第8話 初陣
「戸部、行くぞ!」
「はいっ!」
俺達は同時に走り出した。俺は倒れてる警官の方へ、メロス先輩はあの爺さんの方へ。
「おい爺さん、こっちだ!」
「うら゙っ゙ うら゙っ゙」
爺さんはメロス先輩にパンチを繰り返している。しかし、高速移動のせいで当たらない。
「ちょこまかとしやがって…。」
メロス先輩が爺さんを引き付けている隙に、俺は警官の元へ辿り着いた。腰にある装備から警棒を取り出そうとした。しかし、それに気付いた爺さんがこちらに突進して来た。
「まずはお前から潰すしてやる!」
「戸部っ!」
この爺さん、メロス先輩に負けないくらい早い。しかも無茶苦茶ゴツい。能力者なのだろうか。いや、さっきこの爺さんは「これが能力者か。」と言っていた。つまり能力者の可能性は低いと思う。だからきっと俺が敵わない相手じゃない!
俺は反撃に出た。
「元サッカー部の蹴りでも喰らえっ!」
「ゔっ…!」
俺の蹴りがイイ所に入って、爺さんがよろけた。
その時ふと、エーミール部長の言葉を思い出した。
『戸部君ってさ、スポーツの経験はある?』
スポーツの経験があって良かった。爺さんがよろけた隙に、俺は警官の腰から警棒を取り出してメロス先輩に投げた。
「メロス先輩!」
「任せろっ!」
メロス先輩は警棒をキャッチして爺さんのうなじ目掛けて警棒を叩き込んだ。
「これで鎮めえぇぇ!」
「…っ!」
爺さんが膝と手を地面についた。だが意識がまだある。
「ちいっ、退散だ!」
爺さんがそう叫ぶと、俺達は影の外に押し出された。俺達が元々いた路地裏に出ると、爺さんが少女の影に飛び込んで、少女もそのまま影の中に消えてしまった。
「逃げられた…?」
「そうみたいだな…。」
俺達が周囲を見回すと、行方不明になっていた女性と警官の男性が横たわっていた。
「行方不明者はこの2人とあの爺さんって事か?」
「そうみたいですね。ニュースの顔写真と同じです。」
「でもあの爺さん俺らを襲ってきたよな。あの爺さん、俺らをここに誘き寄せてハメようとしたのか…?」
「だとすると…行方不明者の爺さんの妻を名乗ってた、依頼人のお婆さんもグル…?」
「いろいろと分からないなぁ…。とにかく、エーミールに報告しよう。」
メロス先輩はエーミール部長に電話をかけた。
「出ないな…。」
それもそのはず、現在エーミール達は交戦中である。
2丁目コンビニ前にて
エーミール、兵十、シュンタは、依頼人のお婆さんと戦闘中であった。
お婆さんは遠飛浮来を繰り返し振り、斬撃を飛ばす。3人はそれぞれ攻撃をかわすが、お婆さんに近づけずにいる。
「シンタ、力を貸してくれ…!」
シュンタがそう言うと、シュンタの目つきが鋭くなり、雰囲気が変わった。
「あぁ、任せろよ。」
シュンタの能力は、自身の肉体に3年前に死亡した親友「シンタ」の意識を一時的に宿すものである。意識を宿す事で、肉体の主導権はシンタへ移る。シンタを宿す事で、シュンタとシンタ2人分の筋力を得られる。普段シンタは、シュンタの隣に常に存在するが実体は無く、姿も声もシュンタにのみ認知が可能である。
シンタを宿したシュンタが斬撃を躱しながらお婆さんに突っ込む。
「シュンタ君!……いや今はシンタ君か…。シンタ君、迂闊に近づいたらダメだ!」
「お゙ら゙ぁ゙!」
シンタはエーミールの静止を聞かずにお婆さんに向かって突っ込んだ。シンタはパンチと蹴りを何発も繰り出す。しかしお婆さんはそれをいとも簡単にかわしてしまう。
「畜生ォ…ババァのクセにすばしっこいなァ!」
「ここは僕が!」
エーミールが手を振りかざすと、無数の蝶が現れた。
エーミールの能力は、無数の蝶の幻影を自身の視界に発現させるものである。蝶の色彩は変幻自在であり、エーミール視界に入る限り発現できる数は無制限である。実体は無く、触れる事は不可能だが、誰にでも認知できる。
お婆さんの目の前を無数の蝶が囲み、シンタが視界から消える。
「目眩ましですか、小賢しい…。」
蝶の幻影の外で、兵十が火縄銃にライターで点火して構えた。
「シンタ、伏せろっ。」
兵十の声と共に、『ドォン』と轟音が響き渡る。お婆さんが両腕を顔面の前に出して身構えた。しかし弾丸は飛んで来ない。
「弾丸が来ない…まさか今のは空砲!?」
「シンタ君今だ!」
お婆さんが立ち尽くしてると、蝶の幻影が消え去った。そして兵十がシンタに火縄銃を手渡した。シュンタが火縄銃を持ってお婆さんに向かって突っ込む。
「俺達をハメようったて無駄なんだよォ゙ォ゙!」
「空の火縄銃で何を──」ドゴッ
シンタが火縄銃でお婆さんの脳天を殴打した。お婆さんがよろけて膝をついた。
「皆様の連携…なかなかやりますね…。しかし何故空砲を…私を殺すつもりは無かったのですか?」
お婆さんが不服そうに3人を見上げる。
「我々萬部は、人を殺さない事を信条にしてるので。」
エーミールの言葉に対し、お婆さんは鼻で笑った。
「そうですか、くだらない。その甘さがいつか裏目に出ますよ。」
エーミールは少しの間黙ったが、再び口を開いた。
「遠飛浮来をこちらに渡してもらいます。」
「それはできな──ふっ…」
「何がおかしい…?」
「私は貴方達に負けました。しかし…組織は貴方達に勝ちましたよ。」
「何を言って──」
すると突然、木陰から黒い影が出てきて、お婆さんを包み込んだ。
「また会いましょう。その時には借りを返させて頂きます。」
お婆さんは影に吸い込まれて消えてしまった。
「逃げられた…。」
「みたいですね…。」
シンタがいつの間にかシュンタに戻っていた。彼らの性格は正反対だ。シュンタは礼儀正しくて控えめ。対してシンタは少々荒々しい。
「今の影もおそらく、組織の構成員の仕業です。」
「そうだね、とにかく今はメロスと戸部くんに連絡しないと。あ、メロスから着信が来てる。無事だったみたいだ。」
「なら良かったですね。」
3人がその場を去ろうとしたその時、警官が3人やって来た。
「皆さん、大丈夫ですか?怪我は…」
「問題ありせん。それより、先程イレイザーの構成員と交戦しました。あの人は遠飛浮来を所持していました。奪還には失敗してしまいましたが…。」
「そうですか、でも十分な手掛かりを得られましたね。皆さんお疲れ様です。気をつけてご帰宅ください。」
「はい、どうも。」
3人は頭を下げた。警官達が去った後、3人は戸部とメロスと合流した。
to be continued
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