第二章 入部試験編
第10話 顧問は修道士
「そう、ここが萬部顧問、ルロイ先生のお家だよ。」
そう言ってエーミール部長がインターホンを押した。しかし応答はない。
「応答なしか…。」
「留守ですかね?」
「さっき連絡を入れておいたから居ると思うんだけど…。」
「あ、開いてる。」
兵十先輩がドアに手を掛けて言った。そして兵十先輩はドアを開けて真っ先に入って行ってしまった。俺達も後を追って、家の中に入る。
「お邪魔しまーす…。」
家の中は静まり返っている。そこら中に蜘蛛の巣が張っていて、壁もボロボロだ。全く手入れがされていない。先輩達が靴を脱がないで入ってく。
「靴のまま入って大丈夫なんですか?」
「先生はカナダ人だからね。靴のまま上がって大丈夫だよ。」
シュンタがそう教えてくれた。
俺達は暗い廊下を進んでリビングに来た。部屋の中を見回すと、椅子に座って本を読んでる老人が1人いた。俺達が来ても、老人は本を読み続けてる。
「先生、お久しぶりです。」
目の前で座っていた老人に、部長が挨拶した。
「あぁ、お前達か…。まぁとりあえずその辺に座れ。今お茶を入れてくる。」
老人は栞を挟んで本を閉じた。老人からは生気が感じられない。とても静かに喋る。しかし、老衰している訳ではなさそうだ。老人が立ち上がると、かなり背丈があるし、腰も曲がっていない。すると、台所に向かって歩き出した老人は俺に気づいた。
「こいつは誰だ?」
「彼は戸部君です。萬部の新入部員ですよ。」
エーミール部長が説明したのを聞いて、俺に質問してきた。
「お前、能力はあるか?」
「いえ、ないです。」
「だったら今すぐ辞めろ。私は認めない。」
「え…?」
老人はそう言って台所に向かった。俺は困惑してしまった。認めない…?俺が無能力者だから?
「ちょっと先生、何言ってるんですか!?」
エーミール部長がムッとした様子で言った。
「エーミール、落ち着けって。取り敢えず座ろうぜ…。」
メロス先輩が部長をなだめて、俺達はそれぞれテーブルを囲んで椅子に座った。老人が紅茶を持って来た。そしてルロイ先生も椅子に座った。すると、エーミール部長が口を開いた。
「先生、認めないってどうゆう事ですか?」
「文字通りだ。入部は認めない。」
「どうして…?」
「無能力者は自分を守れない。萬部を甘く見るな。」
これが教師の言葉か。生徒に対してこんな否定的な態度をとるだなんて酷いな…。
「戸部君はこの前、イレイザーの構成員と戦ってくれました。そしてこの通り、無事生還してます。」
「そうです。俺は戦えます!」
ルロイ先生は俺を睨みながら言った。
「それは、お前だけの力か?」
「それは……メロス先輩が…」
「メロスに助けられたんだな?」
「……はい。」
俺は何も言えなかった。
「どんなに強固な覚悟が有ろうと、力が無ければ自分を守れない。そして自分を守れない奴は誰も守れない。」
確かにそうだ。俺はあの時メロス先輩に助けられた。俺1人じゃあの爺さんに勝てなかった。俺ごときの力であの子を救い出せるのかな…。
「先生。」
突然、普段はあまり自分から喋らない兵十先輩が口を開いた。
「どうして、俺は認めるんだ?俺も無能力者だ。」
「お前にはそれがあるからだ。」
ルロイ先生は兵十先輩の狐のお面を指差して言った。
「その強力な文具を上手く扱えるのはお前だけだからな。」
「なるほど。」
兵十先輩は納得したようだ。
「僕は3年前に能力が発現しました。なら今後、戸部君も能力が発現する可能性はないですか?」
「能力は先天的に存在するものだ。後天的に発現したのは世界でも前列がない。シュンタ、お前を除いては。」
「そうですか…じゃあ僕はどうして……?」
シュンタは困り果てた顔をしている。
「能力が無いなら自分を守れる保証はない。」
能力が無くとも、兵十先輩には兵十先輩の武器がある。シュンタにも特別な何かがあるようだ。でも俺には………
「でも戸部には優しさがある。戸部はイレイザーの構成員の少女を救い出そうとしてる。」
「戸部君は、教室でいつも一人の僕に普通に接してくれました。」
「戸部が居なかったらあの爺さんに勝てなかったかもしれないですよ。」
「そうです。三人の言う通り、戸部君には優しさがあります。戸部君には萬部に必要な素質があります。」
「みんな…。」
俺は涙目になってしまった。
「そうか…。」
ルロイ先生は少し考えてから言った。
「明日の放課後、入部試験を行う。」
「いや、戸部君はもう入部して───」
「私はまだ認めていない。いいな。」
エーミール部長は困った顔をしてる。
その入部試験とやらに受かったら認めてくれるのか。ならばやってやる。そして俺の力を証明してやる。
「わかりました。必ず合格して見せます…!」
「決まりだ。明日の放課後、高校の門の前にいろ。試験会場に連れて行ってやる。」
ルロイ先生は立ち上がった。
「いろいろ下準備があるからな。そろそろ帰れ。」
そう言われて俺達は立ち上がり、玄関へ向かった。
「お邪魔しました。明日はよろしくお願いします。」
俺はそう言って扉を閉じようとしたその時、ルロイ先生が言った。
「お前の甘さが、仇となる事もあるからな。」
「俺は負けませんよ。」
俺は扉を閉めた。
帰りのバスでルロイ先生についていろいろ聞いてみた。
「先生はいつもあんな感じなんすか?」
「いや、前はあんな事言わなかったね…。先生が部活に顔を出さなくなった時からあんな感じ。」
「前はもっと活き活きとしてたよな。」
「何かあったんですか?」
「ありそうなんだけど教えてくれないんだ…。」
どうして俺を頑なに萬部に入れようとしないんだろう。俺はそんなモヤモヤを抱えながら試験当日を迎えた。
to be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます