の卓(ばしょ)へと俺は大きく還って行った。俺の心身(からだ)は逃げ去る儘にて気負いを衒わぬ調子を暗間(やみま)へくるっと返して耄碌する儘、端整(きれい)に直った彼女の肢体(からだ)を細目に据え置き俯瞰しており、未熟は二人を繋いで自適に在って、彼女の動作に映る表情(かお)など「俺」を排(はい)する強靭(つよ)さを観(み)せては二度と戻れぬ瞬間(とき)を呈してか細く成り立つ。緩んだ両眼(りょうめ)で女性(おんな)を見て取り自分に敷かれた安い檻へと理想を掲げて放(ほう)った際には、必ず理想女(おんな)は見慣れぬ翼を懐(うち)から拡げて俺の知らない光の内へと這入って眩しく、現実世界に理想の世界に脚を着かせず独走(はし)る俺まで幻惑させつつ放浪して活き、円満成るまま俺の前方(まえ)では、何時(いつ)しか懐いた自分の糧へと男性(おとこ)を連れ込み朗笑(わら)うものだと、俺の過去から浮んだ熱気は浮気に振舞いじっくり認(みと)める。

 まるで卓に並べた彼女の両手は彼女の頬など丁度好いままほっそり乗せ活きやおらに重ねた枕の態(てい)して無言に向くまま俺へと対し、俺の心身(からだ)は丁度居座る心地を失くして捧腹絶倒、彼女の居着いた金(きん)の椅子など静観するまま恋など出来得ず、一度忘れた女性(おんな)の純心(こころ)を人工照(あかり)へ透かして悶絶する内、連々(つらつら)眠った無性(むしょう)の興味が俺の心内(うち)にて転倒しており、女性(おんな)を忘れた虚無のモンクが彼女を透して不気味を挙げる。そんな仔細を即座に気取れぬ彼女の笑みには以前(まえ)と同じく煌々(きらきら)光った装飾(かざり)が灯り、俺の純心(こころ)へ真向きに輝(ひか)った彼女の生気は俺の目前(まえ)までひらりと来た後(のち)、しどろもどろに乾いた掌(て)をして俺の心身(からだ)をふらふら弄り、微動(うご)いた口には俺を射止める仄かな泡(あぶく)を仄(ほ)んのり練り出し自由に有り付き、飽きない文句を恋慕に止(と)め得た微温(ぬる)い言葉に一層茂って暗(やみ)を呈した。暗(やみ)に灯った〝機会〟を知るのにどれ程経ったら試算が立つのか、堂々解らぬ俺の未熟は彼女の前方(まえ)では〝夜の底〟など具に調べて巡回して活き彼女の自体(からだ)を揚々抱き取り愁いで在ったが、彼女の方ではこれと言うほど俺へ対する〝見立て〟は取り得ず、俺へ対した〝真っ向勝負〟を丈夫に見て取り勇々(ゆうゆう)身構え、〝恋〟を仕留める女性(おんな)の独気(オーラ)を弛緩させ活き立場を違(たが)え、俺の前方(まえ)では大きく気取(まと)った悪名程へと自生して在る。俺はそうして〝立場を違(たが)えた彼女〟の独気(オーラ)を上手に手に取り乾いた目付きで、此処(ここ)まで遊んだ二人の生気を緩々流行(なが)れた黄金色(きいろ)の広間へゆっくり放って〝彼女〟を抱き取り、抱き取り損ねた〝彼女〟の余身(あまり)は俺の純心(こころ)へ従順(すなお)に還らず熱気を放ち、「明日(あす)」へ活き行く自分の〝独気(オーラ)〟をそろっと手に取り身固めをする。

