第30話 集結

 疑問がますます募り、部員達は頭を抱えていた。そんな時、ある者達によって部室の扉が開かれた。


萬部ここに来るのは久しぶりだな。元気か、エーミール。」


「あっ、スーホ先輩に……ぐうちゃん………!?」


 扉の前にはスーホと、軍服に身を包んだ若い男が立っていた。軍服の男の背中には国軍で高階級の者だけが身に着ける事を許される、立派な装飾が施されたマントを羽織っている。エーミールは軍服の男と姿を見て驚いていた。


「ぐうちゃん…本当にお久しぶりですね……!」


 久々の再会にエーミールは歓喜していた。しかし戸部は


「ぐうちゃん………って誰?」


「エーミール以外はぐうちゃんと直接会うのは初めてだな。ぐうちゃんは俺と同じここの卒業生で、俺とぐうちゃんとエーミールと律、4人で始めた萬部の元部長だ。」


「俺は津田由紀夫。スーホの言う通り、萬部の部長をやっていた。今は見ての通り国軍に所属している。俺のことは気軽にぐうちゃんって呼んでくれ。」


 津田由紀夫。光が丘高校卒業後、国軍入隊試験に首席合格。訓練兵時代から多くの功績を残しており、正式に入隊してからは約2年で大佐の地位まで上り詰めた逸材。所有している能力と、その冷酷な人格から付けられた異名は『冷徹無情の大佐』。


「最近テレビでも見ました!国軍大佐でありながら執行人隊長も務めてるんですよね………!」


「えっ、超エリートじゃん!」


 シュンタ津田のその堂々たる姿に興奮していた。津田はシュンタに勢いよく詰め寄られても動じない。


「まあね。じゃあ、本題に入ろう。我々執行人は5日後に少年の奪還作戦を執り行う事となった。そして俺は今日、イレイザーに連れ去られたという『兵十』について君達に尋ねに来た。そして折角だからスーホにも来てもらった。」


 津田とスーホは椅子に腰掛けた。エーミールはその向かい側の椅子に座り、残されたお面と火縄銃を見つめながら答えた。


「ぐうちゃんは兵十君とは会った事が無いですよね。兵十君は津田さんとスーホさんが卒業した後、萬部に入部しました。ある日、僕とメロスは路頭に迷っている彼を見つけました。始めは警戒されたけど、今となっては互いに信頼し合っています。」


 エーミールの話を聞き、津田は腕を組んで首を傾げていた。


「君の話に嘘は無いのだろうが………兵十という名前の人間は戸籍に記されていないんだ。」


 そうか、さっき部長が言っていたな。兵十先輩は生みの親に捨てられてからすぐにイレイザーに拾われた。だから戸籍に名前が載ってないのか………。


「軍も存在しない人間の救出など前代未聞だ。何かしら情報が無いと捜査も奪還も不可能となる。だからこうして君達の所へ尋ねたのだが、他に何か手がかりはないか?本人が写っている写真とか。」


「確かアルバムはこっちの本棚にしまってたような……」


 津田に言われ、メロスが部室の奥の本棚から一冊のアルバムを引っ張り出して来た。一同はアルバムを開き、中身を1ページずつ確認した。アルバムの前半には萬部を立ち上げたメンバーの津田、スーホ、エーミール、律の4人の写真が貼られてある。ページをめくっていくと、現在のメンバーの写真が貼られているページが開かれた。一同は兵十が写っている写真を探す。


「これは…………」


 兵十が写っている写真は複数あった。しかし貼られているどの写真にも兵十の素顔は写っておらず、全ての写真で兵十は狐のお面を着けていた。


「素顔の写真は無いみたいですね。」


「これじゃあ兵十の顔か分からないな。」


「兵十の顔が不明な以上、例え兵十を見つけ出しても判別が出来ず助ける事は不可能だ。」


「そんな……」


 津田の冷静な態度と言葉で、部員達は声一つ出なくなってしまった。数秒の間、部室の中に沈黙が流れる。部員達は自分達が兵十を助けに行きたい気持ちで山々だったが、イレイザーと執行人の戦いに身を投じる事に恐れていた。しかし、エーミールはいち早くその沈黙を打ち破った。


「なら僕が着いて行きます。」


 エーミールは堂々と言い放った。その凛々しい表情は部員達の心の迷いを消し去り、部員達は覚悟を決めエーミールに続く。


「俺達も行きます………!」


「それはダメだ。君達はまだ子供だ。大人として、君達を危険に晒す事など断じて出来ない。大人には子供を守る責任がある。先輩として、俺がお前達の代わりに行く。だからお前達は大人しく待っていてくれ。」


 スーホは表情一つ変える事なくきっぱりと断った。しかしエーミール達の決意は揺らぐ事はない。


「兵十君の顔を知っているのは今の萬部の部員だけです。他の誰にも知られていないなら、僕達が行かないと兵十君を助けられません。これは僕達にしか出来ない事なんです………!」


「だが君達は………」


「俺は賛成だ。エーミールの言う通り俺達は兵十の顔を知らない。兵十の奪還はこの子らにしか出来ない事だ。」


「ぐうちゃんまで………」


 スーホはやむを得ない状況を理解していたが、納得する事はできず萬部が同行する事を渋っていた。そんな中、部室の扉が再び開かれる。


「話は聞いたぞ、萬部。」


 扉を開いたのは生徒会副会長の修也だった。横には会長の律と、広報の与一がいる。


「こうやって会うのは久しぶりですね、ぐうちゃん。」


「律………!」


 律は堂々とした足取りで津田の目の前まで進み言った。


「我々生徒会も同行させてください。生徒会には生徒を守る責任があります。僕は会長として、生徒を救出しに行きたいです。」


「そうだ、忘れるなよ俺達生徒会を!兵十の顔は俺達生徒会もこの目で見た!」


「君達まで何を言ってるんだ…………!?」


 スーホは萬部に加えて生徒会の3人までもが同行をせがむ状況に頭を抱えた。しかし大人達だけでは解決できない事をよく理解し、決断を迫られていた。


「スーホ、これは仕方がない。エーミールの言い通り、兵十の奪還はこの子らにしか出来ない事だ。そうらこの子らは俺達にとって必要な存在だ。」


「それは分かっている……でも」


「ここでこの子らを引き離すという事は、この子らの仲間を、兵十を見捨てる事になる。国軍大佐としてそんな事はできない。だからスーホ、俺達が先輩として後輩達を護ろう。」


 スーホは津田の言葉で、後輩を護る事を堅く誓った。


「…………ああ、そうだな。俺はお前の言う事を信じるよ。ぐうちゃん……!」


 津田はマントをなびかせながら椅子から立ち上がり、全員と目を合わせながら話し始めた。


「君達は以前にイレイザー構成員数名と交戦したと聞いている。その時は返り討ちに出来たようだが、今回は違う。戦闘となれば、奴らは恐らく総力を投入してくるだろう。場合によっては3年前のような最悪の事態も想定される。我々がこれから向かうのは過酷な戦場だ。君達には、そこに飛び込む覚悟はあるか。」


「ああ、男に二言は無い。友の身に危機が迫っているのならば、俺は迷わず助けに行く。」


 与一はその場に居た誰よりも真剣な眼差しで津田の目を見つめていた。そしてその覚悟は、他の者達も一緒だった。


「分かった…………ありがとう。作戦決行は5日後。兵十が捕らわれているのは恐らくイレイザーのアジトだ。場所は辺りが能力者戦争で戦場となり、廃墟となった東京都心の高層ビルだ。皆、宜しく頼む。」


「必ず全員、生きて帰ろう。」


to be continued

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