~春光足る我が光から成る、瞬間(とき)に憶えた少女の人工照(あかり)~(『夢時代』より)

天川裕司

~春光足る我が光から成る、瞬間(とき)に憶えた少女の人工照(あかり)~(『夢時代』より)

~春光足る我が光から成る、瞬間(とき)に憶えた少女の人工照(あかり)~

 連々(つらつら)流行(なが)れる一番星を観て、俺を包(くる)める環境(あたり)の描写は一転していた。三つの思惑(こころ)が俺の身内(うち)にて人間(ひと)の体と接する程度に大きく膨らみ俺から漏れ活き、闇を遮る世間の灯(あかり)が、〝俺〟が幻想(ゆめ)へと如何(どう)する間も無く呑まれて行くのをひたすら傍観して居る脆(よわ)い主観(あるじ)が存在するのに、揚々気取られ、俺の心身(からだ)は〝彼女〟を愛する余りについつい我が身を放られ、暗い〝無暗〟へ浸透して生く脆(よわ)い〝各自〟を自己(おのれ)に見ている。天秤から成る二つの秤が宙(そら)から漏れ落ち自体(おのれ)を観る迄、〝俺〟の姿勢(すがた)に揚々彩(と)られる世間の明度(いろ)から遠く羽ばたく脚色さえ見え、「明日(あした)」へひねもす人間(ひと)の酒宴(うたげ)は血相化(か)え行き夢中を摘んだ。蝙蝠傘から〝俺〟に纏わる気楼(きろう)の態(てい)した泡(あぶく)が現れ、母を捜した俺の記憶は何処(どこ)まで活きても凋落し得ない。父の居残る端正(きれい)な跡目(あとめ)は夜目(よめ)の利(き)き行く無謀に見られて〝生気〟を着忘れ、昨日の宮(みやこ)にするする堕ち生く俺の結果を人間(ひと)の微熱に頂戴させ生き、自分に纏わる不思議な〝火の粉〟は頭数(かず)を数えず、〝土手〟に咲き行く野の花など観て、流行(ながれ)に添えない未熟の活路を暫く冷やせる〝土人(どじん)〟を晒して納得して行く。近々両眼(まなこ)に欠伸を灯せる輪舞曲(ロンド)が現れ、蒼い滴が点から落ち行き宙(そら)に返るを〝ここぞ!〟とばかりに承け取る様子は〝俺〟の過ぎ行く景色の向うに立脚され得ず、初めから在る空虚の水面(みなも)に神を観るまま共鳴(さけび)を識(し)り得た。到底現行(ここ)から果(さ)きへ灯せぬ癒しの女神(おんな)が朗笑(わら)って在るのを〝俺〟から零れた幻想(ゆめ)の小片(かけら)は〝経験されない白い壁〟など揚々照らして陽(よう)を着飾り、白壁(かべ)に打(ぶ)つかる人間(ひと)の延命(いのち)をこの世とあの世に律儀に仕分けてエロスを仕立て、〝俺〟が活き得る〝この世の屍(かばね)〟を〝ここぞ!〟とばかりに交響させ行く。交響させられ震えて行くのは人間(ひと)から体外(そと)へと体温(ぬくみ)を忘れて〝微熱〟の程度もすっかり狂える無感の生き血を呈する代物(もの)にて、俺が独歩(ある)ける軟い弾みの〝土手〟の上には偶然さえ無い人間(ひと)への定めが仄かに浮んで沈着して在り、〝各自〟が晒せる概念(おもい)の裾から俄かに湧き出る〝人間(ひと)を表す無数の火の粉〟が夜気(よぎ)を擦り抜け生長するまで〝俺〟の土台を〝この世〟で成し得る経過(ながれ)の早さは、誰にも何にも観えぬ程にて〝俺〟から始まる〝この世の物語(はなし)〟は型(かたち)を成し得ず沈着して在る。〝人間(ひと)〟を現す〝無数の火の粉〟は〝アルファとオメガ〟を我が物顔して成長させ行き晴れた青空(そら)から一向降(お)りない人間(ひと)への〝手綱〟を仄(ぼ)んやり見詰めて神など仰ぎ。人間(ひと)から鳴り行く滑稽(おかし)な寡黙を宙(そら)へ解(と)けさせ共鳴(さけ)んで在っては、これまで観て来た人間(ひと)の歴史に、〝俺〟の匣から一層翔(と)べ得ぬ天馬(てんま)を見る内、〝自白すら無い自然〟を象る気楼を垣間見、細い目をした俺の分身(かわり)は悪魔に寄り添い人間(ひと)の明度(あかり)を随分遠くへ置き遣り始めた。〝エロス〟を連れ行く煩悩(なやみ)の宮(みやこ)は人間(ひと)の悪事がことこと煮え立つ無数の微熱(ぬくみ)を放散し得て、俺に奪(と)れない空気(もぬけ)の肢体(かたち)が〝美幻(びげん)効果〟を発散する儘、俺の眼(め)を操(と)り人間(ひと)の気を奪(と)り、両脚(あし)を絡める疲労を携え〝俺〟へと活き果て、宙(そら)に漂う孤独な身上(からだ)を俺の目下(ふもと)へ放擲して居た。俺から成される人間(ひと)を生育(そだ)てる無数の小手には、これまで独歩(ある)けた幾多の気色が一連成るまま通用して活き、〝土手〟の景色に女性(おんな)が象(と)られて浮気に立つのを、俺から過ぎ行く昇天(そら)の衝動(うごき)が無言で見送る気色を採っては朗笑(わら)いながら、白壁(かべ)に打たれた人間(ひと)の空気(もぬけ)は白い歯を見せぐつぐつ観て在る。何にも気取れぬ奴隷顔したモンクの列(ならび)は俺の目下(ふもと)を夜毎に走れる〝夜汽車〟を撓(しな)らせ愚弄を忍ばせ、人間(ひと)の宮(みやこ)へほとほと落ち行くモルグの屍(かばね)を早天(そら)から過ぎ行く〝枯渇〟と見做せて愚笑(ぐしょう)した後(のち)、俺と〝彼女〟に悶々仕上がる白壁(かべ)の厚味(あつみ)は度量を成し行く目下(もっか)の奇跡と相成り始めた。女性(おんな)に咲き行く男性(おとこ)の元から壊せる怪力(ちから)はアダムの身内(からだ)に浸透して行く木の実の紅味(あかみ)を彷彿させ活き、水面(ここ)から仕上げる〝空虚〟を通せた人間(ひと)の華(あせ)さえ枯渇を識(し)らずに黄泉の国からのうのう吹き来る微温(ぬる)い微風を〝大口〟掲げて呑ませてあった。

