第二話:「柔らかな感触」
改めて考えなおしてみた。
なぜ、俺たちは指名手配を喰らっているのか。
・俺が、闘技場でおとなしく死ななかったから。
・それで激昂した大佐が直接殺そうとしてきたが、はねのけてしまったから。
あーあ。
なんだか、まっとうな指名手配だと感じてきてしまった。
だが。
今のままでは、身動きがとれない。
冒険者らしい生活は、そういう野営とかもありなんだろうが。
マンネリ化にはもうごめんだ。どこまでも同じような景色が続く荒野に、居場所などない。
——任務。
そうだ、任務を受けて、それをこなすのが冒険者たるものだろ。
例えば、迷宮の奥底で眠るモンスターの討伐、だとか。そういうのに、手に汗握る戦いが待っているというものではないだろうか。
なのに。なんだ、現状。
なんだ、この連れ。
「なあイオリ、これならバレないよな」
魔法使いの代名詞——ローブは絶対に欠かせないのか......。少しばかり前の姿を印象付けながらも、大きくビジュアルチェンジした121のおばさんが、メインストリートの石畳の上を歩きながら、俺にそんなことを訊ねてくる。
「ま、まあバレないだろうな。たぶん。まだ百メートルしか歩いていないが......今のところは大丈夫だ」
ガロンの店の周りを二周くらいすることで、その変装効果を確かめようとした。
セントラムのメインストリートは、まあまあの人の流れがある。そのために、少し裏道から始めようだとか、いろいろ言っていたんだが。
サナが「どかんと行こうよ。死ぬときは一緒だよ」と、なぜかこれまでにないほどの笑顔で言うので、仕方がない、命はくれてやる、と121歳のおばさんと決意し、こうしてガロンの店の前を行ったり来たりしている。
「おいサナ」
「ん? なに?」
「『どかんと行こうよ』?」
先ほどから、サナの様子がおかしい。小走りに向こうへ駆けては、民たちに、執拗に顔をひけらかしに行っている気がする。
「おいおまえええええええええーッ!」
何やってるんですか!? あなたこのメンバーで唯一まともだったでしょ!?
いつからかぶっ飛んだ、彼女の頭のネジを探しながら、サナの身体を掴んで拘束する。
「どかんと行こうよ」
「あなたさっきからそれしか言わないなっ! なんだ、策があるとか、そういう系なら許すけど!」
こうしている間にも、どんどん視線を集めてしまう。街行く集団の一人がこう叫んでみろ「あっ、指名手配の三人だッ!」
一巻の終わりですよ、そうしたら。
俺たちは牢獄にぶち込まれ、一生トイレ掃除です。
俺の異世界ライフ、たぶんそんなのじゃなかったはずです。サナさん。
「いい? イオリ。今から私たちが変装慣らしていっても、防衛軍の施設には一切立ち入れないよ。指名手配を解除してもらうんなら、思いっきりつかまって、『私たちは無実である。開放せよ』って言ったほうが、効率的だと思うけど」
......。
あれれ、確かに。
指名手配解除してくれ、って、真向から言って、何が手に入るんだ。
そうだ、捕まらなければならない。
ふへー。
現実世界で高校生してたときは、「そうだ、捕まらなければならない」なんて発想、死んでも持たなかったな。
「えっでも、ちょっと待てよ。指名手配で捕まったら、即刻大牢獄行きじゃないのか?」
リナがそう、冷静に突っ込む。ここは道路のど真ん中。彼女の声のボリュームは、まあMax100のうち70くらいである。
「じゃ、じゃあどうやって捕まるってんだよ」
俺がそうリナに言う。
「んー。統括官執務室みたいなところにいって『実は指名手配なんですよねー』みたいにとりかけ、イン〇ルダウンに連れてかれそうになったところで、指名手配解除しろゴルァ、でいいんじゃないのか」
彼女は121歳の知恵を絞りだしてそう提案した。なかなかにいい感じの策だ。
イン〇ルダウンに収監されるのだけはごめんだが。
「なあ、別にこうするって決めたあとでああだこうだいうヘタレというわけではないんだが、いいか」
「なんだ、いくらでも聞いてやるよヘタレ」
「指名手配解除しろって、指名手配者言いますかね。訳もなにもないと......」
「まあ、不当な理由だからな」
リナはポケットから、掲示板から引きちぎってきた俺たちの指名手配の紙を出して......!?
