第26話 惨劇

 ルロイは食堂の厨房を出た。ルロイは周りに警戒しながら進む。すると直ぐに、お父さんが斬りかかってきた。それに対しルロイは斬撃で応戦する。


「復讐など愚かな事はやめろ!復讐は何も生まない……。新たな復讐を呼ぶだけだ!」


「黙れ!」


 お父さんは飛んでくる斬撃を全て斬り刻んでルロイに向かって突進する。男はルロイを壁まで追い込み、ルロイの顔面目掛けて刀を突いた。ルロイは辛うじてそれを躱し、刀はルロイの頬のすぐ右横に突き刺さる。その時、特徴的な刀の鍔がルロイの目に留まった。


「この刀…まさか庄兵衛のか……!?どこでそれを…」


「庄兵衛…?誰のことだか知らないが、この刀は戦場で拾った物だ。」


「英雄と呼ばれた男の刀で人の命を奪うとは………。庄兵衛が知ればさぞ悲しむだろうな。」


「………………俺が知ったことではない。」


 お父さんは壁に突き刺した刀を右に動かし、壁を斬り裂いた。ルロイは刃が自身に到達する前に辛かがんで、辛うじて躱した。


 日本刀で壁を切断した…!なんだこの斬れ味は…。能力で強化されているのか……?


 ルロイはお父さんと距離を取るが、直ぐにお父さんは距離を詰める。咄嗟に転がっていた瓦礫で刀を止めようとしたが、お父さんは瓦礫ごとルロイの右腕を切断した。ルロイは直ぐに左腕で治癒の指言葉を示し、右腕を再生させた。


「両腕を落とさなければお前は無限に再生するのか……。この化け物めが。だから能力者は嫌いなんだ。」


「お前の方こそ、一太刀で瓦礫を一瞬で切断するなどあり得ない……。お前も能力者じゃないのか?」


「俺は能力者ではない。瓦礫が斬れたのは、この『庄兵衛』とやらの刀の斬れ味が良い、それだけの事だろう。」


 この男、能力者ではないのか…?だが瓦礫の切断など、庄兵衛にもなし得なかった業だ。果たしてそんな事が能力無しで可能なのか……。もしや自身が能力者である事に気付いていないのか?だとしたらこの男の能力は恐らく「硬度を無視して物体を切断する」といった所だろう。確かにそれなら自分では気付けないかもしれない。


「次は両腕を落とす。」


 お父さんは再びルロイに斬りかかる。攻撃は絶え間なく浴びせられ、刃はルロイの身体に傷をつける。ルロイは能力で治癒するが、治癒した箇所を再び斬りつけられ体力の消耗が激しい。


 二人が逃げる時間稼ぎをしなければならないのに、このままでは私が殺られてしまう……。こうなったら奥の手だ。一か八かだが、今はやるしかない。


 ルロイは斬撃を全方向にに放った。斬撃は壁や天井を斬り裂き、建物全体を駆け巡った。そして建物が崩れ始めた。


「俺を道連れにするつもりか……!」


「言っただろう、お前をここで止めると。」


 ルロイとお父さんが逃げる間もなく、修道院は瓦礫の山と化した。切断された配線から火花が飛び散り、瓦礫に燃え移った。そして瞬く間に火が燃え広がる。夏海と一雄は燃え盛る瓦礫の山を前に立ち尽くしていた。


「…………ルロイ先生!!」


 炎と黒煙が立ち昇る中、ルロイは瓦礫を掻き分けてなんとか脱出に成功した。ルロイは直ぐに辺りを見回し様子を確かめようとした。しかし周りは煙のせいでよく見渡せない。そんな中、ルロイは煙と煙の僅かな隙間から真っ赤な鮮血が飛び散る様子をはっきりと目にした。


「まさか…………」


 ルロイは煙の外へ抜け出した。そこでルロイは目にした光景に激昂した。夏海は目の前の血飛沫に声も出ず、ただ立ち尽くしていた。一雄は首から血を吹き出しながら倒れていたのだ。


「貴様あああぁぁぁぁ!!!」


 ルロイは怒りに任せ、大量の斬撃を四方八方に放った。お父さんは自身に向かって来る斬撃を全て捌ききる事ができなかった。斬撃はお父さんの身体に傷を付けて、お父さんに致命傷を負わせた。お父さんは傷を抑え、息を切らしながら呟く。


「ルロイ……アンタはいつか必ず殺す………。次に会うその時がお前の命日だ…………。」


 そう言い残し、お父さんは走って逃げ出した。お父さんは足取りがおぼつかず、追いかければ一瞬で捕獲できそうだった。


 ルロイは直ぐに追いかけようとしたが、背後から聞こえたうめき声で身体が固まった。後ろを振り返ると、顔面の左側から血を流している夏海の姿があった。その時、私は直ぐに悟った。私が無造作に放った斬撃が、夏海さんの顔を傷付けたのだ。


「先生……痛いよ………。」


 声を震わせて呟いた夏海を見て、私は直ぐに能力の治癒で傷を治そうとした。しかし、私の能力には致命的な弱点があった。それは『私自身が傷付けた相手の傷の治癒は完全に治癒出来ない』という事だ。


 私は治癒の能力を使い、何とか夏海の血を止める事が出来た。形は元に戻ったが、夏海の顔には傷跡が残り左目からは光が失われていた。私の手は震えていた。


「先生、一雄の傷を………!!」


「一雄君は残念ですが…既に息を引き取っています。私が出来る事はありません…………。」


「先生………酷いよ……………。先生は何のためにここにいるの…………!?」


 私はその言葉に心を打ちひしがれた。灰に姿を変えた修道院を横目に、私は膝から崩れ落ちた。それからどうなったかは、あまり思い出せない。


 気付けば、私は家で引きこもる毎日を過ごしていた。薄暗い部屋で暇を持て余す日々は、どうしようもなく憂鬱だった。


 私は先生でありながら何も守れなかった。それどころか、私の手で生徒を傷付けてしまった。子供達には大人に頼らずとも自分自身を守る力が無くてはならない。私は生徒を死なせない為に教育をする。そう硬く誓ったのだった。


──────────────────────────


「これがあの日、修道院で起きたことだよ。」


 そう言って夏海は前髪で隠れていた顔の左側をみんなに見せた。その瞳は瞳孔が無く蒼白かった。左眉から左口角にかけて大きな傷跡が残っている。


 あの男、お父さんがルロイ先生を精神的に追い詰め、夏海の弟を殺し、左眼が失明した原因にもなった張本人だ。


「あの男はあの日、戦争で両親を亡くした私から唯一生き残った弟も奪った。」


 夏海の手の震えはいつの間にか治まっていた。夏海は拳を強く握り、残った右眼でお父さんを強く睨んでいた。夏海の目は、俺が見たことないくらい鋭かった。


to be continued

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国語教本 家内ツマ @HasmukaiOkusan1204

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