 D大学にてそこで夢見た秋の日の事、国文学科の准教授である西田房子(にしだふさこ)に憧れから来る趣向の手綱が〝彼女〟に操(と)られて彷徨(さまよ)い行く頃、俺の背後(うしろ)に仄かに上がった淡い人気(ひとけ)が空(くう)を空転(ころ)がり人影(かげ)を追い駆け、何も掴めぬ秋の孤独を自分の脚色(いろ)へと煽動して活き、誰にも知られぬ初春(はる)の色気を〝彼女〟に投げ掛け呆(ぼう)っとして行く。俺の表情(かお)には他(ひと)から仕上がる奇妙な明日(あかり)が自滅を連れ添い躍起と成るのを、秋の風吹く肌寒さに見て減退していた人間(ひと)の脆(よわ)さがほろほろ見付かり、自分の程度をひたすらひたすら傍観して行く新緑(みどり)の時期(きせつ)を大事として居た。国文学への以前(むかし)から成る未知を呈した憧憬描写は、他(ひと)の意識に露とも載らずにひたすらまったり透るばかりで、他(ひと)への理想(ゆめ)など何にも問えずの脆(よわ)い童子が胸中(なか)に在るのに俺を擡げる〝遣る気〟の華(はな)には「明日(あす)をも識(し)れずの疾風(はやて)が仕上がり廃業(くず)が募って、他(ひと)の人影(すがた)を宙(そら)にも観得ない独歩ばかりの世界の描写はやがて曇らぬ「昨日」を連れ添い、俺の目的(あて)へと前進して行く。俺の環境(まわり)の日向と日陰は他(ひと)に彩(と)られぬ無暗が仕上がり仄(ほ)んのり紅(あか)らみ、人間(ひと)の誰もが表情(かお)と生気を背け始める独自の空気を担いで在った。故に俺から暫く観得行く近くと遠くは人目の無いまま人影(かげ)も見えずに、人間(ひと)の生気が上手く発(た)てない暗い〝路地〟など積み上げていた。西田房子は女教授ながらにD大学での保守派の空気に密かに寄り付き、自分を照らせる狭い研究室(へや)での密かな儀式(しごと)に男女を含めた成人(おとな)・小人(こども)を上手く従え密室へと置き、投げ遣られるほど人間(ひと)の孤独が女性(おんな)へ寄り付き〝地道〟に従い、牛歩が鳴り生く研究室(へや)と煉瓦の間(あいだ)を抜け行く狭い路地には、房子に干された〝時計回り〟が体好く吐き行く〝勢い〟さえ観て、「明日(あした)」の居所(いどこ)を暗(やみ)に伏せ行き判らなくした。俺の両眼(まなこ)はそうする房子を宙へ見上げて疾風(はやて)を着飾り、むんむん醒めない空手(からて)の防具を馬具に従え女性(おんな)を捨てて、男女(だんじょ)が独走(はし)れる〝狭い土手〟など日暮れが来るまで人気(ひとけ)を観て居り、明日(あす)へ咲けない人間(ひと)の華へは気球(ボール)を空転(ころ)がし哄笑(わら)って在った。人間(にんげん)嫌いが人間好きから仄かに上がった気力を従え吠えて在る為、〝彼女〟の元気が揚々仕上がる耄碌さえ識(し)る新緑(みどり)の宙声(こえ)には、誰にも聴けない〝ときの発声(こえ)〟など堂々巡りの〝谷〟に放られ人影(かげ)を着忘れ、誰も要らない何も要らない生粋(もと)の美声(じごえ)が俺の精神(こころ)へ揺り落ちて来た。西田房子は以前と変らずあっと言う間に体裁(かたち)を頬張り女性(おんな)を着熟し男性(おとこ)を弄(あそ)べる気軽の美声に消極する儘、短冊(ふだ)を並べる七月辺りの日本の古式に、自分の身分を重々認(したた)め、在る事無い事全部棄て行く大学教授に厚味を付した。俺の小声は美声(じごえ)に化け活き西田(かのじょ)の歯形をくっきり揃えて房子(かのじょ)を嗅ぎ付け、女教授(かのじょ)の生粋(もと)からうっそり仕上がる蛻の殻へと総身を賭した。〝彼女〟の幻想(ゆめ)から他に良く似た真綿の基準が薄ら咲く頃、七月辺りは急に冷め行く通風(かぜ)が駆け抜け俺まで冷やし、俺の躯(からだ)は窮地を識(し)り行く小動物へとその実(み)を侍らせ滑走して生き、俺が相(あい)した第二の〝彼女〟を薄ら浮べて悶絶していた。古来の郷里(くに)から俺の元へと〝彼女〟を通して見抜けた描写は、〝彼女〟の糞(くそ)からゆっくり上がった湯気の描写を体温(ぬくみ)に従え、俺の身内(うち)へとすんなり零れる無感な使途には何にも問えずの過酷の業など清閑(しずか)に伸ばされ、明日(あす)を象る房子の幻想(ゆめ)へは俺から仕上げる徒労の無駄など一足飛びにて目的(あて)から逸れ果て〝彼女〟は失(き)えて、男女の集(つど)った学舎を想わす古巣の日々には、昨日の体温(ぬくみ)を一切彩(と)れない〝泡(あわ)の夢路〟が悶絶始めて自身を蹴上げて、俺の身元(もと)から一向離れる俺の〝分身(かわり)〟が側溝(かわ)を観て居た。

 俺の身元(もと)から薄ら上がった湯気の辺りで女性(おんな)の全実(すべて)を埋裁(まいさい)して行く女の化身が今日も表れ、俺の前方(まえ)には初秋(あき)に咲けない陽(よう)の木の葉がにんまり幻笑(わら)って毒気を吐いて、何時(いつ)しか出会った障害(ハンディ)を背負える特殊な幼女が〝この世〟を忘れて仄(ぼ)んやり佇み、自体を追い上げひたすら走って便所へ駆け込む〝木の葉〟の丈夫を浅墓程度に覗かせても居る。俺の幻想(ゆめ)には「明日(あす)」を識(し)れない白壁(かべ)の前方(まえ)での脆(よわ)さが在るのに彼女から成る〝基準〟の豊富は底儚い儘〝未知〟へ通じて散漫さえ観て、無用を知れない女性(おんな)の衣(ころも)が俺の実(み)を奪(と)り宙(そら)へと拡がり、「昨日」を気取れぬ少数から成る雑音(ノイズ)の効果を、自分の実(み)を借(か)る短い延命(いのち)を上手(うわて)に見て取り紅実(りんご)を片手に、俺から透れる他(ほか)の男性(おとこ)へするする解(さば)けて解消され生く〝彼女〟の道理を煌めかせている。俺の前方(まえ)からずるずる解(と)け堕ち、艶(あで)に散らせた衣(ころも)を纏った子女(しじょ)成る童女(おんな)はA(エース)と名乗られ、俺から透れる怖い〝男女〟に落ち着く間も無く小脇に抱え、研究室(へや)から出て行く房子の背後(うしろ)にぴったりくっ付き強面晒した白壁(かべ)へ伝って〝未熟〟の愛撫を官能へと見た。A(エース)の環境(まわり)は俺に仕上がる無極(むきょく)の平常線(ボード)を謳(うた)へ落せる体温(ぬくみ)を取り持ち、無性(むせい)に気取れる微(こま)かな衝動(ノイズ)を自体(おのれ)の掌(て)に保(も)ち呑(のん)びり生長(そだ)てて、慌てふためく他(ひと)の快感(オルガ)は即興染み生くモルグの使途へとその実(み)を化かされ、明日(あす)の風気(ふうき)を一彩(いっさい)操(と)れ得ぬしどろもどろの暗気(あんき)を養い、苦労を挫いた安気(やすぎ)の節(ふし)にも一寸(ちょっと)似ていた。孤狼(ころう)を化かした男性(おとこ)の嫉妬はA(エース)を追い駆け地肌を透らせ、自分の〝分身(からだ)〟が何処(どこ)へ追い駆け何処(どこ)へ向くのか、一彩(いっさい)象(と)れ得ぬ無声(むせい)の古巣を捜索していた。便所から出た二人の女性(おんな)の柔い生気は俺の独創(こごと)を鬱に浸らせ自分に親しめ、桃色(はで)を着飾る便所の内(なか)へと一方通して俺を吸い寄せ、「明日(あした)」から鳴る無性(むせい)の空気に男女を従え両脚(あし)を衝動(うご)かし、〝ソドムとゴモラ〟の現行(いま)を透して人間(ひと)が堕ち着く永遠(とわ)の環境(あたり)を順応しながら真っ紅(まっか)を観て生き、他(ひと)の全身(からだ)が本能(なやみ)を連れ添い希望(ひかり)を夢見て、自身の救いを悪魔に求めた新たの試算に延命(いのち)を見て行く人間(ひと)の快感(オルガ)を呑み込んでいた。西田房子は自体の独気(オーラ)を自身に紡いで〝第二〟を消し活き、裁き切れない自身の女性(おんな)を鎌に幻想観(ゆめみ)て俺の〝男性(おとこ)〟を巧みに吸い行く孤独を誂え便所で燥ぎ、燥いだ麓に〝教会〟から来るKの瞳に大きな煌(ひかり)を集々(しゅうしゅう)重ねて頭上(あたま)に描ける無造の両極(きわみ)に誰にも見得ずの大きな歪(まが)りを悠々報せて両者を葬り、房子の熱想(おもい)に埋れる男女(ひと)には希望の輪なども一彩象(と)れない無限の仇(かたき)が弾みを生んだ。