 彼女の〝熱気〟が揚々黄金色(きいろ)へ靡いて行く頃彼女を護った白体(からだ)の芯には〝恋〟の相手を値踏みしている容易(やす)い気力が散漫に在り、俺へ対する一つの牙城(とりで)を暗(あん)に寝かせて撓(しな)った後(のち)には、流体(からだ)に任せた女性(おんな)の色気が狂った体(すがた)で暴走し始め、二人に根付いた駆け引き等には矢庭に失(き)えない徒労が騒いで往生して居る。彼女の口からぽろっと零れた「気になる人」への試算を講じて俺へ居座る〝欲深魔人(よくぶかまじん)〟がひっそり起き立ち彼女に対し、経験(さき)を見習い同じ轍など二度とは踏まぬようにと力説した後(のち)くるりと翻(かえ)って我へと居着き、「彼女が秘め得た〝恋の相手〟を黄金色(きいろ)く灯った広間の空気へ出しては成らぬ」と真顔で言い付けふらりと消えて、明るくされない〝彼女〟の風味を俺の純情(こころ)は如何(どう)でも捉えて離さなかった。して居る内にも経過(とき)は流行(なが)れて体温(ぬくみ)を仮初め、俺の容姿は黄金色(きいろ)に灯ってまったりするうち人群(むれ)に紛れて主観(あるじ)を失くし黄土色した端整(きれい)な会話へ彼女を立たせてうっとりし始め、慌てた体裁(かたち)は濁流(ながれ)に泳いで失望して行く。〝核心部分〟に触れないようにと、

「その〝気になる人〟っていうのは今居るん?」

と気迫に預ける調子を避け得て俺の表情(かお)には彼女が灯って気丈が抜け落ち、宙(そら)から放(ほう)った俺の徒労(ちから)は〝彼女〟に遭うなり幻滅して行く強靭(つよ)い意志さえ真横に横切り悲鳴を上げ得て、彼女が語った〝真綿〟の文句を端整(きれい)に束ねて人群(むれ)へと放り、自分に集(つど)った周囲の気色をなるべく和ます努力を重ねて妙な笑顔へ居着いた後(あと)には冷たく輝(ひか)った衝動(うごき)が俺を手に取り翻弄している。〝彼女〟は矢張り以前に見知った平原(かのじょ)に似ていて陰を被(こうむ)り、男性(おとこ)へ対する味気を灯して女性(おんな)を気取った美臭(びしゅう)を保(も)つまま雲散足り得る独気(オーラ)を頬張る鬼畜の強靭(つよ)さを掲げて在ったが、微笑に埋れて平田(かのじょ)に返った夢想(ゆめ)の内には一夜に失(き)え行く失笑(わらい)が込み上げ如何(どう)とも言えずに、体裁(すがた)を隠した平原(かのじょ)の姿勢(すがた)は俺の感覚(いしき)に素早く解け入る一女(いちじょ)を呈してほろほろ嘲笑(わら)わず一女を呈した自分の肉体(からだ)を型に填め得てすんなりして居た。

 そうして立ち得た彼女の独気(オーラ)は〝意味〟を問われず濡れ衣を棄て、苦労を束ねた虚無の境地へ邁進して行く俺の姿勢(すがた)をほっそり射止めた無駄の仕種を軟(や)んわり落ち着け辟易して居り、俺から見知った平原(かのじょ)の虚無にも屍(かばね)が小躍(おど)った試算を被(こうむ)り挙句の果てには煙(けむ)に巻き得ず、人群(ひと)を通して永らく知り得た女性(おんな)の既知には男性(おとこ)を擁する〝真綿〟が敷かれてげんなりして在り、所々に花弁(さくら)を散らせた女性(おんな)の強気が俺を睨(ね)め付けひっそり立った。俺の言葉に素早く気付いた彼女の胸中(むね)には数多に咲き得た昔心(むかしごころ)の空転(まわり)が祟って立ち所に妬く褐色(セピア)の魅力が薄ら立ち込め、俺へ対した〝虚無〟の内にも男女(ひと)が揃えた成功(かたち)を見て取り口から漏れ得る感嘆(なげき)の文句(ことば)は俺へ居座り吐露をし続け、独白体にて具に揺らいだ女心は、俺に対して真っ向から堕ち美彩を講じ、

「…です」

と、一気に冷め得る銀食器(しょっき)を眺めて仄(ぼ)んやり言い退(の)け、空転(ころ)げ廻った女性(おんな)の羞恥は男性(おれ)を睨(ね)め付け指をも差し得た。白いクロスは卓へと拡がり黄金色(きいろ)に暮野(ぼや)いた女性(おんな)の姿勢(すがた)は男性(おれ)へ対して転々(ころころ)転がり、自分の為にと置かれた料理に手付かず儘の微温(ぬる)さを認(みと)めて感覚(いしき)を返し、俺へと座った女性(おんな)の色香は人群(むれ)が発する体臭(におい)に対してはっきりしている。そうした彼女の容姿(すがた)は女性(おんな)に座った鬼人の如くに体内(うち)に構えて何とも丈夫に発達して活き、端整(きれい)な瞳(め)をした女御前(おんなごぜん)は褥に包まる弱器(じゃっき)を呈して溌溂ともせず、病みに塗れた女性(おんな)の色情(こころ)を如何(どう)にか斯うにかくるりと仕上げて男性(おれ)へ対する合図とした儘、霧散に転がる湿気を立たせて呆(ぼう)っとして行く。

