大阪日本橋乱闘街
Side 辻沢 風花
=昼・黒ヶ崎コーポレーション前=
『ぎゃっ!?』
『がっ!?』
周りを取り囲んで警備兵たちが同士討ちをはじめた。
さらに周囲が煙に包まれる。
発砲音が周囲に響き渡った。
『馬鹿撃つな!?』
『同士討ちになるぞ!?』
周囲は大パニックだ。
風花は今のうちに――と、思う。
「おっと動いたら撃――」
明智刑事が何かを言いかけたところで風花は飛び回し蹴りを披露。
背後にいる二人が手に持つ拳銃を弾き飛ばして、すかさずに風花は変身する。
続いて明智刑事とせいなは何者かに腹部に一発、殴り倒される。
『ま、待て!?』
変身したレツヤが呼びかけるが生身の警備兵に殴り倒される。
もしかすると警備服が一種のパワードスーツかもしれないが。
『さあ、辻沢さん。逃げますよ』
そして車が飛び込んでくる。
何やら上空ではクルクルと戦闘ヘリが回転して墜落していく。
黒ヶ崎の息の掛かったヒーローは突然の事態に右往左往していた。
『ぎゃあああ!?』
『また爆発!?』
『何が起きてるんだ!?』
風花はさっきまで絶体絶命の状態だったがアクション映画のラストバトル張りの爆発の連続で多少相手に同情した。
ロケットランチャーをビルの最上階に向けて発射した警備兵もいる。
もう大惨事だ。
ヒーローを長い事を続けているがここまで派手な大爆発の連続に継ぐ連続は初めての経験である。
『さあ乗った乗った』
「え、ええ」
そう言われて黒ヶ崎コーポレーション所有の装甲車がやって来たので促されるままに乗る。
☆
=装甲車・車内=
道路交通法とか知った事かと言う勢いで、全速力で走る装甲車。
車内はまるで銀業強盗が成功したかのようなハイテンションで黒髪二人組のそれぞれ個性が異なる感じの少年がヘルメットを脱ぎ、黒ヶ崎コーポレーションの警備服の状態で盛り上がっていた。
「いや~あそこまで突き抜けた悪党っているもんだね!」
「ええ、ヒーロー業界って裏は本当にドロドロしてるもんなんですね」
「あの分じゃどれだけの女が泣きを見たことか……あまり想像したくないですね」
「まあ、だから遠慮なしに暴れられたんですけどね」
などと風花を置いてけぼりにして言い合う。
「ボウヤたち、大丈夫? それと風花ちゃんだっけ? 国連のお仲間によろしく言われたわよ」
運転席に座っているのは女性のようだ。
国連のお仲間に心当たりはある。
「アナタは何者なんですか?」
「私はナオミ・ブレーデル。ディフェンダーズのエージェントよ。隣にいるのは闇乃 影司、後ろにいるのは谷村 亮太郎と藤崎 シノブ、宇宙人事件で暴れ倒した上に、DーTECを壊滅させたり、ライブラのテロを未然に防いだりした本物よ」
「DーTECにライブラ!?」
DーTECにライブラ。
辻沢 風花はブラッドスペクター残党を長いこと追っている。
その過程で他の悪の組織の名前を聞いた。
DーTECやライブラもそうだ。
そして谷村 亮太郎と藤崎 シノブ、闇乃 影司。
裏切った青峰 せいなが言っていた何でも屋。
特に闇乃 影司は宇宙人事件で暴れただけでなく、切り裂きジャック事件などの事件を解決し、美少年探偵として名を馳せたこともある。(本当は何でも屋だが)
「ちょ、ちょっと驚きはしましたけど私から言わせてもらえばヒーローとしてまだまだです!」
などと強がってみせる風花。
「さっきまで刑事ドラマの凶悪犯みたいに取り囲まれてた子が言うセリフかしら?」
と、運転席の女性が言う。
風花は反射的に「1人でも大丈夫でした!」と返すが「まあそう言う事にしておきましょうか」と運転席の女性に対応される。
「何がそう言う事ですか!? それよりも急いで日本橋に――今日本橋は大変な事に――」
思い出したように日本橋に急行するように言う。
青峰 せいなが言うには大阪日本橋で騒ぎが起きている。
どんな騒ぎかは分からないが、とてもヒーロー達が救援に駆け付けられるような規模ではないだろう。
「大丈夫よ。手は打ってあるわ」
と、運転席の女性は笑う。
☆
Side 羽崎 トウマ
=昼・大阪日本橋=
偽ロボルガー事件。
ロボルガーX、火弾 竜吾、逮捕騒動。
ネットは混沌と化していた。
羽崎 トウマはロボルガーXのファンだ。
火弾 竜吾の逮捕騒動を聞いて信じられないと思った。、
ネットの世界では真実が分からず、本当かどうかも分からない証拠や根拠が飛び交う。
ネット民はマスコミの報道を鵜呑みにする人間を情弱と言っていたが、ネット民も大概情弱だらけだ。
情報とはSNSに引き籠っているだけで見分けられる程、優しいものではないのだろう。
テレビからネットに変わっただけで、何だかんだ言って日本人は情報音痴なのだ。