 俺の分身(からだ)は房子の瞳(め)を観てKを識(し)り生き、Kの躰は房子を抜け出て教授の様子を無益に馴らせる女性(おんな)の柔さを重々識(し)り付け器用を認(したた)め、女性(おんな)が舐め行く男性(おとこ)の根元(ねもと)はKの弄(あそ)びに重々気取られ、〝柔実(やわみ)〟を奪(と)れない真芯(ましん)の女神が尾神(おがみ)を連れ行き、男性(おとこ)の逆境(かがみ)を女芯(にょしん)に連れ行く安堵の許容(うち)にて、男神(おがみ)に成り行く男性(おとこ)の保身は俺から遠退き、Kの躰に薄ら昇(のぼ)った男性(おとこ)の脚力(ちから)は幻想(ゆめ)を壊せる腕力(ちから)の無いほど以前(むかし)を夢見た俺の孤独を謳えてあった。西田房子の腿の香りはアロマを晒せる陽(よう)の芳香(かおり)がぷうんとするまま男性(おとこ)の根本(ねもと)を巧く撓(しな)らす逆境(さかい)を縁取り入墨(タトゥー)を生かして、便所の許容(せまさ)が欠伸も出ぬほど男女の感覚(いしき)を目立たせ這わせる、一興変じた強靭(つよ)い底力(ちから)を呑み込みつつある。西田(かのじょ)の感覚(いしき)を幻想(ゆめ)へ掲げて現行(いま)に絡ませ、精神(こころ)の宙(そら)から乏しく堕とせる人間(ひと)の正気は無残を呈して、明日(あす)へ見果てぬ人間力(ちから)の奥義(おくぎ)は自然に気取られ未然に止むなど、病気に慣れない男女の生途(せいと)を馬酔木に沿わせてうっとり伸び生く。房子の両肢(りょうし)は俺へ近付き小言を囁き、小声に縮まる俺の精気は〝彼女〟を壊せる一機(チャンス)を剥ぎ取り孤狼(ころう)の仃(てい)する一児(こども)の需要に目論見足らしめ、房子に弄(あそ)んだ空気(もぬけ)を呈する男性(おとこ)の労力(ちから)は、喉を通れぬ律儀を射止めて貧乏先取り、房子の満中(なか)へとずっぽり這入れる隙間を愛して有情(うじょう)に駆られた。真っ紅(まっか)な〝日の粉(ひのこ)〟が両者(ふたり)に降った。二脚(ふたり)に積もれる脆(よわ)い精気は闊歩を忘れて孤毒(こどく)を編む内、うとうと睡魔に脚気を負わされ生く理想(ゆめ)さえ無く、熱病(やまい)に駆られる他(ひと)の気色が〝便所〟の壁へと漸く灯せる〝可愛らしさ〟に操(と)られた女性(おんな)を、西田房子の両眼(りょうめ)に縁取り丁度大小(サイズ)を毀せた頃にて、柔肉(にく)を愛した俺の両腿(あし)には房子の微温(ぬるみ)が両腿(もも)から伝わり、Kの火照りがぽとぽと堕ち着く清廉淑女(せいれんしゅくじょ)を仰け反らせる儘、陽(よう)の内(なか)から暗(やみ)の内(なか)から俺を取り巻く他(ひと)の短命(いのち)が次々死んでは、俺の体温(ぬくみ)を便所で画(かく)する丈夫を仕立てて輝いて居た。便所(ここ)に遭えない他の男女は初めから無い無重の陽(ひかり)に嗜まれている。Kというのは俺の過去から出て来た女性(おんな)で、幼馴染に生長(そだ)った経緯(けいい)を保(も)ちつつキリスト教系教会にて次女に生れた、俺から眺めて二つ歳上の聡明な娘であって、猫の瞳(め)をした可愛い少女がすくすく生育(そだ)って麗女と変り、俺と以前(むかし)にそこそこ遊んだ前戯を束ねる〝子供部屋〟にて、俺の煩悩(なやみ)を全身(からだ)で受けつつそうした〝煩悩(なやみ)〟を表面(おもて)から観て脇へと置き遣り、俺の小体(からだ)をぽんぽん宙(ちゅう)へ投げては弄(あそ)び続ける気熱を含めた女性(おんな)であって、過去でも現行(いま)でも俺の目前(まえ)では、idle(アイドル)から成る威光を温(ぬく)める麗女(おんな)の火照りをその身に宿した喰えぬ女性(おんな)の人影(かげ)を差せ得た。Kの容姿は幼少(こども)の頃からそれ程化(か)わらず成人(おとな)に成ってもその実(み)を隠せる拙い老婆の衰弱にて識(し)り、大抵男性(おとこ)がKの前方(まえ)にて諸芸(しょげい)を観せてもKの全身(からだ)は白体(はくたい)掲げて微動に灯らず、俺の目前(まえ)では唯々ひたすら自分に即する人間(ひと)の立場に程度を合せて、人影(かげ)の脚色(いろ)には他(ひと)の問えない温色描写(おんしょくびょうしゃ)が形成(かたち)を成さずに宙へと解(と)け行く女性(おんな)に生れた微笑の吐息を、後生大事に生長(そだ)てて落ち着くKの夢想(ゆめ)さえぽろぽろ堕ちた。Kの体は俺の目前(まえ)には何らの空気に暈されて活き、初めから無い諮問の描写に病を採りつつ欠席する儘、その内その儘、俺の元へは一向気取れぬ女性(おんな)の主観(あるじ)を立脚させ生く〝どろどろ零れた悪徳・多言〟を自然の生育(そだち)に暗(あん)に絡ませ微熱の前にはすっくり伸び得る自信を晒して呑(のん)びりして在る。欠伸すら観せ、男性(おとこ)の前方(まえ)での警戒心には蛇足も付けない脆(よわ)い言動(うごき)が横殴りに退(の)き、俺へと対せる正味の華(はな)には、〝通り〟に咲けない女性(おんな)の生き血が具合いを損ない噴散して在る。俺の目前(まえ)では常に明るい肢躯(しく)を呈して、全身(からだ)の内(なか)には男性(おとこ)に媚びない儚い努力が散乱していた。故に俺から見取れる経緯(けいい)の範囲(うち)ではKに寄り添う男性(おとこ)の人影(かげ)など象(ぞう)に踏まれた薄平(うすひら)程度にひらひら舞い散り男性(おとこ)の人影(かげ)からのっそり浮べる自信の体温(ぬくみ)がKの両眼(まなこ)に大手を振った。俺の思惑(こころ)はKから突き出た経緯を吟味(あじ)わいKに跳び付く自分の抗議を巧みに静めて、Kの前身(からだ)にふっと寄り添う自分の熱尾(ねつび)に絆されてもいた。俺の心中(こころ)にふらふら寄り付くKの全姿(すがた)が俺の幻想(ゆめ)から挙がった気熱に薄ら寄り添い微笑を共鳴(さけ)ばす。

