【完結】宇都宮カレン 占の館(作品240511)

菊池昭仁

宇都宮カレン 占の館

第1話 天使 カレン

 メロンソーダ水の大河。プシュプシュ(弾ける炭酸の音)たわわに実るサクランボ。

 山の残雪にはハリケーン・ゲッツの濃厚バニラアイス。

 ここではいつでも好きな時に好きなだけ、血糖値を気にすることもなく、無料でクリームメロンソーダを作ることが出来た。


 夕日ビール本社の黄金のウ〇コみたいな雲が悠然と流れ、愛燦々さんさんと降り注ぐ黄金の光。



      愛~♪ 燦々とおおおお~♪



 鳥は歌い花は咲き、アース・ウインド&ファイヤーのディスコサウンドが鳴り響いている。

 そう、ここは至上の楽園、天国である。


 ここには争いも苦しみもドロドロの不倫もない。誰もが皆平等で、ジェンダー・フリーで差別もなく、義務もない。

 無罪も有罪も、週刊文秋もないのである。

 そもそも天国にはこれらの争いの種である、お金が存在しなかった。

 PAIPAIもFXもあの税金が優遇される『NICHAN』もなかった。

 天国では「経世済民」、つまり経済観念は不要であった。

 ここでは何でも無料で手に入るからだ。


 姿格好も好きだった年令のままで生き続けることが出来た。死なないのである。

 例えば初チョメチョメをした17才の夏が好きな人は17才で、一番のモテ期だった28歳がいいという人は28歳で、仙人のようになりたいなら85歳の白髭老人でいることが出来た。 


 食べ放題、飲み放題、ヤリ放題・・・。

 要するに、天国はすべてが満たされた世界なのである。

 天国は想念の世界である。数寄屋橋次郎の鮨にジュエル・ロブションの春の新作フレンチ。高林堂の『かりんとう饅頭』に『いちご大福』など、食べたいと思っただけで目の前にそれが出て来るのである。


 フェラーリもランボルギーニもメルセデスも、みんな想っただけで手に入るのだ。

 ヴィトンにフェラガモ、カルティエにグッチ、それにシャネルも自由自在に「欲しい!」と思っただけで出て来るのだ。


 沢尻エリカも満島ひかりも中森明菜も、岡田准一に西島秀俊、そしてあの「やっちゃえオッサン」のキムタクですらお望み次第、選り取り見取りである。ムフッ

 松たか子に綾瀬はるか、岡田将生も竹野内豊もすぐに来てくれるのだ。天国とは実に素晴らしい世界である。

 毎日が高級キャバクラ、毎日がホストクラブ、『クラブ愛』であった。


 「髭男」も「king Gnu」も「あいみょん」も「いきものがかり」も「セカオワ」も、みんな自分のためだけに歌ってくれる。


 気候はいつも爽やかで気温24℃、湿度62%に保たれていた。

 そして男も女も、みんな素っ裸である。モロ見えである。


 天国とはそういうところであった。

 筆者の妄想はもう止まらない。


 (いいなあー、天国)




 「カレン、カレンはおらんか?」


 

      おおカレン♪ 浜辺の~濡れた砂の上でえええ~♪

      抱き合う まーぼろしを笑え~♪


 (いいなあ大瀧詠一、『恋するカレン』 大好き!)



 「はい、大天使ミカエル様。わたくし、カレンはここにございます」

 「おお、そこにおったか? カレン。 お前はいつ見てもじゃのう、だけに、なんちゃって。ワハハハハ わはは本舗。まるで菜々緒か富永愛かと思ったわい」

 「ありがたきしあわせにございます」

 「ちょっとソチに頼みたいことがあるのじゃ」

 「はい、なんなりとお申し付け下さいませ。大天使ミカエル様」

 「うむ、栃木県の宇都宮に赴いてはくれんか?

 殆どの人間が地獄行きだとはいえ、あまりにも気の毒じゃからのう。

 ワシは宇都宮が大好きなのじゃ。餃子は安っぽいがな? 安いけど野菜ばっかりで。

 チャイナ・ウイルスも変異し、また拡大するやもしれん。そしてあの日本のアホ、じゃなかったバカ、アババ総理はアメリカ大統領のことを「いちばんの友人」などとぬかしおった。

 ヒロシマ、ナガサキに原爆を落とした悪魔が友人? フレンド?

 通訳の者はちゃんと訳しておるのだろうか? 独裁者、カルタ大統領にあのアホ、じゃなかったあのバカ、アベベ総理のブラックを正確に伝えたんじゃろうか?」

 「さあ、どうでしょう?」

 「まあそんなことは置いといて。そこでじゃカレン。下界のそんな弱き者たちにお前が希望を与えてやって欲しいのじゃ。その手始めとしてまず、栃木県宇都宮市というわけなんじゃ」

 「希望ですか? 懐かしい言葉でございますね? 危うく忘れてしまうところでした。

 希望のない下界の民に、希望をでございますか?」

 「そうじゃ、あの「希望」じゃ。パンドラの匣の底に残されていた、最後のアレじゃ」

 「かしこまりました」

 「では頼んだぞ、カレン」

 「はい、大天使ミカエル様」




 というわけで天使、カレンはあの『餃子と苺の街』、栃木県の宇都宮へと派遣されることになったのである。

 なんで宇都宮かって? それは「天国にいちばん近い街」だからである。

 美味しい物は沢山あるし、人はやさしい。だが自動車の運転マナーは全国最下位である。仙台よりも酷い。

 横断歩道で待っていると無視され、信号が赤でも突っ込んで来る始末。

 横断歩道を黙って通ろうものなら窓を開けて、


 「オイ、「ありがとうございます」だろ? 止まってやってんだぞ!」


 と、怒られることもある。

 オンダ自動車もオッサン自動車もあり、そこに約2万人もの従業員が働いているというのにである。

 でも最近ではLRTも整備され、宇都宮はより便利で快適な街になった。U字工事もいるし、最高である。


 

 カレンは宇都宮での自分の俗名を「宇都宮カレン」と名乗ることにした。だって宇都宮だから。


 ちょっと作家のセンスが疑われるが、まあ、取り敢えず、この名が浮かんだので適当にこれにした。


 それでは始まり始まり~。パチパチ(拍手少な!)




