黒ヶ崎コーポレーション
Side 堺知事 黒ヶ崎社長
=昼・黒ヶ崎コーポレーション社長室=
堺知事と黒ヶ崎社長。
両名は社長室に並べられたテーブルを挟んで黒塗りのソファーに座り、対面するように向き合う。
「で、ロボルガーの生産体制はどうだ?」
堺知事が黒ヶ崎社長に尋ねる。
「いくら量産向けの作りとは言え、数を揃えるには時間が掛かる」
ここで言うロボルガーとは世間一般で言う偽ロボルガーのことだ。
総合的な戦闘力を落とした代わりに量産性に優れる作りだ。
オートボーグとはまた違う種類のロボット兵器と言えるだろうが、便宜上オートボーグと言うことにしている。
レイガンスリンガーのような腕の立つヒーローなら倒される恐れはあるが、強力で数が揃えられるオートボーグに仕上がった。
念のため記述しておくが間違っても一般人に殴り倒せるレベルの弱さではない。
アレは工藤 怜治と言う青年がおかしいのだ。
「計画は今のところ順調だ。ヒーロー業界の掌握、ロボルガーと言う邪魔物の排除、そしてネズミの炙り出しーー」
「それはそうと、ここにそのネズミーー確かレイガンスリンガーが来ているようだが」
と、堺知事は邪魔物についての話題をだす。
「手は打ってある。戦力はいくらでもあるし、社内の事はある程度は勝手が効く。それに今ここに向かっているレイガンスリンガーは優秀に見えるが、よく功績を洗い出すと弱点が分かる」
「そこまで言うのなら私は高見の見物といこう」
黒ヶ崎社長の言葉に納得したのか堺知事はそう返した。
「レイガンスリンガーは色々と魅力的な女性と繋がりがあります。彼女を捕まえれば芋づる式に我達の手に――」
そして黒ヶ崎社長は下卑た野望を口から漏らして笑みを浮かべる。
「社長も中々悪どい事を考えますな」
それを聞いて堺知事も黒ヶ崎社長同様に笑みを溢す。
この言葉に「いえいえ、知事ほどではありませんよ」と黒ヶ崎社長は返した。
☆
Side 辻沢 風花
=昼・黒ヶ崎コーポレーション前=
(人気が感じられない――もしかして罠?)
黒ヶ崎コーポレーション前に辿り着いた辻沢 風花たち。
広いビル周辺には人気が感じられない。
いくら最近経営不振だからと言って平日の、それも大企業のビルにしては異常だ。
明智刑事とせいなの二人も風花と同じように感じたのか周囲を見渡している。
「へえ、風花ちゃん本当に来たんだ」
「どうしてアナタがいるんですか!? 正直私一人で十分ですので帰ってください!」
軽薄な態度で赤城 レツヤがカジュアルな格好でいた。
青峰 せいなは「ヤッホーレツ♪」と笑顔をつくり、媚びを売るような態度で話しかける。
とうのレツヤは 「まあまあそう言わないでおくれよ」とせいなを無視して風花に話しかける。
「まあ、そろそろ風花ちゃんも探偵ごっこやめにしてさ、僕達の仲間にならない?」
「何を?」
突然何を?
仲間とはなんなのだ?