 西田房子は何処からともなく幻想(ゆめ)に堕ち得た便所の空間(すき)からちらりと覗かす〝エロスのリズム〟に陽(よう)を確かめ、自信に満ち生(ゆ)く自分の容姿(かたち)を他へ這わせる体裁(かたち)に誂え人影(かげ)から這い出て、〝A(エース)〟を気取った女性(おんな)の様子を何気ないうち手中へ収める女性(おんな)の変化(へんげ)を得手として居る。女性(おんな)の変化(へんげ)は俺の前方(まえ)には気軽に有り付き無謀を呈し、どんどん深まる〝無暗〟の許容(うち)には明日(あした)から鳴く未熟(こども)の擬態に順応していた。A(エース)の姿に子供を通して変った房子は、自分に保(も)ち得た両腿(もも)の太さを漸増(ぜんぞう)させ活き、俺の〝好み〟にしっくり納まる裸体を呈して直立していた。裸体を魅せ行く諸刃の生肌(きはだ)は房子の厚味を揚々匂わせ、俺の心身(からだ)と共有して行く便所の空間(すきま)に自分と他(ほか)との僅かの〝契り〟を微温(ぬるみ)で補い自在に振舞え、〝狭いながらに楽しい我が身〟を十分せしめる群青(あおみ)の許容(うち)には、死体安置(モルグ)に咲けない童女の〝噂〟が拘らないまま俺へと歯向かう。歯向かう矢先に〝ぽん〟と零れた〝未知〟から追い付く女性(おんな)の妙味(うまみ)は男性(おとこ)の妙義(みょうぎ)を脇へ置き付け次第に明るむ魔導(まどう)の歯を保(も)ち自重を飾り、女性(おんな)に弛まぬ男性(おとこ)の延命(いのち)を〝空間(かこい)〟の許容(なか)から余程に追い立て、男性(おとこ)の冥利は女性(おんな)の短命(いのち)にほとほと宿れぬ無理を掲げて憔悴して生(ゆ)く。両腿(あし)を生育(そだ)てた房子の総身(からだ)はA(エース)に奪(と)られて代替され行き、俺の目前(まえ)では淡くて眩い旧来(レトロ)の奇想(おもい)が内面(うち)と外面(そと)とに立証させられ、内面(うち)と外面(そと)とを奇妙に分け得た白壁(かべ)の頭上(うえ)には、Aが微笑(わら)った俺に対する度量の描写が何気に産れてぎらぎらしていた。そうかと想えば〝第二の女〟は女性(おんな)の胡散に罅を這わせて苦慮を呈する幻想(ゆめ)の在り処を耄碌させ活き、A(エース)の肢体(かたち)を悶々飛び越え夢想(ゆめ)の流行(ながれ)をことこと煮詰める〝大きな寝技〟を体裁(かたち)に認(したた)め、独歩(ある)き疲れた女性(おんな)の肢体(かたち)は白日(ゆめ)の真中(まなか)を轟轟唸らせ、これまで出会った女性(おんな)から成る〝惜しさ・愛しさ・憧れ〟なんかを一体(ひとつ)に現す女体を築き、俺の目前(まえ)にて房子の容姿(かたち)は幾様(いくよう)にも咲く蝶の姿態(かたち)へ貶められた。蝶の古巣はA(エース)の満中(なか)から暫く上がれる気色を認めてふっくら仕上がり、俺の感覚(いしき)が仕留められない〝恋の描写〟を人間(ひと)に彩(と)られる〝人間模様〟へすっかり堕とされ泡(あぶく)を識(し)るなど、男性(おとこ)の汁からちょっぴり湧き出て無性(むせい)に哀しい独身男の恋の夢想(ゆめ)にも、仄(ほ)んのり上がった蝶の様子は女性(おんな)の色香を従えながらに俺の目前(まえ)では肢体(からだ)の粕(もくず)を活気に込ませて、釦違いの脚色(いろ)に沿い得る律儀を産んだ。名残惜しさに〝恋〟を射止めた俺の志気には女性(おんな)に保(も)てない男性(おとこ)の微動(うごき)が発作を報せて躍動して活き、男性(おとこ)の妙味は見知らぬ女性(おんな)の愚図に込められ愚弄され活き、明日(あす)を気取らぬ男性(おとこ)の内実(なかみ)を空気(もぬけ)に枯らせて音頭を操(と)った。俺の心中(こころ)は拡散され生き、何処(どこ)とも言えずの不思議の在り処を露店に華咲く偶奇に富ませて〝無暗〟を識(し)り抜き、男性(おとこ)に生れた如実の憂いは他(ひと)の孤独を見知れ得ぬ儘〝端境期〟を識(し)る質(たち)の奥義を懐手に保(も)つ。男性(おとこ)に産れる〝奥義(おくぎ)〟の小片(かけら)は女性(おんな)から付く感情(こころ)の衝動(うごき)に操られながら遠い宙(そら)まで白雲(くも)を呼び寄せ〝端境期〟を識(し)り、男性(おとこ)の体裁(かたち)が女性(おんな)の体裁(かたち)へ内実(なかみ)を化(か)え生く諸事の酒宴(うたげ)を両手に採っては、又々損ねる空間(すきま)の酒宴(うたげ)を宙(そら)の内(なか)へと放擲して行く無解の努力を立ち見して居る。俺の感覚(いしき)がこれまで気取れた女性(おんな)の質(たち)から気に入る小片(かけら)を数多這い活き集めて行って、俺の内実(からだ)に収まり切らない自然の毒気を富ませて在った。俺の感覚(いしき)便所の内にて、そうした景色を変らず観て居る。

 A(エース)に問われる俺から成り立つ女性(おんな)の小片(かけら)は次第に膨れて気色を牛耳り、俺の心身(からだ)にしっかり伴う子女を呈してくっきり立ち行き、夜中手前の十時かそこらの〝レイト・ショー〟へと、自分を駆り出し暗(やみ)へと立ち行く女性(おんな)の姿を幼く現し、俺の家から少し離れたイオンシネマへ二人仲良く連れ立つ体裁(かたち)を喜んでいた。腕に時計を付けない俺にははっきり見取れる〝時間〟の無い儘、夜気(やぎ)に埋れる月夜の国道(みち)から果(さ)きへと走れる車の内にて、A(エース)を観て居る自分の体裁(かたち)を傍観している下らなさを識(し)り、A(エース)に射止める自分の裸体(かたち)が纏まれない儘、無暗(やみ)の何処(どこ)かへ仄(ぼ)んやり立ち去る無感の主観(あるじ)を捜して在った。車が走れる国道(みち)の頭上(うえ)には傘を被(かぶ)った三日月が照り、二人の行方を細々(ほそぼそ)報せて微動にも無い黄金(きいろ)い孤独を薄ら這わせて男女(ふたり)の夢想(ゆめ)からか細く流行(なが)れた人間(ひと)の脆(よわ)さに幻滅していた。国道(みち)を走って目的(あて)へと着いて、イオンシネマの駐車場にて車から降り館内(なか)へ入ると、人気(ひとけ)の疎らな映画館での光景が下(お)り、二人の前方(まえ)には暗(やみ)に埋れた人間(ひと)の後頭(あたま)が幾つか座椅子の凭れから出た淋しい描写が点滅していた。点滅している男客(おとこ)の周囲(まわり)に不意に呼び立つ蜻蛉(かげ)が伸ばされ人影(ひと)が表れ、何処(どこ)か館外(そと)から共鳴して来る諸刃の延命(いのち)にこの身が絆され論理が埋れ、俺とA(エース)の男女(ふたり)の前方(まえ)には、次第にざわざわ無数の活気が伸びやかと成り、他(ひと)の芳香(かおり)にそれ程埋れぬ常軌が険しく散行(さんこう)している。