第2話 「カレンの占の館」

 カレンは早速準備に取り掛かった。


 天界からカレンと一緒について来たのが弟子のアライグマ、ドンちゃんだった。

 ドンちゃんはかわいいアライグマだが、いつも怠けて、他人の悪口や不平不満ばかりを言っていた。天国に住んでいたのにである。


 「ああ、ボクもカレン様みたいな大きな翼が背中に生えて、立派な天使になりたいなあ」

 

 といつも言っている。


 「カレン様あ~、これから何処に行くんですかあ?」

 「いいから黙って付いて来なさい」

 「はーい」


 ドンちゃんは得意の二足歩行で、宇都宮のオリオン通りをカレンについて歩いていた。


 ポッコニャン ポッコニャン


 カレンはオリオン通りで占いのお店をやるつもりだった。

 何故なら占いを求めてやって来る人間の殆どは、自分に自信がない、弱い人間が多いからだ。

 自分で何とかしようというチャレンジ精神はなく、他力本願でラクして幸福を手に入れたいという人間だからだ。

 自分の人生が良いのか悪いのか? どんな未来が待っているのかが知りたいのである。

 そんな人間は神社でおみくじを引いて凶とか末吉だったりすると、中吉以上が出るまでおみくじを引き続けるのである。

 そこでカレンは手っ取り早く、占いで人に希望を与えようと考えたのである。

 そんな弱い人間たちに希望を与えるのがカレンの使命であったからだ。


 例えば「彼と結婚出来ますか?」とか、「会社を辞めた方がいいでしょうか?」とか、「志望の大学に合格することが出来るでしょうか?」とか、「彼は奥さんと別れて私と結婚してくれますか?」とか、「私はどうすればお金持ちになれますか?」とか、すべてが占い任せ、神様任せなのである。

 だが、弱いことは悪いことではない。弱さとはやさしさと表裏一体でもあるからだ。

 ゆえにその弱さに希望を与えてあげることで、その弱さを「強いやさしさに」変えてあげられるとカレンは考えたのである。


 「夫が早く死んで、保険金がガッポリ入って、今、お付き合いしているイケメン年下彼氏と楽しく暮らせますように」


 あっ、それは占いじゃなくて呪いである。呪っちゃダメ。



 

 「ここがいいわ、二荒神社様の結界の中にあるし、魔物たちもここまでは入って来れないから」

 「えっー、やだなあボク。こんなダサいところで働くのは。

 それにここってシャッターアーケードじゃないですかあ? おまけに栃木県は全国ご当地ランキングでも最下位のランクですよ?」

 「でも今は全国39位よ。そんな中途半端だからこそ、占って欲しい人間は多い筈よ」

 「まあ、そうですけど・・・」


 

 

 『カレンの占の館』は大繁盛だった。

 カレンは天使の白い翼を仕舞って、美しくウェーブのかかった金髪も黒髪のロングストレートヘアにした。

 その方がよりミステリアスな占師に見えるからだ。

 だがアソコのヘアは金髪のままだったそうである。テヘペロ

 ちなみに占いに直接関係はない事だが、外人で頭髪は金髪なのに、アンダーヘアは黒い場合もある。

 どっちを染めているのだろう?(筆者調べ)



 大きな水晶玉をじっと見詰めているカレン。

 四柱推命、易学、西洋占星術、手相、人相、タロットに霊視など、すべての占いに精通しているカレンではあったが、水晶玉占が一番美しい占師に見えたからである。


 次のお客様は28歳、結婚願望ありありのOLさんだった。

 どうやら不倫で悩んでいるらしい。


 「カレン先生、いかがですか?」

 「ダメですね、邪悪な影が見えます。

 彼は奥さんと別れる気はありません。そして彼にはあなたの外に付き合っている女性が5人もいます」

 「5人も! ショックなんですけど!」

 「さらに悪いお知らせがあります」

 「それはどんな?」

 「ここからは追加オプションになります、5,000円を頂戴します。税込みですのでご安心下さい」

 

 彼女は通販で買った黄色い『幸運のお財布』から5,000円札を1枚取り出し、テーブルの上に置いた。


 「そのお財布はどこで買いましたか?」

 「通販で買いました。あのスケベそうなオジサンと熟女の愛人がやっているあのテレビショッピングです。このお財布を持っていると、お金も彼氏も寄って来るからって・・・」

 「ああ、あのCDのことをわざと「シーデー」と言って安心させるあの社長のやつですね?

 そのお財布ではお金も彼氏も逃げて行ってしまいますよ」

 「ほ、本当ですかあ?」

 「だってすでにそのお財布からは鑑定料の5,000円と、さらにオプション料金の5,000円、合わせて1万円が出ていってしまったじゃないですか? そしてセフレは他にもいたし」

 「彼はセフレなんてそんないやらしい人ではありません。

 ただ都合のいい時にラブホに誘ってくれるやさしい人なんです」

 「それを世間ではセックス・フレンド、都合のいい女、セフレと言うんです。

 それでは悪いお話ですが、奥さんとはしっかりとゴムも付けずに中出しをしていたので、奥さんは今、妊娠5か月になっています。

 そしてあなたは6人の愛人の中で、ビリから2番目という中途半端な位置にありますが、オリコン調査では第6位、奥さんは殿堂入りなので6番目になります。

 つまりあなたはビリ、愛人6人と奥さん、合計7人で1週間のローテーションになっているというわけです。

 月曜日は奥さんと、そしてあなたも月曜日。

 ラブホでチャチャッと1回だけして90分で自宅に帰り、その後は奥さんと2発。

 つまりメインは奥さんで、あなたは前菜? 食前酒? 暇つぶし? 時間調整というわけです。

 ちなみに土曜日と日曜日は一番のお気に入り、悦子さんと2日間連続お泊りデートとなっているのです」

  

 その場に泣き崩れるOLさん。


 「ひどい! ひどすぎる! 全部当たっています!

 いつも私とは休憩で、1回だけしてすぐに帰っちゃうんですう」

 「そしていつもの口癖は「女房とは分かれる、愛しているよ」、違いますか?」

 

 お客さんはワナワナと震え、泣きがら何度も頷いた。


 「だったら何で私なんかと・・・」

 「それはあなたがバカでエロいからです。バカな女性は男性にとってかわいいものなのです。

 セフレとしてですが」


 OLのお姉さんはうな垂れ、市場に引かれていく牛さんのように、アライグマのドンちゃんに肩を抱かれ、「ドナドナ」を歌いながら、出口の方へと歩いて行こうとした。


 「お待ちなさい」

 「何ですか? まだ何かあるんですか? 他にも悪い話が・・・」

 「そこでこれからあなたに希望をお伝えします」

 「希望? こんな私に希望なんてあるんですか?」

 「はい、ございます」

 「それは何でしょう?」

 「今夜零時キッカリ、バナナに彼の名前をマジックで書いて、月を見ながら一気にそのバナナを剥いて食べるのです。その際、決して途中でバナナを食べるのを止めてはいけません。もちろんいやらしく舐めてもいけません。一気に食べ切るのです、恵方巻のように」

 「するとどうなるんですか?」

 「彼のそこは、一生カチンカチンになることはありません、EDになってしまうのです、永遠に」

 「私やります! 復讐してやりますあのヤリチンに!」

 「そしてその男性との縁が切れた時、あなたを迎えに白いプリウスに乗って、外見はちょっとアレですが、将来は万全の親方日の丸、地方公務員のやさしい彼が現れて、あなたはその彼と結婚し、やることをやり、かわいい男の子と女の子を産んで、何不自由なく安定した生活を送ることが出来るでしょう」

 「本当ですかカレン先生! ありがとうございます!」

 「希望を持って下さいね、私はいつでもあなたを応援リツイートしていますから」


 そうしてカレンはOLさんに希望を与えた。


 「それって希望なのかな?」


 アライグマの弟子、ドンちゃんは首を傾げていた。




第3話 パイロットになりたい

 アライグマのドンちゃんはご機嫌だった。

 カレンから大好物の角砂糖を貰ったからである。


 「綺麗なこのキューブ、なんて美しいんだろう?

