5話 アキバハラでお仕事 3
歩きながら、少し後ろに下がり、運命写真を撮った。
せっかくの休みだ。仕事のことは忘れたいところだが、チャンスがあるのなら、棒に振りたくはない。
浮かび上がるのを待っていると、皇が覗き込んできた。
「僕の写真ですか?」
運命写真は普通の人間には写真だけしか見えない。浮かび上がっている文字が見えるのは死神だけだ。
「記念に撮らせてもらいました」
「記念……」
丁度、ロリータ服の可愛い日本人少女たちが、右側にあった店から出てきた。
手にある何かを見ながらきゃいきゃいと歩いてくる。
皇が、ぴたりと足を止めた。
「記念なら、ここで、2人で撮りませんか?」
ガチャガチャと激しい音が、ガラス扉の向こうから聞こえてくる。
一歩中に入って、はっとした。
ここは――ジャパニーズ・ゲーセン……!
UFOキャッチャー、太鼓のメイジン、パリオカート、メダルゲームなど、さまざまなゲームができる夢の世界! 「ひおさんぽ」で取り上げられたことはないが、別の動画で見たことがあった。このガチャガチャした独特な日本文化感、たまらない……!
「はっ! ネコマタスケ!!」
ジャパニーズ・アニメ「ネコマタスケ」は、60年続く日本を代表するアニメ。妖怪のネコマタスケが飼い主のシィちゃんを妖怪の世界にとじこめ、まったりと、時々狂気的に過ごす物語だ。このほのぼのした細目の顔と三角形の口、白くてぷにぷにしたほっぺが可愛らしいのだ。そのネコマタスケの大きな人形がUFOキャッチャーの機械の中に5匹ほど閉じ込められている。
「取りましょうか?」
「取れるのですか!?」
「取れると思います」
皇はコインを入れ、ボタンを押した。上からぶら下がっていた鉄製の手――たしかアームとか言っただろうか――が、ウィンウィンと人形の方に前進する。ぴたりと止まったと思うと、今度は右にウィンウィンと動き、人形の真上でまた止まった。
アームが降りる。ネコマタスケの大きな顔を可愛そうなほどぎゅむっと掴む。
アームが上がる。だが、ネコマタスケの大きな体は、アームからずるりとこぼれ落ちてしまった。
皇は、UFOキャッチャーのガラスにべたりと手をつけ覗き込んだ。ぶつぶつと、「アームの強度はおそらく……角度は……人形の首の重さが大体……」と呟いている。おそらく、お得意の計算をしているのだろう。
「わかりました。次は取れます」
皇がコインを入れる。アームが前進し、ぴたりと止まる。右にいって、また止まる。
「人形と離れたところに……」
「大丈夫です」
アームが降りる。アームが閉じる。
何も掴まないまま上がる――かと思いきや、アームは、ネコマタスケについていたタグを引っ掛けていた。タグに引っ張られ、ネコマタスケがグイグイ上がる。そして、穴の中にぽろっと落ちた。
皇は、取り出し口から、ぬるっとネコマタスケを引っ張り出し、私に渡した。抱きしめなければならないほど大きなネコマタスケは柔らかく、触り心地もふわふわだった。今日から抱き枕にしよう。
私も挑戦したのだが、皇のようにうまくはいかなかった。どうやら、アームが弱いらしい。
人間風情が私を欺こうなどと。小賢しい。
2度目の挑戦で、私はアームの強度を最高になるよう念じた。ネコマタスケの顔が、ぎゅむっと可愛そうなほど潰される。だが、そのまま穴の中に転がり落ちてきた。
「強度が違う……? ランダムだったのかな……」
ネコマタスケの顔にくっきりとついたアームの跡を見ながら、皇が呟いた。
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