「こんな遅い時間に拘わらずに、観客も結構沢山居た。」

 A(エース)が灯せる肢体(からだ)の行方は〝無暗(やみ)〟から暗(やみ)へと奇麗すっかり這い得る裸体(からだ)を気熱に奪われほっそりして行き、窄められ得るA(エース)の活路は山から谷へと自己(おのれ)の無駄へも躊躇しないまま元気に独歩(ある)ける空気(もぬけ)に生れた他(ひと)の感覚(いしき)をしっかり捕まえ、俺の口から漸く離れた毒気の労へは、〝彼女〟が灯せる以前(むかし)の体温(ぬくみ)が熱情(こころ)を従え前進して行く拙い加減が巧く切り立ち、男女(ふたり)に生れた以前(むかし)に逆行(もど)れる多くの情景(けしき)は暗(やみ)に塗れて丈夫を独歩(ある)かせ、二人の水面(もと)へと陽気を呈する恋心(こころ)を見詰めて清閑(しずか)に在った。

「こんな時間でも、見ないと損するわ。」

 A(エース)に芽生えた女心は俺が仕立てた男性(おとこ)の郷里(ふるす)へ上手に寄り添い微笑さえ保(も)ち、映画仕立ての暗夜(やみよ)の許容(うち)からにょっきり突き出た男女(ふたり)の理想郷(ふるす)へてくてく逆行(もど)れる空間(すきま)を打ち立て平気であって、女性(おんな)の質(たち)から不断に上(のぼ)れる淡い酒宴(うたげ)を醸す心地は、感情(こころ)を温(ぬく)めて一切笑わず、男性(おとこ)の質(たち)へとこっそり懐ける上手を認めて抗わずに在る。A(エース)に保てる得体知れずの幼稚の質(たち)から、何でも彼(か)でもを裏目を認めず自由に操つる憶測固めの拙い上気が女性(おんな)の手腕(うで)から薄ら仕上がり、A(エース)の表情(かお)には〝これで良し〟とし自分に掛かったあらゆる嫌疑が得体知れずの〝経過〟の前方(まえ)にて一掃され得るか細い期待が目立って浮き立ち、男性(おとこ)の眼(め)からは〝無駄〟を被(こうむ)る女性(おんな)の質(たち)から無益を講じる諸刃の情(こころ)が挙がった代物(もの)だと、A(エース)の前途を閉眼しながら不沈させ得る固い情緒に縛られても居た。A(エース)のImago(イマゴ)は俺と一緒に退屈に在り、空間(すきま)を覗いて自分を導く両腿(はね)を持ちつつ疼々(うずうず)在ったが、暗夜(やみよ)に紛れて〝一つの目〟を観て、羽ばたかないまま俺へと懐き、A(エース)を見取れて俺の気色は悠々煌(あか)るく、A(エース)が履いてたシルクを想わすスカート内へとするする伸ばせた俺の右手はA(エース)を空転(ころ)がせ、以前(むかし)から成るぶよぶよもにょもにょ張りが在りつつ柔い両腿(もも)には以前(むかし)のA(エース)の可愛らしさを憎い程度に想わせ空転(ころ)がす女性(おんな)の吟味が充満しており、俺の右手はA(エース)の両腿(もも)の空間(すきま)にしっかり護られおっとり落ち着き、こそこそ微動(うご)ける女性(おんな)の軽さをしっとり詰(なじ)られ、A(エース)の満中(なか)から仄かに上(のぼ)れた小さな温度(ぬくみ)が俺の掌(て)に堕ちじわじわ拡がり、A(エース)の肢体(からだ)は暗(やみ)の内(なか)にも一切抵抗せぬまま〝彼女〟を射止め、俺の心身(からだ)へひっそり凭れて空(くう)を見詰める俺へと相(あい)する。

 透り抜ければ無暗に引っ掛け、鼻持ちならない微動の在り処が童女の満中(うち)にてすくすく自生(そだ)ち、俺から少々離れて止まない夢想(ゆめ)の優雅に小躍りした儘、自分の未然を肢体(からだ)に問い掛け消沈して居た。映画館(ここ)を出れば、夢想(ここ)から脱(ぬ)ければ、俺に集まる環境(あたり)の無頼は結束したまま俺まで辿り、俺の生気を利用して活き、〝金が無いのが縁(えにし)の切れ目〟と散々冷笑(わら)って自生(じせい)に遊泳(およ)ぎ、頼まれないのに俺の出方(あたま)を蹂躙して行く〝冷たい自然〟を構築する儘〝他人〟と称して、安心・レトロを牛耳り出すのだ。そうした奴等の行為はじわじわ集まり俺へと上(のぼ)り、言葉の躰を歪曲させ行く体温(ぬくみ)を長じて鼻歌空転(ころ)がし、俺と〝彼女〟が夢見た〝描写〟を幻想(ゆめ)の内(なか)から追い出し生(ゆ)くのだ。全く自然に生き血を吸われて短命(いのち)を吸われ、生気を吸われて経過を吸わせる暗黙描写に出方(あたま)を撫でられ、司書の目をした(今年やっと常勤に置いて貰った)髭の男性(おとこ)が尻穴(あな)を掻き掻き、掻いた指には何時(いつ)の知れない自分の糞などねっとり絡まり、隣に寝そべる馬鹿な熟女(べてらんおんな)に自分から出た糞を混ぜ得て、至極ご機嫌、精神異常を物ともせず儘、目下(ふもと)に居座る弱者を睨(ね)め付け蹂躙しながら黙々冷笑(わら)う。とにかくとにかく、自分の地位より上に来るもの被(かぶ)さる物には脱糞したまま尻穴(あな)を拭かない不潔の自尊が顔を上げ活き、精神異常の幸福(しあわせ)だけ観て、傍観して行く人生(みち)の上では空転しながら、選り取り見取りのJampを返して目下で微笑み、微睡む容姿(すがた)は二、三の問いすら立てられないまま轟々頷く現代社会の残骸達が、自分の目的(あて)へと邁進して行く屍(むくろ)を放(ほう)って挙句に死んだ。哄笑している我の目元は笑い皺さえこびり付き行く円満幼女の屍(かばね)に見取れた破壊され行く人間(ひと)の流動(ながれ)が散行(さんこう)する内、額(ひたい)の皺から体の皺まで、無数に生え行く脚色兼備は一層一連(ドラマ)の脚本(だいざ)とも鳴り、〝明日(あす)〟の延命(いのち)を分らなくした。

 俺から仕上がる体の火照りは〝彼女〟を透して明るく落ち着き、東京から来る俺の回顧(レトロ)を四段(よだん)に分け据え綻び始めて、〝彼女〟に上がった上気の断片(かけら)は醜く這って、昨日を気取れぬ女性(おんな)の長命(いのち)を亡き者にした。電車の雑音(ノイズ)が環境(あたり)に隈なく蔓延る仕手には〝仕手〟の用途が儘成らない儘、新緑(みどり)に付された人間(ひと)の体温(ぬくみ)が疎らに乱れて、誰もに通じる文学(ことば)の響きが共鳴(さけび)に酔わされ主人を蹴忘(けわす)れ、俺の目下(もと)へと一層蔓延る〝他人情巣〟を貫通せしめた。〝雑音(ノイズ)〟を聴く内、何かに憑かれた俺の吐息はA(エース)の鼓膜を突き抜けないままA(エース)の身内(からだ)に交響して活(ゆ)く似質(じしつ)の音頭へ傾聴して生き、誰もが観れない白い主観(あるじ)を肴(あて)にして行く独歯(どくば)の倉庫に〝場〟は決着する。次第に膨れた暗(やみ)に蠢く男の後頭(あたま)は右へ左へ一定調度の基準に揺らめき、煌めき始めた〝彼女〟の輪郭(かたち)を頬張る儘にて、自体(からだ)を濡らせる室内(うち)の小雨(あめ)から水密(みつ)を吸い込み自活(かて)としていた。黒い男の退屈凌ぎは〝彼女(おんな)〟に見取れる退屈凌ぎで、難無く産れた延命(いのち)の痛手に自信を縫い付け、上手に独歩(ある)ける未活(みかつ)の活歩(かつほ)に接極(又は接局:せっきょく)する儘、これまで通れた〝習作時代の作品達〟にはこれから始まる〝独り舞台〟への兆しを縫い付け〝証拠〟として生き、明日(あす)を識(し)らない人間(ひと)の無知(おろか)は無学を通(とお)って孤独を隔て、昨日の溜息(かこい)に散行して行く回帰に寄り添う聡明さを観る。