「お、おい! それダメだろ、ああ人目がっ」
俺はリナの小さな身体を自分のもので覆いながら、「いつとってきたんだよ!」と訊ねる。
「ついさっきだ。一体どんな風に書かれてるのか気になったからな。——やっぱり五十億の懸賞金がかかってる」
リナが指名手配の紙を読み上げた。
「それに指名手配の絵下手くそすぎだろ。私なんか原型留めてないもっとかわいいはずだ」
留めていた。
「訳は......『殺人』だな」
「ええ? サナの話によると殺してないはずじゃないか」
「知らん。蘇生魔法が機能したという噂は聞いたと言っていたが、それまでに受けた苦痛は、まさに殺人と同レベルのものだからな。こっちがとやかく言える立場じゃない」
なら無理やーん。
指名手配とってもらうこと。
この街、捨てなければいけないのでしょうか......。
「ま、とりあえずだ。お前には私と、サナがついてる。安心して、お縄にかかるんだ」
「なんか俺がやったみたいになってるけど......まあいいか。で、どういう罪で俺は逮捕される予定ですかね」
リナは、サナを近くに寄せて、こういった。
「まあ、ガチの殺人とか強盗とかして詰められるのも、言い分が通らなくなるだろうからな。しょうもない理由で捕まろう。じゃ、いくぞ」
いくぞ......ってなんだよ。道のど真ん中。人の流れが大きいところで、リナは俺の腕を凄まじい力でつかんだ。
「おっ」
ぽふっ。あららん。
俺の手が、リナの胸に押し当てられている。——ないものだと思っていたのに意外とある。
触り心地にしては、なんだか新感覚の。スポンジのようなちんけなものではないが、なんだか。人類の叡智が詰まった掴み所だ。
ああん。
こっちが触られたような気分だ気持ちええ。
よきかな。
そしてリナは無機質な表情で俺の顔面を覗いたあと、俺の腕を——サナの胸元に押し当てる。
ぽふっ。あららん。
「......!?」
みるみるうちにサナの頬が紅潮していく。いい匂いも相まって、リナとはまた違う感触を味わいながら、もみもみ。
よきかな。よきかな。おまえにニガダンゴをやろう。
「......キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
女性特有の超音波兵器により、鼓膜を割られ。
付近をパトロールしていた防衛軍の軍人に、顔を地面に打ち付けられ。
確保ーッ! その一声で、俺はお縄をかけられた。
視線を上部にあげて、サナたちとアイコンタクトをしようとする。
(よし、第一関門を......ん?)
見上げた先に居たのは、ごみのようなものを見る目で俺を見つめるサナと。
「このお兄さん変態! 私にロリロリうるさいの......! お〇ぱいもませろ、もませろって気持ち悪い!」
と、121の婆が、痛い幼女アピールをして、俺を完璧な性犯罪者に仕立てていた。
俺は一気に表情を固めた。
......。
このくそアマああああああああああああああああああああああああああッ!
俺がそんな感じで絶叫しかけると、リナは「ふへへ」と、不敵な笑みを浮かべた。
あっ俺しっかり性犯罪者になってる。
はい、終わりましたー。
ママ、パパ。
ごめんなさい。俺、異世界転生して生き延びてやるとか豪語はたいてたら、出先で性犯罪者になってしまいました。
くう。
親不孝な息子でごめんね。
……あれ潰すまでには死ねないな。
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