第19話 熱き炎にあこがれて

 遡ること5年前


 あれは俺がまだ死ぬ前、小5の頃だった。その日俺はクラスメイトとケンカして、気が立っていた。


「ちくしょおォ!おれがわるいってのかよ!」


 帰り道、俺はイライラして道端に落ちていた石ころを蹴っ飛ばした。するとその石ころは、前を歩いていた男の後頭部に直撃した。


「痛っ…!」


 男はこちらを振り返り、鋭い目で俺を見つめた。


「おいクソガキ…テメェかァ?俺に石ころぶつけた野郎はァ…?」


 男はゆっくり俺に歩み寄って来た。俺は男の強い圧力に恐怖し、腰を抜かして声も出せず動けなかった。


「何とか言えよなァ…。殺っちまうぞゴルァ!!」


 男は拳を振りかざした。俺は目を閉じ身構えて、覚悟を決めた。でもその時、颯爽とあの人は現れた。


「待て!」


「アァ…?何だこのガキィ…?」


 俺の目の前にはあの人が立っていた。


「大人が子供を殴ろうだなんて最低だ!」


 あの人は男を指さして言った。


「何だテメェ中坊かァ?生意気な野郎だなァ…。そこのチビとまとめて殺っちまうぞォ!!」


 男はあの人に殴りかかった。しかしあの人は男のパンチを華麗に躱す。


「このガキっ…すばしっこい野郎だな……!」


 そしてあの人は男にパンチを繰り出した。しかしパンチは簡単に止められてしまった。


「フンっ、ガキのへなちょこパンチなんざァ効かねえよ。」


 所詮は中学生のパンチ。そう思って俺は一人で逃げようとした。その時、それはただのパンチではなくなった。


着火イグニッション!』


 日野修也の拳に火が着き、男の服を焼いた。


「あ、アチいッ!」


 そして炎の縄を出し、男を縛った。しかし男は炎の縄を簡単に千切ってしまった。そして男はあの人を殴り飛ばした。あの人は鼻血を流しながら地面に倒れ込んだ。


「全く手こずらせやかって……。次はテメェだ、チビ。」


 男は俺を見下ろして鋭い目で睨んだ。男は拳を鳴らして迫ってくる。俺は今度こそ覚悟を決めた。しかしあの人はまだ諦めていなかった。


「待てよオッサン……!俺はまだ負けていない!」


「あ…?しつこい野郎だな。」


 あの人は男に必死にしがみついて離さなかった。そしてあの人は男の脚に噛み付いた。


「痛あああっ…!畜生このガキィ!離しやがれ!!」


 男の脚からは血が出始めていた。そしてそのまま、男はあの人を振り払って逃げて行った。


「たすかった……。」


 俺は安堵した。そんな俺を見て、あの人は手を差し伸べてくれた。


「大丈夫か、少年。」


「だい…じょうぶ……。」


 俺はその手を掴んで立ち上がった。


「そうかよかった!」


 あの人は笑顔で俺に言った。


「お兄さんは……?」


「いたたたた…能力が上手く使えなくて手こずってしまった。カッコ悪い所を見せてしまったな…。でも少年が無事なら良かった!じゃあ気を付けて帰れよ!!」


 あの人はそのまま立ち去ってしまった。今でも覚えている、あの時俺はあの大きな背中に見惚れていた。そして居ても立っても居られず、俺はあの人を呼び止めた。


「あ、あの…!」


 あの人はこちらを振り返った。


「ありがとう……!」


 俺がぎこちなく言うと、あの人はニコッと笑顔を向けて手を振ってくれた。俺はあの人の姿が見えなくなるまで、道端で立ち尽くしていた。俺の心に浮かんだ言葉はただ一つ。


───カッコいい……!


───────────────────────


 あの日から俺はあの人にあこがれていた。そしてずっと追いかけていたあの人は、日野修也は目の前にいる。


「………アンタだったんだな。あの人、俺を助けてくれたのは…!」


「もしやシンタ、君があの時の少年か!?」


 二人はお互いが以前にも出会っていた事に気付いた。


「ああ、あの日俺の心はアンタに焦がされた!アンタずっと憧れていた!ずっと追いつきたかった!だから俺は、今ここでアンタを超える!!」


 シンタが修也を指さして言うと、修也は笑った。


「そうか………!君の全身全霊をぶつけてみろ!シンタ!」


 シンタと修也は互いに突進し、拳を繰り出す。


「喰らえぇぇぇ!!」


 シンタの拳は修也の頬へ届く目前だった。しかし僅かばかり、修也の拳がシンタの頬に届く方が速かった。シンタはよろけ、地面に倒れ込んだ。


「シンタ、戦闘不能。よって二回戦勝者、修也!」

 

「届かなかった…。」


 シンタは立ち上がる事ができず、空を見つめながら悔しさに溢れていた。


「立て、シンタ。」


 修也はシンタに手を差し伸べる。そしてシンタは修也の手を掴んで起き上がって言った。


「ずっとアンタに伝えたかった事がある。」


「なんだ?」


「アンタはあの時、『カッコ悪い所を見せた』って言ったけど俺はそうは思わない。俺を助けてくれたアンタは凄くカッコよかった。」


「シンタ…。」


 修也は少し泣きそうな顔をしたが、すぐに笑顔を見せた。


「今のシンタも、とてもカッコよかったぞ!」


 修也の言葉を聞いたシンタの眼差しは輝いていた。


「俺、貴方に一生付いていきます……!」


「そうか、嬉しい限りだ…!」


 二人の間に新たな絆が芽生えた。


 二人は肩を組みながら治療室へ共にルロイの治療を受けに向かった。


 to be continued

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