第四章 奪還作戦編

第29話 狐の過去

 お父さんとイレイザーが襲来した翌日、迅刑事が当事者達に事情聴取をする為に学校を訪れた。そこでエーミールが事情聴取に答えた。


「───それで例の暗殺者"お父さん"が現れた上に、犯罪組織イレイザーまでお越しなさった訳か。そして教師一人が大怪我を負い、生徒一人とその暗殺者がまとめて連れ去られたと。」


「はい、兵十君とお父さんを連れ去ったのは以前の連続失踪事件と同一犯だと思われます。1日経ちましたが、身代金の要求などが無いので恐らくイレイザーは人質目的ではなく、兵十君そのものが目的で連れ去ったんだと思います。」


「何の目的で奴らは兵十を連れ去ったんだ?」


「分かりません…でも連れ去った人物の口ぶりから、兵十君と彼らと間には何か関係がありそうです。もしかすると、彼らにとって兵十君が何か重要な存在なのかもしれません。」


「つまり今、最も優先すべき事は────」


「兵十君の奪還です。」


 エーミールは真剣な眼差しで堂々と言い切った。エーミールは兵十を助けたい気持ちでいっぱいだった。しかし迅は眉間にしわを寄せていた。


「しかしイレイザーが相手とは厄介だ。俺達警察じゃ手に負えないぞ………。イレイザーは3年前の能力者戦争の発端となった組織だ。多くの能力者が在籍している上に、奴らの手には危険指定文具『遠飛浮来えんびフライ』がある。奴らに迂闊に手は出せば、命の保証なんてものはないだろう……。」


「でも、兵十君の身の安全の保証もありません………。」


 迅は腕を組んで少しの間悩んだ末に、結論を出した。


「警察に解決できない案件は、軍に回される。イレイザーが相手なら恐らく『国軍対能力犯罪特殊部隊・執行人』が動くかもしれない。」


 エーミールは『執行人』という名を聞き、3年前の記憶を噛み締めた。


「執行人。能力犯罪に対抗するべく作られた国軍最強の部隊ですね。数名の能力者を含めた国軍の精鋭50名で編成されていて、これまで数々の大規模な能力犯罪を圧倒的な力で鎮圧してきた、この国の最後にして最強の砦。」


「エーミール、お前…なんかすげぇ詳しいな。」


 迅は普段は見せないエーミールの感情的な姿に目を丸くして驚いていた。


「それはそうです。3年前のあの日、僕らは執行人の副隊長さんに命を救ってもらいましたから。」


 エーミールは俯きながらズボンの布を強く握り締めていた。


「まぁとにかく、また何かあれば捜査に協力してもらうと思うから。そん時はよろしくな。あと、今回の案件はお前達のような子供が出る幕は無いと思うから、大人しくしてろよ。」


 そう言い残し、迅は部室を出た。事情聴取を終えた迅は光が丘高校を後にした。部室では連れ去られた兵十を除いた部員4人が既に会議を始めていた。


「迅刑事が言うには、執行人が動くかもしれないみたい。」


「執行人って、あの国軍最強って噂の部隊か?」


「うん。でも、そんな最強の部隊でも3年前のイレイザーとの戦いでは犠牲になった隊員が居た。イレイザーはそれくらいの相手ってことだよ。最終的に戦争は危険指定文獣が戦場に放たれて、軍とイレイザー両方が甚大な被害を被って終結したけどね。」


 メロスはイレイザーの恐ろしさを知り、言葉を失ってしまった。そんな中エーミールは一人、やりきれない悔しさを滲ませていた。


「それにしても部長、どうしてイレイザーは兵十を攫ったんでしょうか………。」


 シュンタの問いかけにエーミールは、部室に残された狐のお面と兵十がグラウンドに落として行った火縄銃をじっと見つめてから答えた。


「兵十君には『秘密にしておいてもらいたい』って言われてるんだけど、これはみんなに伝えておいた方が良い気がするな。」


「秘密…?」


 エーミールは部室の壁に掛けられたカレンダーを見つめながら、口を開いた。


「兵十君は元々イレイザーの構成員の一人だった。でも彼は、能力者戦争の後に組織から逃げ出したんだ。」


「なんだそれ…初めて聞いたぞ……」


 メロスはエーミールが徐ろに初耳の話を初め、驚きを隠せなかった。


「どうしてイレイザーに所属していたんですか?」


「兵十君は生まれてから直ぐに、生みの親に捨てられてしまったんだ。それをイレイザーの首領が拾って、構成員として育てられた。そう兵十君は言っていたよ。」


「そんなことがあったんすか………」


「それで戸部君とシュンタ君が入学する前に、路頭に迷ってた所を僕とメロスが見つけて萬部に加入したんだ。そして、ここに隠れながら過ごしてきた。」


「なるほど、兵十先輩は自分の居場所がバレるのを恐れて部長以外には黙っていたんですね。」


「うん、あとこの事はルロイ先生も知ってる。兵十君の安全の為に迅刑事にも話してない。だから、今話した事は門外不出で頼むよ。」


 メロスは狐のお面を手に取った。そして火縄銃の方に目を向けて呟いた。


「いつも狐のお面を着けているのは、素顔を隠してイレイザーに見つからないようにする為ってことか。それじゃあこの火縄銃は?」


 メロスの言葉で戸部の脳内に、兵十と共に帰宅した時の記憶がよぎった。戸部はその時の会話をよく思い出し、振り返ってみた。


「兵十先輩、確か『恩人に貰った』って言ってました。」


「恩人って…その兵十を拾ったイレイザー首領のことか?」


「さぁ…誰に貰ったかまでは聞いてないんで何とも……」


 疑問がますます募り、部員達は頭を抱えていた。そんな時、ある者達によって部室の扉が開かれた。


to be continued

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