第21話 決裂と約束
「ならば全力でお前を俺の手で叩き潰すまでだ。」
セリヌンティウスは再び地面に手を着こうとし、メロスはセリヌンティウスに掴みかかる。メロスはセリヌンティウスの手が地面に到達する前に、セリヌンティウスの右腕をガッチリと掴んだ。
「地面に手付けられなけりゃ能力使えねぇよなぁぁぁぁ!」
「なっ……!」
セリヌンティウスは空いている左腕を地面に着こうとする。しかしメロスは左腕も掴み、セリヌンティウスの顔面を力いっぱい頭突いた。
「………っ!?」
セリヌンティウスは一瞬よろけた。しかし、すぐ体勢を立て直し、メロスの頭を膝で蹴り上げた。
「甘いんだよ!!」
セリヌンティウスの膝蹴りはメロスの鼻先にクリーンヒットし、鼻から鼻血が吹き出した。セリヌンティウスはメロスの両腕を振り払い、回し蹴りを入れる。しかしメロスは高速移動で躱す。
「さっきよりもずっと速い!」
「やっぱり、さっきまでメロスは本気を出してなかったんだね。」
部員達は歓喜しながら、メロスを眺める。
メロスはセリヌンティウスの周りを高速で走り、セリヌンティウスを奔放する。グラウンドの砂が舞い、互いの姿を隠す。
「目眩ましなどした所で無駄だ。」
セリヌンティウスは砂埃に手をかざして、砂を凝縮させた。セリヌンティウスを取り巻く砂は石となり、セリヌンティウスの掌に収まる。視界が晴れ、セリヌンティウスは周りを見回した。そこにメロスの姿は無い。
「消えた……!?何処だ……!?」
セリヌンティウスは一瞬戸惑ったが。背後から聞こえる足音に気付いた。
「後ろか!!」
セリヌンティウスが後ろを振り向くと、メロスが突進して来ていた。セリヌンティウスは咄嗟に右手の石を砂利に変え、メロス目掛けて投げた。
「痛っ……!お前逆もできたのかっ…!」
中に舞った大量の砂利は高速移動して来たメロスに直撃した。高速移動も相まって、ダメージが大きい。メロスの動きが鈍くなり、セリヌンティウスはその隙に再びメロスに岩の柱を叩き込む。
「ゔお゙っ゙……」
「自分だけが本気を出していなかったと思うな!」
セリヌンティウスは地面から、鋭い氷柱のような岩を突出させ、メロスを追い込む。
「ちぃ…囲まれた!」
鋭い岩がメロスを囲み、メロスは身動きが取れずにいた。
「これで終いだ。」
セリヌンティウスはメロスの真下から岩の柱を突出させ、メロスの顎に強烈な一撃を叩き込んだ。足元からの攻撃にメロスは気付かず、躱す間もなく喰らってしまった。
セリヌンティウスが岩を砂に変え、岩を崩した。すると、意識を失い倒れているメロスの姿があった。ルロイがメロスに近付き、戦闘不能を確認した。
「メロス戦闘不能。よって三回戦勝者、セリヌンティウス!」
「メロス。お前がどんな生き方をしようと、俺はあの方に従う。ただ、いずれお前と相対する事になるのは残念だよ……。」
そう言うと、セリヌンティウスは俯きながら立ち去った。
15分後、メロス先輩は治療室から部員達の元へ戻って来た。
「みんなごめん…。俺、何もできなかった……。」
メロス先輩は暗い表情で言った。
「いや、メロスは最後まで頑張ってくれたよ。」
エーミール部長がメロス先輩の肩に手を置いて慰める。
「ありがとうエーミール…。でも俺はみんな謝らないといけない事がある……。」
「謝らないといけないこと?」
「俺は最初、わざと負けようと思ってた。」
「そんなの、見てればわかるよ。」
「え……?」
メロス先輩は驚いた顔をしていた。
「でも最後は、全力で戦ってくれたよね。ありがとう。」
「エーミール………。」
メロス先輩の目は潤んでいた。
「萬部はこの先…今までよりもずっと危ないな事に足を踏み入れる事になる……。だから…だから俺は…お前らがこれ以上傷つかないように…せめて少しでも平和に暮らせるように…萬部が負けるように仕向けようとして……。」
メロスの頬を一筋の雫が伝う。
「それは分かってるよメロス。でも、僕らは困ってる人を助けたい。」
「でも…お前らみたいなすこぶる良い奴らには平穏に長生きして欲しいんだ………!」
メロスは胸のうちを全て曝け出した。すると、エーミールは顔をクシャクシャにしたメロスに近付き言った。
「戸部君が来た時に入部を止めた時も、僕に能力者について喋らせなかった時も、全部そう考えてたんだね。」
「ああ…。」
「ありがとうメロス。君は優しいよ。でもね、僕は津田さんとスーホさんの意志を受け継ぎたいんだ。」
「そうか……。」
「だからメロス。僕らが人を助けて、その上で長生きできるように、一緒に戦って欲しい。」
エーミールはメロスに手を差し出した。メロスは少し考えてから口を開いた。
「わかった。俺はお前らを信じて助ける。
…………でもこれだけは約束して欲しい。」
メロス先輩は差し出した手を握りしめて言った。
『ここにいる全員が、誰も欠けず卒業することだ。』
メロス先輩の眼差しは先程までとは違い、未来を見つめるようなものに変わっていた。
「エーミール、兵十、シュンタ、戸部。みんな約束してくれ。」
メロスは全員を一人づつの目を見ながら言った。
「もちろんです。」
「メロス先輩もですよ。」
「それに俺達はそう簡単に死んだりしない。」
俺とシュンタと兵十に言われると、メロス先輩は笑顔で返事した。
「ああ、そうだな…!」
メロス先輩明るい雰囲気の中、エーミール部長が口を開いた。
「さて、次は四回戦だね。」
俺は部長の言葉を聞き、一人緊張した。試合に出ていないのは俺と部長のみだからだ。
「今、萬部は1勝2敗。つまり次負けたら完全にこっちの負けになる。」
「じゃあどうすれば……。」
「僕が行く。僕が部長として、次にバトンを絆ぐ為に勝ってくる。」
そう言って、エーミール部長はグラウンドに向かって歩き出した。グラウンド中央に向かって行くエーミール部長の背中は、とても頼もしかった。
to be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます