第7話 危険指定文具

 「依頼人は黒…!」

『そこにいる婆さんは黒だ!』


 電話越しでエーミールと刑事が同時にそう言った。ハッとしたエーミールは依頼人の方を見た。すると依頼人は冷たい目で3人を睨んでいた。


 「どうやら気付かれてしまったようですね。私としたことが、ボロが出てしまいましたね…。」


『早く逃げろ!今そっちに警官を向かわせた!』


 電話越しに刑事の声が聞こえる。


 クソッ、依頼人が連続失踪事件の犯人だったのか?それとも複数犯なのか?つまり、今までの態度は全て演技だった…?僕がもっと早く気づいていれば…!


 状況を察したシュンタと兵十が身構え、距離をとる。お婆さんがブランド物のカバンから刃物を取り出した。しかしそれは、ただの刃物ではない。お婆さんは刃物を振りかざした。


 10メートルは距離があるのにそれを構えてどうする気なんだ…?お婆さんは刃物を横に振った。その瞬間、風を切り裂くスピードで、斬撃がエーミールの頬をかすめた。


「見えない斬撃…まさか、その小刀───」


「危険指定文具、遠飛浮来えんびフライですよ。」


 文具とは、通常の武器や兵器とは異なり、それぞれに特殊な能力が付与されている物である。その中でも特に危険だと見なされた文具を危険指定文具と呼び、その多くは「防衛省危険指定文具収容所」にて厳重に保管されている。有事の際に使用許可が降りる場合や、個人が特別な許可を得て所持している場合もあるが、通常は門外不出なのである。


「遠飛浮来は2ヶ月前に危険指定文具収容所から盗まれたはずだ。捜索依頼が萬部にも来ていた。アンタ、"イレイザー"の構成員か!?」


 遠飛増来は2ヶ月前、犯人特定には至っていないが、犯罪組織「イレイザー」の構成員によって盗まれた事が萬部の捜査で分かっている。イレイザーの構成員の中には、能力者も数名在籍していると噂されている。様々な犯罪を行っているが、組織の目的は不明である。


「僕たちに依頼をして捜査をさせる事でハメようとしたんですね。」


 エーミールが頬を伝う血を袖で拭って言った。


「えぇ、そろそろあの子があなた達のお仲間を捕らえたところでしょう。」


「なら、そこをどいてもらう。」


 兵十は背負っている入れ物から火縄銃を取り出した。


「それはできない相談です。」


「部長、兵十先輩、行きましょう。」


 エーミールと兵十とシュンタとお婆さんは戦闘態勢に入った。


一方、失踪事件現場にて


 戸部は路地裏で少女の影に引きずり込まれてしまった。


「ゔあああ!?」


「戸部ッ!!」


 俺の悲鳴に気づいたメロス先輩が目にも留まらぬスピードで走って来た。人が出せるスピードではなかった。メロス先輩は、俺が完全に引きずり込まれる前に俺の手を掴んだが、メロス先輩も一緒に影の中に引きずり込まれてしまった。


 俺達は影の中に落ちた。影の中には地面があって、わずかに光も差し込んでいた。


「戸部…大丈夫か?」 


「はい、なんとか。」


 周りを見回すと、人が3人倒れていた。お爺さんと、女性と、警察の制服を着た男性だ。行方不明になっていた人達だろうか。俺は一番近くで倒れていた、警察官の男性に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


 話しかけても起きない。メロス先輩が後から駆け寄って来て、脈を測った。


「生きてる、意識を失ってるだけだ。」


「よかった、そっちの二人様子も確かめましょう。」


「あぁ、そうだな。」


 俺達は立ち上がって後ろを振り向いた。すると、さっきまで倒れていたお爺さんが目の前で立っていた。すると突然───


ドゴッ


「ゔっっ!?」


 俺はお爺さんに殴り飛ばされた。次にお爺さんはメロス先輩にパンチをしたが、メロス先輩は目にも留まらぬかわした。


「戸部っ!」


「無茶苦茶痛いけど、大丈夫。」


「仕留め損なったか…。」


 お爺さんがボソッと呟いた。


 何なんだこの爺さんは?何でいきなり俺達の事を攻撃した…?行方不明者じゃないのか…。


 俺がそんな事を考えていると、爺さんが走って近づいて来て、またパンチを繰り出した。俺の顔面に拳が到達するより先に、メロス先輩が高速で走って来て守ってくれた。


「大丈夫か。」


「はい、問題ないです。」


「外したか…。素早い…これが能力者か。」


 またお爺さんがボソッと呟いた。


「先輩、『萬部に浅はかな気持ちで入らない方がいい。』ってこうゆう事ですか…!」


「まぁな、でも今は頑張れ。」


「はい!」


「この爺さん、何でか知らんがどうやら俺達を狙ってるみたいだ。一般人がすぐそこで倒れてる以上、逃げるわけにもいかない。俺達でコイツを片付けるぞ。」


「片付けるって…どうやって?」


「俺の能力は高速移動だ。並み大抵の攻撃は大体かわせる。俺がアイツを引き付けるから、戸部はそこにいる警官が持ってる警棒を取って来てくれ。」


「拳銃の方が殺傷力があるし、拳銃の方がいいんじゃ?」


「萬部はな…人を殺さないのが信条なんだ。だから警棒でいい。それに、俺は銃に頼る程弱くない。」


 メロス先輩はそう言って俺に笑ってみせた。


「わかりました…!」


「戸部、行くぞ!」


to be continued

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