「結局、皆、去って行くんダ。誰一人、残っちゃくれない。」

 このまま見果てる生路(せいろ)の軌跡は〝酒宴(うたげ)〟が始まる直前頃にて、幻想(ゆめ)に沿えずの空気(もぬけ)を嫌って群青味(あおみ)を語り、暫く懐ける透った進路は小人(こども)の頃から構築され得た俺の偶奇を脚色して活き、何も知らない〝無敵の音頭〟は華を観るうち耄碌して居た。

      *

 その映画館は、普段は四(よ)つ壁を深紅色(しんこうしょく)のずぶ紅(あか)いカーテンで覆い隠して、人間(ひと)と空間(すきま)を深い根紅(ねあか)で宙に掲げて囲んだ筈だが、何はともあれ旧来(むかし)の根赤(ねあか)が宙で閉ざされ吊られて在る内、悶取り打つのは「明日(あした)」を覗けぬ空慮(くうりょ)である為、その晩だけは、スクリーンに向いて左側に立ち行く壁には整列されない紅(あか)い毛布が人間(ひと)の目前(まえ)にて緩々開(あ)けられ、宙(そら)に漂う銀の狼煙が人間(ひと)の両眼に煌(あか)るく灯り、スクリーンを覆うカーテンは初め少しだけ、次第に半分…四分の三程、館業者(かんぎょうしゃ)により奮々(ふるふる)触(ぶ)れ行く宙(そら)の巧みに呆(ぼう)っとするうち退(の)けられ入(い)って、上映装置は大音響足る雑音(ノイズ)を発して観客に解(と)け、客の内側(うち)から俄かに上(あが)った温(ぬる)い手筈の冷め遣らない儘、ゆっくる、ゆっくり、館内映画は人間(ひと)の目前(まえ)にて廻って行った。

      *

 シルクに彩(と)られたA(エース)の両腿(もも)には未だ伏し活(ゆ)く俺の哀れが悶絶して居り、澄ました表情(かお)して前方(まえ)を向いてるA(エース)と俺にはそれまで二人で独歩(ある)いて紡げた以前(むかし)の経過が重々蹴象(けど)られ、細々(ほそぼそ)小声を奏で続ける映画館での清閑(しずか)な酒宴(うたげ)は段々躰を窄めながらに四肢(てあし)を引っ込め、無重へと鳴き、揚々頗る躰の温度は暗(やみ)を擦り抜け〝阿弥陀〟を引き寄せ、斜(はす)に構えた舞台の上には、〝長(ちょう)〟と呼ばれた中年男が男女に寄り付き講演して居る。するする引かれた白壁(かべ)に吊られたカーテンの紅(あか)が闇に浮き立ち仄(ぼ)んやり静まり、深紅を灯したグロテスクなほど宙(そら)へと振り向き笑った合図は〝怖い物〟への弱者の戯言(ことば)が俺から蹴上がりA(エース)を捕え、スクリーンサイズは客へ好いまま男女(ふたり)に好い儘、するする引かれたカーテン伝いに拡大して活き、「エクソシスト」の華やか足る画(え)はA(エース)に上(のぼ)らせ俺へと上(のぼ)り、A(エース)と俺とは呆(ほう)けた態(てい)して興味に浸かれた。画面の上から「エクソシスト」の白黒画像が体を拡げて横断したのは、〝俺とA(エース)〟の知れず所で母から伝わる度量の深さが慇懃束ねた無暗を頬張り慌てた為にて、白と黒との孤高の描写(ようす)がはっきり浮き出て奇想を横たえ、拙い遊具に新参して生く男女(ふたり)の間(あいだ)を執り成し得たのだ。母の胎から静かに湧き出る無想の静気(しずけ)は長閑な軒端を悠々闊歩し男女(だんじょ)に連れ添う悪魔の芳香(かおり)を宙へ観た儘、男女の構図は人間(ひと)へと寄せられ深紅を帯び出し、滔々流行(なが)れる勇気の目下(ふもと)に雨を降らせて舞い降りていた。俺もA(エース)も自分に課された徒党の晴嵐(あらし)を歯牙(しが)無き廓(くるわ)に悶絶する儘、二人に被さる人間(ひと)の残骸(むくろ)が光を通(とお)って暗(やみ)に出る時、「明日(あした)」の冷風(かぜ)から各自の幻惑(まよい)が徒党を組み生く幻想(ゆめ)を観たのだ。俺の思惑(こころ)はA(エース)の柔肌(からだ)に吸い寄せられ活き、A(エース)の美笑(わらい)は嫉妬(ほのお)を被(こうむ)り幻(ゆめ)を見ていた。

      *

「その選択は、うちの母親がテレビのチャンネルをいじくっている内に『エクソシスト』が映り、怖い物観たさの為か、何故かチャンネルをその儘にした事に起因し、その画面がその映画館のスクリーンに成っていた様(よう)だった。しかし、映画館には、母親は居なかった様(よう)である。」

      *

 理知に活き行き理想に燃え行く大言壮語の阿弥陀如来が、俺のA(エース)の小声を聴き付け空気(もぬけ)に嵌り、母を忘れた〝俺〟の合図をA(エース)の輝体(きたい)へ埋めて見守り、滞りの無い行方知れずの身上などから、自然の奥義(おくぎ)に絶対譲れぬ〝俺〟の破滅は愚かを観ていた。ずっと観ている。人影(かげ)を連想(おも)わすこの世を離れた人間(ひと)の臭味は、俺の抗体(からだ)を離れる儘にて一向寄らない汽笛を鳴らして現代(せけん)を通り、吐き吐き、ぽつぽつ…凸凸(とつとつ)屈(こご)める無関(むかん)の主観(あるじ)は、陽(よう)を吐き捨て財産を奪(と)り、俺の目下(もと)から何らを奪(うば)ってのうのう利(い)き生く。自然の独気(オーラ)に離散され行く他との関係(あいだ)を構築する内、他(ひと)の感覚(いしき)を俯瞰し得ず俺から始まる奈落の末路は、A(エース)を通して救いを求めて、A(エース)を透して無駄を認(したた)め、A(エース)を徹して小言を温(ぬく)めて、A(エース)と相(あい)して無謀を摘んだ。決して解(と)けない樞(ひみつ)を識(し)り行く無心の俺にはA(エース)の在り処がはっきり彩(と)られず、西田房子とKとの肢体(からだ)が微温(ぬるみ)を帯び行く短命(いのち)を在り処をほっそり発(た)てつつ小人(こども)を愛する。小人(こども)の時期だけ愛され続けて、行く行く女肉の脆さを識(し)る頃、小人(こども)に生れた俺の小人(こども)は大系(たいけい)から退(の)き愛され果てて、行方を失う人生(みち)の上での人間学から衰退し始め、それまで堪えた無言の情(こころ)を未然へ記(き)す内、轟々煮え生(ゆ)く俺の無音(おと)から四肢(てあし)が延びた。〝俺〟の四肢(てあし)は宙(そら)に吊られた迂回でありつつ俺を表す玉手箱にて、孤高の古巣の帰着へ準ずる哀れな残骸(むくろ)を悠々着た儘〝彼女〟の姿勢(すがた)を〝A(エース)〟に観て採り〝無駄〟から退(の)いた。

