第13話 修道士の未練
モニターに映し出される映像を観て、一同が焦り出す。
「戸部と残雪が…!」
「早く助けないと!兵十先輩、火縄銃を…!」
「部長に言われて置いてきてしまった…。」
「そうだったぁぁ!!」
部員達が慌てる中、大造は無線で収容所内の職員に指示を出した。そんな中、ルロイはモニターを観ながら言った。
「やはり、無能力者は自分を守れない。」
「ルロイお前、最初から合格なんてさせるつもりは無かったのか!?」
ルロイの言葉を聞いた大造がルロイに詰め寄った。
「そうだ。無能力者には自分を守る力が無い。それを身を以て分からせたまでだ。」
大造はルロイの胸倉を掴んでルロイに怒号を浴びせた。
「馬鹿野郎!お前、生徒を危険な目にあわせやがって…一体全体何考えてんだ!?」
「これが私の教育の仕方だ。」
「生徒を危険に晒しておいて何が教育だよ…お前は誰よりも生徒を…子供を大事にする奴だったはずだ!どうして自分を守る事にこだわる!?」
ルロイは一瞬、口をつぐんだ。ルロイは生涯忘れる事のないであろう、1年前の出来事を思い出した。
「私はあの日修道院であの男から子供達を守れなかった!夏海が傷ついたのも私のせいだ。私に人を守る力なんて無いんだ…。」
「何言ってやがる…俺が知ってるお前は誰かが危ない時に、全力で守ってやれる強い男のはずだ!」
「私は何も守れてなどいない……。だから、生徒には自分の身を自分自身で守る力がないとダメなんだ!!」
「目の前自分を守れない未熟な生徒がいるなら、お前が守ってやれよ!!それが教師の仕事だろ!」
「こんな私に一体何ができる………?」
「そんな未練引きずっても失われた命は戻らない。大事なのはこれからだ。救えなかった分、目の前の命を救えよ。そうじゃないと、天国から見てる子供達に顔向けできないだろ。」
「目の前の命を……。」
「そうだ。目の前に救える可能性があるなら、お前がそれを救え。自分の身の守り方はその後教えてやればいい。それが『先生』だろ?」
「…………。」
ルロイは少し黙った後、決心したように言った。
「私の仕事を果たしてくる。」
ルロイは気づいた。自身のやるべき事に。彼の後悔と未練は親友の言葉によって打ち砕かれた。
「早く行ってやれ、ルロイ。」
大造は胸倉から優しく手を離し、ルロイの背中を押した。
彼の眼の色は変わっていた。ルロイは戸部を救うべく走りだした。
「もうダメだ…。」
俺は覚悟を決めた。 しかし薄れゆく意識の中、1人の人影を見た。
「誰か…助けに……」
人影はこちらに近づいてくる。一歩ずつ、堂々と余裕のある足取りで。人影の顔が見えた。
「ルロイ先生…!」
ルロイ先生は両手の人差し指を交差させ、打ち付けた。すると、ルロイ先生から斬撃が飛び出した。そしてクラムボンの両腕を落とした。俺はハサミから開放され、落下した。地面に追突する直前にルロイ先生が俺と残雪を受け止めた。
「戸部、大丈夫か。」
「酷いっすよ先生…こんな過酷な試験するなんて。」
俺は苦笑いだった。
「下がっていろ、これから私の仕事を果たす。」
ルロイは再び両手の人差し指を交差させ、構えた。
ルロイの能力は、指で印を作り能力を発動する。両手の人差し指を交差させ打ちつけると斬撃。人差し指に中指を絡めると味方の強化。親指を突き立てると自身と味方の怪我の治癒。これらの3種の効果を発揮できる。
ルロイが指を打ちつけると斬撃が炸裂する。斬撃はクラムボンの残り8本の脚の間接に的確に命中し、切断させた。
「すげぇ、一瞬で脚全部斬っちまった…!」
クラムボンは全ての手脚を落とされ、胴体のみが床に転がっている。しかしクラムボンはまだ息がある。
「再生には暫く時間がかかるはずだ。今のうちに退散だ。」
俺達は立ち上がって扉へ向かった。俺も残雪も無事だ。
「いいんですか?完全に殺さなくても。討伐が目的でしょ?」
「奴の胴体は私の斬撃でも斬れない程硬い。だからこのくらいが限界だ。それに始めから討伐させる気なんてなかった。軍の総戦力でも絶命させられなかった文獣だからな。」
「じゃあ何で俺にこんな無謀な試練を…?」
ルロイ先生は答えてはくれなかった。俺はそんな疑問を抱えてながら扉をくぐった。
扉をくぐると皆んなが出迎えてくれた。
「戸部君、無事か!?」
「へへっ、生きてますよ。ボロボロだけど…。」
「残雪も無事か。よかった。」
「すみません…残雪も怪我させちゃって。」
「大丈夫だ、傷の治りは人間より早い。すぐ元気になるさ。」
とりあえず、無事戻って来れて良かった。
「じゃ、帰ろうか。」
俺達は収容所を出た。日は沈み、空は紫色に染まっていた。帰りは大造さん車で高校まで送ってもらう事になった。
「戸部、検査の結果大きな怪我は無かったから安心してくれ。」
「良かったです…。それにしても疲れた。」
「そうだルロイ、戸部に謝る事あるんじゃないか?」
「そうだな。」
ルロイ先生はゆっくりと口を開いた。
「お前を危険な目にあわせてすまなかった。」
ルロイ先生は俺に頭を下げた。
「私は自分の身を守る事ばかりにこだわって、目の前の命を守る事を忘れていた…。だが気づいた。生徒に力が無いなら教えてやる。それが教育者としての使命だとな。」
車内の全員が微笑んだ。
「前の先生だ。」
「大事な物、取り戻しましたね!」
そしてルロイは俺に言った。
「戸部、お前を正式に認める。改めて、ようこそ萬部へ。」
ルロイ先生は手を差し出した。俺は差し出された手を握った。
「こちらこそ、改めてお願いします!」
先生の握手は万力のようにとても強かった。
俺達は段々と暗くなる空の下、帰路についた。
to be continued
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