 そしてこの蕩けちゃうような甘さ。ペロッ

 ああ、死んじゃうくらい美味しーい!」


 この時代に角砂糖1個でこれだけテンションが上がる奴は、おそらくドンちゃんしかいない。

 ドンちゃんのしあわせのハードルは、メチャンコ低かった。

 

 そしてドンちゃんはやっちゃうのだ。彼はアライグマだから。

 何でも洗わないと食べないのである。

 ドンちゃんは歌う。



   ボクはジャブジャブ洗って アライグマ~♪ 

   ボクは愉快なアライグマ~♪

   ボクはなんでもアライグマ~♪ 

   ボクはなんでも洗ちゃうー♪ ルンルン♪ ジャブジャブ~♪



 ドンちゃんはせっかくカレンから貰った大好物の角砂糖を、台所でジャブジャブ洗っていた。

 当然、角砂糖は水に溶けてなくなる。



 「あれれ? どこにいっちゃったの? ボクの大事な大事な角砂糖!

 たたたた、大変だ! 盗まれちゃったのかもしれない!

 さっきのあの、トイレの芳香剤みたいな香水のオバサンが怪しい!

 あのオバサンが犯人かも知れない!」


 ドンちゃんは怒りでワナワナと震えていた。


 「いいかげんに学習しなさい。お前はいつも私があげた物をみんな洗っちゃうじゃないのさ。

 この前もそうでしょう? 柏屋のシュークリームもプリンもイチゴのショートケーキも、みんな洗っちゃったじゃないの? このバカ・アライグマ」

 「だってボクはアライグマだよ、アライグマは何でも洗って食べるから、アライグマなんだよ、うえーん

 カレン様の意地悪う~、いけず!」


 ドンちゃんは泣いていた。


 「だったら流しそうめんでも食べてな。もう洗って流れて来るんだから」

 「カレン様のバカ! 悪魔!」

 「天使の私に向かってなんてこと言うの! 次のお客さん、早く呼びなさい」

 「はーい、後でご褒美に角砂糖ちょうだいね?」

 「今度洗ったらもうあげないからね?」

 「はいはいはいはい、 はい100円! 次の方、どうぞー!」



 そのお客は20才はたちの色白メガネ、小太り青年だった。

 リックを背負い、チェックのシャツにポッケのたくさんついたズボンを履いていた。

 髪型は昔のビートルズみたいなオカッパ頭である。

 リックにはUFOキャッチャーで獲ったであろう、たくさんのぬいぐるみがぶら下がっていた。



 「お名前は?」

 「木村拓哉です」

 「アンタふざけてんの? そういうふざけた人は鑑定してあげないわよ」

 「いえ、本名なんです。ほらこの通り」


 木村拓哉は運転免許証を取り出してカレンに見せた。


 「いつも言われるんですよ、ふざけるなって。でももう慣れました」


 カレンは運転免許証をチラリと見ると、話を続けた。


 「それで今日のご相談は?」

 「あのー、ボク、パイロットになりたいんです。だって美人なエロCAさんにチヤホヤされたいじゃないですか?

 でもまた今年も航空大学校も自衛隊の航空学生にも落ちちゃって、航空会社の自社養成パイロットもダメでした」

 「アンタはパイロットにはなれません、以上。次の方どうぞ」

 「早っ! じゃあ、どうしたらなれますか? キムタクみたいなパイロットに。「ちょい待てよ」とか言ってモテモテになりたいんです」

 「私の話を聞いてた? って言ったの! あなたはパイロットにはなれません!」

 「だからどうしたらなれますか? パイロット」

 「占う前にアンタ、身長が基準に達していないんじゃないの?」

 「やはりそう来ましたか?」

 「来るも何も、20才過ぎたらもう身長は伸びないでしょう?」

 「ボク、試験には自信があるんです。慶應大学の工学部だし。

 でも身長が足りなくて・・・」

 「そもそもアンタがパイロットになりたいのはCAのお姉さんとヤリたいだけでしょう?」

 「はい、そうですけどそれが何か?」


 カレンは溜息を吐いて水晶玉を覗いた。


 「木村拓哉さん、あなたは5年後、IT社長になってCAとの合コンでモテモテになり、3人のCAさんをお持ち帰りするでしょう」

 「ほ、本当ですか!」

 「いいこと? 大切なのは、何故そうなりたいかという目的意識なの。たとえばなぜ大臣になりたいのか? 

 本当に国民の幸福のために働きたいのか? 自分の自己顕示欲を満たしたいだけなのか?

 ただ目的もなく、大臣になりたいから大臣になりたいのか?

 それではボンクラ?世議員と同じ。希望を持ちなさい、木村拓哉」

 「ありがとうございます! 希望が持てました!」

 「では税込みで15,000円になります」


 木村拓哉は鑑定料、15,000円を支払い、スキップをして帰って行った。



 ドンちゃんがニコニコしてやって来た。


 「カレン様、ご褒美ちょ~だい!」


 ドンちゃんはカレンに前足を出した。


 「今度洗ったらもうあげないからね!」

 「はい、はーい!」


 そう言って、ドンちゃんはカレンから角砂糖を貰い、スキップしながらまた台所に行くのであった。


 「お馬鹿なアライグマ」

 

 すると台所からドンチャンの悲鳴が聞こえて来た。


 「キャーッ! ない! ないぞ! ボクの角砂糖がなーいっ!」


 アライグマとはつくづく悲しい動物である。




第4話 大学受験に失敗

 ドンちゃんはカレンに向かって大きく口を開けた。


 「カレン様、アーン」

 「何? 気持ち悪い」

 「角砂糖を頂戴な、エヘッ」

 「さっきあげたばかりでしょう?」

 「頭の回転が良くなるように、糖分補給をしなくちゃ。

 それに、手で受け取るとまた洗いたくなっちゃうでしょ?

 だからハイ、アーン」

 「じゃあ、日本で一番おいしい春木屋さんの『シャインマスカット大福』を買って来てよ。そしたら角砂糖を1つあげてもいいわよ」

 「ホントですか! わっかりましたー! それじゃあ行ってきまーす!」


 アライグマのドンちゃんは猛ダッシュで春木屋さんにすっ飛んで行った。

 


 「あのー」

 「どうしたの? 私に何を占って欲しいの?」

 「はい、実は・・・」


 その男子高校生は、地元では有名な進学校の制服を着ていた。


 「実はそれで?」

 「ボク、大学に落ちたんです」

 「だから?」

 「どうしたらラクに、苦しまずに死ねるでしょうか?」

 「つまり自殺したいということね?」

 「はい・・・」

 「それは占うことじゃないわ、心療内科にでも行ったら?

 もっともそんなことで死なれちゃ地獄もすぐにいっぱいになっちゃうけどね? ただでさえいっぱいなのに、これ以上地獄の鬼を忙しくしてどうすんのよ。過労死でもさせる気?

 そもそも死にたいなんて思ったことのない人間なんていないの。みんな死にたいと思うことはあっても死んだりしない。何でだかわかる? 地獄はね、あなたが想像するよりも遥かに恐ろしいところだからよ。

 それを人間が記憶しているから殆どの人間は自殺はしないわけ。わかる?