 呆っとしたまま細目を仕立てる女御前は俺へ保った〝窮地〟を仕上げて固陋に居座る俺の定めに渇を入れては退散して活き、何度も何度もそうする努力を立たせた儘にて彼女の熱気は卓へ居座る冷気を吹き退(の)け山へ昇(のぼ)った女性(さが)の色香を確かめて居た。〝普通〟を見知らぬ二人の仕種は遮二無二装う正義を手に取りぽそっと悦び、鬱に着飾る努力の効果を豪華に咲かせて後退さえせず、物語(はなし)に見て取る果(さ)きの悦には自己(おのれ)を立たせて周囲(まわり)を見下ろし、白紙に連ねた俺の文句は片言三言(かたことみこと)欲を頬張り〝果(さ)き〟へと疾走(はし)り、彼女へ下(おろ)した固(たし)かな意識を温床(ねぐら)へ還(かえ)して追い付いていた。追い付く感覚(いしき)は疾走(はし)る間際にふわふわ余所見て自分が対する果(さ)きの目的(あて)など確認しようと気張って在ったが、〝何〟に追い付き越せば好いのか、そんな事すら具に忘れた呆(ほう)けた表情(かお)など俺の周囲(まわり)で順々飛び交い遠方に在り、既視観(デジャブ)を観るほど屈折して行く自己(おのれ)の主観(あるじ)を求めた果(さ)きには、彼女の見えない虚無の遣り場が大口(くち)を拡げて待って在った。奇麗に拡がる卓の上での彼女の表情(かお)には光沢(ひかり)が宿り、男性(おとこ)へ対した白指(ゆび)の先には女性(おんな)を眺めた一線(ひとつ)の息吹が仄(ほ)んのり立ち活き俺の心身(からだ)は〝泡(あぶく)〟を観るうち微睡み始め、羞恥に遣られた彼女の姿勢(すがた)は何ともか細く男性(おとこ)へ贈った文句の端には俺へ対する慇懃が在り、二人に透った螺旋の夢想(ゆめ)には人群(むれ)に解(かい)せぬ無常が抜け出て自己(おのれ)を黙殺(ころ)した女性(おんな)の宿りは昔に咲き得た幻影(かげ)を越え活き息衝いている。若い娘が若気に咲き得て宙を跳び活き、男性(おとこ)へ対した孤高に居着いたか細い姿勢(すがた)は何にも対して気兼ねして居り、遠慮を糧へと直ぐさま恥行く可愛らしさをとっぷり弾いた彼女の表情(かお)には、彼女の容姿(すがた)に翻弄され行く俺の分身(かわり)が紅(あか)らんでいた。

 そうして彼女の姿勢(すがた)に仄(ほ)んのり逆上せる俺の底には彼女が晒けた胸中(うち)の熱気に程好く拡がる浪漫を牛耳り辿々(たどたど)独歩(ある)き、彼女の指差す果(さ)きを見る儘「自分」へ向かれた女性(おんな)の純心(こころ)を気丈に採るまま雄々(ゆうゆう)頷き、彼女へ対する男性(おとこ)の夢想(ゆめ)には主観(あるじ)を忘れた杞憂が先行き〝彼女〟を娶って落ち着いて在り、現行(ここ)へ逆行(もど)れぬ経過(じかん)の果てには裸眼に観得ない女性(おんな)の主観(あるじ)が野平(のっぺ)り居座り呼吸(いき)をするのを男性(おとこ)の描写は巧みに認めて撓(たわ)んであった。俺の思惑(こころ)は俄かに小躍(さわ)いできょとんとし始め彼女に灯った〝無我の境地〟をするする解(ほど)いて益荒男(おとこ)を表し、それまで懐いた小さな体(てい)など彼女に飛ばされ見得なくなって、箍が外れた俺の気色は彼女を彩る白い艶体(からだ)をずたずた切り裂き喰って遣ろうと、彼女の周囲(まわり)へ集(つど)った意識に矢庭に歯を立てこそこそしたまま彼女の発する光沢(あかり)の全てを呑み込む試算に狼狽えていた。次から次へと次第次第に充実して行く肉欲(よく)の一塊(つぶて)は、俺を隠して貪欲貪り、俺へ対した彼女の真摯(すがた)を損なう程度に広間へ拡がる黄金色(きいろ)の藻屑を具に独走(はし)ってすっかり疲れて、彼女へ対する自分の姿勢(すがた)を誰から見得ても揃える頃には、まったり灯った彼女の礼儀にすっかり逆上せて微動だにせず、心頭(あたま)に発した欲情(よく)の白濁(にごり)は俺の体裁(かたち)をぼたぼた舐め活き彼女に対する羞恥の様子を象り始めた。

