第12話 入部試験

「戸部、準備はいいか。」


 ルロイ先生が俺に問いかけた。絶対に成果を出して先生に俺を認めさせてやる。


 俺は後ろを振り返り答えた。


「いつでも行けますよ…!」


「………そうか。」


 俺を見るルロイ先生の表情は暗かった。


「それでは、試験を開始する。」


 ゲートがゆっくりと開き、機械音声とブザー音が辺りに響き渡る。 


『ゲートの解錠を確認。ゲートを展開します。』

 

 五重の扉をくぐると、目の前には巨大な空間があった。俺は辺りを見回してクラムボンを探した。しかしその姿は見当たらない。


「いない…?」


 巨大化する前は普通のサイズなのだろうか。取り敢えず俺は歩き回って文獣を探す事にした。


 俺は1歩踏み出した。その瞬間、残雪が鳴き声を上げて反応した。


「どうした残雪?」


 俺はふと床を見た。目線の先には一匹のサワガニがいる。


「もしかしてコイツが───」


ゴゴゴゴゴ…


「うあっ!?」


 サワガニが突然巨大化し始めた。潰されそうになったところを残雪が俺を掴んで逃がしてくれた。サワガニは大造さんの言った通り高さ15mくらいに巨大化した。


「コイツがクラムボンか…。」


 クラムボンはハサミをこちらに向かって突き出して攻撃してきた。俺は何とかそれを躱しながら攻撃する隙を探した。


「残雪、透明化してアイツに攻撃してくれ!」


 残雪が透明化を使ってクラムボンに近付き、突進して嘴で攻撃する。しかし攻撃は全く通らない。


 一同が別室で、戸部がクラムボンに挑む様子をモニター越しで眺めている。


「戸部君、クラムボンに勝てますかね?」


「攻撃が全然効いてないようです。」


「蟹は甲殻類だ。あれだけ巨大化している分、甲羅が分厚くなってるから突破するのは困難だろう。言わば、身体中を硬い鎧で守っている鎧武者みたいなものだ。」


「並の攻撃は効かない訳か…。」


「だが、鎧武者にも弱点がある。」


「弱点?」


「その弱点は───」


 コイツ、硬くて攻撃が全然効かない。作戦を練りたいが繰り返し攻撃されて、考えている隙などない。考えろ、この空間において絶対的に安全な場所を。


「………上だ!!」


「残雪、俺を乗せて飛べないか?」


 残雪は頷いた。俺は残雪の背中に飛び乗った。すると残雪は勢いよく飛び立ち、クラムボンの頭上に到達した。これで一旦安全になった。


 一旦状況を整理しよう。クラムボンは図体がデカい分のろまだ。的がデカくて遅いから攻撃を当てやすい。しかし硬い甲羅のせいで攻撃が通らない。同じ箇所を繰り返し攻撃し続けても、こちらの体力が持たないかもしれない。このままじゃジリ貧だ。何か決定的な弱点があればいいのだか…。


再び別室にて


「───間接だ。」


「間接?」


「あぁ。鎧は身体を自由に動かせるように間接の部分には装甲を取り付けていないからさ。」


「つまり間接がクラムボンの弱点…!」


 考えろ…、考えろ…コイツの弱点は何だ……!?


 その時俺は、蟹を食べた時の事を思い出した。蟹って胴体から脚を千切って食べるよな…。身体はあんなに硬いのに間接はそうでもない…。そうか、間接だ…!


「残雪、まずは右腕から落とそう。間接の付け根を狙ってくれ!」


 俺は残雪の上から飛び降りた。そして腰の刀を右腕に目掛けて斬り込んだ。残雪も爪と嘴で間接にダメージを与えている。すると、クラムボンの右腕が落ちた。


 クラムボンの右腕が落ちるのを見て、一同は感心した。


「戸部君も気付いたみたいですね。」


「あぁ。」


「軍も捕獲時には間接を集中的に攻撃し、抵抗できなくさせたんだ。危険指定文獣とは言え、手脚を丸ごと再生するには時間がかかるからな。」


「確か7年前に行われた捕獲作戦で捕獲されたんですよね。」 


「討伐には至らなかったがな。」


「軍にも討伐は不可能と判断されたんですね。」


「ああ。そうだ。」


 すると突然、兵十が呟いた。


「何故先生は軍にも討伐できなかったクラムボンを戸部に討伐させるんだ?」


 一同の間に沈黙が流れた。そして全員の視線がルロイに集まる。ルロイは口を開こうとしない。


 クラムボンは右腕が落ちて動きが鈍くなった。


「やったぞ残雪、残りの手脚も落とそう。」


 喜びも束の間、俺と残雪が移動しようとした瞬間、クラムボンが暴れ出した。俺はクラムボンの背中から転げ落ちてしまった。


「くっそ痛ってぇ…。あぁ、刀折れちまった…。」


 でも確実にダメージを与えられた。この調子で続ければ勝てる…!


「残雪、もう一回俺をアイツの背中に!」


 俺は再び戦闘態勢に入った。しかし、その瞬間俺は目の前の光景に絶望した。 


「おいおい…お前腕治せるのかよ……。」


 クラムボンは落とされた自身の右腕を元の位置に押し付けて、断面を接続させた。そしてクラムボンは両腕のハサミで俺と残雪をガッチリ掴んだ。


「畜生っ…!」


 残雪が必死に抵抗するが、ハサミで握る力が弱まる事はない。


 やべぇ、殺られる…。俺は未だ何も…成し遂げてないのに……! 


 段々と身体の力が抜けてく。視界がぼやけ始めた。


「もうだめだ………。」


 俺は覚悟を決めた。


to be continued

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