 なぜなら自殺は命を与えていただいた神様への冒涜だからよ。自殺なんか止めなさい、痛いし苦しいし」

 「心療内科に行ってもダメだったからここに来たんです」

 「あらそうだったの? でもね、自殺で苦しまない方法なんてないわよ、以上」

 「練炭自殺とか、睡眠薬とかはどうですか?」

 「私が言っているのはね? 死ぬ時の話じゃなくて、死んだ後のことを言っているの。

 神様からいただいた尊い命を自分で勝手に捨てたら、君は間違いなく地獄へ直行よ。リニア新幹線みたいに地獄の1丁目も2丁目もすっ飛ばして、いきなり5丁目からスタートするんだから。それでも平気なわけ? 怖いわよ~、地獄って。

 死んで異世界に入り込んで勇者になって生き返るなんてあんな話、絶対にあり得ないから。

 今、君は18才?」

 「はい、そうです」

 「すると私の観たところ、あなたの本来の寿命は89才だから、89引く18はいくつ?」

 「71です」

 「仮にあなたが苦しい現実から逃げて、ラクに苦しまずに死んだとしても、残りの71年間を真っ暗で冷たくて、臭いところでたったひとりで償うことになるのよ。あなたにその覚悟はある?

 人は死んで終わりじゃないの。死んでからもあの世で自分の犯した罪を償わなければならないの。

 人にしたことが全部自分に跳ね返ってくるんだから。

 親切にすれば天国へ、意地悪をすれば地獄へとね?

 別に自分勝手に生きてもいいのよ、死後、そのツケを地獄で払う勇気があるならね?」

 「希望した大学に入れなければ、僕の人生は終わったも同然ですよ!」

 「だから君は受験に失敗するのよ」

 「・・・」

 「バカだから」

 「その通りです、僕はバカだから大学受験に失敗したんです! いいから苦しまないで死ぬ方法を教えて下さい!」

 「人生はね? 辛いことばかりなの。

 君はまだ18でしょう? これからもっともっと辛くて悲しいことがあなたを待っているわ。

 そんな希望の大学に落ちたくらいで死ぬなんて言ってたら、これから何十回、いえ、何百回死ねばいいのよ。

 そもそもその落ちた大学ってどこの大学?」

 「僕、医者になりたいんです」

 「じゃあ医学部ってわけね?」

 「はい」

 「まず、あなたは医者には向いてない。だってそうでしょう? 命を救う医者になる人がよ、自殺してどうすんのよ。自分で矛盾しているとは思わない?」

 「僕は医者になって人の命を救ったり、苦しみや痛みを取り除いてあげたいんです」

 「だったらそんな人が自殺してどうすんのよ?」

 「だって医者になれないなら死んだ方がマシだからです」

 「それじゃあ占ってあげる。税込みで1万円」


 その高校生は1万円札をカレンに差し出した。


 「これは親のお金?」

 「マックでバイトしたお金です」

 「時給いくらなの?」

 「850円です。高校生だから」

 「お金稼ぐのって大変よね?」

 「はい」

 

 カレンは水晶玉を覗いた。


 「2年後、あなたは医学部に受かるから安心しなさい」

 「2年後? 2年後には受かるんですか? 僕、医学部に!」

 「でもバイトは辞めて1日20時間、必死に勉強すること」

 「四当五落ですか?」

 「人生にはね? いくつかの大きなチャンスが訪れるわ。

 でもほとんどの人間はそれに気付かない。

 なぜなら眼の前にあるチャンスが見えていないから。

 チャンスはね? 努力している人、頑張っている人にしか見えないものなの。

 あなたが勉強しながら時給850円でバイトして、サラリーマンのお父さんとパートで頑張っているお母さんになるべく負担を掛けたくないというのは立派なものよ。

 だから頑張りなさい、あなたは必ず医者になれるから。

 人の痛みのわかる、立派な医者になるのよ」


 その高校生は泣いていた。


 「ありがとうございました。

 ボク・・・、ボク、本気で頑張ります・・・。ううううう」




 春木屋さんから戻って来たドンちゃんが高校生とすれ違った。



 「カレン様、また虐めたんですか? 泣いて出て行きましたよ、かわいそうにあのイケメン高校生」

 「高校に行けて大学受験も出来る。それだけでもしあわせなことなのに。

 あの子はまだ、それに気が付いていなかっただけ」

 「カレン様、ハイ、春木屋さんのシャインマスカット大福です。それからついでに美味しそうな苺大福も買っちゃいました」

 「ありがとう。お口、開けなさい」

 「はーい、アーン」


 カレンは角砂糖を1つだけ、ドンちゃんの口に入れてあげた。

 ドンちゃんは後足と前足、そして尻尾をばたつかせて歓喜した。


 「オーッ! めっちゃ美味しーい! 甘ーい! カレン様ありがとう!」

 「よかったわね?」



 角砂糖じゃなくて、大福をあげればいいのにね?

 カレンの意地悪。天使なのに。




第5話 教師を辞めたい

 ドンちゃんは栃木の名産である苺をジャブジャブと洗っていた。


 「ボク、栃木の苺だ~い好き!

 とちおとめでしょう? スカイベリー、とちひめ、 なつおとめ、 ミルキーベリー、とちあいか等々。

 知ってた? 苺はね? 大きくて光沢があるものや、葉っぱのある方が細くなっている苺が甘くて美味しいんだよ。

 それからね? 先っちょが一番甘いから、葉っぱの方から食べた方がいいんだよ。

 (筆者は葉っぱを取るのが面倒なので、葉っぱも食べちゃう)」


 苺なら洗っても大丈夫である、角砂糖のように溶けることはない。

 ドンちゃんは宇都宮に来て、かなり進化した。苺を洗って食べるアライグマになったのである。



 「それではいただきまーす」


 ドンちゃんが大きなスカイベリーを食べようとした時、お客さんがやって来た。


 「少しよろしいでしょうか?」

 

 ドンちゃんはムッとした。何しろこれから大好きな苺を食べようとしていたからである。


 「ちっともよろしくないよ。今、大切な苺タイムなんだから。ムシャムシャ モグモグ」

 「あっ、それは大変失礼しました。苺タイムは重要ですからね? 栃木県人として」

 「当たり前だよ。あの漬物石を氷の上に滑らせて、ブラシでゴシゴシやっているお姉さんたちだって「モグモグ・タイム」で業者が勝手に送って来る、下心丸見えのオヤツを美味しそうに食べているんだから、苺タイムはマストだよ。ところであのオリンピック競技って男子はないの?」

 「さあ、どうでしょう? テレビでは女子しか見たことがありませんが? でも可愛い女子が漬物石を真剣に投げてハラハラしている様は男子ではいかがなものでしょうか?」

 「男子がおやつ食べてても可愛くないもんね? よう知らんけど」

 「あの将棋の天才、「藤井あれだ」さんも、将棋のことよりも何を食って、「今日の勝負おやつはこれだ!」ですもんね? 将棋だかグルメ番組だかわからなくなってしまいます。

 ウチの学校もそうなんですよ、もうメチャクチャです」

 「お客さんは学校の先生なの? ムシャムシャ モグモグ」

 「はい、中学校の教師をしています。申し遅れました、私、武田金髪といいます。金八、じゃなかった金髪先生と呼ばれています」

 「もしかして、受け持ちは三年B組だったりする?」

 「よくご存知で」

 「熱血先生なんだね? 金髪先生は」

 「僕は教育現場に絶望しています。僕たちは機械や、腐ったミカンを作っているんじゃないんです。人間を作っているんです。それなのに教師同士やPTAとの不倫、業者からのキックバック、教師同士の権力争いにイジメの隠蔽。

 早朝や夜は保健室や体育用具室、トイレはラブホ状態なんです。神聖な学校がラブホテルなんですよ!