「じゃあ、付き合うか、俺達…?!」

 俺の心身(からだ)は彼女の好意に直ぐさま跳び付き彼女の〝進化〟を抱擁し始め、彼女が俺の目前(まえ)にててらてら落した白体(からだ)の殻など拾い上げつつ、薄く朗笑(わら)える未熟の内にて愉しんで居た。しかしそうした彼女と俺との間柄(あいだ)は夢想(ゆめ)を破って突出し始め、じめじめ灯った〝真っ向勝負〟へ俺の心身(からだ)を素早く掴んで疾走し始め、俺から離れた彼女の破幻(はげん)は見る見る間(あいだ)に成長し始め彼女の肉体(からだ)は薄い浅黒(くろ)さに包(くる)まれている。これでは駄目だ、と、俺の脳裏は彼女に対した理想の全てを経過(とき)を統べ得た〝網羅〟の内にて改竄し始め、自分の手中へ堕とした彼女の純心(こころ)を慌てて掬って空気へ手放し、解放され得た彼女の自由を大目に見守る親心(こころ)を取り添え立脚するうち自分へ寄り添う彼女の稚体(ちたい)が見る見る大きく撓(しな)んで行くのを何処(どこ)か遠くに懐かしさを観て風の体(てい)程やおらに感じた。何処(どこ)か興奮し終えた群象(ぐんしょう)など立ち、俺の純心(こころ)へ遁走始めた愉快な〝気力〟が身重の肢体(からだ)を引き摺る態(てい)して独歩(ある)いて行った。

「しまった、一寸軽く言い過ぎてしまったか…?」

と矢庭に俺の口から突き出た安易な文句を手早に片付け疾走しようと彼女の眼を観ておたおたして居た可憐な男子は、何時(いつ)の頃から敗走し揚(あ)げて彼女の目前(まえ)など往来し始め、具に奏でた微量の苗床(アジト)へ寝込む程度に弱味を観(み)せつつ自分の立場を立脚して行く不変の歩調を静観して在る。

「この、人がわんさか居る場所では、この平原に似た女を恥ずかしく想わせてしまって、本心を出させない様(よう)にしてしまったか」

 次の拍子に彼女を見据えた俺の〝白紙(こころ)〟は取分け目立った根拠の無いまま彼女を包(つつ)んだ微温(ぬる)い独気(オーラ)を忘却し始め、そんな彼女の新たな形象(かたち)へ跳び付く程度に微温(ぬる)まり始めた容易(やす)い騒ぎを人群(むれ)が留(とど)めた各自の頭上へ呆(ぼう)っと投げ遣り毒突(どくづ)く程度に自分へ並んだ彼女に人群(むれ)とを平らに並(な)べして落ち着いて在る。〝根拠〟を失くした俺の殻には彼女が泊った〝立場〟の態(てい)など素っ頓狂ほど見えない儘にて俺が翳した〝彼女の理想(あかり)〟は論理を崩して表現(かお)さえ綻び、解(ほつ)れ始めた〝無益〟な意図には蜘蛛の糸ほど光が立たずに俺の感覚(いしき)は混沌(カオス)へ紛れて徘徊して居た。そうして戸惑う俺の脳裏に彼女を見据えた加減が芽生えて彼女へ対する美談の程度はほくほくした後(のち)器量を好く成し、彼女の肉体(からだ)へ静(しず)んだ欲情(なさけ)を巧く手に取り高揚し始め無気(むき)に懐いた以前(むかし)の〝平原(かのじょ)〟を再び起して切り刻もうなど、一気に象り衰弱して行く。俺の放(はな)った口先を観て次に出て来る彼女の文句(ことば)がどんな拍子に変化を遂げても彼女の脳裏に俺を拒否する二文字が無いのを見定めながらに俺の様子は彼女を射止めて拡散して居る。最早俺の講じた彼女へ対する夢想(ゆめ)の算段(とぐろ)は彼女の理想を負かした後(あと)にてすっかり解(と)け得て自体(からだ)を失くして、目下独走(はし)って衰退して行く俺の虚無など捉えなかった。彼女の容姿はもじもじしながら黄金色(きいろ)に暈(ぼや)ける広間の内にて確立して活き、俺の観ていた卓の上では透った瞳(め)をして躰を捻(くね)らせ俺へ対する方程式(かたち)を手に採りうっとり身構え、