そこにはトウマも含まれている。
先の宇宙人事件で宇宙人相手に暴れたと言っても所詮は一般人A。
できる事なんてたかがしれている。
せいぜいネットに火弾 竜吾を擁護する呟きをするぐらいだ。
それが一般人の限界である。
それに一般人は一般人をやるのも大変だ。
それぞれ生活、人生がある。
ナンバー1ヒーローがブラッドスペクターと言う巨悪と繋がっていたとしても「ああ、そうなんだ。悲しい事だね」と済ませてしまう生物なのだ。
そんな他人の不幸を喜ぶ人間も大勢いる。
トウマも例には漏れない。
愛と勇気、正義が勝つのはテレビだけ。世の中は産まれた瞬間に勝ち負けが決まる。
そう念仏を唱えて、他人の不幸を喜び、学歴や年収、異性のありなしなど、様々な要素でマウントを取り合う。
そんな人々が溢れかえる世の中。
それも現実の側面だ。
だがそれが人の全てではない。
(何をやってるんだろうな、自分は――)
気が付いたら体が動いていた。
誰に賞賛されるワケでもなく。
誰かに感謝されるワケでもなく。
それよりも後で警察にどうこう言われないか、母親に怒られやしないかと心配してしまう。
羽崎 トウマは一般人である。
にも拘わらず、一応はバリバリ外宇宙産のヒーロースーツを着込んではいるがロボルガーXの偽物相手に激しい戦いを挑んでいる。
最近仲良くなった女の子達。どうして自分なんかとお近づきになったのだろうか分からない異性たち。そんな彼女達にカッコいいところを見せたかったのかもしれない。
もう情けない大人だがそれでもこれ以上情けない大人に見せたくなかったのかもしれない。
周囲ではスターレンジャーの3人娘やアークゾネスの女幹部、ミストレスさんと戦闘員、ダーク・スターズのヤミノ博士と戦闘員がロボルガーXの偽物達と戦っている。
元々大阪日本橋を拠点としていたヒーロー達も戦いに加わっている。
何ならサバゲーチームやらメイドさんも戦いに加わっている。
警察官や自衛隊も、一般人も戦ったり避難誘導したりスマホで呑気に動画撮影している人間を引っ張ったりしている。
奇妙な一体感だった。
宇宙人事件の時も感じた。
人間と言うのは自分さえよければ他人はどうでもいい生物ではなかったのか。
成功している人間が不幸になるのも喜ぶ生物ではなかったのか。
よくよく考えてみれば分かることだった。
人の一側面と言うのは、どこまで行っても一側面でしかないのだ。
人のために陰ながら戦うヒーローと言うのは陰ながら戦っているせいで、普段目にしないだけで大勢いるのだろう。
この場で戦っている人々もそうだ。
もしかすると地位や名誉、金のために戦っているのかもしれないし、人気のために戦っているのかもしれないが、それでもいいかとトウマは思った。
ヒーローだって人間なのだ。
どうせなら賞賛されたいし脚光も浴びたい気持ちはよく分かる。
今がそのチャンスとばかりに戦ってもいいじゃないか。
人間をよく知ったつもりだったが、それは間違いだったらしいとトウマは思う。
人間と言うのはよく分からない。
時に残酷にもなるし、時に素晴らしい一面を見せる時もある。
『なあ? お前はどう思う?』
吹っ切れたかのようにトウマは拳を気力でぶつける。
ヒーローとしての一撃ではない。
かっこつけたい大人としての意地。
とうに捨てた筈の男としての意地。
偽善者でもいいから、人々を助けたいと言う意地。
この後警察のお世話になってでも、SNSで袋叩きされても守りたかった意地。
『やっぱり偽物だな――』
分かりきっていた。
この目の前の偽ロボルガーには怖さがない。
怖くはあるが怖くはない。
『どれだけヒーローを乏しても、どれだけ火弾 竜吾を犯罪者呼ばわりしても、あの人が紡いで来たこれまでの道則は嘘なんかじゃない!』
一発。
『真実なんて分からない!! 実はロボルガーが本当に犯罪者かもしれない!! けど信じたいんだ!! 本当は違うって!! 実は何処かの悪の組織か何かの陰謀で別の真実があるんだって!!』
さらに一発。
『例え日本全国、世界中がロボルガーXの、火弾 竜吾が犯罪者呼ばわりしても! 願うなら、許さるならまだ無実を信じたい!』
もう一発。
『俺は信じたいんだよ! このどうしようもない世の中で!! 何時も金と権力が笑う世の中で!! 愛と勇気が勝つ!! 正義の味方が悪を倒してハッピーエンド!! めでたしめでたしで終わる世の中って奴を!!』
泣きながら。
感情がグチャグチャになりながらトウマは殴る。
周囲が歓声に包まれ、偽りのロボルガーが倒れ伏す。
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