 だから教師を辞めようと思いまして今日、カレン先生に占っていただこうとやって来た次第です」

 「先生が先生に占ってもらいたいの? 何だかヘンだよね?」

 「そうですか? 裏金のあの政治家たちも先生と呼ばれていますけど?」


 金髪先生は金髪ではない、黒髪のロン毛である。あの「こらあ鉄矢、なんばしちょっとか!」みたいな先生であった。



     世の中はいつも変わって行くからあ~♪

     頑固者だけが~♪ 悲しい思いをする~♪


     シュプレヒコールの~波~♪

 


 ドンちゃんは思わず中島みゆき様のあの名曲、『世情』を歌った。


 「それではこちらにどうぞ。カレン様、お客様でーす」


 

 カレンはその時、長い脚を『やかましいやつら』の養護教諭、サクラ先生のように組んで、苺大福を食べていた。


 「もっと苺が食べたいわね? アンタ、さっき苺をたくさん洗っていたわよね? 私にもちょうだいよ」

 「イヤですよ! 春木屋さんのシャインマスカット大福も苺大福もひとりで食べちゃったじゃないですか!

 ボクには欠片すらくれなかったくせに!」

 「わかったわよ、角砂糖、2個あげるから」

 「角砂糖? 何ですかそれ? もう騙されませんよ、そんな角砂糖2個くらいで。じゅる(よだれ)」


 ドンちゃんはそう言って苺を食べに戻って行った。



 「ところでどんなご相談?」

 「はい、私、教師を辞めようと思うんですが、辞めても大丈夫でしょうか?」

 「そんな辞めようかどうしようか迷って、中途半端な気持ちで教壇に立っているのって子供たちに失礼よ。今すぐに辞めなさい。今すぐ! Right away! Right Now!」

 「でも教師という仕事にはやり甲斐を感じているんです。生徒もかわいいし。

 でも職場が腐っているんです、職員室も校長室も保健室もみんな腐ったミカンだらけなんです!」

 「だったら学校から腐ったミカンを捨てたらいいじゃない?」

 「そんなの無理ですよ、僕はまだ教師になりたての教師歴3年のヒラ新米教師ですよ」

 「だから何? それなら自分が偉くなって学校を変えなさいよ」

 「それまで待てません」


 カレンは水晶玉を覗いた。


 「あなた、学校を辞めなさい。そして政治家の秘書になりなさい」

 「政治家の秘書にですか?」

 「女性政治家のエッチなアソコ、秘所じゃないわよ、政治家が不祥事で逮捕されそうになったら身代わりになるあの秘書のことよ」

 「それはわかりますよ、一応これでも教師ですから」

 「そうすればあなたは10年後、滝山クリトリ、じゃなかったクリスタルと結婚し、民自党の政治家になって当選3回目で文部科学省の大臣になります。

 大臣になってあなたは教育改革をします。そしてついでに韓国統一教会も潰すことになるでしょう」

 「僕が大臣に?」

 「そうです、日本の金権政治を金髪先生がで変えるのです、あなたは金髪先生なんですから」

 「わかりました! ありがとうございます!」

 「鑑定料は1万円です」

 

 金髪先生は喜んで『占の館』を出て行った。



 ドンちゃんがじっくりと味わいながら苺を食べていると、


 

     石焼き~芋~ ほっかほかのお芋だよ~



 「何? 焼芋? 買いに行かなくちゃ! お芋屋さーん! 待ってー!」


 ドンちゃんは焼芋にも目がなかった。

 だがそれはカレンのモノマネであった。

 ドンちゃんがいない間に、カレンは苺をパクパク食べていた。


 

 「おかしいなあ。焼芋屋さん、どこにもいないぞ。はあはあ」


 ドンちゃんは街中を焼芋屋さんを探し回ってヘトヘトになっていた。もうすぐ夏だというのにである。


 「お芋屋さーん!」


 


第6話 テレビの終焉

 「もうテレビの時代は終わったんですよ」


 報道番組のデレクター、野々村はそう言って肩を落とした。


 「今はYouTubeとかSNSで個人がテレビ局になっているからねえ。

 しかもテレビみたいに政治家やスポンサーに忖度しなくてもいいから、けっこう自由で面白いもんね?

 まあ、真偽のほどは定かではないけど。

 テレビだって本当かどうか怪しいしね? あの街頭インタビューとかアンケート調べも明らかに意図したい結果への誘導だしね?」

 「テレビも新聞も、ジャーナリズムは死にました。

 すべてはカネなんです、カネのためなんですよ。大抵のスキャンダルは簡単に握り潰されてしまいます。

 カネで真実が歪められ、隠蔽されてしまうんですよ。

 何ヶ月も掛けて取材した大物政治家の女性スキャンダルや、大手芸能事務所の性加害問題。何度上司にボツにされたことか。

 特に性加害なんて酷いもんです。日本では殆ど性被害者が取り下げてしまう。

 カネと脅し、そして「今度、テレビの仕事、やってみる気はない?」と餌をちらつかせる。枕営業しないで女優なんかやれるわけがないんです。

 そして政治腐敗はもはや末期です。民自党の三階や森盛、アベベ派のクズどもはみんな野放しのままですよ。検察も裁判所も国税庁もみんなグルです。何が三権分立ですか!

 韓国統一教会の話も黙殺されています。政策活動費? ふざけるんじゃない! 愛人にマンションを買ってやることが政治活動ですか! それは政治ではなく「性事活動費」ですよ! そして自分に逆らう奴には暴力団にカネを握らせる、それも政策活動費ですよ!

 裏金は女には使っていない? お財布にあるお金にはこれは歳費です、とか文書費ですとか、政策活動費ですなんて書いてありますか? バカ言っちゃいけない! それなのに会社はそれを放送するなって言うんですよ!

 大谷翔平がスライディングをしてユニフォームのズボンが破けたとか? 通訳の一平ちゃんが焼きそばの一平ちゃんを食べたとか、どうでもよくありませんか?

 そして最後には報道番組なのに天気の話ですよ。まあ天気は大切ですよ、でもね? どうして天気予報のお姉さんにミニスカートを履かせて、「それではガチャポン、そら太郎。今日のお天気をお願いします」のこれですよ!

 あげくの果てにはピンクの豚ですよ豚!

 テレビには国民に対して広くわかりやすく真実を伝える義務があるんです!

