第2話 ベツレヘムの星

「師匠、もう三日目ですが。いつまでも居る気はないと言いましたよね?」


 駆除のお礼にと宿を提供してもらってから3日。当然のように私の部屋でくつろぐ師匠に、私は辟易していた。


 だいたい弟子とはいえ、年頃の少女の部屋に気軽に入るなんて。もう少し気遣いがあってもいいのではないだろうか。


「エリカは、私とこうしてゆっくり過ごすのは嫌かい?」


「いえ、別に嫌というわけでは……」


 むしろ師匠と同じ時間を共有できるのは嬉しい。


「ならいいじゃないか」


「でも、こんな田舎でなくてもいいじゃないですか」


「分かった分かった。ローマに戻ったら好きなだけ遊び歩こう」


 別に遊び歩きたいわけではないのだが。せっかく師匠と一緒なら、もう少し文明的な場所の方がいいと思っただけだ。


「さて、もう夜だし、そろそろ自分の部屋に戻るよ」


「はい、おやすみなさい」


 師匠が扉を開けると、外が騒がしいのが分かった。


「おい、あれって!」


「東の空、だよな?」


 皆が不安そうに空を見上げている。


 私たちも外に出ると、ひときわ大きな赤い星が、東の空に輝いていた。


「これは……」


 月に匹敵しそうな大きさ。何かの前兆だろうか?


「吉兆か、はたまた凶兆か? どう見るかね、エリカ?」


「分かりません。占星術は専門外なので。吉兆か凶兆かは、時代が判断するものです」


「私は違う意見かな」


 師匠はきっぱりと言った。


「ではどうお考えで?」


「吉兆にするんだよ、我ら人類皆で。時代が判断すると君は言ったが、その時代を創るのは、他でもない我々なのだからね」


「なるほど」


 師匠は懐疑的な博物学者だが、こういう精神論も時折口にする。若干暑苦しいが、そういうところも私は好きだ。


「さて、ローマに戻ろうか」


 その後、どういうわけか師匠は、翌日の早朝にはここを発とうと決めたようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る