辻沢 風花は困惑する。
「聞いたよ。ヒーロー活動して色々と酷い目に遭ったって。それも人に言えないようなことまで。僕そう言うのに詳しいんだ」
「どうしてそんな事を――と言うかさっきから何を言ってるんですか!?」
「ある程度場数踏んでるとは言え、察しが悪いんだね」
そう言って彼は変身する。
ヒーロースーツ、レッドセイバー。
赤いカラーリングに背中のウイング。
手には剣と銃を持っている。
そして背後には――
「おっと悪く思わないでね」
そう言って明智とせいなに背後から拳銃を突きつけられる。
二人掛かりで背後から、変身前の状態で背中から銃を向けられたら風花は何も出来ない。
「ちょっとレツ? 段取り違うくない?」
愚痴をレツヤに向けて言うせいな。
こうしている時も状況がどんどん変わっていく。
黒ヶ崎コーポレーションの警備の人間――にしては重武装だ。
軍隊が持つようなアサルトライフルを所持し、黒いヘルメットにボディスーツ、ジャケットを身に纏っている。
『筋書きはこうだ。辻沢 風花はブラッドスペクターの人間であり、正義のヒーローの僕に倒される』
「そんな出鱈目誰が信じるんですか!?」
『だが世間は火弾 竜吾が悪の手先だと簡単に信じた。世間って言うのは簡単に情報に踊らされる。考える努力すら放棄した恩知らずの家畜さ』
「それは――」
赤城 レツヤの言い方は悪いが納得できる部分もあった。
だがそれを全て受け入れられるかどうかと言われれば別問題だ。
人間、例え真実であろうと受け入れ難いものは易々と受け入れられない。
『ヒーローなんてのは人気商売さ。どれだけ人を救おうが、世界を救おうが、民衆にとって一週間もすれば過去のことだ』
「そう思うのなら何故アナタはヒーローをやっているんですか?」
『地位と名誉と権力、あと金と女さ』
清々しいまでのクズとしての模範回答だった。
『今の時代、ただの芸能人でもだめ。スポーツなんか金メダルとっても一週間もすれば他人同然だ。だがヒーローは違う。人とは違う特別な存在だからこそ憧れる。金も女も、地位や名誉も権力すらも思うがままなのさ』
自慢げに自論を語る。
風花はヒーローの名を語るヴィランですらない人間の屑に嫌悪感を持つ。
自分と歳はそう変わらないだろうにどんな人生を歩めばこんな屑の完成態が誕生するのだろうか。
「最低ですね――せいな、明智さん。アナタ達はどうなんですか?」
「私はレツヤの意見に賛成。ヒーロー業界のおかげでアイドル業界も色々と大変なのよ。いわゆる枕営業している子って結構多いんだよ? レツヤが言うには男って容姿がそれなりに整ってりゃ、あとは肩書きさえあれば群がって来るもんだって」
「その行き付いた先が悪党の手先ですか?」
悪態を隠さずに風花は明智の言葉に皮肉で返す。
次に言葉を発したのはせいなだ。
「じゃあ逆に聞くけど、どうして政治家は脱税や賄賂、闇金しても許されるの? 世の中はね、金と権力がある奴が勝つのよ」
せいなに続くように明智刑事が「僕もその意見に賛成かな」と口を開く。
「今の時代警察なんてヒーローの付属品、オマケみたいなもんだ。ヒーローのサポート係と言っていい。どんなに汗水働いても捕まえるのが当たり前と言われて賞賛されることなんてない。それよりも赤城君や青峰さんのように悪とつるんで上手く世渡りした方がいいのさ」
と、明智刑事は饒舌に語る。
「……もしかして白井刑事を殺したのは」
その語りを聞いて風花は直感的にある結論に至った。
「ああ、それは君の罪になる。多少無理があるが、一度そうなった世論は変えられない。せいぜいネットに引き籠って愚痴を言うしかない馬鹿が喚きたてるが、月日が経過すればそれが真実になる」
との事だった。遠回しに自分が犯人ですと言っているようなものだ。
それよりも辻沢 風花は周囲を見渡し、どうするか考える。
(この状況をどう切り抜けるか……)
状況は絶体絶命だ。
変身して戦ったところで多勢に無勢とも言える状況。
しまいには戦闘ヘリや装甲車、黒ヶ崎コーポレーションの息の掛かっていると思われるヒーローすら投入されている。
絶対的な包囲網だ。
風花一人に対して過剰戦力と言っていい。
「一応言うけど都合よく助けてくれる人が現れるなんて考えない方がいいよ? このために日本橋でまた騒ぎ起こしたんだからさ」
と、せいなは勝ち誇ったようにいやらしく言う。
そこで銃撃音を響いた。
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