 総理とメシ食ってザギンで飲んだくれて銀座のホステスのオッパイ触ってゴルフ三昧。冗談じゃありませんよ!

 僕はそのためにテレビ局に入社したわけじゃないんです!

 なんですかあの妖怪人間みたいな安市早苗は! ホッカイロ大学卒だという学歴詐称の英語が下手くそなあの都知事は!

 マザームーンのあのバカ議員は処分されましたか? あの八王子のチンピラ議員の萩乳田はぎゅうにゅうだは!

 そもそも何なんですか? 働き方改革って?

 僕らの若い頃は何日も家にも帰れず、風呂にも入れず風俗に行く間もなく働き続けました。でもその御蔭で仕事を覚え、ヘロヘロになりながらもいい番組を制作して来た自負があります!

 バラエティなんかも命がけでした。現に命を落とした奴もいたんです!

 何がハラスメントですか! 何が『オッパイお尻触っちゃダメ委員会』ですか! 彼氏や芸能人には喜んでヤラせるくせにですよ!」 

 

 (もう書ききれないよ。作者談)


 「ホント、あの感動の名作アニメ、『アルプスの少女 ハイジ』まであの下品な大手学習塾、『』に利用されて、ハイジやクララ、それにお祖父さんにペーターまでがあんな酷い役にされているわよね?」

 「これからテレビは一体どうなるんでしょうか?」

 「では勝手に占ってみましょう」 

 「それは他局の番組ですよ!」

 「まあまあ、落ち着いて」


 カレンが水晶玉を見ると、なんとそこにはエンディング・ロールが流れていた。

 そこにはキー局の名前と、最後に、



      今までご愛顧をありがとうございました

      これから私たちは地球を諦め、宇宙に向けて

      放送を開始することになりました。


      バイチャ



 「テレビは地球を離れ、月の裏側にテレビ局を移転しているようね?

 テレビと民自党はもうなくなるわ。近いうちに」

 「ありがとうございました! それじゃあこれから僕はガーターと組んで暴露系YouTuberになります!」

 「週刊文秋の記者なんてどうかしら? ドカーンと文秋砲を炸裂させて」

 「それもいいかもしれませんね。では失礼します」


 テレビマンの野々村は、そう言って希望を胸に、晴れやかな顔で帰って行った。




 ドンちゃんはテレビを見て笑い転げていた。


 「あはははは あはははは この『ゲバゲバ90分』って面白すぎ! あはははは あはははは」

 「この頃のテレビは良かったわよねー」

 「あはははは あはははは 笑いすぎてお腹痛い! あはははは」

 「そんなにテレビばっかり見てると馬鹿になるわよ」

 「あはははは あはははは」


 ドンちゃんはすでにバカになっていた。




第7話 母子家庭の行く末

 小学生の女子児童とその母親を前に、カレンの心はひどく沈んでいた。

 水晶玉には2年後に訪れる、その母子の悲惨な未来が映し出されていたからだった。

 ドンちゃんも神妙な面持おももちでその光景を心配そうに窺っていた。


 「いかがですかカレン先生? 私たち親子の将来に、希望はあるでしょうか?」


 母親は疲れ切っていた。

 おそらく美容院にも行くことも出来ず、自分で切ったであろう髪をヘアバンドで一束に束ねていた。

 化粧っ気はなく、瞳にも生気が感じられなかった。

 そして小学4年生であるというその子供は、擦り切れて汚れた、窮屈な靴を履き、もう晩秋だというのに薄着だった。

 髪も母親がレザーカットをしていたようで、バランスが悪かった。

 母子共にかなり痩せていた。


 ドンちゃんが女の子にメロンパンを1個あげた。


 「美味しいから食べてごらん。メロンパンは好きだよね?」


 少女はコクリと頷いたが食べようとはしない。

 母親は少女に言った。


 「せっかくだからいただきなさい」


 すると少女はメロンパンをふたつに割って、少し大きい方を母親に無言で差し出した。


 「お母さんはいいから、全部メグが食べなさい」


 少女はそれをかたくなに拒んだ。

 それは昨日、学校給食がなく、恵ちゃんと母親の紗奈さんは昨日から何も食べてはいなかったからだ。

 ドンちゃんは買って来たパンを全部、恵ちゃんにあげた。


 「すみません、お気遣いいただいて」

 「どうぞどうぞ、いっぱい買いすぎちゃったので、遠慮しないでどうぞ食べて下さい」


 恵ちゃんはそれをうれしそうに両手で抱えて微笑んだ。


 「お家に帰ってから食べる」



 カレンは次第に怒りが込み上げて来た。


 (一体この親子が何をしたっていうの! ただ懸命に生きようとしているだけじゃないの!

 こんな世の中、絶対に間違っている! せめてチャンスだけは平等にあるべきよ!

 お金持ちの家に生まれた子供は一生なんの苦労もなく、好き勝手に生きているというのに、貧乏な家に産まれる子供はずっと貧乏だなんておかしいわよ!)


 水晶玉には2年後、母親の紗奈がくも膜下出血でこの世を去り、恵は養護施設に引き取られて行く様が映し出されていた。


 いかにカレンが天使といえども、人の未来を変えることは許されない。

 カレンは苦しんだ。

 でもそれが紗奈と恵の厳しい宿命だった。

 母親の紗奈が死ぬのは神様がお決めになったことだからそれは絶対である。

 人は病気や事故で死ぬのではない。寿命が来てあの世へと帰るのである。だがそれは現世での過酷な修行の終わりでもある。

 何不自由のない生活が幸福であるとは限らないのだ。

 人間の歓びは、自分や愛する人の成長、進化にある。

 人は困難を克服することで歓びを得るものなのだ。

 お金は必要だが、お金がすべてではない。

 お金持ちが人間として成功者で偉いのかというのなら、悪徳政治家や資本家たちは果たして立派な人間なのだろうか?

 いな、そうではあるまい。人間の価値とは思い遣り。そのやさしさにあるのだ。

 アメリカのハード・ボイルド作家、レイモンド・チャンドラーが言ったように、


 

      男はタフでなければ生きていけない

      やさしさがなければ生きている資格はない



 これは男女に関係なく言えることである。

 死は決して不幸なことではない。人はしっかり生きて、キチンと死ななければならないからだ。

 自殺や中途半端に死んで、浮遊霊や地縛霊になってはいけないのである。

 神様に愛される生き方をすることが一番大切なことなのだから。

 母親の紗奈は死んで天国に迎えられることが既に決まっていた。

 彼女の名前は天国住民台帳に記載されていたからである。

 そして娘の恵はあの『黒い巨根』、じゃなかった、『白い巨塔』の里見先生のような江口洋介似のやさしくて信念のあるドクターと結婚し、一男一女をもうけ、家族仲良く暮らすことになっていた。



 「紗奈さん、あなたのように愚痴や不平不満を言わず、人の悪口も恨みも言わないあなたには、天国へのチケットがすでに発行されています。そして恵ちゃんも将来はそんなお母さんに育てられたのですから、たとえ今は苦しくても、しあわせな未来が待っています。ですからどうか安心して下さい」