 Kの両眼(りょうめ)は宙(ちゅう)の微温(ぬるみ)を揚々経たまま桎梏(かせ)を付けられ、西田房子の白い柔体(からだ)に字体を合せて近似を担い、時々俺の眼(め)にさえふためく程度に、良く似た貌(かお)して息を吞むまま溜飲して居る。Kの四肢(てあし)は房子に延び活き形象化され、俺から観えずの思想を絡めて女体を葬り、房子の度肝をえっちらおっちらとことんとことん我が身に即して軟弱化させ、身分相応、自分に連なる〝都合〟を捜して女性(おんな)を挙げた。釣れない真恋(まごい)が顰め面(しかめがお)して真横を通る。通るついでに透り始める世間の並からほっそり逸れ出し、誰も識(し)らない淡い幻想(かこい)にぽちゃんと飛び込みその場で失(き)えた。西田房子はKを飛び越えKと成り得た。

 俺の心身(からだ)が未だ火照ってA(エース)の躰(やわさ)に自分を観る頃、Kの様子は黒に浮き出す桃(はで)を彩(と)らされ、俺とA(エース)の真横を過ぎ去り場面を写す。俺の心身(からだ)は未練を残せるA(エース)の柔肉(からだ)を滔々離れて経過(ながれ)に打(ぶ)つかり、白壁(かべ)の目前(まえ)での律儀に身構え自然と相(あい)した、涙面(なみだがお)した童子(こども)を見忘れ、明後日迄もは到底活きない身軽の男児を流行(ながれ)に従い連れ出していた。俺とKとは俺の以前(むかし)に暈(ぼや)けて建ち得る〝不死鳥〟掲げたO(オー)大学へと感覚(いしき)を滑らせ侵入して居り、俺の心身(からだ)も躯(からだ)も四肢(てあし)も肢体(からだ)も、輝体(からだ)も機体(からだ)も抗体(からだ)も全体(からだ)も四肢(てあし)を忘れて宙(ちゅう)を拡げて、全く伸びない背丈を気にしてA(エース)を捜し、遠くの目下(ふもと)に宙(そら)から見付けた可愛いKへと、ずるり、ずるり、欲心絆され解体され行く淡い自信を紡がれながらに、俺の煩悩(なやみ)に産れた坊主は空気(もぬけ)を忘れて相対(あいたい)して居た。Kの輝体(からだ)は俗世から吹く汚れた涼風(かぜ)にて端正(きれい)に梳かされ、下肢(あし)を網目のストッキングで包(くる)めた艶(すがた)は大学時代の冷たい〝彼女〟をぷいと想わせ俺の幻想(ゆめ)には氷点(こおり)が出ていた。Kが表す氷解(こおり)の〝彼女〟は俺の目下(もと)から生れた〝彼女〟で、俺の目下(もと)からずっと離れた男性(おとこ)に懐ける女性(おんな)であった。野蛮を愛する女であった。幻想(ゆめ)の冷風(かぜ)から堕ちた女神(おんな)で、ちっとも咲かない処女の彩芽(つぼみ)を丁度取り持つ食虫造花を咲き誇らせた。西田房子の地味の行進(すすみ)が空気(もぬけ)が脱(ぬ)けKへと取り憑きKの表情(かお)からきらりと覗ける房子の芳香(におい)は〝艶(あで)〟を識(し)らずに軒端に踏まれて、男性(おとこ)の生気に自分を感じる臭味を従え醜味(しゅうみ)を呑み込み、男性(おとこ)の精気を直接(ストレート)に呑む、華(あせ)から仕上がる毒牙の欲心(こころ)を、俺の煩悩(なやみ)の肴(あて)をしたまま軽やかなる実(み)を宙(そら)へと投げた。俺と房子は奇妙に仕上がる〝悶え〟の許容(うち)にてとっくり死に生く理知の経過(ながれ)に目を輝かせた儘、昨日に突き出たエログロ・センスに自分の総身(すべて)を一切投げ付けぶるんと震え、房子の従順(すなお)は女体(からだ)を震わす刺激に釣られて丸味を帯び活き、俺と出会って四秒後にもう、体を抱かせる羞恥の限りを一切を舐め上げ、自分の足元(ふもと)へ懐き始める男性(おとこ)の初歩(いろは)に酔い始めて居た。房子の様子は俺から見得ない苦渋の集空(モール)に暫く居着いて揚々気取らず、人間(ひと)との会話に骨身を惜しんで徒労を謳える煩悩(なやみ)の女神を着飾り揺らめき、俺の郷里(ふるす)に暫く居着ける度量を携え澄まして色付く。場所を選ばぬ女性(おんな)の色香が俺の宙(そら)からそろりと零れるスポットライトにその実(み)を包(くる)め、俺を見捨てる身軽な覚悟は女性(おんな)の美質(びしつ)にすっぽり隠れて揺ら揺ら気取られ、初めて灯した女性(おんな)の臭味(くさみ)は男性(おとこ)の体質(しつ)から大きく逸れ活き狂々(くるくる)空転(ころ)がり、牛歩に従い俺の頭上(そら)へと昇って行った。A(エース)の身を借り、A(エース)が蠢く俺から見得ずの集空(モール)を色取る房子の上気は、両脚(あし)の動かぬ母胎を鳴らして宙(そら)を造って、男性(おとこ)の臭味(におい)に一目散へと駆け込み這い入(い)る女性(おんな)の強靭味(つよみ)を何気に利かさず静かに葬り、俺の両手を腿と腿とに気弱く挟めた幼女の姿勢(すがた)を自信に観る儘、女体(じぶん)を隠せぬ色香の上気は〝無暗(やみ)〟へ返らず奮起を識(し)った。

 房子の躰が女性(おんな)の気質に上手く化け活き、誰にも奪(と)れない心身(からだ)の懊悩(なやみ)を繰り広げる瞬間(とき)、初秋(あき)の木の葉が暫く舞い起き、学舎の内からはらはら流行(なが)れて色濃く鳴るのを俺を衝動(うご)かす従順(すなお)の発破は一途(いっと)に逃さず傍観する後(のち)、ふんわり突っ立つ房子の片手を自分に引っ張り衝動(うごき)を投げ掛け、平たく微笑えむ房子の白身を紅身(あかみ)に変え行く男性(おとこ)の労苦を房子を愛する俺の細身は房子を壊して生長させ得た。人目を逃れて房子の腕力(ちから)に屈服して行く我を識(し)る内、俺から自生(そだ)てる自虐の行方は女性(おんな)を過ぎ活き現行(いま)を追い立て、自分の没我が愛する房子にぽつんと見取れて脆(よわ)く成るのを、結託して生く女性(おんな)と自然の未然の寸前(まえ)にて傍観している。緩々流行(なが)れる経過(ながれ)の歯止めは女性(おんな)に産れた房子の微熱を喰い散らかすのに許容を見て居り、俺の肢体(からだ)は房子の女体(からだ)を人目を逃れる便所(みっしつ)の内へぱたぱた連れ込み安堵を漏らし、房子の女肉(にく)から当分減らない女の柔味(やわみ)が脱線する頃、俺の〝調度〟は房子の茂みにぱったり飛び込み、野太打(のたう)つ間も無く、Kの美肉(からだ)へ順々飼われる房子を吟味(あじ)わい漠然を見た。白壁(かべ)が狭まる無重の空間(すきま)は隙間風すら一向吹かさぬ無風の上手を言葉に貶め、房子と俺とが暗い無暗(やみ)から上(あが)って来るのをKの両眼(まなこ)に寄り堕とせた儘、自分の震動(ゆるぎ)に小さく咲き活(ゆ)く明日(あす)の体温(ぬくみ)を見付けて在った。俺の煩悩(なやみ)が房子の肉(からだ)を擦り抜け始めぬ陽(よう)の片手にKを観た頃、白壁(かべ)の脚色(いろ)から暫く見得ない女性(おんな)の文句(ことば)が逆上せ上(あが)って、俺と房子はKに化け得る房子の股から出て行く経過(かたち)で一室を閉じ、二度と逆行(もど)れぬ郷里(パラダイス)を観て便所(そこ)から零れた。