「じゃあここ(この人が沢山見ている場所)で〝間接キス〟をしてくれたら」

と上々火照った上肢を反らして身軽に生育(そだ)ち、俺の前方(まえ)では魚籠ともし得ない呑気を揃えて判然に在る。そうして火照った上肢の次第は徐々に拡がる水面(みなも)の波紋を彷彿させ行く上気を熱して未曾有に止(とど)まり、「明日(あす)」を愛した二人の目前(まえ)では途轍も無いほど稀有な人脂(あぶら)が所狭しに上手に溢れて二人の気性を軽く立たせて温存され活き、既存を呈する二人の〝加減〟は二人へ揃って冷たく在って、今まで何処(どこ)でも如何(どう)でも出会えずに居た水龍(かみ)の目玉が丈夫に生育(そだ)って輝(ひか)っているのを二人に置かれた未来の麓で平々(ひらひら)舞いつつ眺めているのだ。俺の思惑(こころ)は経過(とき)に置かれた棘(しがらみ)なんかを上手に掻き分け独歩(ある)いて在ったが、常(つね)の常まで絶頂欲しがる強靭(つよ)い奈落に自分の分身(かわり)を根強く堕として悟りを観て居り、俺の姿勢(すがた)の背後(あと)へ釣られた彼女の文句(ことば)をも一度眺める機会など知り気忙(きぜわ)に有り付き、〝間接キッス〟というものがどんなものかこの場合、分らないで居た。彼女のそうした文句を仔細に解(ほど)いて解体する内、大きく分け得た二つの文句に限りが咲き活き俺の脳裏へぽとんと佇み、一つに連(なら)んだ彼女の文句を〝間接〟と〝キッス〟に仕分けた上にて熱弁奮って問うても見たが、この場に揃った平原(かのじょ)に似せ得た平田(かのじょ)の姿勢(すがた)と卓に着き得て彼女の容姿を揚々観て取る俺の姿勢(すがた)は卓の麓で〝堂々巡り〟に変らず流行(なが)れる経過の姿勢(すがた)に真実(ほんとう)を観て、流行(ながれ)に背けぬ弱気に駆られてげんなりして居り、一向化(か)わらぬ二人の間柄(あいだ)で如何(どう)して〝文句(ことば)〟に従え得るのか、俺の心身(からだ)は一方的にも重々知らずに卓から離れた分身(かわり)を観て居た。そうして俺には理想(ゆめ)が遠退き彼女を見据えた両眼(りょうめ)は空転(ころ)がり正気を費やし、日毎に化(か)わらぬ日常に就き夢想(ゆめ)から醒めた。

~追憶~

 平原に似た女が「二度目」の時に、自分は散髪が出来る、と言ったのを聞いて俺は、「じゃあ俺の後ろ髪、いや伸びた所いま切ってよ(微笑していた)」と言いながら欲の礫に敗けた態(てい)して、彼女の純心(こころ)を誘(いざな)う場面がきっちり納まり見えて在ったが、伸びている髪はどの部分(前髪、側頭部、頭頂、後ろ髪、等)も今の自分には必要だと感じていた為、〝何処(どこ)を切って〟とは従順(すなお)に言えずに、その場面の二人の仲ではそうした以上に話が咲かず、話題の形成(かたち)は緩く堅(かた)まり進展しなかったのである。



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~露見の理想(おんな)~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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