第3話 地上の楽園

「案の定、東が騒がしくなってきたようだ」


 ローマに戻ると、ユダヤの地を治めるヘロデ王の所業について、情報が入ってきた。どうやら、ベツレヘムの2歳以下の幼児をすべて虐殺したらしい。師匠の顔は曇っている。


「東方の占星術師は、新たなユダヤの王が誕生すると予言したそうだ。それが本当なら、あの星は吉兆だったことになるね」


「ですが、王になるべき子供が殺されてしまったのでは、予言は成就しないでしょう」


 私は至極当然のことを述べたつもりだったが、師匠は頭を振った。


「そんなことで回避できるほど、予言は軽々しいものではない。実際、東方のマギ……つまり賢者たちは優秀だよ。どうあがいてもユダヤの王は新たに誕生してしまうさ」


「しかし、星が輝くほどの祝福を以て生まれてくるとは。どれだけの大人物となるのでしょうか?」


「さあね。ローマの威光を脅かすほどの脅威となるか、お手並み拝見といこうか」


 師匠は謎の上から目線で、新たな王への期待を表明した。


「ま、私たちの旅に影響はないでしょうね」


 師匠と私は、博物学の知識を生かして暴走する植物を駆除しているだけだ。関係ない。


「いや、影響大有りだ。我らは地上を楽園にすることを目指しているのだからね」


「それって、害をなす植物を駆除するのをカッコよく言い換えただけですよね?」


「違う。植物が暴走するのは、楽園エリュシオンから流れ出す力を上手く制御できないからだ。その方法を見つけ、地上を楽園に変えることが、私の目的だ」


 そうだったのか。今初めて聞いた。師匠の目的は遠大すぎて夢のようだ。


「カリアスどの、パンテオンが大変です! すぐに来てくれませんか! 気色の悪い蔦に突然覆われてしまって!」


 突然、男が駆け込んできて師匠に助けを求めてきた。 


 またしても、駆除が必要なようだ。

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