第7話 魔王の在り方

――――夕食前


「ねぇデミちゃん」


「何だ?」


「殴り合いをしよう」


「お任せあれ」


「行くよ!」


「何処からでも」


「それ――――ぐはっ」


「何あれ」


「…訓練ですよ。魔法はテンペスト、剣技はレイ、格闘はデミウルゴスに習ってるんです」


「なるほどね…」


シードの強さの秘訣がちょっと分かるかも。そりゃ歴代最強と呼ばれた初代、二代目、三代目が師匠ならね…。


タフなのも納得がいく。どうせ基礎訓練はムッキムキなヴォイドさんだろうし。


ラストさんはどうなんだろう。あの細腕で大鎌を持ってるし…何役なんだろ、全く分からない。


「ラストは!特に!何もしてない!」


「あっ、口に出てた?」


「何考えてるかぐらいわかる!」


「…えへへ、そっかぁ」


「余所見」


「なんの!」


「ふむ…」


初代魔王にして伝説の魔王と称されるデミウルゴスさん。死因は勇者に敗北ではなく、すべき事を全うしたから自ら昇天なさった。


二代目魔王にして厄災の魔王と称されるレイさん。死因は自分より強い人が居ない世界に飽きて自ら昇天。


三代目魔王にして滅びの魔王と称されるテンペストさん。死因は人生に飽きたから自殺して昇天。


…三代連続で勇者に勝っているという強者。確か三代目で魔族の領域はこの世界の八割方を抑えていたはず。


しかしそれ以降は…まぁどんどんと押し返され、今では三割程度となった。非常にまずいのである。


「…そういえばどうしてシードは不老不死なの?」


「死神、ラストの加護だよ」


「あ~」


確かに死神の加護と言われれば納得できるや。序でに死神は複数体居て、ラストと言う存在は私も知ってる。


何せ最も有名な死神だからね。え?何故かって?ハハッ、そりゃぁ…遭遇したら死ぬから。


殺した相手の近くに必ずラスト、という名前が書かれているからこそ有名。


過去に勇者の一人が挑んだらしいけど、肉塊になって王様の前に連れてかれたらしい。しかも…意識がある状態で。肉塊が動くから怖かったらしく、逸話としても有名。


「ファーム、貴方も飲む?ボロスの淹れてくれた紅茶は美味しいわよ」


「い、頂きます」


「うん!」


ファームは私の副官みたいなもん。将軍という位だから私とも気軽に会えるし、一番相談に乗ってくれてるから。


他の将軍や貴族?…血筋の推薦とかで基本は役に立たない。そりゃ…シャナリア公爵みたいな強さを持ってる人も居るけどさ。


でもあの人は絶対に言う事を聞かない。何故って?…強いからだよ。吸血鬼の始祖とも呼ばれる種で、そのトップだよ?