 「ありがとうございます、カレン先生」


 紗奈は小銭と千円札で鑑定料の一万円をカレンに差し出した。


 「細かくてすみませんが、これで一万円あると思うのですが、どうぞご確認下さい」


 カレンは言った。


 「お金は要りません、このお金で恵ちゃんに服と新しい靴を買ってあげて下さい。

 そして何か栄養のある物でも食べて下さい」

 「すみません、お気遣いいただいて、ううううう・・・」


 母親の紗奈は泣いていた。

 ドンちゃんももらい泣きしていた。



 恵ちゃんは何度も振り返り、ドンちゃんとカレンに手を振っていた。

 大事そうにパンの袋を胸に抱きしめて。



 ドンちゃんは何度も前足で顔を洗っていた。

 流した涙を洗い流すために。


 ううううう ジャブジャブ ううううう ジャブジャブジャブ


 ドンちゃんはアライグマだからである。




第8話 『国なんて関係ないよ医師団』

 洗いすぎて小さくなった金平糖こんぺいとうをドンちゃんが食べていると、あのパソコン会社、『林檎』の会長、ビル・ゲッツみたいな黒のタートルネックを着た男性が入って来た。

 年齢は40才くらいで痩せこけてはいたが、全身から知性と教養が漂い、涼し気で澄んだ、キリストのような瞳をしていた。


(キリストの瞳は見たことがないが、おそらくエメラルドとアクアマリーンとムーンストーンとダイヤモンドを混ぜ混ぜしたような瞳の筈だ)


 「カレン先生に占ってもらいたいなりか?」


 (ミヤゾン・プレミアムで『キテレツ大百科』を見ていたドンちゃんはすっかりコロ助に影響されていたのであったなり)


 「はい、それで一時日本に帰国しました」

 「それではこちらに来るなりよ」


 

 「カレン先生、お客様ですなり」

 「どうぞ、そこにお掛け下さい」


 そのビル・ゲッツみたいな男性は静かに語り始めた。


 「私、善哉ぜんざい五郎という外科医です。今、あの地獄のようなガザで、『国なんて関係ないよ医師団』で働いています」

 「自分が国際法違反で逮捕されるのがイヤで、いつまでも「負けない戦争」をダラダラと続けて、パレスチナ人をかつて自分たちがナチスからされた、あのホロコースト(大量殺戮)をしているっていうあそこで?」

 「そうなんです、私も今日、先生に戦争が早く終わるのかどうか、占っていただいたらすぐに医師団にまた加わるつもりです。戦争はお互いに憎しみが連鎖してゆくものです。どこかでそれを断ち切らなければいけない。

 憎しみは憎しみしか生みません。兵士たちは人殺しが仕事ですが、実際の戦争で犠牲になっているのは老人や女性、子供たちといった、なんの罪もない弱い人たちなんです。

 毎日毎日、手や足を失い、血だらけになった人たちが病院に運ばれて来ます。

 ベッドは足りず、患者さんは床や廊下、屋外に溢れ返っています。

 電気は発電機で賄い、その燃料すら滞りがちです。薬や医療器具は不足し、水や食料も満足にありません。

 劣悪な環境です、病院が地獄なんですよ? 毎日、人がバタバタと死んで行きます」

 「自分たちのことを神様から『選ばれし民』だなんて言って、キリストまではりつけにしたユダヤ人は、「神殺し」のそしりを受け、ローマ軍によって滅ぼされた『亡国の民』じゃないの!」

 「モーゼもキリストもユダヤ人でした。でも旧約聖書に書かれた、モーゼの『十戒』をユダヤ人たちは守ってはいません。

 他信教の禁止、偶像崇拝も駄目、神の名をみだりに唱えてはいけない、安息日を守る、父母を敬うこと、殺人を犯してはいけない、姦淫の禁止、盗んではいけない、隣人を偽ってはいけない、そして隣人の家や財産を貪ってはいけない。そんな10の戒律を守ってなんかいません。 殺し放題、奪い放題のやりたい放題なんです」

 「彼らはおカネはチカラ、すべてだと思っているのよ。

 世界中の富の殆どをユダヤ人が独占していると言われているわ。

 「金貸し」を最初に始めたのもユダヤ人じゃないの!」

 「ユダヤ人はあの土地に石油があることを知り、イギリスの大富豪、ロスチャイルドからの莫大な金銭的支援を受け、イギリスの強大な軍事力をバックに、パレスチナの土地を買い漁りました。本来、アラブ人はフレンドリーな人たちなのに」

 「ユダヤ人の入植を黙認し、そして逆に国を占領され、元々の原住民であったパレスチナ人を追い出してイスラエルを建国をしたのが今のイスラエルなのに。

 文字通りパレスチナ人はひさしを貸して母屋を盗られてしまったのよ!

 ユダヤ人がそんなに土地が欲しいなら、アメリカの土地でも売ってもらえば良かったのよ。

 あっ、アメリカもアングロサクソンがインディアンを殺して手に入れた土地だもんね?

 みんな騙されているのよ、そんなイギリスに。

 何がエリザベスよ、チャールズよ、カミラよ。冗談じゃないわ!

 小指を立てて優雅にアフタヌーン・ティーなんか飲んでいるけど、その紅茶は武力鎮圧で獲得した、血まみれのお茶なのに。それを世界は称賛している、バッカじゃないの!」

 「ユダヤ人は聖地であるエルサレムに拘っているのです。

 カレン先生、どうしたら戦争は世界からなくなりますか?」

 

 カレンは押し黙ってしまった。


 「戦争はなくならないわ。人間に欲がある限りはね?

 もっともっと豊かになりたい、もっともっと大きな家に住みたい、いいクルマに乗りたい。

 もっともっと権力が欲しい、もっともっと領土を広げたい、いい女を抱きたい。

 戦争は「もっともっと」という、人間の際限のない欲望が引き起こすものだから。



       自分たちさえ、自分さえ良ければいい



 それが戦争が起きる最大の原因よ。

 でもね? 戦争を起こさないようにすることは出来るわ。

 それはね? 分け合うことよ」

 「分け合うことですか? 仰る通りだと思います。

 そうすれば争いは起きませんからね?」

 「そう、分け合えばいいのよ。

 ラグビーでよく言うじゃない? 



       All for One One for All

       みんなはひとりのために

       ひとりはみんなのために



 そうすれば軍隊も核兵器もいらない世界になるわ。

 強い者は弱い者を助け、弱いものは強い者を労う」


 カレンは水晶玉を覗き込んだ。


 「いかがですか? カレン先生」

 「ユダヤ人がいる限り、まだ戦争はなくならないようね?

 でもそんなユダヤ人を毛嫌いするだけでは駄目。それではあのヒトラーの二の舞になってしまうわ。

 それには子供たちの教育しかないんじゃないかしら?

 簡単なことなんだけどね?



