第24話 望まれざる来訪者
「第五回戦、開始!」
戸部と夏海は互いに臨戦態勢になり構えた。
夏海は能力者ではない。無能力者同士の戦いになる。つまり、単純な格闘戦となる。
夏海は俺の方へ走って近づいてきた。そして俺に正拳突きをかました。夏海の正拳突きは重たく、受け流すのがやっとだった。さらに、様々な方向から蹴りが飛んで来る。
「これは……空手の型か!?」
「手加減しないから……!」
夏海は想像以上に手強かった。しかし俺も無策で挑む訳ではない。入部してから約2ヶ月間、俺は元軍人のルロイ先生から軍人が訓練にも使用する近接格闘術を教えてもらった。
俺は夏海の腕を掴み、絞め技に持ち込んだ。しかし夏海はいとも簡単に俺の絞め技から逃れてしまう。挙げ句の果て、俺が夏海に絞め技をかけられてしまった。
女子が相手だと気遣ってやりづらい……。向こうが手加減しないつもりなら俺も本気で戦わないとだよな………。でも本気で迎え討っても負けそうでヤベぇ……!
「痛たたたたた!!」
「戸部君優しい所はすごく良いけど、それが仇になる時もあるよ。」
俺の身体はミシミシと音を立て、悲鳴を上げていた。そろそろ本当にマズい、普通に負けそうだ。俺はすごい姿勢で逆転する術を模索していた。しかしその時────
「伏せろ!!」
突然ルロイが叫んだ。夏海は戸部を押さえつけ、共に地面に伏せた。次の瞬間、戸部の頬を何かがかすめ、頬を血が滴っていた。戸部が恐る恐る後ろを振り返ると、そこには日本刀を携えた男が立っていた。
「日本刀………!」
戸部と夏海の背後に居たのはスーツに身を包み、眼鏡をかけた30代の男だった。男は右手に持った日本刀をギラギラと輝かせ、ルロイを睨んでいる。
するとルロイは、お父さんの方へと歩き出した。その足取りは、一歩一歩が重たい圧を放っている。そうして戸部と夏海の前に背を向けて、お父さんに立ちはだかった。戸部にはルロイの背中が普段よりもずっと大きく見えていた。
お父さんは右手の日本刀の刃先をルロイに向けて口を開いた。
「ようやく見つけたぞルロイ大佐。久しいな、ざっと1年半ぶりくらいか?」
「貴様…性懲りも無く何をしに来た……………」
お父さんはルロイとの再会に、表情一つ変えなかったが歓喜していた。それに対してルロイは、激しい憎しみの感情溢れていた。
「前にも言ったが、俺はアンタら軍人に復讐する為にここにいる。一度逃したアンタを殺したくて、俺はアンタをずっと探していた。まぁ安心しろ、ついでにそこにいるガキ共も一緒に送ってやるらな。」
「………私は自分がどうなろうと構わない。だが、私の生徒達の命を奪うのは断じて許さない。私は誓ったのだ。もう二度と私の生徒達を傷つけさせないと。再び私の大事な生徒達の命を奪う気なら、お前をここで叩き潰す!」
「何を今更粋がっているんだ?お前はあの日誰も守れなかっただろ。それに、そこにいる
そう言いながらお父さんは夏海に刃先を向けて指し示した。ルロイは一瞬、夏海を顔を振り返ってから言った。
「私は守れなかった罪、傷付けた罪を全て背負って生きる。その罪の償いとして、この子達を私の命を削ってでも死守する。そして自身を守る力を身に着けさせる。それが教師として今の私にできる最大限の仕事だからな。そう、私の親友が教えてくれた。だから私は戦い続ける。」
「そんな幻想、俺が今すぐ断ち斬ってやる。」
お父さんはルロイに斬り掛かった。ルロイは両手の人差し指を交差させながら打ち付けて、大量の斬撃を放つ。お父さんは放たれた斬撃を日本刀で払いながら、ルロイに接近する。斬撃と銀色の刃が激しくぶつかり合う。その速さは、もはや目で追えない。両者、一歩も隙を見せることはない。
萬部の部員達はそれぞれ異変に気付き、校舎の中からグラウンドの中央を見つめた。兵十は男を目視し、その男が連続大量殺人犯のお父さんである事を確信した。
「間違いない。あれは昨日対峙した男、お父さんだ!」
「戸部君と夏海さんが危ない…!メロス。僕が幻影で隠すから、高速移動で戸部君と夏海さんを安全な所へ!」
エーミールが手を振りかざすと、メロスの周囲に蝶の幻影が現れた。蝶の羽の色が周りの景色の色へと変化し、メロスを背景と同化させた。その瞬間メロスはクラウチングスタートを決め、勢いよく走り出した。そして一瞬で戸部と夏海を抱えて戻って来た。
「二人とも大丈夫か!?」
戸部と夏海は無傷だった。しかし夏海の手は激しく震えていて、呼吸も乱れていた。夏海はこの瞬間も大きな恐怖と怒りに襲われていた。
「………夏海」
戸部は、今まで見たことない程怖がる夏海に対して何を言うべきか言葉を選んで慎重に考えた。その時、戸部はお父さんの発言を思い出した。
お父さんは、ルロイ先生と1年半前にも会っているような口ぶりだった。それと「アンタが夏海を傷付けた」って言っていた。そこに夏海も居たのか………?
「夏海、お前はあの男の事を何か知ってるのか?」
夏海は戸辺の真剣な眼差しを見て、少しだけ冷静になった。そして大きく深呼吸してから、小さく返事をした。
「うん。」
「1年半前、あの二人の間に何があったのか話してくれないか…………?」
夏海はゆっくりと立ち上がって、口を開いた。
「………わかった。今からあの日あったことの全てを話すね。」
to be continued
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