 幻想(ゆめ)を醒ませる浮世の涼風(かぜ)が父の声へとその実(み)を預けておんおん嘆き、俺が寝そべる枕元へ来て、二言三言、ぽろぽろ喋った経過が冴えて、稀の景色が俺を伺う手抜かり無い芽が新芽を尖らせ、俺の心身(からだ)は〝幻想(ゆめ)の布団〟を薄ら被(かぶ)ってそれでも寝て居て、父の声には聞かれないほど小さな発声(こえ)にて〝うーん…〟とだけ言う二度(にたび)を返し、父への返答(こたえ)を発するその度薄く覗ける布団の在り処を手探りしながら掴んでほろ立ち、幻想(ゆめ)の内(なか)へと駆け出す自己(おのれ)を諄い程度に追い掛けていた。二度目に聴えた父の声には俺の感覚(いしき)が硝子を破って突き出る程まで俺の寝床へほとほと近付く父の体温(ぬくみ)が煌めき直され、俺の寝床に隣接している畳の部屋からしゅうっと流行(なが)れる微弱(よわ)い冷気が噴散するのを俺の弱味は獲得して活き、畳部屋(しごとべや)にて主観(あるじ)が無いのに付け放たれ行く夏の冷気は、日常独語(にちじょうどくご)に燦々舞い散る父の戯言(こごと)に埋葬され生き俺の孤独は父の背中に文句(ことば)の矢を掛け自滅の〝呪文(のろい)〟を頭上へ置いた。父の頭上(あたま)にするする解(ほど)ける人工照(あかり)の小片(かけら)は怨みを着忘れ、俺の小言に毒気を晒せる弱味を睨(ね)め付け孤独を呟く。そうした寝言に段々迫れる父の温度は何処(どこ)へともなく何処(どこ)からともなく、鷲が小豚(こぶた)を攫う程度に俺を頬張り独語に羽ばたき、宙(そら)へ埋れる未熟の快感(オルガ)は幻想(ゆめ)の内へと埋没していた。俗世の寒気に悪寒を感じ観(み)、ほとほと対話(はな)せる他(ひと)の無いのを自覚しながら延々続いた過去の気色を女性(おんな)の眼(め)に見て絶望したのは、俺の孤独に生来居着ける従順(すなお)の発声(こえ)にて矛盾など無い。

      *

「いい加減、現世(うつしょ)に於いての男女の行為が変わり映え無い永久(とわ)の孤独を内頬にて噛み、体裁(かたち)を観(み)せ生き永久(とわ)の孤独に自分を誤魔化し生きて在るのが端(はた)から覗けて滑稽味を増し、到底辿り着けない現世(このよ)で識(し)り得る幻色(ゆめ)への合図が、男と女の奇妙な白壁(とばり)に堂々立てられ、俺の自由(ゆとり)は五肢(からだ)を着忘れ宙(そら)を忘れた矛盾の在り処を、揚々突き止められ得て死体安置(モルグ)の温味(ぬくみ)にほっそり還って女性(おんな)の造形(つくり)を改編(かいへん)して居る。改変され得た女性(おんな)の温味(ぬくみ)は俗世(このよ)に於いては死体安置(モルグ)の人工照(あかり)にほっそり佇む人の孤独に漸く似て活き、俗人(ひと)の体温(ぬくみ)を他所へ遣り抜く気性のあばらを順繰り紡いで舟に仕立てて白紙を海とし、天まで還れる孤独の旅路に我執を見出す異国の生き血を捜して行った。仕事場から洩る哀れな散路(さんろ)は俗人(ひと)の常識(かたち)を揚々棄て去り俗人(ひと)の掌(て)に咲く俗人(ひと)の脳裏に自体を飾らす〝浮世〟を唱導(とな)え、一刻から発つ負けん気の好い俺の延命(いのち)を女性(おんな)の生(せい)からほとほと話せて、上手に湧き立つ平和の未熟を明日(あす)へ並べて俗世(このよ)を識(し)った。〝女性(おんな)〟は所詮俺の華ではなかった。女性(おんな)は所詮俺の求める助け手ではなかった。女性(おんな)の在り処は俺の求める平和の、浪漫の内には存在し得ない。女性(おんな)の居所(いどこ)は常に、この世の強者の目下(ふもと)に初めひっそり、後(あと)には丈夫に、成り立つのであり、女性(おんな)の生き血はこの世の地下へと脈々流行(なが)れる鼓動の上手に落ち着き払う。この世に活き行く男性(おとこ)の力よ、お前ら全ては女性(おんな)の従順(すなお)に悩まされつつ弄(あそ)ばれながらに、膣の内(なか)へと喰われて行って、二度と這い出ぬ与太に馴らされ溜息吐(つ)くのだ。この世の果てには人間(ひと)が発つ上神の勝利は見得ないで在る。奇妙な孤独に男性(おとこ)の従順(すなお)と女性(おんな)の従順(すなお)は歴史の砂礫に呑まれて見得ずに本能(ちから)に寄り添い快感(オルガ)に埋れて孤独を求め、明日(あす)に成れないお前の瞬間(とき)には男女の感覚(いしき)も成り立てないのだ。宙(そら)に居座る神の感覚(いしき)が両者を気取らせ自白へ飛ばす。蟻の群れから毒蛇(へび)の群れまで、女性(おんな)の生き血は共鳴(さけ)ぶ間(ま)も無く創造して生(ゆ)く。景色を忘れたこの世の脳裏は人間(ひと)から運べる生気の未熟を一切嫌って好く好く吟味(あじ)わい、楽して儲ける男女の倣いを一方から観て得意に頬張る。吸収して生く人間(ひと)へ懐ける悪魔の笑力(ちから)は現行(いま)の目下(ふもと)にゃ人間(ひと)から延び得る空間(すきま)に呼吸(いき)して、神の勝利を一度も見えない宙(そら)の密室(へや)へと放って仕舞い、畳部屋(しごとべや)での人間(ひと)への感覚(いしき)に自然から生く不思議の幻惑(まどい)に嘲(わら)われながらも、調子付き生く魔の手の体温(ぬくみ)は人間(ひと)を追い駆け人間(ひと)を呑み込む。人間(ひと)の精神(こころ)は自然を見破る拙い両眼(まなこ)に四肢(からだ)を遣られて無垢へと駆け出し、二度と逆行(もど)れぬ宙(そら)を見上げて燦々足る儘、次から次へと降(ふ)り出し始める人間(ひと)の子供にその実(み)を預けた。俺の心身(からだ)は行方識(し)れずの^空路を漂い暗路(あんろ)を独歩(ある)き、導き出せない人間(ひと)の清閑(しずか)をひょっきり立たせて幼稚を患い幼稚を憎み、所々で歌の利かない『ジングルベル』等、何気に聞いては平和を省ける。齢(よわい)・気質に夜中を呟く十時を観た儘、俺の幻想(ゆめ)には理想の女性(おんな)が女神(かみ)を讃えて美識を呈し、女肉(からだ)に懐いたこの世の砂塵(ほこり)の一つ一つを仕分けながらに地面に落して、次の空間(せかい)の微睡み始める新たの機会(とき)など横目に観ながら、ゆっくり、ゆっくり、自分の発声(こえ)まで解体され行く無性(むせい)の空間(すきま)を求めて在った」。

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~春光足る我が光から成る、瞬間(とき)に憶えた少女の人工照(あかり)~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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