       人が嫌がることを人にしない

       自分がして欲しいことを人にしてあげる



 ただこれだけを教えてあげれば世の中はすごく素敵な世界になると思うんだけど」

 「カレン先生、ありがとうございました。

 私は医者として、出来る限りのことをしたいと思います」

 「体に気をつけてね? でも無理よね? 戦場に行くあなたにそんな話は」


 カレンは自分の身につけていたネックレスを外すと、それを善哉五郎の首に掛けてあげた。


 「これは天国のお守りよ。これをつけていればあなたは死なない、絶対に。

 たくさんの尊い命を救ってあげてね? 五郎先生」

 「ありがとうございます、カレン先生」



 するとコロ助、じゃなかったドンちゃんが、未来からやって来たアライグマ型医療ロボット、ロビンちゃんを連れてやって来た。


 「善哉先生、この子も一緒に連れて行ってほしいなり。

 きっと先生のお役に立つ、優秀なナースになってくれるはずなりよ」

 「ありがとうございます」

 「センセイ ヨロシクオネガイシマス」

 「こちらこそ、それじゃ行こうか? ロビン」

 「ハイ」


 アライグマ型ロボット、ロビンと善哉五郎は戦地へと向かった。

 

 


最終話 パンドラの匣

 その小柄な女の子は小さな箱を持ってやって来た。


 「占ってもらいたいなりか?(ドンちゃんはコロ助の話し方がとても気に入っていた)」

 「これをカレンさんに」


 女の子はそのはこをドンちゃんに差し出した。


 「この箱の中には何が入っているなりか? 二段のお重みたいだけどなり?」

 「開けて見ればわかります」

 「もしかして、君はパンドラなりか?」

 「さあ? それではごきげんよう」


 女の子はそれだけ言うと、匣を置いて帰って行った。



 「カレン様、さっきちゃんみたいな不思議ちゃんがこれを置いていきましたなりよ。

 中身を訊いたんだけど、「開ければ分かるって」言ってたなり。

 爆弾だったら大変なり!」

 

 ドンちゃんはそう言って怯えていた。

 だがカレンは匣を見て言った。


 「これはあの伝説の『パンドラの匣』ではないわ。

 大丈夫、これは『渡る世間は渡りに舟じゃ』の松花堂弁当の重箱だから」


 カレンがその重箱を開けると、美しい松花堂弁当が重ねてあった。


 「毒とか入っていないなりか?」

 「いらないならいいわよ、私がひとりで食べるから」

 「ちょ、ちょっと待つなりよ、吾輩も食べるなりよ~」

 「でも洗っちゃ駄目よ」

 「お茶漬けならいいなりか?」

 「ダメに決まってるでしょ!」


 するとその重箱には手紙が添えられていた。

 大天使ミカエルからだった。



       我が愛しの弟子 カレンとその他(ドンちゃんのこと)へ


       いつも天界より見ておるぞ。実に頑張っておるな?

       人間の人生には辛いことがいっぱい起こる。それは

       生きることは魂の修行だからじゃ。

       だがそれは人の魂を磨き、成長させることでもある。

       人間はどんなに苦しいことがあっても、「希望」さえ

       あれば生きてゆけるものじゃ。

       ご苦労様、これはそのほんの褒美じゃ。

       味わって食べるが良い。

                    バイチャ


       大天使ミカエルより



 「吾輩のことを「その他」って? 酷いなり」

 「まあ気にしない気にしない、人生は気にしないのが一番よ。

 それではいただきましょう、ミカエル様からのご褒美の松花堂弁当を」


 ふたりは仲良く松花堂弁当を食べていた。

 するとそこへさっきの女の子を連れて、大天使、ミカエルが現れたのである。


 「ミカエル様!」

 「いいからいいから、そのままそのまま。食べながら聞いてよいぞ」

 「その女の子は誰なりですか?」

 「この子はパンドラじゃ。かわいいじゃろ?」

 「はい、とてもソノちゃんみたいでチャーミングですね?」

 「ワシの愛人じゃ」

 「えっ、ホントなりですか! ロリコン?」

 「冗談じゃよ、パンドラはワシの知り合いの娘さんじゃ。

 ワシが人間界に行くと言ったらついて来たのじゃ。

 それでここに使を頼んだわけじゃ」

 「初めてのお使いなりか?」

 「まあそんなところじゃ。ところでカレンとその他とやら、どうじゃ、そろそろ天国へ戻って来んか?

 人の悩みを聞くことは大変じゃからのう、疲れたじゃろう?」

 「ありがたいお言葉ですが、それは辞退させていただきます」

 「なぜじゃ? 天国は楽園じゃぞ? それなのにどうしてこんな薄汚れた外界に拘る?」

 「天国はすばらしいところです、でもそれだけでは満足出来なくなってしまいました。

 ここ宇都宮はとても素晴らしいところです」

 「満足出来ない?」

 「はい、毎日好きな時に好きな物を食べ、寝て、チョメチョメしてお買い物(すし)ざんまいの日々はあまりに退屈です。私はここ、餃子の街、宇都宮に来て、もちろん辛いこともありますが、迷える宇都宮の人たちに希望を与えることに歓びを感じるようになりました。これは私の生き甲斐なのです」

 「でもあまり長く外界に留まると死んでしまうぞ」 

 「それは承知しております」

 「実はな、カレンとその他よ。このパンドラはお前の交代要員なのじゃ。

 宇都宮の希望はこのパンドラに託したのじゃ」

 「それは困るわカレン、私もドキドキハラハラしたいもの! この宇都宮で『みんみん』の餃子が食べたいの!」

 「わかりました。ではパンドラに宇都宮の希望はお任せすることにします」

 「ではお前はどうするのじゃ? カレン」

 「私は別なところで希望を与え続けるつもりです」

 「それはどこじゃ?」

 「それはすでにご存知のはずです」

 「あそこへ行くつもりなのか? その他と」

 「いえ、その他はここへ置いて行くつもりです」

 「その他言うななり! そんなのイヤなりよ~。吾輩もカレン様と一緒について行くなり~! うええーん」

 「あなたはここでパンドラを守るのよ、宇都宮の交通ルールが最悪なのはわかっているわよね?

 あなたにはそんな交通違反のドライバーたちからパンドラを守ってあげて欲しいの。

 インターパークのとんかつ専門店、『かつぞ』から休日のクルマが渋滞している時に、絶対に間に割り込ませてはくれない宇都宮なのよ!」

 「でも吾輩はカレン様と離れるのはイヤなり! ううううう」

 「あなたは私の愛弟子でしょ?」

 

 するとあら不思議、ドンちゃんは小池徹平のような美しい青年になったではありませんか!


 「これでもうあなたは物を洗わないで食べることが出来るわ」

 「カレン様・・・」

 「パンドラのこと、お願いね?

 また今度の人事異動でミカエル様に異動願を出せばいいじゃない、その時はまた私を助けてちょうだいね?」

 「ううううう カレン様~」




 そしてカレンは次の地へと旅立って行った。

 そう、あのイスラエルの攻撃で砲弾が飛び交う廃墟と化したガザ地区にである。

 カレンはそこで善哉五郎と一緒に『国なんか関係ないよ医師団』で医者をしていた。


 「善哉先生、血が止まりません!」

 「慌てるなカレン、お前はみんなの生きる希望なんだ!」

 「はい! 死んじゃダメよ絶対に! あなたを死なせはしないわ! 私、失敗しないので!」



                              『宇都宮カレン 占の館』完




   


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【完結】宇都宮カレン 占の館(作品240511) 菊池昭仁 @landfall0810

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