「ちょっとシード」


「今忙しい!」


「騎士団長やっぱやりたくない!」


「負けたんだから文句言うな!」


「ぐぬっ…」


「………」


……あれはきっとシャナリアじゃない。うん、違うんだよ。凄く似てるけどそんなわけない。最近疲れてるんだきっと。


「…魔王様、現実逃避しないでください」


「あぁ、そう言えば魔王はあんたね。私はシャナリア。……凄く嫌だけど騎士団長をやってあげる」


「ま、真面目に?」


「やらないと私があのでっかいのに殺される。騎士の誇りを数時間語られてもう死にそうなのよ?」


「…ご、ゴメン」


「なるほどね、あのバカガキが悩んでるのってそういう事か。あんた…確かフロルって名前よね」


「魔王様に向かってそんな口の利き方を!」


「黙ってくれる?大事な話なの」


「だが…」


「良いのよ」


「……分かりました」


「まずあんた弱腰過ぎるのよ。魔王って魔の頂点よ?分かってる?お願いします、とかじゃなくてやれ、とか命令する立場なの」


「でもそれだと高圧的って嫌われるよ…」


「だからちゃんとした作戦で攻めて勝利を収めるんでしょ?武と知の世界はそう言うもんよ!」


「「わぁ、シャナリアが説教してる」」


「あ?って………レイ様にテンペスト様?!」


「なんだ、二人の知り合いだったの?」


「そうだよぉ。私の頃は堂々と私は吸血鬼の始祖のトップだ!って言い張りながら城に入って来てね~」


「や、辞めてください!」


「そのままぼこぼこにしてやったわ!」


「私の頃は前の魔王に比べたらお前何かって言われたからエクスプロージョンを20発連続で放った」


「テンペスト、やり過ぎ」


「お、お兄ちゃんにはやらないから!」


「可愛い」


「余所見」


「フッ、もう当たらな―――そっちかぁ!」


わぁ、綺麗に吹っ飛んでった。しかも開いてた窓から外へ。


「四代目には何したの~?」


「比べるまでも無いから適当に過ごしてました。何代目かは忘れましたが貴族制度が出来て以来は更に優雅に」


「「………」」


「…所で貴方様は……」


「私はデミウルゴスだ。吸血鬼の小娘、貴様がノーブルレッドだかなんだか知らんが…我らの前では吸血鬼と変わらぬという事を忘れるな」


「は、はい…」


「…だがそうだな、奮闘すれば認めてやっても良い。吸血鬼の中には努力して自らを示したノーブルレッドという種が居たという事をな」


「が、頑張らせていただきます」


「いってぇ…。デミちゃん手加減!」


「不要だろう?」


「まぁねぇ」


すると翼を生やしたシードが窓から入って戻ってくる。その姿は最早…人とは言えない。


翼を生やした人など魔人だろう、最早。


「し、シード…」


「…アハハ、俺はもう人じゃなくて魔人なんだ。復活時に周囲の魔力を吸収し過ぎたみたいで」


「シード!」


「うわっ!?」


思いっきり飛びつき、そのままギュッと抱きしめる。


「…一緒に暮らせるね!不老不死だとしても人間だと脆いから不安だったけど…魔人なら体が強いから!」


「フフッ…うん、そうだね!」


「熱いねぇ~」


「ハッ!?こ、これはその…」


「まぁもっとびしっとしなさいな。初代様から三代目様を見習ったほうが良いよ?」


「お兄ちゃんお兄ちゃん」


「ん?」


「さっき神羅万消使った?」


「あぁ、そう言えば使ったね。仮眠はさっきちょっと取ったし問題無いよ」


「そう?魔力ちょっとあげるよ?」


「それは欲しいかな!」


「ん!」


「……み、見習います!」


「ごめん、あれは違う。レイ様を見て!」


「ねぇシード!」


「?」


「結婚しよう!」


「え~?でも俺イケメンじゃ無いし…」


「いいや、私にとってはイケメンだよ!」


「釣り合って無いって」


「そうだな、私はもっと女子力を磨くべきだよな」


「いやいやいやいや…」


「好き?」


「うん」


「じゃあ今はこのままでいいや~!」


「………が、頑張って見習う」


「ごめん、あれも違う…。デミウルゴス様を見て!」


「シード」


「な~に」


「明日はレイとの剣術らしいな」


「そそそ!」


「パラダイスも混ぜてやると良い。剣もだが刀を使うのもありだろう」


「デミちゃん、パラサイトだよ」


「…そういえばそうだったな」


「まぁそれは大丈夫ですよ、偶に間違えられるので!それよりレイ、妻は私です」


「は?」


「何?」


「死ね」


「殺す」


「……み、見習えると…良いなぁ…。間違えたら殺されそう…」


「………ヴォイドを見習いなさい…」


「…………」


「ねぇヴォイド」


「…何だ、ラスト」


「お菓子作って」


「…お前達、お菓子居るか?」


「「居る」」


「分かりました!優しくなります!」


「クッ…!!!何でこうなる!!」

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